問題児【一匹狼】
「…………眠ぃ」
昇る太陽。
風に吹かれて音をだす森林。
時々水がはねる音が聞こえる湖。
そしてその近くに寝転がる俺。
――仙道桐。
黒髪黒瞳で二つ名は【一匹狼】。武装型、学校では一番手。
桜花魔法学校一学年で最強の俺は、午前の授業をサボってベクサリア平原の湖のほとりに来ている。
普段は授業もちゃんと受けているし、午後の授業は絶対に受けている。
いや、素直に言えば午前は寝ていて授業を受けていて、午後の授業は決闘という名の喧嘩を売りに行っている。
今は教室にいる気にならなくて、この湖のほとりに来ているのだ。
春であるこの時期はここは涼しくて昼寝ができやすいからだ。
そしてウトウトし始めて、俺は夢の中へ旅立った。
昔の夢だ。
俺は小学生で、俺の両親がまだこの世にいる時代。
そして――
――両親が殺された時代……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おお、帰ったかキリ」
「オヤジ……」
「なに呆けた顔してんのよキリ。さぁご飯にしましょう?」
「……ああ」
俺の家族は父、母、俺の三人で構成されている世帯だ。
場所はどこにでもある一軒家。
別段特別というわけではなく、ごくごく普通の一般家庭だった。
だが、そこには小さいが確かに幸せが詰まっていた。
「キリ。ちゃんと勉強ついていけてるか?」
「まぁな」
俺の父。
仙道幸理。
二つ名は特にない。
だが名前だけで売ってきたので幸理という名を聞くだけでわかるやつはわかる。
だから二つ名の代わりに幸理が使われているようなものだ。
装備型で武器は籠手。
得意属性は雷属性で、座右の銘は『一撃は速さ』、だそうだ。
趣味は知らない。
あんまり家にいないし、いつも新聞を読んでいるからだ。
? 新聞が趣味なのか? これって。
「あら。幸理じゃないんだから当たり前でしょう?」
「む……。そうかもしれんな」
俺の母。
仙道菊華。
二つ名は【幼少の花】。
自然型で主に大地属性や土属性の変異属性の華属性を使っている。趣味はガーデニングだ。おかげで狭いが庭は花がたくさん咲いている。
種類としては、チューリップやアサガオやラベンダーなどが咲いている。その種類、十はくだらないだろう。
一番好きなのはチューリップらしい。
だから【幼少の花】。
簡単だろ?
「おいおい。認めていいのかよオヤジ」
「クハハ! 俺が菊華に勝てるものか!」
「それはどういうことですか?」
「おおっと早く食べなくては冷めてしまうな」
そういって慌ててオヤジは新聞をしまい、夕食を食べ始める。
俺もお袋も、夕食を食べ始める。
夕食はご飯と野菜炒め。
まぁ普通だわな。当たり前だ。
別に儲かっているわけじゃないからな。むしろ金欠気味だろう。
だからこんな普通の食事が出来るだけでも感謝をする。
そうしているとオヤジが食事の手を止め、話しかけてくる。
「そういえばキリ。明日は何もないのか?」
「んあ? ん~。特にねぇな。何かあんのか?」
自然と聞き返す。
「ああ。明日は久しぶりにみんな休みだからスキーにでも行こうかと思ってな」
ガタンッ
「マジか!? 連れてってくれんのオヤジ!」
俺は勢いよく席を立って子供のように声をたてて言った。
そしてオヤジも勢いよく席をたち、
「ああ! お前の幼馴染のレナとその家族とも行くんだ! どうだ!? 楽しみか!?」
「ああ!! オヤジ最高だぜ!!」
はしゃぐ二人。
もちろん――ダンッ!
