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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第九の部 狂う人形

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第百八話 匠の収納技

先週に一度書き上げたものを全面改修しました。
いつもより若干ですが多めです。

クロエがレグルスの正体を知る云々の描写を間違えていました。修正しましたが。
 
 各自で準備を進めて二日後の朝。

 遺跡へ向かうファイマとそれを守護するための一行が、幻竜騎士団の屯所前に集合していた。幻竜騎士団からの増員は六名で、顔合わせは既に完了している。互いの第一印象も悪くなく、今後のコミュニケーションに問題はなさそうだった。

 ただ、増員は幻竜騎士団だけではなかった。

「悪いなクロエ。急に仕事を頼んで」
「カンナ氏の頼みならこのクロエ、喜んで引き受けるでござる」

 昨日の内に彼女クロエが宿泊している宿を訪れ、今回の遺跡観光に同行して貰えないか頼んでいたのだ。もちろん、事前にレアルとファイマには話を付けてある。クロエの参加はギルドを通し、『依頼』としての契約が成立している。

 ついつい忘れてしまいそうになるが、クロエの冒険者ランクはB。既に『一流』に分類される実力者だ。護衛としては申し分ないだろう。

「それに、実は拙者にとって今回の依頼は『渡りに船』だったでござるよ」

 クロエは苦笑しながら腰に添えている『剣』の柄頭を叩いた。俺が以前に見た両刃の直剣ではなく、緩やかな弧を描いた細身の剣だった。

「カンナ氏に紹介してもらった武具屋に行ったのでござるが、残念ながらあの店に拙者の求めている剣が無かったのでござるよ。そこで、店主殿が拙者の求めている剣を扱っている店を教えてくれたのでござるよ。そしてその店でようやく、『これ』を入手できたのでござる」

 彼女の出身である『ヒノイズル』が俺の中では『江戸時代の日本』に近いイメージだったので予想は付いていたが。

 どうやら彼女が本来得意とする武器は『日本刀』だったらしい。や、この世界に『日本』は無いので単純に『刀』と呼ぶべきだろう。直刃の剣よりも、刀を腰に差しているクロエの姿は“様”になっていた。

「ちなみにどのくらいしたんだ?」

 値段を聞いた途端、それまでは得意げだったクロエは狼耳をぺたりと伏せ、肩を落としてしまった。どうやら結構な値段だったらしい。

「……──十枚でござる」
「ん?」
「き、金貨……二十枚でござる」
「ほぉ……金貨二十──金貨二十枚!?」

 俺もこのお値段にはさすがに仰天した。金貨十枚もあればかなり上質な装備を買える。その倍ともなれば、最高級品に匹敵する値段だ。確かミスリル合金製の剣が一本で金貨二十枚だったはず。

「どうやら刀は滅多に入荷しない品らしく、使い手もディアガルには殆どいないのでこの値段でござる……」
「つか、よく金貨二十枚なんて払えたな」
「カンナ氏への借金返済の傍らに、念のために『へそくり』も貯めていたのでござる。それに、ここ最近の収入も併せてどうにか工面したのでござるが……。そのおかげで、しばらくの生活費もまとめて吹き飛んだのでござるよ」

 乾いた笑いを見せるクロエは、まるで燃え尽きたボクサーのような雰囲気だった。勿論気のせいだが、心境的にはそれに近いのだろう。

 クロエはどうにも、常に金に困っている印象があるな。出会った当初から無一文だったし。

「今回の依頼がなかったら、拙者は明日の御飯にも困っていたでござる。話を持ちかけてくれたこと、本当に感謝するでござるよ」
「そもそも、生活費を確保してから購入すれば問題なかったんじゃねぇのか?」
「はぐぅぁっ!? か、カンナ氏の正論が胸に痛いでござる……」

 グサリ、と音が聞こえてきそうな感じに、クロエは悶えた。

「し、仕方がなかったのでござるよぅ。ここしばらく、ずっと慣れない直刃ぶきで冒険者稼業を続けてきたでござる。望み、願い求め続けてきた刀を前に、抑え込んできた欲望を堪えきれなかったのでござるよぅ」

