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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第九の部 狂う人形

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第百九話 子連れが狼とは限らない

タイトルが特に思いつかなかったんや
 
 遺跡の付近に魔導列車の駅が無いために、移動は馬車になる。三台の馬車を使い、一つは貴賓者用の馬車でファイマとその護衛が乗り込み、残りの二つでそれを前後で挟む形になる。無論、この二つには俺たち冒険者や軍人達が使う、おなじみの幌布で覆われたタイプの馬車だ。

 以前にファイマが使用していた馬車とは違い、軍が使用する物で強度は折り紙付き。更に、重たい装備や物資を積載した荷を牽引するために使用するのは訓練された軍馬だ。

 全員が一度には乗り込まず、馬車の中で待機するものと外で周囲への警戒をする役割を交互でこなす。フィールドワークに慣れている冒険者や日々の訓練で鍛えている軍人ではあるが、体力に余裕がある方が緊急時の動きも良くなるからだ。

 少し驚いたのが、天竜騎士団の者達も馬車を利用する事だった。てっきり飛竜に乗るのかと思っていたのだが、俺は以前にレアルのつぶらな瞳の癒し系飛竜の事を思い出した。

 確か、飛竜は他の飛翔可能な魔獣に比べて圧倒的なパワー飛翔速度スピードを有するが、その一方で体力スタミナが乏しい。特に背中に人を乗せれば消耗も激しくなる。その為、レアルは有事の際は召喚術式によって飛竜を呼び出すようにしていた。

 天竜騎士団も同じなのかスケリアに訪ねてみると、概ねその通りだった。彼はむしろ、飛竜に関しての予備知識を持っていた俺に驚いていたが、その辺りははぐらかしておいた。

 なお、一応の配慮として、俺たち冒険者(とカクルド、スケリア)は最前列の馬車に、天竜騎士団は最後列の馬車に配置された。任務とはいえ冒険者と狭い空間で一緒になるのは天竜騎士団にとってはおもしろくないはずだからだ。俺としても慣れた相手と一緒にいられた方が下手な気を張らなくて済む。

 最初のローテーションで、帝都を出発してしばらくは騎士団の者に任せ、俺たちの出番はその後となっていた。

「そう言えば、カンナ氏と落ち着いて任務に同道するのはこれが初めてでござったな」
「元々のランクが違うし、鉱山事件だと俺は途中参加で終始ばたばたしてたしな。俺は最後気絶しちまったし」
「拙者、ちょっとわくわくしているでござるよ」
「こらこら、遊びに行くんじゃないんだから」
「カンナ氏がそれを言うでござるか」
「それどういう意味だおうこら?」

 クロエの言動にどんどん“遠慮”が無くなってきているのは俺の気のせいではないはずだ。

 そんな緊張感の無いやり取りを交わしていると、馬車の動きが止まる。馬車の荷台から顔を出して外を覗くと、まだ帝都外へ出る門の付近ではない。かといって馬車の前方に進路を妨害するような何かしらも見あたらない。

 はて?と首を傾げていると、荷袋を背負った男性と少年がこの馬車に近づいてくる。

「ああ、彼らは我々が昨日の内に話を付けておいた遺跡の案内役ガイドですよ」

 馬車に一緒に乗り合わせた幻竜騎士団の一人は、こちらに近づいてくる二人を確認するとそう言って馬車を降りた。俺も気になったので彼の後に付いていく。

案内役ガイドを引き受けてくださったパペトさんですね? 急な申し出を受けていただいて感謝します」
「いえいえ、こちらこそ話を持ってきていただいてありがとうございます。ちょうど外国のお客様が減る時期だったので、こちらとしても依頼があってありがたい」

 パペトと呼ばれた案内役の男性は物腰丁寧に微笑みながら、騎士団員からの握手に応じた。風貌は、少し失礼かも知れないが“町民A”と名付けられても納得してしまいそうな雰囲気だ。

 彼が遺跡観光の案内役ガイドであるのは理解できたが、それではその隣にいる少年はなんなのだろうか。歳はおそらく十歳前後。まさか彼もが案内役か? 見た目は子供で中身はおっさんか? すごい推理劇でも始まるのか?