「席に座りなさい」
「「はい……」」
お袋が黙っているはずもなかった。テーブルに箸を逆手に持って拳を打ち付けていた。
だが……、
「席を立たなければ好きなように騒ぎなさい」
笑顔で言ったお袋の言葉に俺は腕を振り上げで喜んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は約束された時間よりも一時間早く起きた。
眠れなかったというのもあるが、一番の理由はもっと別にあるのだ。
俺は着替えをする。何にしようかと考えていてもなんなので、簡単にTシャツとジャンパーを掴んだ。
今の時期は冬で、しかも雪山に行くのできっと寒いだろう。
だから俺はジャンパーも同時に掴んだ。とは言っても俺は暑がりだから街中はTシャツでいいのだ。
雪山はジャンパー着ないと寒いけどな。
そしてさすがにこの冬に半袖のTシャツは切れないので今持っているTシャツをしまって長袖のTシャツを出す。
文字がなんとなく書いてあるシンプルなデザインのTシャツだ。それに俺は着替える。
下は……まぁジーパンでいいだろう。
同じ年代の子供はもっと派手な服装を好むのだろうが俺は別段興味もない。
すると扉からコンコンとノックをする音が聞こえる。
「キリ。起きてるか?」
「ああ」
「そうか。じゃあ待ってるからな」
やっぱりな。
俺のオヤジはちょっと特殊だ。どこが特殊だって?
俺のオヤジは約束の時間をわざと間違えて教える。
だがそれは一時間以内なので俺は言われた時間の一時間前に起きた、ということだ。
俺は持っていくものを持って部屋を出た。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝食を食べ終わったあと、俺は家の前に停車した車に乗り込んだ。
「おはようございますわ、仙ちゃん」
「ん? ああ。おはよう、レナ」
乗り込んだ丁度となりに藍色の長い髪の女の子が座っている。
彼女の名前はレナ・ルクセル。ルクセル家の長女だ。
ルクセル家は大富豪の家で両親ともに有名な会社企業の社長同士らしい。
つまり二つの会社の社長の間の子ということだ。羨ましいことこの上ない。さぞかしお金に困ることはないだろう。
そしてレナは容姿は可愛いので小学校の男の子の中で人気だ。
だが高貴な雰囲気に押されて話しかけれない。それは女の子たちの中でも同じで、近づけない。
つまり友達はいない。うわべだけの友達ならいる。だがそんなのは友達とは呼ばない。
俺は友達じゃないぞ? 友達と幼馴染とは違うからな。
俺とレナは幼馴染……っていうか兄妹に近いな。
小さい頃から家が近いから遊んでる。親同士が親友みたいだったからレナの親も認めてくれていた。
「今日の勝負はわたくしが勝ちますからね!」
あ~。なんだ。
俺とレナの関係は幼馴染と書いて好敵手と読む。
これに限る。
「ああいいぜ。今度はスキーを長くすべれた方が勝ちな」
「いいですわ! 今回はわたくしの完全勝利で収めてあげますわ!」
「レナ姉もキリ兄も頑張って~」
そして今二人を応援したのがカンマ・ルクセル。長男でレナの弟だ。
つまりそれぞれの会社の社長の座は守られるということだな。
ん? 違う?
まぁどうでもいい。
大人の事情なんてな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
雪山についた。吹雪とか降っていなかった。
いや、もっと大胆に言っていいな。
雪は降っていなかった。
いや、マジで。少しは降っていて欲しかったな。
俺とオヤジは落胆した。
「だが! まだ遊んでいる最中に降る可能性が!!」
「仙ちゃんのおじ様。今日は晴れと魔法天気士しが言っておりましたわ」
うなだれるオヤジ。
「ハッ。オヤジ。こんなんでうなだれるのかよ」
「キリ兄。涙出てるよ」
「う、うるせぇ! 汗だよ!!」
「わたくしはこんなに寒いのに汗なんて出ませんわ」
うなだれる俺。
そして黙っていたお袋が、レナに言う。
「まぁまぁ。レナちゃん? 幸理とキリに意地悪しないであげて?」
「は~い。仙ちゃんとおじ様? 今日はちゃんと午後から雪が降るそうですわ」
「「ホントか!?」
「え、ええ。ホントですわ」
ちょっと引くレナ。
仕方がないだろう。楽しみにしてきたんだから。
