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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第八の部 歪む天命

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第百五話 強化ガラスだって割れるときは割れる

前話からのあらすじ──虎穴の爆破未遂
 
 ディアガル帝国には三種類の騎兵が存在している。

 一つは、どの国でもあるように、軍馬に乗って戦場を駆け抜ける『騎馬兵』。次に、騎馬の代わりに調教した魔獣──『竜』を乗りこなす『走竜兵』。最後に、竜種の中でも飛行可能な個体──『飛竜』に乗り天を支配する『竜騎兵』だ。

「天竜騎士団はその名前から想像できると思いますが、この竜騎兵を中心に構成された騎士団です。対して地を走る『陸竜』に乗る走竜兵が多く所属しているのが『角竜騎士団』ですが、こちらは今はいいでしょう」

 カクルドによる簡単な説明が終わると、ランドが感心するように言った。

「天竜、角竜、両騎士団の存在は有名だ。魔獣を従え、乗りこなす兵科は種類は違えど他国の軍にも存在している。だが、それらの中にあって竜種を従えている軍ともなれば、やはりディアガル帝国しか存在していない。ましてやそれらを戦力として換算できる数を揃えるとなるとは、恐れ入る」
「ディアガルは強力な魔獣が生息する土地が多く、竜種の生息地域も他国に比べてかなり多いのです。それに加えて、竜と同じ因子を体の中に秘めている竜人族も多い。この二つが揃っているからこそ、ディアガルは竜種の魔獣を『騎竜』として扱うことが出来るのです」

 帝国に伝わる伝承によれば、ディアガル初代皇帝は当時竜種の中にあって最強と名高かった飛竜と心を通わせ、自らの武と竜の力を持ってして帝国を築き上げたとされている。

 ディアガル初代皇帝こそが、竜騎兵の『祖』なのだ。

「その為、武力は別としても天竜騎士団は帝国軍の中では花形であり、国内でもっとも人気を誇る騎士団なのです」

 とは言うが、カクルドの表情はとても誉め言葉を口にしているようなものではなかった。ファイマはそれを見てスケリアに言った。

「あの顔を見るに、軍の内部ではあまり人気は無さそうね」
「天竜騎士団には貴族出身の者が多く、叩き上げの多い幻竜騎士団とはウマ・・があわないのですよ。かくいう自分も一兵卒として入隊したところを拾われた身でして、天竜騎士団かれらと関わり合いになるのは遠慮したいですね」
「それを言えば、私だって勘当同然に家を飛び出した後、レグルス団長に誘われて幻竜騎士団に入隊したのだ」

 一つの騎士団に所属している兵の数は平均でおよそ五百〜四百。それに比べて幻竜騎士団の兵数は二百ほどと、他の騎士団に比べて半分ほどしか所属していない。

 コレは団長(=レグルス)が直々に兵を厳に選別し、自ら赴いて団に誘っているからだ。よって、幻竜騎士団は兵数こそ最小だが、戦力は同等と個人戦力が破格の騎士団なのだ。

 ……ただ、団長の好みなのか、あるいは偶然なのか、性格がちょっとアレ・・な人材も多く保有する事でも、軍の内部では有名なのだそうだ。ただ不思議と、貴族だ平民だとかで他人を見下す者は殆どおらず、仮にそんなことを言い出す輩がいれば、漏れなく団長から『訓練』という名の制裁が下る事になっている。

 それでも恐怖政治にはなっておらず、貴族出身の兵士も平民出身の兵士も、団長の元で一つに纏まっているのだから、『彼女』の人徳や統率力が破格であるのを想像できた。

「ですが、貴族と平民の垣根のない幻竜騎士団われわれと違い、天竜騎士団は徹底した『貴族主義』の騎士団です。平民出身の者も属していますが、竜騎兵の全ては貴族出身者で固められております」

 だがこれは『竜騎兵』という特殊な兵科である以上、仕方がないことだとスケリアは言う。

 コレは陸竜を扱う角竜騎士団にも言えることなのだが、『竜』を扱う兵科はとにかく費用を──金を大量に使う

 竜の飼育と竜を駆る兵の育成にも多大な費用と時間が掛かる。どちらにも幼い頃からの特殊な訓練(あるいは調教)が必要であり、『貴族』という存在でなければそれらの金銭問題を解決できないからだ。

