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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第九の部 狂う人形

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幕間その七 前編 薄い二人の密会

薄いのは影じゃねぇぞ。
サブタイトル以外にコメディが入り込む余地は無いです。
 とある町の、既に廃棄されて久しい家屋で、二人の女性が向かい合っていた。

 六本の剣を両腰に携えた女性。

 質素でありながら上等な旅装束をまとう少女。

 どちらも飛び抜けた美貌を持っており、朽ち始めている古ぼけた部屋にいること自体が罪であるかのような光景だろう。

 ──惜しむらくは、どちらの胸部……あるいは胸……あるいは乳……が非常に貧しいことだろうが、万が一にもそれを口にする者がいれば、まさしく生き地獄を味わされること必至であろう。

 閑話休題ひんにゅうはともかく

「……もう一度……言ってくださらないかしら?」
「貴様の立場からしてみれば信じられないかもしれないが、事実だ」

 旅装束の少女──フィリアスは女剣士からもたらされた『報』に耳を疑った。

「『糸使い』──ラケシスは失敗した。ファルマリアスは今なお存命であり、同行していた他の者に関しても負傷者は出たが死者は一人も出ていない」
「そんな……馬鹿な……ッ!?」
「更に言えば、ラケシスの奴は私が運良く駆けつけていなければ、拘束されていたか殺されていたかしただろう」
「──ッ!?」

 更に否定を叫びそうになったフィリアスは、それを押し止める。

 女剣士──シュライアがどのような人間であるかを知る以上、彼女の言葉が事実であると認めるしかなかった。

「……申し訳ありません。少し取り乱してしまいました」
「気にするな。あまり認めたくはないが、私も『糸使い』が後れをとるとは思っていなかったからな」

 人を裏から操り『舞台』の支配者を気取る卑怯者──それがラケシスにたいするシュライアの認識だった。だがその一方で、戦闘になった場合のラケシスはシュライアも認めるほどの能力を持っている。

 ラケシスが操る『封糸』と呼ばれる魔力で練り上げた糸は、変幻自在な動きを見せる柔軟性を持ちながら、鉄をも両断する鋭さを持っている。また、その封糸で織り込まれた存在は、実際の魔獣や存在の模倣でありながらそれらを遙かに上回る力を発揮する。

 加えて、ラケシス最大の切り札──巨大な土人形ゴーレムを創造する『大地の巨神兵グランド・タイタン』。土塊でありながらもその強度は岩盤と等しく、仮に破壊されても周囲の土をかき集めて即座に再生する。人形ゴーレムであるために痛みを感じず、人を自在に操る魔術の使い手であるラケシスの手足となり、敵を粉砕する。真正面から挑めば、シュライアとて苦戦を強いられる相手である。

「彼の『切り札グラインド・タイタン』まで?」

 シュライアと同じく、ラケシスの実力を知るフィリアスはまたも『信じられない』といった表情になる。……が、そのすぐ後にシュライアに向けていぶかしい視線を向けた。

「おや、随分と面白い・・・目を向けてくれるな」
「……それほどの相手を前に、あなたは何もせずにいたのですか?」
「何も? いやいや、現に私はラケシスを回収して──」
「あなたほどの猛者であってもラケシスを相手に無傷で勝利するのは無理でしょう。それと同じく、そのラケシスを倒した者も無事では済まなかったはずです」

 肩を竦めるシュライアに、フィリアスは鋭く追求する。

「あなたならば、たとえラケシスの回収を優先したとしても、片手間でその『異常イレギュラー』を排除できたのでは?」

 正しい見解を突きつけられ、シュライアはやれやれと首を横に振った。

「二つほど、言い訳をさせてもらっていいか?」
「私が納得できる内容ならば」

 可憐な美貌を持ちながらも、フィリアスが発する気配は尋常なものではなかった。屈強な男であろうとも二の足を踏むであろう威圧感。だが、それを受けながらシュライアは涼しい顔で言った。

「一つ目。私があの場にいたこと事態が『シナリオ』には無かったはずだ。故に、ラケシスの回収以上に私が介入すれば、更に『シナリオ』に悪影響を与えかねんと判断した」

 フィリアスは黙した。内心に憤りはあれどシュライアの言葉が正しいと理性では判断したからだ。ただでさえ現時点でも『シナリオ』に〝齟齬〟が生じその修正で手一杯。これ以上の異常事態はフィリアスの望むところではなかった。

「……二つ目は?」

 苛立ちを押さえ込んだ低い声でフィリアスは続きを促した。

「あの場で『異常イレギュラー』を始末する事は可能だっただろう。だが、どうしても無傷で始末できるとは思えなかったのでな。ラケシスの回収を優先させてもらった」
「……相手は手負いだったのではないのですか?」
「ああ、手負いだったな。立っているのがやっと、といったところか」
「だったら──」

 本当に片手間で済ませられたのでは。そうすれば『シナリオ』に与える影響を最小限にとどめられたのでは。しかし、フィリアスの言葉の先をシュライアは先に否定した。

「だが、手負いの獣ほど恐ろしい者はおらんよ。少なくとも荷物がある状態で相手をするのは絶対に御免だな」

 ──もはや意識を失う寸前でありながらも、あの『紅の瞳』からは些かも意志の光が衰えていなかった。それこそ、満身創痍そのものでありながら下手に手を出せば手痛いどころではないしっぺ返しがくるのを確信させるほどに。