“やってしまった”感の自覚はあるのか。

「──ったく、当面の資金ぐらい、俺が工面してやるってのに」
「い、いえ。ただでさえカンナ氏にはお世話になっているのに、これ以上の迷惑をかけるわけには……」
「依頼の最中に空腹で倒れられたら、それこそ寝覚めが悪いだろうが。これが金貨百枚の借金ってならちょっと考えちまうが、数日分くらいの飯くらいなら奢ってやるよ」
「か、カンナ氏ぃぃ〜〜」

 クロエが目を潤ませて両手を合わせ、感極まった声を上げた。

 や、慕ってくれるのは嬉しいのだが、少しチョロ過ぎでは無いだろうか。悪い男に引っかからないかが心配になってくる。

 ──“そこ”、黙って『俺』を指ささないように。



「ところで、ファイマ殿達はまだなのでござろうか?」

 未だこの場に現れないお嬢様とその一行に、クロエはきょろきょろとあたりを見渡した。

「女性ってぇのは何かと準備に時間が掛かる人種だ。良いところのお嬢様なら相応に長いだろうさ」
「……拙者も一応、女性なのでござるが……。準備を手早く終える拙者がまるで女性失格のように聞こえるのは気のせいでござるか?」
「“一応”って自分で付ける辺りが駄目なんじゃねぇのか?」
「今日のカンナ氏は辛辣でござるな!?」

 いつもの凸凹コントを繰り広げていると、複数の足音が聞こえてきた。待ち人達が到着したようだ。

 ただ、こちらに近づいてくるファイマの顔には遺跡に向かう事への期待感ではなく、困惑気味な表情が浮かんでいる。彼女に続く護衛三人の、さらに後方から見慣れぬ兵士が四名続いていた。

「あれは……天竜騎士団?」

 カクルドの言葉で、俺は先日に皇居で会った天竜騎士団の鎧を思い出す。確かに、ファイマ達の後に続く彼らの鎧は、あのときに出会った騎士団員のそれと同じ物であった。

「よぅファイマ。おはようさん」
「……おはよう」

 いつもの調子で気軽に声を掛けるが、対するファイマは笑みを返してくるがいつもの明るさに若干の陰りが含まれていた。それもそのはず。俺が彼女に挨拶をした途端、天竜騎士団と思わしき面々がこちらを睨みつけてきたのだ。

「……ちょっとお嬢様。何で俺、睨まれてんの? まだ致命的なおふざけはしていないんですけど」
「普段のふざけは自覚ありだったのね。それはそれで問題だけど……。というか、睨まれている時点で良く堂々と話しかけられるわね」

 俺は口元に手を当て、ファイマと小声でヒソヒソ話をする。すると、天竜騎士団のメンツの眉間に更に深い皺が掘られていく。何故かは知らないが、俺がファイマと言葉を交わしているのがお気に召さないようで。

 や、続けるけど。

「そもそも、どうして天竜騎士団の方々がいるわけよ。まさか、遺跡観光に同行するつもりじゃねぇだろうな」
「そのまさかよ」
「昨日の時点では影も形も無かったろうがそんな話」

 少なくとも、昨晩に軽い打ち合わせをした時点では、天竜騎士団の“て”の字も出てこなかったぞ。

「それが、出発の支度をしている最中に部屋にきたのよ。既に話はレグルスさんに通してあるって」
「団長さんに?」

 俺が首を傾げ、何気なく屯所の門へと顔を向けたところ、ちょうど全身鎧の幻竜騎士団団長が姿を現した。付近で準備を続けていた騎士団員達は一時手を止め、揃って団長へと敬礼をする。団長は軽い手振りで労うと作業の続行を命じ、此方に近づいてくる。

