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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第十の部 真実の一端

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第百四十九話 紅茶を甘くするのに、砂糖は必要無いようだ

前話のあとがきですでに察していた読者さんもいるようですが。
今回は砂糖を投下しました。

 ファイマと話すべき事は一通り終わったな。

 俺は大きく息を吐き出しながら、背もたれに躯を預けた。

「お疲れのようね」
「慣れない真面目成分を全部使い切った。気疲れ具合が半端じゃねぇわ」

 シリアス続きでコメディ成分が明らかに不足している。俺は真面目一辺倒だと窒息してしまう人種なのだ。こういうときは、酒でも飲んでさっさと寝たい。

 ……なんだか仕事疲れしたサラリーマンみたいだな。俺、まだ高校生なのに。

「待ってて、今お茶を淹れてあげるから」
「おお、悪いなー」

 王女様に茶を淹れさせるのはまずいかなと思いつつ、俺はファイマの気遣いに甘えることにした。まだ陽も高いので、酒よりはお茶の方が良いだろう。

 ファイマの使っている客間には、お茶を淹れる為の道具が一通り揃っている。加えてお湯を沸かすための魔術具が設置されていた。器具の上に水の入ったポットを置いてスイッチを押せばあら不思議、自動的にお湯が沸くのである。現実世界で言うカセットコンロを、一回り小さくしたような形だ。

 しばらくの間、茶器を操作する小さな音だけが室内に響くが、唐突にファイマが何事かを呟いた。

「……(女は度胸よ)」
「なんか言ったか?」
「──ッ!? き、気のせいじゃ無いかしら?」

 何気なく聞くと、返ってきたのは焦ったような声色。少し疑問に思いつつも、精神的に疲弊した俺は半分くらい意識が飛んでいたのかそれ以上の追求はしなかった。

 やがて、テーブルの上には香しい湯気の立つ紅茶のカップが二つ置かれる。

「はいどうぞ」
「あんがとさん」

 俺はソファーから身を起こすとカップを手に取り、紅茶を口に含んだ。

「ん? 変わった味だな、これ」
「……疲れているようだしね。元気が出てくるお茶らしいから淹れてみたのよ。もしかして口に合わなかった?」
「や、これはこれで味わいがある」