 シュライアは油断を挟むつもりもなく、どのような手段でこようともそれごと切り捨てる気ではあった。しかしそうであっても、躊躇させてしまう『何か』があったのだ。

「その『何か』とは?」
「そこまではさすがに分からんよ」

 何とも無責任な言い様だ。

「強いて言うならば私の〝勘〟だ。まぁ、貴様には分からないかもしれんが」
「私は、あなたのような生粋の戦闘狂ではありませんので」

 最後は曖昧になってしまったが、シュライアなりにあの場を放棄する理由があった事だけはフィリアスにも理解できた。それにシュライアを非難するのはお門違い。非難さあれるべきは『目標』の始末に失敗したラケシスであり、むしろその失敗からラケシスを救出したシュライアに賞賛を送るべきなのだから。

「聞くのが後回しになっていましたが、あなたが遭遇したという『異常イレギュラー』とはどのような人間だったのですか?」
「おっと、一番大事な話を忘れていたな。名前はともかく二つ名の方は既に貴様も知っているだろう」

 シュライアの思わせぶりな言い方に、フィリアスはすぐに思い至り声を荒げた。

「あの『白夜叉』とかいう冒険者の事ですか!?」
「そう、鉱山の一件で『万軍』の魔術式を破壊し、私の片腕をつぶしてくれたあの白夜叉だ」

 それは、ラケシスが失敗したという知らせを上回る衝撃であった。

「で、ですが……『白夜叉』などという存在は『シナリオ』の中に一度たりとも出てきていません! そんなのあり得るはずないでしょう!」
「あり得ないことが現に起こっているのだ。少なくとも奴の存在が我々の『シナリオ』にとって大きな要素を二つも破壊・・している。そろそろ無視できる相手でないのは貴様も分かってきたんじゃないのか?」
「そ、それは……」

 シュライアのもっともらしい言葉に、フィリアスは気勢を削がれる。だがこればかりは素直に認めるわけにはいかなかった。

 ──大いなる祝福アークブレスにとって『運命シナリオ』は何よりも尊ぶべき存在だからだ。

大いなる祝福われらのなかで、貴様がもっとも『シナリオ』を重視しているのは知っている。しかし、だからこそ『シナリオ』完遂の為にこの『異常イレギュラー』を認めろ。でなければ、これ以降の修正もままならんぞ」
「分かり……ました……」

 受け入れ難い現実を、理性を総動員してどうにか飲み込む。

 ──フィリアスにはこれを更に大きく上回る事実が待ち受けていた。

「それで、『白夜叉』に関する情報はあるのですか?」
「もちろんだとも。奴は現在、ドラクニルを中心に名を上げ始めている冒険者だ。ギルドに登録して日はまだ浅いようだが、既にCランクに達している。他にも、かの『竜剣』や元Sランクのギルドマスターとも個人的な繋がりを持っているようだ」

 ギルドマスターとの繋がりも驚きだが、フィリアスは『白夜叉』と『竜剣』との接点が気になった

 竜剣は元冒険者でありドラクニル支部のギルドマスターとは師弟関係にある。『白夜叉』がギルドマスターと知り合いであれば、当然その弟子である『竜剣』と繋がりを持つのは自然に思えるのだが──。

「……ところで先ほどから『白夜叉』と二つ名でしか呼んでませんが、それだけ調べているのなら当然本名も分かっているのでしょう?」
「ん? おお、確かに言われてみればそうだな。ずっと『白夜叉』と読んでいたので忘れていた」

 恥ずかしげに咳払いをしてから、シュライアは告げた。


「奴の名前は『カンナ』。白夜叉のカンナだ」


 其の名を耳にした途端、シュライアの脳裏にとある記憶が呼び覚まされる。一番最初・・・・の『召喚魔術』で呼び出した『偽勇者』の存在を……。

 ──この世界の運命を舵取る者として召喚した、一人の若者。

 だというのに、異世界より来訪したのは、欠片ほどの魔力すら宿さない『無能』の少年。いつの間にか『捕らえていたハーフエルフ』と姿を眩ましていたが、あのような『無能』に気を取られている場合ではなかった。なぜなら、その後に行った『召喚』により、今度こそ求めていた『真の勇者』がこの世界に来訪したからだ。

 それ以降、あの少年のことをフィリアスは忘れていた。では何故この瞬間に思い出したのか。

 異世界より最初に呼び出した無能の名前が──『カンナ』だったからだ。


 自分はもしや、取り返しのつかない失態を既に犯していたのではないか。突如として大きな不安がシュライアの心を圧迫する。

「……確認しても良いかしら? あなたの言うその『カンナ』というのは、白髪で赤目の男なのよね?」
「『白夜叉』の名も、奴の白髪赤目からきている。とある娯楽小説の中に『白髪赤目の鬼』が出てきて、そこから付けられた異名だそうだ」

 フィリアスの記憶の中にある少年カンナは、髪も瞳も『黒』だ。シュライアの言う白夜叉カンナの白髪赤目とは似ても似つかない容姿だ。

 安堵できる材料のはずなのに、フィリアスの不安は薄れない。。


 ……何か、重大な見落としをしているような気がしてならなかった。
読者さんの声にお応えし(怒られたとも言うけど)アブソリュートの連載を再開しました。相変わらず不定期ではありますが、最低でも週一ペースに更新できればと思っています。29日に最新話を更新したのでお読みいただいただけると嬉しいです。

あと、『勘当貴族 ルキス君の冒険日誌』を別枠に投稿しました。
http://ncode.syosetu.com/n9660dq/

PS:『カンナのカンナ』各話の最下部をちょっと弄りました。後書きを読んでくれている方にとっては一目でわかると思います。

PS:2 活動報告もちょびちょび更新しているの参照してください。ナカノムラのマイページからどうぞ。
http://mypage.syosetu.com/604944/
2b033sz24qfs3rzs1dukhsidk3qx_107l_15t_1pt_1j8s3.jpg
『カンナのカンナ 間違いで召喚された俺の偽勇者伝説』七月十日より発売中です!
このラノ文庫編集部ブログへのリンクはこちら!


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