「竜種を卵の羽化時点から育てるにしても、野生の竜を捕まえるにしても、それらを騎獣として育て上げるには莫大なコストが掛かります。これらを省みるに、陸竜や飛竜を扱える兵科は必然的に貴族の力が強くなります。国内を探してみても、軍に所属する人間で平民出身の飛竜乗りはまず居ません」

 軍属ではない無所属の飛竜乗りは、少数ながら存在するらしい。だが彼らは『自由』を好む傾向が強く、軍隊であり貴族の階級制度でガチガチに固まった天竜騎士団に所属することはまず無い。天竜騎士団からしても、自由奔放な無所属飛竜乗りをスカウトする事はあり得ない。

 ──ん、待てよ?

「スケリア、一つ質問して良いか?」
「何なりとどうぞ」
「天竜騎士団以外に軍関係者で竜騎兵は居ないって言ったが、例外はないのか? 他の騎士団に所属してるとか」
「陸竜乗りである走竜兵でしたら、角竜騎士団の所属者以外にもいます。ですが、飛竜に関しては無い・・ですね。少なくとも、自分が知る限りではありません。強いて言えば、現皇帝を含む歴代皇帝は飛竜乗りですが──今までの説明で不審点でもありましたか?」
「や、分かった。質問は以上だ、ありがとう」

 俺はスケリアに礼を言ってから、少し考える。

(──ってぇ事はつまり、『あいつ』が飛竜乗りって事実を知るのは、限られた人間だけか?)

 あるいはスケリアがとぼけている・・・・・・可能性もあるが、話をしている彼からハッタリの気配は感じられなかった。それはカクルドも同様だ。

 俺の質問の意図を、ファイマや護衛三人も掴めずに首を傾げているが、『あいつ』の詳しい(と言えるほどかは疑問だが)素性を知らないので仕方がない。クロエがこの場に居ればまた話は別だが。

 詳しい詮索はするまい。

 長々とした説明に区切りがついたところで、ようやく本題に入れる。

 ファイマが指を二本立てる。

「──問題なのは二つ。その天竜騎士団の団長がカンナとの密談を望んだ件と、鋼竜騎士団団長からの忠告ね」
「とりあえず、こいつを解雇してしまえば全てが解決するのでは?」

 俺を指さすアガットの言葉を受けて、ファイマが若干考え込む素振りを見せた。

 ──冗談だよな? 辞めろと言われれば従うが、かといって俺のガラスハートが傷つかないとは限らないんだぞ?

「ガラスはガラスでも強化ガラスでしょうに」

 部屋の窓ガラスを爪でひっかいて不協和音の大演奏を奏でてやろうか、と心の片隅に思い浮かんだ。というか、あるんだ強化ガラス。

「……事はそう単純では無いだろうな。おまえも分かっているはずだ、アガット。第一、今更簡単にカンナ君を手放せるほど、我々は彼の優秀さを知らないわけではあるまいに」
「言ってみただけですランドさん。こいつが役立たずでないのは、流石に俺だって理解させられていますよ。……不本意ながら」
「アガットのつんでれ・・・・はともかく「おい、つんでれとはどういう意」──ともかく、私もカンナ君を切り捨ててしまうのは早計が過ぎると思います」

 天竜騎士団を説明するときのカクルドに似たような表情を浮かべるアガットと、肩をすくめながら言うキスカ。護衛三人の言葉に俺はこそばゆさを感じる。相変わらず、人様に評価されるのには慣れない。

「元々カンナあなたを切り捨てるつもりは無いから安心して。それに、今考えるべきは天竜騎士団の事よ」

 ファイマの言葉に、室内は黙考に静まりかえった。

 しばらくが経過した後、最初に口火を切ったのはキスカだった。

「天竜騎士団に関しては、幻竜騎士団二名の説明でだいたい把握できたけど、肝心の天竜騎士団その団長さんはどんな人なの? 話を聞いた限り、おぼろげには想像つくけど」
「『テオティス・カトラテス』という男で、指揮官としても竜騎兵としても非常に優秀な騎士です。彼の出身であるカトラテス伯爵家は竜騎兵を多く輩出している御家であり、テオティスの祖父も天竜騎士団の団長を務めた経験のある猛者でした」
「人間としてはどうなの?」