「どうやら、揃っているようだな」
「おい団長さん。登場するなりで悪いんだが、事情を説明してくんねぇかな。天竜騎士団の方々が追加で同行するなんて話、聞いてないんだが」
「それに関しては急な話ですまない。遺跡へ向かう話を聞きつけたのか、昨日の夜にあちらの方から申し出があってな。それも、天竜騎士団の団長直々にだ。──噂をすれば」

 レグルスは顔を上げ、兜の奥にある眼を上空へと向けた。つられてそちらに振り向けば、晴れ間の空が広がるばかり。

 ──や、よく見れば空のある一点に“何か”が動いているのが分かった。時が経つにつれて徐々に大きくなり、輪郭がハッキリと分かるようになっていく。

 それはまさしく『飛竜』を操り天を舞う『竜騎兵』の姿であった。

 竜騎兵を乗せた飛竜は、俺たちの真上辺りを一度大きく旋回すると、付近に着地した。飛竜の足が地に着いた瞬間、天竜騎士団の団員達が一斉に敬礼の体勢になった。その動作は、レグルスが現れたときの幻竜騎士団の団員とそれと同じだった。

 飛竜の背に乗っていたのは、女性なら黄色い悲鳴を上げそうな男性だ。あいにくと、俺は男の上イケメンは見慣れているので内心に(爆発しろ)と呪いの吐き出す程度の感想しか出てこないが。

 纏っている鎧の意匠からして天竜騎士団の者なのだろうが、団員達の反応からして彼の地位が伺い知れた。彼は騎竜の背から降りると竜の首筋を一撫でしてからこちらに近づいてきた。

「天竜騎士団の団長がわざわざ見送りとはな、“テオティス”殿」
「大事な任務を部下に任せるのだ。出発前に激励の言葉を掛けるのは団の長としては至極当然のことではないか、レグルス団長殿」

 現れた竜騎兵に対して、と言うよりは人物の名前をこちらに聞かせるようなレグルスの言葉。なるほど、あの男が天竜騎士団の団長様か。

 ──天竜騎士団には気をつけろ。

 脳裏に、鋼竜騎士団団長が別れ際に残した言葉が嫌でも浮かんだ。俺は沸き上がる警戒心を表面に出さないように心掛けながら、テオティスを観察する。

 と、レグルスと視線を交わしていた彼の目がこちらに向けられた。

「──貴様が『白夜叉』か」

 ……もう『二つ名』で呼ばれるのは慣れたよ。というか、初めて会う人の殆どに名前で呼ばれた記憶がない。

 内心の悲しみは伝わらなかったようで、テオティスは値踏みするような視線をこちらに向けてくる。

「……金次第で如何様いかようにも立場を変える者を、国賓の護衛に加えるのはいささか軽率ではないか? しかもそやつは最近に名をあげたばかりの新参者だ。役に対してCランクの冒険者では些か格が不足していると思うが」

 爽やか系イケメンマスクで酷いこと言われているなおい。

「彼──カンナはこの帝都の中に存在する冒険者の中で、私がもっとも“信頼”している男だ。彼の実力を疑うことは私の判断を疑うことでもある。そのような物言いは控えてもらいたい」

 僅かばかりにい怒気を含んだレグルスの言葉を受け、テオティスは苦笑を交えて肩をすくめた。

「その判断が間違いでないことを、心の底から願おう」

 彼はそう言うとこちらから視線を外し、少し離れた位置にいる天竜騎士団団員達の元へと向かった。部下への叱咤激励という面目を果たすためだろう。

「現れるなり失礼な御仁でござるな。カンナ氏の実力を疑うとは」

 部下に声を掛けているテオティスに対して、クロエは不快感を露わする。が、少しすると今度は意外そうな顔でこちらを振り向いた。

「え、なにさ……」
「カンナ氏ならここで奴に対しての悪態の一つでもつくと思っていたのでござるが……」
「私も同感ね。今のは少しカンナらしく無いかしら」

 ファイマもクロエに肯定。人をところかまわず誰にでも噛みつく狂犬みたいに言うの、やめてくんないかな。

「伝聞だけで個人の人となりを把握するなんて無理な話さ」

 何も感じないわけでは無いが、逆に言えば受け流せる程度。むしろ、想定してたよりも向けられた不信感は少ないほどだったのが、正直な気持ちだ。平民出身の軍人や冒険者に対して悪感情を抱いていると聞いたが──。