そして俺とレナとカンマは早速スキー板を持ち、雪山を登っていく。
オヤジも来たそうにしていたが、レナの両親と話をするらしく、渋々残ったのだ。
「さぁ仙ちゃん! 勝負内容を覚えておりますわよね!」
「ああ! どちらが長く滑れるかだ!!」
燃えてきたな。またレナに敗北をあじあわせる事が出来るのだ。
すると、カンマののんびりとした言葉が俺に質問として投げかけられる。
「ところでキリ兄はスキーをやったことってあるの?」
「ない」
「即答ですの!?」
「よくよく思えば雪山に来たのって初めてだな」
「そこまでですの!? でもこれはチャンスですわ! わたくしが仙ちゃんに勝てるチャンスですわ!!」
「それじゃあ行くよ~。よーい……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ちょっと待つですの!! どうして初めてなのにわたくしが負けるんですの!?」
結果。
俺の勝ち。
今んとこ全勝。
これまでいろいろ勝負をしてきたが俺がレナに負けたことがあるのは頭脳戦や心理戦だけだった。
つまり真剣衰弱とかテストとかもか……。
さっきの全勝の意味は体育関連はすべて俺が勝っているということである。
「体の作りの差だな」
「うぅ~。最近はわたくしも体力をつけるように努力しているのですが……」
レナは肩を落としながら言う。
ほぅ。
少しは俺に勝とうと努力してんだな。
「レナ姉。頑張ってるもんね」
「俺に勝とうなんざ百年早ぇ」
俺は強気な言葉を言っておく。
だからといってこれで引き下がるレナなハズがなく……。
「わかりましたわ。百年後またやりますわ!」
「思いっきりジジイ、ババアじゃねぇか」
「魔力しだいで若く見えるよ、キリ兄」
とんでもねぇこと言いやがった。
確かに魔力が壮大であればある程、不老になりやすい。魔力が強大だと例え百歳のジジイ、ババアでも二十代に見える事があるのだ。
だが、俺はそんな時代まで生きていれる自信はないと言っておこう。
そして俺たちはまた雪山を登っていく。と、途中で気がついた俺。
「なぁ。この山頂辺まで登ってスキーでくだらね?」
雪山はさして大きいわけではないので十分ほどペースを落とさずに行けばつくだろう。
「じゃあ競争ですわ!」
そう言って走り出したレナ。
俺もそれに従い走り出し、カンマもついてくる。
そして一番下から雪……煙ッ!?
「俺も頂上まで競争参加だぁ!!」
「オヤジ!?」
一番下にあった家から登ってくるオヤジ。
魔法は使っていないので俺たちのとこまでくるには時間がそれなりにかかるがだからといって油断ならない。
俺達は急いで上へ登っていった。
「仲がいいのね~♪」
「クハハ。楽しいものだよ。自分の子供やその友達と遊ぶのはね」
「ああもう! 母さんは黙っててください! すみませんがボクたちと同じ髪色の女の子見ませんでしたか?」
「さぁ? 見ていないね? …………母!?」
「そうですか……ありがとうございます」
「あ、ああ。ええっと……ホントに嬢ちゃんの母?」
「ええ。ちなみにボクは嬢ちゃんじゃないです。男の子ですから」
「男の子!?」
途中で振り向くとオヤジは俺らぐらいの白銀の髪の女の子(二人組)に話しかけられていたので心の中でガッツポーズしていた。
これで少しは稼げる。
なぜオヤジが驚いているかはここまで会話が聞こえないので知らないが。
「よっしトップ!!」
「レナ姉遅いね」
「ま、まさかわたくしがカンマにも負けるなんて……」
オヤジはっと……。
「ま、まさか途中であんな伏兵に会うとは……」
俺が見た瞬間にはもう着いていた。 レナが頂上についたあとすぐにでも着いたのだろう。
それにしても、オヤジの疲弊が目に見えてわかる。一体何があったというのだろうか。
そのあと俺達は一番下まで途中オヤジに言われて一回滑るのをやめて止まった。
一番下まで休みなしで行くのは危険だからだそうだ。
そしてもう一回滑っていって最高に楽しんだ。
そのあとは昼食の時間だった。
それからまた遊んで何事もなく終わりな一日だったら……、
俺はどれだけ喜んだろうか……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は昼食を食べてお腹がふくれたのですぐに外にはいかず、室内でレナとカンマと遊んでいた。
何で遊んでるかって?