 温かい茶を飲むと、それだけで精神的な疲れが癒やされるようだった。皇帝との食事でも茶は出されたが、リラックスにはほど遠い状況だったからな。

 このお茶、本当に躯が芯から温まってくるような気がしてきた。お茶で体力ヒットポイントの回復とか、さすがはファンタジー世界だな。

 ファイマもソファーに座り直すと、上品な仕草でお茶を飲んだ。それから少しの間は二人とも無言でお茶を楽しむ時間が過ぎた。

「ところでカンナ、これまでの話とは別件なのだけれど、聞いておきたいことがあるの」

 まったりしていると、不意にファイマが切り出した。

「あなた、クロエさんの事をどう思っているの?」
「それは……冒険者仲間だと思ってるよ」

 質問の意図を読み取れず、俺は無難に返した。

 本音を言えば、『冒険者仲間』と断ずるにはかなり情が移っている。もっとも、それはファイマやレアルに対しても同じだ。それを馬鹿正直に伝えられるわけも無い。

 ところがだ。おれがそれを口にした途端、部屋の空気が少しだけ下がったように感じた。勿論、雰囲気の話。

「へぇ、冒険者仲間……。そう、冒険者仲間ねぇ」

 ファイマは同じ言葉を反芻し、何度も頷く。どうしてか、信じてもらえている気配が全く無い。むしろ、〝白々しい〟と責め立てられているような気さえする。

 どうやら、俺の無難な答えが間違っていたらしい。ただ具体的に何が間違っていたのかが不明だ。

「実際の所、随分と親しげよね、あなたたちって」
「俺はあいつクロエにとっての命の恩人らしいからな」
「命の恩人……ね」

 ファイマはソファーから立ち上がると、対面に座っていた俺の隣に腰を下ろした。女性の香りが意図せず鼻腔をくすぐり、ちょっどだけ胸が高鳴った。

「──や、何故そこ?」
「よくよく考えると、私は何度もカンナに助けられているわ。その事に、私は深く感謝している」

 俺の言葉を無視し、ファイマは自らの言葉を続けた。

「ということはつまり、私もあなたに『恩』を返すべきなのかしら?」
「や、既に報酬は貰ってるはずだが……」
「本当に?」

 ズイッと、ファイマが俺の目を見据えながらぐっと身を寄せてきた。

 ちょ、近いんですけどお姫様っ! 女の子の体温がっ、匂いが近い!? 思春期男子には色々と刺激が強いよ!

 更に高鳴る鼓動を誤魔化しつつ、俺は彼女の肩に手を置き、やんわりと遠ざけようと力を込め──その手首を彼女に握られた。

「クロエさんの『恩返し』に比べて、私はまだなにもあなたに返せていないと思うのだけれど」
「そ、そんなことは──」
「あら? この前も、森の中でクロエさんには色々と恩返し・・・をされていたようだけれど」
「この前? …………゛あ」

 喉から変な声が飛び出した。

 俺はこの時点で、ファイマには俺がクロエに襲われたワンワンタイムを目撃されていたのを思い出した。その事実が発覚した直後にラケシスに操られた者たちの襲撃があったためにうやむやになり、今の今まですっかり忘れていた。

「安心して。カンナの方から『恩返し』を強要したのでは無いのは理解してる。でなければ、クロエさんがあれだけあなたに心を許すはずないもの」

 微笑するファイマだったが、言葉とは裏腹に全く安心できなかった。完全に目が据わっていた。

 ファイマの様子が変だった。

 無理矢理態度を取り繕っているようには見えない。けど、普段の彼女とは明らかに纏っている雰囲気が違う。

「だとしても、純粋に女としてクロエさんに劣っているようであまり面白くないのよね」

 ──何というか、肉食獣めいた空気を感じる。

「ねぇカンナ。私って、そんなに女として魅力が無い?」
「や、それは無いよ。うん、断言できる」

 そりゃお前、目の前に素晴らしい乳があれば見るしか無いだろ。むしろ心を込めて拝むのが礼儀であろう。

「だったら、どうしてこの状況で手を出してこないのかしらね」
「お、おいファイマ。今のお前、ちょっとおかしいぞ」

 クスリと、ファイマは笑いを漏らした。その仕草には妖艶とも表現できるほどの色気が滲んでいた。俺は心臓の鼓動がいっそうに高まるのを感じた。

 ──さっきからやけに心臓の鼓動が激しくないか?

 いつの間にか、俺の躯は熱風呂サウナの中に押し込められたかのように火照っていた。激しい血流の音がゴウゴウと耳元に届くほど。

 明らかにまともな状態では無い。

 そして、それはファイマも同じだ。彼女の頬は朱に染まり、唇から漏れ出す吐息には熱が籠もっている。

 や、この・・ファイマに俺は見覚えがあった。

 ──植木罰に為た貴族に一服盛られ、テンションが振り切れた時のファイマにそっくりだ。

 ハッとなった俺は、テーブルの上に置かれた紅茶のカップに目を向けた。

「あら、ようやく気がついたの?」

 それは、俺の予想を肯定する言葉であった。

 こいつ……紅茶になにか仕込みやがった!?