「や、それはいいとしてレグルス。幻竜騎士団おまえらと天竜騎士団は水と油って聞いてたんだが、どうして申し出を受け入れたんだ?」
「確かに我らの相性は良くないかも知れないが、天竜騎士団の戦力は紛れもなく本物だ。私自らが鍛えた幻竜騎士団の団員達であっても、天竜を駆る彼らを相手に勝ちを得るのは困難を極める」
「“勝てない”とはいわんのな」
「戦とは水物だからな。作戦の次第では互角に渡り合えるだろう。……だが正面衝突ではまず無理だな。騎士団としての経験が違いすぎる」
「個々人の戦いでも、でござるか?」

 クロエは鉱山での氾濫事件で、実際に幻竜騎士団の戦いぶりを目の当たりにしている。勇猛な実力者達を率いる団長自らが口にする謙遜な物言いに首を傾げる。

「竜騎兵個人との戦いなら話は別だが、飛竜と竜騎兵の組み合わせに個人で挑むことは愚行と言うしか無いな。伊達に帝国軍の花形部隊をしているわけではないのだよ、彼らは。

 更に付け加えるのならば、もし万が一にファイマ嬢の身に危険が迫った場合、彼女だけを飛竜の背に乗せて現場を離脱することも可能だ。仮に地上での逃走ルートが確保できなくとも、空から逃げてしまえば問題ない」

 話を聞いていると、レグルスは天竜騎士団へそれほど苦手意識を持ってはいないようだ。

「──感情面はどうあれ、天竜騎士団かれらが優秀なのは疑いようのない事実だ。普段の付き合いはどうあれ、テオティスという男は請け負った責務に不必要な面子を持ち込むような男ではない。そこは私が保証しよう」

 ──ただ、とレグルスは俺の肩に手を置くと、俺の耳にだけ聞こえるような小声で言った。

「カクルド達の報告で、シャルガからの忠告はこちらにも届いている。万が一の時は君の“対応力”が必要になるかもしれん」
「さらっと重大な責任を押しつけないでくんない?」

 半眼で睨むと、レグルスは兜の奥からクツクツと笑みを漏らした。

「頼りにしているよ、『白夜叉』殿」
「ちょっ、お前までその名を呼ぶのかよ!」

 俺の声を背に受けながら、レグルスはどこ吹く風といった具合に離れていき、準備を進めている幻竜騎士団団員達の元へと去っていった。

 あの爆乳め──と内心に文句を垂れていると、ファイマが不思議そうな顔をこちらに向けていた。

「前から思っていたけれど、カンナってレグルスさんと随分と親しげよね。個人的な知り合いだとは聞いているけれど」

 ファイマはレグルスの“中身”をまだ知らない。レグルスの纏っている鎧には見た目の偽装の他に、声を変化させる特殊な効果がある。普通に接しているだけでは、レグルスの正体が彼女のよく知る人物に結びつくことはないだろう。

 毎度思うが、あの鎧の中にどうやって二つの大玉メロンが収まっているのだろうか。疑問は尽きない。
現在小説を書くにあたって少し試行錯誤な段階に至っています。
内容ではなく記号や表現の仕方等です。本文を読んで分かる通り、いつもと少し違う風に書いています。しばらくこれらを試していこうと思っています。

前書きにも書きましたが、本文で致命的な矛盾を発見したので急いで修正しました。多くの感想文を頂いておりますがそれらへの返答は活動コメントにて報告させていただきます。詳しくはナカノムラの『作者マイページ』の活動報告にてご確認ください。


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内容はナカノムラの日々や読んだ小説(web版多し)や好みのゲームに対する感想や内容の説明等です
http://kannaka-kamisiro.hatenablog.com
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『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』11月7日より発売中です!
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