トランプで大富豪だ。
ルールはいろいろついている。
階段、革命、8切り、スペ3返し、都落ち等々。
今んとこ大富豪はレナ。
「やっぱり仙ちゃんは頭脳戦には勝てませんのね! ふふふ」
「クソッ。もう一回だ! もう一回!」
「キリ兄。ドンマイ」
ちなみに俺は大貧民。
まぁ三人でやっているので分けられた時に貧民が富豪に渡すカードは一枚ということにしている。っていうか始めてから地位が変わったことがない。
俺はずっと大貧民。
レナはずっと大富豪。
カンマはずっと平民。
見返してやる!! とムキになってやったりしているのでずっと負けているとは自分では思っていない。
レナやカンマはそのことに気づいているがあえて何も言っていない。
そしてトランプが飽きたので俺たちはまたスキーをやりに行く。
だが……
「吹雪じゃん……」
「吹雪ですわね……」
「吹雪吹雪~」
カンマだけ喜んでた。
いやいやいや。これじゃあスキーできねぇじゃねぇか。
まぁ仕方ねぇか。午前いっぱい遊んだし。
俺はなんとなくオヤジとお袋を探す。
だけどどこにいるかなんて知らなかったので慌ただしくしているレナの親に聞く。
「なぁ。俺のオヤジとお袋知らねぇか?」
「そ、それがあの吹雪の中に飛び込んでいったんだ」
「はぁ!?」
意味がわからん。
なんで?
一応このぐらいならば迷ったり死んだりすることはないが……危険なことに変わりはない。
「それが雪山の頂上付近に小さな女の子がいてな、危ないから助けに行くだとか……」
「あ~。いつものオヤジだな。んじゃ大丈夫か」
「だと思いたいんだが……」
言いよどむレナの父親にオレは心で(なにも心配することじゃない)と考える。
なぜなら、いつもそんな感じに人助けしてるからだ。
だが、俺はレナの父親の言った言葉を訊いて、様子がおかしい事がわかった。
「その女の子、見えないんだよ」
「そら、今いる居間の反対方向だからな」
「そう言う意味じゃない。ちゃんと外に出て見てきたさ。でも……」
ドクンッ――
心臓が脈を打つ。
なんだ?
胸騒ぎが止まらない。
「女の子なんてどこにもいないんだ。妻に探索魔法を使ってもらったんだがそんなとこに女の子なんていないんだ。だからおかしいと思ってね。今君のお母さんが迎えに行っていて……」
お袋が?
ドクンッ――
胸騒ぎが先ほどよりも強くなる。
すると――
――ズドォォォン!!
「!?」
「何の音だ!?」
近くに聞こえたものじゃない。
もっと遠くだ。
近くなら爆発音だけ聞こえるはずがないからだ。
「お父様!! 大変ですわ! 山の頂上が爆発しましたわ! 理由はわかりませんけど……。このままだと雪崩が!」
山の頂上だと!?
あそこには俺のオヤジとお袋がいるんだぞ!?
俺の心臓はさらに早く稼働させて息を荒くする。
なぜか胸騒ぎは一向に収まらず、むしろどんどん加速している。
俺はいてもたってもいられず、駆け抜けるように走り抜けた。
「仙ちゃん!?」
「キリ君! どこに行くんだ!?」
何も聞こえない。
俺はただ雪山の頂上に向かって走っている。地面が雪なため、走りにくいが気にするほどじゃなかった。
俺は雪の上を走っている。
〈ダッシュ〉の魔法だ。
まだ、自分の喚ぶための呪文をしらない俺は、こんな簡単な魔法しか使えないのだ。
でも今はこの魔法だけで十分だ。
オヤジとお袋に会うだけなのだから……。
会って、一緒に帰るだけなのだから……。
ズドォォン!!
またも爆発音。
だけど今回は先ほどよりも大きくて、大気が震えている。
あと少し……。
あと少しで頂上だ!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なぁ。
神っていんのか?
俺はさぁ、信じたくないな。
だってさ……。
なんで……。
なんで……。
――俺のオヤジとお袋の命を奪って行ったんだ!!!!
もう息はしていないだろう。
半焼けし、首をかっ切られたオヤジ。
おそらくお袋だっただろう死体は完全に燃えていてところどころ穴があいている。
そして、そこかしこに広がった血……。
俺のオヤジとお袋の血……。
そして気づく。
両親の死体のすぐそばにいる、ケラケラ笑っている気味の悪い男が……。
空には雲がかかっていて、吹雪もふいているので見にくいが、その体や顔には血がベットリと付いて……いる。
そして俺の中で何かが外れて、声を絞り出す。
「テメェが……」
「んん? 誰だい? 悪いけど忙しいんだよね。邪魔しないでくれないかな?」
「テメェが……オヤジとお袋を殺したのか!!」
「さて? ああ。君、彼の息子? 一応殺しておくか」
俺はがむしゃらに突っ込んだ。
魔力を全開にして奴に拳を叩きこむ。
だが奴は簡単に片手で防ぎ、片手で持っていたナイフらしきものを俺に突き立ててきた。
「グッ」
「甘いね。君はまったくもって弱いなぁ。でも仕方ないか。まだ子供だもんね。今から両親の元につれていってあげるからおとなしくね」
またケラケラ笑う気味の悪い男。
返り血を浴びているそいつはホントに気味が悪い。
だが俺はそんなこともお構いなしに手足を動かし、なんとか脱出しようと試み たが叶わなかった。
俺は声を荒あげる。
「放せ!! テメェなんか殺してやる!!」
「威勢がいいね。だけどね? こんなとこで放すバカはいないよ?」
「放せって……言ってんだろうが!!」
バチチッ!