 騎士団員のそばにいた俺の視線に気が付いたのか、パペトは少年の背中を押して前面に出した。

「こちらは私の息子です。ほら、挨拶なさい」
「ま、マリトです! よろしくおねがいします!」

 少年は少し強ばった表情ながら、元気な声を発する。

「将来的には案内役としての仕事を引き継がせるつもりです。そろそろ知識だけではなく、現場での雰囲気を肌で覚えさせたいのです。もし問題がなければ今回の仕事に同道させていただけないでしょうか。勿論、無理にとは言いませんが」
「……少々お待ちください」

 団員が俺に目配せしてきた。俺は頷き、ファイマ達の乗る馬車へと走った。扉をノックすると、窓からランドが顔を覗かせた。

「何か問題でも起こったのか?」
「案内役の人がきたんだよ。ただ、案内役のおっさんが後継者育成のために息子を同道させたいんだとよ? どうする?」
「……ちょっと待ってくれ」

 ランドは窓から一度顔を引っ込めると、内部からファイマと話し合う声が小さく聞こえた。それからまたランドが窓から顔を出した。

「お嬢様としては問題ないそうだ。それと、一度顔を合わせて挨拶もしておきたいそうだ。息子と一緒にこちらに連れてきてくれ」
「了解」

 俺は案内役の親子を呼ぶと、ファイマが扉を開いて馬車の外に降りた。その後に、ランドも続く。

「初めまして。ファルマリア・アルナベスです」
「ドラクニル近隣の観光案内を生業にしているパペトです。この度はご指名をいただき誠にありがとうございます。ほら、お前からもご挨拶なさい。お客様への挨拶はこの仕事をしてもっとも大事なことの一つだぞ」
「は、はい! ま、マリトと申します! よろしくお願いします!」

 マリト少年は言葉の後に勢いよく頭を下げた。その表情を見ることはできないが、出てきたお嬢様の美貌に顔を赤らめていると考えるのが妥当だろう・・・・・

「さて、挨拶も終わった事だし、そろそろ出発しようぜ」

 自身が乗る馬車を指し、俺は言った・・・・・

「案内役の二人は最前列の馬車に乗ってくれ。ファイマ達の貴賓者用馬車は満員だし、最後尾は色々と面倒事が起きそうだしな。それで良いよな、ランドのおっさん」

 俺が言葉を向けると、ランドはほんの僅かの間をおいてから頷いた。

 ファイマとランドは再び貴賓者用の馬車に戻り、俺と騎士団員は案内役の親子を連れて最前列の馬車に乗り込んだ。

 その最中に俺は思った。

 ──アガットの情操教育とか、“いろいろ”とランドと話しておかないと駄目だな。



 ディアガルへ──帝都ドラクニルへの来訪者は他国に比べて多い。これはディアガル領内の長距離移動手段である『魔導列車』によるところが大きい。列車の駅は国境付近の町には殆ど設置されており、このおかげで領内の端にさえたどり着ければ後は快適な列車の旅を送ることができる。

 ただ、その全てが俺たちの向かう『竜帝の歴所』への観光を望むかと言えばそんなはずはない。

 正式名称『竜帝の歴所』へは、馬車で帝都からおよそ一日程度。道程の途中に宿場は存在しない。その為、間に必ず野で一晩を明かす必要がある。ディアガル建国の初期から存在し、なおかつ保存状態も良好な遺跡であることから、歴史に興味を持つ外国客からの人気は高い。が、逆を言えば興味のない者にとってはさほど訪れる意義を感じられない。

 パペトは、普段は帝都ドラクニルの観光案内を生業にしている。『竜帝の歴所』の案内は、帝都観光名所の一環として紹介しているのだという。遺跡への観光を望む者は少なくないが、かといってそれだけで生活を送れるほど多くもないからだ。

 ──これらの説明をしてくれたのはパペトではなく息子のマリトだ。ファイマ達には野営の際に腰をいったん落ち着けてから改めてパペトが自己紹介を行うという。今回は経験を積む意味もあってマリトが俺たちに対して説明したのだ。

「どうでしたか、息子の説明は」
「少し表情と言葉が固かった事を除けば、特に問題なかったでござるよ」

 クロエの肯定的な言葉に他の騎士団員も頷く。

「カンナ氏はどう思う出ござるか?」
「──あ、悪い。俺今の話聞いてなかったわ」

 …………………………。

「……カンナ氏。少年の精一杯の頑張りを無下にするのは、さすがどうかと思うでござる」

 空気が凍り付く中、クロエが責めるような目をこちらに向ける。

「や、だから悪かったって。ちょっと考え事してたんだよ。マリトくんもゴメンな?」
「い、いえ……」

 さすがに正面から文句を言えるはずもなく、マリトは困ったような笑みを浮かべて曖昧に言葉を濁した。子供とはいえ、仕事に連れてこられるという事は、客の態度に対する心構えもある程度はできているのだろう。

 俺がマリト少年と同じ歳の頃はどうだっただろうか。

 ……有月のトラブル体質に巻き込まれて酷い目にあった経験ばかりが思い出される。とりあえず、現実世界に帰ったら一発殴ろう。
ナカノムラの生態日記 
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