 スケリアが苦虫を潰したような顔になった。

「徹底した貴族主義者ですね。プライドの高さは軍内部でも屈指でしょう。また、同じ貴族でも竜人族以外は見下しているような人間です。実際の話、天竜騎士団に所属している竜騎兵の全ては竜人族で固められています。戦力として竜人族の割合がもっとも高い騎士団でもあります」

 聞いているだけで関わり合いになりたくないな。もし何も考えずに天竜騎士団からの誘いに乗っていたら、酷い目にあっていたに違いない。

「そうね。酷い目に遭っていたでしょうね──天竜騎士団が」
「どういう意味だおうこらファイマ。つーかさっきからちょいちょい人の心を読むのやめてくんない?」
貴族主義そんな人間が、どうしてカンナとの密談を望んだのかが問題よね。貴族とは真逆の位置にいるような人間なのに」

 まさかのスルースキル発動だったが、彼女の言葉には同感だ。とてもではないが、実のある会話ができるとは到底思えなかった。

「カクルドさん、スケリアさん、何か心当たりは無いかしら?」
「むしろ、心当たりがありすぎて困る次第ですね」
「……どれだけ仲が悪いんだよおまえら」

 俺が半眼を向けると、スケリアは困ったように頭を掻いた。

「どちらかと言えば、天竜騎士団から一方的に目の敵にされている状態ですね。こちらとしては本当に関わり合いになりたくないのですが……」

 天竜騎士団は帝国軍の中では古参の部類に入り、その歴史は短くない。対して幻竜騎士団は発足されてまだ日が浅い。その上、団長のレグルスは元冒険者という異色の騎士団だ。由緒正しき貴族さまが率いる部隊としては、ぽっと出の部隊が台頭するのは愉快な話ではない。

「……今までの話を統合すると、天竜騎士団がカンナを呼び出そうとした理由をいくつか思いついたわ。あくまで私の想像でしかないけれど」

 ファイマが俺に目を向けながら言った。

「そう複雑な話じゃないわ。おそらく、天竜騎士団の団長さんとやらは、カンナを引き抜こうとしたんでしょうね」
「……また何でさ」
「天竜騎士団の使いがカンナを『白夜叉』って呼んでいたでしょう? 『冒険者』としてのカンナをある程度は把握しているという事よ。その将来性を含めてね。そんな新気鋭の冒険者が、目の敵にしている幻竜騎士団と個人的な繋がりを持っているのよ。面白いはずがないわ」
「そんな事言われても……」
「だから、幻竜騎士団にこれ以上大きな顔をされたくはない天竜騎士団は、カンナの引き抜きに掛かったのよ。『雇われ』という立場上、誰を雇用主にするかは冒険者カンナの自由だから」

 ファイマを護衛する立場にあって、もっとも身が軽いのは他ならない俺だ。手の内に引き込むとすれば格好の的。そう考えた天竜騎士団が、俺との接触を図ろうとした、というのがファイマの見解だ。

「幻竜騎士団の二人だけではなく、私たち・・・・にすら秘密で会おうとした事実を考えると、表面上の雇用主を幻竜騎士団としたまま、カンナを『内通者』に仕立て上げようとしたのかもしれないわね。幻竜騎士団や私の近辺情報を横流しさせて、有利な立ち位置になろうとしていたか。──現時点で考えられる可能性としてはこの程度ね」

 シャルガからの忠告に関しては現時点では推測が出来ない、とファイマは最後に締めくくった。

 結局、現時点では状況の推移を見守るしかない、という結論に達したのであった。
陰謀編は本当に頭が疲れる。
作者的に長々とした舞台背景や(メインを除く)人物の描写は好きではないのですが、かといってあっさりしすぎると物語が薄味になってしまいます。その塩梅に四苦八苦中です。

さて、前話の後書きにも書きましたが、第4回ネット小説大賞で無事、最終選考を突破し書籍化が決定いたしました。
詳細はこちら
http://www.cg-con.com/novel/
前回の感想や活動報告のコメントにて祝福の言葉を多くいただき、誠にありがとうございます。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
以降の感想文やレビューも募集中ですのでよろしくお願いいたします。

次回の更新は六月五日の予定です。
……いい加減、放置気味のもう一作を更新しようかと思ってます。来週中の予定です。
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