「ほほう……雷か」
俺はいつの間にか発動されている雷に驚きつつもこれはむしろ好機だと思い、雷を奴に浴びせる。
だが……。
「まったく、こんな弱い雷じゃせいぜいダニを殺すのが精一杯だね。属性的には電気属性かな?」
まったくきいていなかった。
しょせん子供の魔法。
大人のこいつには痒い程度にしかならないらしい。
なら俺は戦い方を変える。
「放せ!!」
ガッ!
俺は足を振り上げ、奴の顔に叩きこむ。
さすがに大人と言えどこれならば効くだろう。
「イデッ。おい小僧。調子乗ってんじゃねぇよ」
「誰が調子乗ってるかよ! テメェこそふざけんじゃねぇ!!」
「たく……うるさい餓鬼だな。もういい。殺すか」
ヤバイ!
早く脱出しねぇと!
やられる!
腕を掴まれている今、できることは足を使うことだけだ。
足で何度も奴を蹴るが、とうとう足に傷を何度もつけられる。
俺はその痛みに耐えながら、必死に振りほどこうとするが次第に奴の締め付ける力が上がってきて、腕に痛みが走る。
そして奴はナイフを思いっきり振り上げ――
「バイバイ。これで君も終わりだね」
――俺の喉元をめがけて振り下ろした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は、いつまでたっても来ない痛みに不思議と思い目をあける。
「ねぇあんた。人を殺して楽しい?」
白銀の髪が見えた。
その白銀の髪は太陽に照らされていて輝いているところだけ薄赤く光っている。
その少女は奴のナイフを持っている腕を持ってまったく動かないようにしている。
とても少女ができるような芸当じゃない。
「質問に答えてよ。楽しい?」
「今忙しいんだよね。邪魔するなら君も殺すよ?」
「まだ質問に答えていない。楽しい?」
その一点張りで白銀の髪の少女は動かない。
「放せよ。殺すよ?」
「そう……。あんたは最低な屑ね」
そう言って少女は掴んでいた腕を両手でもち、思いっきり投げた。
「!?」
投げられた奴は投げられたことに驚いたがすぐに立て直し、受身を取ってこちらを見る。
その間に少女は俺を確認し、ほっと一息つく。
「大丈夫?」
「あ、ああ……。っていうかテメェも大丈夫なのかよ?」
「ん? 何が?」
「あんな化け物にケンカ売って……」
少女は微笑んで、奴に向き直る。
そして少女は空に手を広げて、叫んだ。
「エングス!!」
少女の手に一振りの大剣が現れる。
しかもそれは少女の丈にあっておらず、どう考えても振りにくいと思われる。
それを少女は……。
「よっこいしょっと♪」
軽々と持ち上げた。
さっきも奴を投げていた時には驚いていたがコイツのどこにそんな筋肉があるのだろうか?
体は筋肉質じゃない。むしろ細々そしている。
もしかして……魔法……だろうか?
「ねぇ男子。こいつは殺していいのよね? 君はこいつが死んでも問題ないんだよね?」
こちらを向いていた少女が言う。
当り前だ。
問題なんてあるものか……。
こいつは……俺の両親を殺したんだ!!
「ああ。殺してくれ」
「後悔しないね? よし、エン。燃やしつくすわよ?」
誰に話しているのだろうか?
エングスというのがおそらくあの剣だろう。
じゃあエンは?