「安心して。あの時ほどキツいモノじゃないわ。血行が多少良くなる程度よ」
「だから今のお前から『安心』って言われても欠片も信じられねぇよ! なにしてくれちゃってんの!?」
「それはこちらの台詞。〝ワンワンタイムあんなもの〟を私に見せつけて。その責任、どう取るつもりなの?」
「あれはお前らが覗き見しただけだろ!」
「依頼の最中に情に耽る、あなたたちが明らかに悪いわ」
「ぬぐっ……」

 あの時は間違いなくクロエに迫られたが、拒否しようとすればできた。何だかんだで受け入れたのは俺の意思だ。強く責められると反論しにくい。

「あれから、あの光景を思い出すたびに悶々とさせられるこちらの身にもなって欲しいわ。私は聖人でもなんでもないのよ」

 女性にだって性欲を持ち合わせているのは知っている。ファイマも年頃だし、色々と我慢ならなくなるのも理解できなくは無い。

「……だからといって、一服盛るのはやり過ぎだろ」 
「確かにそうね。けど──」

 不意に、ファイマは掴んでいた俺の手首を引き寄せた。

 互いの顔が急接近する。それこそ、あとほんの僅かで唇が触れあうほどに。

「──クロエさんと違って、意気地が無いのは自覚してる。だから、ああいったモノ・・・・・・・の力を借りないと、こうした話もできないのよ」
「……その話をするために、おっさんたちを外に出したのか」
「この話を含めて、よ。さっきまでの話も、あまり人に聞かせられる話ではないもの」

 用意周到なことで。

 俺は最後の抵抗──では無いが、懸念を口にする。

「仮にも王女様だろ。良いのかよ、貴族でも何でも無い一般人とその……アレするのは」
「異世界から召喚された人間のどこが一般人なのかしら。それにもう一度は経験しちゃってるんだもの。二度も三度も大差ないわ」

 それは、開き直り方の中で最低の部類に入ると思うんですがね、俺は。

 なんてことを考えていたら、痺れを切らしたファイマがとうとう動き出した。

「ああもう、焦れったいわね」
「──ッ!?」

 もはや無いに等しかった互いの距離が本当に無くなり、俺とファイマの唇が重なり合った。

 ──なんか、色々と悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。

 どうやら、今ので理性のタガが一気にはじけ飛んだようだ。紅茶に仕込まれていた薬の影響もり、肉体的には我慢も限界値に近かった。ズボンの中身がもの凄く痛い。

「なぁ、確認だけさせてくれ」
「あら、その気になってくれたのかしら?」
「だからこそ聞いておきたい」

 据え膳を完食してお代わりもきっちり美味しく頂くのが俺の主義だ。だからこそ、心の底から美味しく食べるために確認しておかなければならない。

「お前は──んっ」

 言葉を紡ぐはずだった唇は情熱的な口付けによってまたも塞がれてしまった。

「性欲を解消したいという気持ちは勿論あるわ。けど、それ以上に私はあなたに──」


 ──カンナという男に抱かれたい。


 彼女の言葉で、俺の中にあった躊躇いが完全に消え去った。

 俺は彼女から一度躯を離すと、テーブルの上に置かれたカップを手に取り、冷めた茶を全て口に含んだ。

「んんんっっ!?」

 そして紅茶を口内に溜めたまま、俺はファイマの唇を強引に奪い、彼女の口の中に薬入りの紅茶を流し込んだ。

「────んくっ」

 ファイマの喉が上下し、嚥下する。

 唇を離すと、彼女の口の端から漏れた紅茶が滴り、それがまた匂い立つような色気を発していた。

「……ちょっと、強引じゃ無いかしら?」
「嫌いか、そういうの」
「好きか嫌いかを判断できるほど経験は無いわ」
「だったら、今から確認すれば良いさ」

 俺はファイマともう一度口付けを交わし、彼女もより深く俺と繋がろうと俺の背中に手を回した。

 そしてそのまま、俺たちはソファーに倒れ込むのであった。

騎士さんとの回を期待していた人、残念ですが今回は赤髪さんの回でした。
ただ、確実に言える。
もし次に砂糖の回が到来したら、それは絶対に銀髪さんや。マジで。

それはそうと、実はこれを書いている時点で午前四時くらい。色々とテンション高まったままで書いた一方で割と眠気がハンパ無い。そんなわけで、後日自分で読み返したらもしかしたら「ん?」ってなる可能性もあります。その場合は本筋はそのままですが、多少手を加えるかもしれません。期待せずに待っててください(本当に期待はするなよ。
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