わからない。
そしてここからは一方的な虐殺が続いた。
どこからあんな力を出すのか。どこまで強いのか。
少女は奴とは比にならないくらい強かった。
無敵だった。
奴が攻撃をしてくるが、もうそこにはおらず、別の場所から奴を斬っている。
そして奴がひるんでいるスキにもう一発。
戦いは数秒とかからなかった。
地にひれ伏している奴。
「殺しちゃっていいね?」
俺はうなずく。
即答だった。
「ひ、や、やめ――」
「エングス! 燃やせ!」
すると少女の剣から眩い光が走り、奴を燃やし始めた。
「うわぁあああ!! 熱い!! 熱い!! やめてくれぇ!」
「いや」
「なんでもするから!!」
「いや」
「助けれくれぇ!!」
「いや」
助けを請う声に冷たく返す少女。
男は先ほどまでの気味の悪い感じを持っておらず。
今は哀れな男だ。
だが、同情の余地はない。
俺の親を……。
そして男は動かなくなった。死んだのだろう。
火も消えて、残ったのは灰。
だけど吹雪にふかれて何処かへ飛んでいった。
「さて、望み通り殺したけど、どうだった? スッキリした?」
……スッキリ……したのだろうか?
「してないでしょ?」
「……だから何だよ……」
俺の中は未だに混乱の中だ。
親の仇打ちをした。
だが気持ちが晴れない。
なぜだ?
俺は何か間違ったのか?
「べつに間違っていないと思うよ?」
「!?」
まるで思考を読んで言ったような感じに言ったので俺はドキリとする。
「あなたはそれが正解だと思ったんでしょ? だったらいいじゃん」
「……ああ」
俺は親の死体に近づく。
「オヤジ……お袋……」
言葉を放ってみても返事がない……。
反応はない……。
涙が零れる。
とても大切だった家族……。
もう二度と……。
そしてしばらく泣き続け、俺は涙をすべて使い切った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれだけの爆発音があったのに雪崩は起きず、吹雪が止み、レナとその両親がきたが目の前の惨劇に顔を歪ませ、佇んでいる俺を麓の家まで連れて行った。
家に帰ると親の葬儀を始めた。
もちろんそういう関係をやってくれる者なんてヒスティマにはあまりいないから葬儀のすべてを自分たちでやった。
だが葬儀に参加したのは俺とレナとその両親だけじゃなかった。
オヤジに助けられた人達が、オヤジを尊敬していた人たちが、オヤジが死んだということを聞き、たくさん入ってきた。その中にはこの国最大企業のロピアルズらしき人たちもいた。
お袋が趣味で育てていた花などはとても人気があって、お袋を好いていた、近所のおばさんたちや街中の花屋の人も来た。
葬儀に参加したのは約5000人。
それ以上いたのかもしれない。
だがそんなのはどうでもいい。
こんなにも俺の親のために来てくれる人がいるとは思わなかった……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「思い出……か……」
「こんなとこで寝ていたら風邪をひきますのよ?」
俺は目を開ける。
そこには藍色の髪を伸ばした幼馴染、レナ・ルクセルが顔を覗き込んでいる。
親の会社は研究の方なので桜花魔法学校に来る必要がないのだが、なぜか行きたいと親に無理を言って来た。
「なんの用だよ……」
「先生が仙道君を授業に出てくれるよう説得して欲しい(泣)とか言ってきましたので迎えに来たのですわ。全く……なんで違うクラスのわたくしが……」
髪を弄りながら愚痴をこぼすレナ。
俺はそれを無視してまた寝に――
「入らないで欲しいですわ!! おかげでわたくし授業に出れないのですわよ!?」
「別にどうでも――」
「いい、なんて言ったらわたくしの〈ウォーターランス〉が飛びますわ」
「いい」
「言いましたのね!? ならばいいでしょう! その体に刻み込んであげますわ!!」
「まだ午前の授業中だろ」
「今はもうすでに午後ですわ!!」
「んじゃあ帰る」
「なぜですの!?」
「眠ぃ」
「そんな理由で帰ったらわたくしの立場がありませんわ!!」
こいつをおちょくるのは楽しい。
仕方ない。
「こいよ。その決闘受けてやるよ」
俺は背伸びをしながら立つ。
「ふふふ……今日という今日は絶対に勝ちますわ!!」
そう言ってレナは呪文を唱える。
俺も仕方ないので呪文を唱えて戦闘準備万全。
だが俺は、頭の中では夢に出てきた少女の言葉が気になっていた。
――スッキリした?
今ではなんとなくわかる。
あの時のモヤモヤ感は、胸糞悪いだけだ。
人殺しなんてするもんじゃない。
だから俺は人殺しができないように、強くなった。
誰も殺さない。
誰も殺させない。
何も……無くさせない。
俺は強くなれば殺さなくて済む方法がいくつもあることに気がついたんだ。
だから、いくら俺のことを悪く言うような奴がいても俺は喧嘩をしに行くのをやめない。
喧嘩をしに行けば強くなれる。
といってもこれまで喧嘩をしに行ったのはふざけている奴らばっかりだ。
もしくは強い奴だ。
学校を卒業したらおそらく俺は罪などを犯した奴らを拘束しに行くだろう。
俺の就職先希望は、ロピアルズ警察会。
おそらく一番の問題児になるだろうが、俺はそこでやっていく気だ。
そこでふと思った。
「なぁレナ」
「なんです……の!!」
攻撃の手を緩めないのは結構。
だがダメージらしいダメージを与えていない。
たまにかするが、直撃じゃないのだ。
「お前はどこの就職希望だっけか?」
「わたくしは、まだ考えていません……わ!!」
「あ、そう。だったらさぁ……」
「?」
「俺と一緒に警察やらね?」
――ボフッ。そんな音が聞こえたような気がした。
「そ、そそそそれはせせせ仙ちゃんと一緒に就職しろということですの!?」
顔を爆発させて真っ赤にさせるレナ。
しろ、とは言ってねぇけどなんだよ、いきなり慌てて。
とりあえずレナは戦闘どころじゃなくなったように慌てているので俺は――
「隙有り」
「あ……」
――コツン。
レナの頭に小突きをした。
「俺の勝ちだな」
「ま、待つですの! どう考えたって今のは卑怯ですわよ!?」
「はぁ? ただ単に聞いただけじゃねぇか」
「う……それはそうですが……。この鈍感!!」
「意味分かんねぇやつ」
さっきの質問に企みなんて一切ない。
どうでもいいことを聞いただけだ。
なのにそんなに慌てるなんてどうかしている。
「うぅ……とにかく! 明日こそは絶対に勝ちますわ!!」
「クハハ! 望むところだ」
周囲から見たらさぞ驚くだろう。
周囲の人間は俺を不良的な感じに扱って、レナを優等生的な感じに扱っているのだ。
その二人がこうやって話していたら失神するだろう。
まぁ……。周囲の人間の考えなんてどうでもいいか。
俺は……人を守るための力だけを求めているんだから。
オヤジ以上に人を守れるような人間になるために……。
まぁお袋みたいに好かれる人間にはなれそうもないけどな。
そういう人間はいつか探して嫁にでもするか。
「ってまた寝る気ですの!?」
無視して俺は、もう一眠りした。
今度の夢は、白銀の髪を持った女の子(?)が噂の卒業した先輩【疾風の英知】に連れられて、学校に来た夢だった。
ええっと。
仙道桐さんの過去編どうでしたか?
ある人から依頼を受けて頑張って三日で作りましたw
疲れた~。
私の精一杯で作ったので面白がって見てくれると私はとっても助かります!
ヒスティマ本編を見ていて、これを見ると気がつくところがいくつも出てきていると思います。
はい。
狙いました。
思いっきり〝あの人〟達が出てきています。
しかも少女なんて思いっきり……。
場所はヒスティマですからね?
勘違いしないでくださいね?
場所はヒスティマにある、雪山です。
本編で〝あの人〟も言っていたと思いますw
この物語を書いている時に私は気づいたとこがありました。
あれ?
ヒスティマって幼馴染出てくんの多くね?
人は違えど、幼馴染がふたペアあるって……。
ごめんなさい。
私の願望です……。
現実で大きくなってもこんな仲のいい幼馴染なんていねぇんだよ!!
いたらきっと今頃リア充でしょうね!
羨ましいなこんちくしょう!
はぁ……はぁ……。
すみません。
取り乱しました。
とにかく桐さんの過去編の話を見てくれただけでも皆様に感謝です。
ホントは7000文字程度に収めようとしていたのですが、見事に3000文字追加されました。
もう、私のHPはゼロよ!!
さてさてここいら恒例の挨拶をして解散です。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。
本編を見ていない人は是非本編も見てください、お願いします(ぺこり
見てくれなかったら叩いちゃうんだから!!
嘘です。
すみません……。