奏〜Kanade〜(86/156)PDFで表示縦書き表示RDF


奏〜Kanade〜
作:にっくん♪



第79話 今年の目標!


「あっけましておめでとー!」
 陽乃はガラガラと音楽室の扉を勢いよく開けた。音楽室には既に春樹、雪子、美里、由美子の4人がいた。
「おっ、おめでとさーん」
 美里がニコニコと手を振る。
「今年もよろしくね」
 雪子が上品に笑い返す。
「年賀状、ありがとうね」
 春樹は小動物みたいな笑顔を振りまく。癒し系だな、春樹は。
「それにしても出席率が悪いねぇ」
 由美子がフゥッとため息をついた。確かに、まだ集まっている人数は少ない。5人だから半分くらいしかいないのだ。
「まだあれじゃない? 正月ボケがみんな残ってるんだよ」
 美里はいつの間にかバチを取り出して机に粘土を広げて基礎練習を始めた。タタタン、タタタンとリズムがバランスよく刻まれる。
「まさか! もう1月6日だよ? 正月ボケも治る頃だよ〜」
 雪子がクスクスと笑う。
「いや〜でもどうだろう? 佐野なんか……」
 陽乃が言いかけた途端、ジロッと全員の目線が集中した。
「なっ、なに……?」
「陽ちゃんさぁ〜」
 美里がニヤニヤしながらバチで陽乃の顎をクイッと上げた。
「今さら佐野くんのこと苗字で呼ぶの〜?」
「へ?」
 雪子が隣でツンツンと陽乃の体を押す。
「そうだよ〜。いつまでもそんな他人行儀な」
「い、いや……その、なんていうか」
 そう言いかけて陽乃は言葉を止めた。
「私……みんなに佐野と付き合ってること、言ったっけ?」
 全員の動きが止まってしまった。
 そーっと美里が音楽室から出ようとする。
「み・さ・と・ちゃーん」
 陽乃が優しく声をかける。
「は、はーい」
「どういうことかな〜? 私、ミサトちゃんを信じて言ったんだけどなぁ?」
「いや〜あははは。やっぱさ、部活のみんなに隠し事なんてないほうがいいかなぁって個人的に思って」
「だったらなんで私に言ってくんないのよー! 恥ずかしいじゃん!」
 バタバタと音楽室中を二人は走り始めた。それを見た春樹や由美子が大笑いしている。その横で、雪子は一人複雑そうな表情を浮かべていた。
「捕まえた!」
「ふやぁ!?」
 陽乃がとうとう美里を追い詰めた。
「さぁ〜どんな罰を与えてあげようかな〜?」
「ひぃ〜お代官様、ご慈悲を〜」
 そんなふざけあいをしていると急に扉が開いた。
「みんな〜明けましておめでとさーん!」
 翔だった。そしてそのまま目線を下に移すと、美里に馬乗りになった陽乃が目に入る。
「……えと、これはどういう状況?」
 カァッと陽乃の顔が赤くなる。
 新年早々、最悪だ。

「ほなまぁ、新年早々田中と陽……朝倉の妙なシーンを目撃しましたが。先生も来てはるんでご挨拶してもらいたいと思います」
 危うく翔も陽乃とついつい言いそうになったようだ。しかし、残念なことに部員全員が陽乃と翔が付き合っていることを知っている。それを知らないのは、翔だけ。
「ほな、先生どうぞ」
 ガラガラと恭一が音楽室に入ってきた。
 壇上に上がるとコホン、と小さく咳払いをした。
「皆さん、明けましておめでとう」
「おめでとうございまーす!」
 全員が声をそろえて返した。
「いよいよ七海高校吹奏楽部も新しい年を迎えました。今年はより具体的な目標を持ってみんなに頑張ってもらいたいと俺も思っているから、一致団結して頑張ってください」
 恭一は淡々と、しかし期待を込めた口調で言った。
「はい!」
「それじゃ佐野。今年の目標、もう決まってるんだよな?」
「ハイ!」
 翔は嬉しそうに立ち上がって黒板の前まで行く。
「え?」
 陽乃も聞いていない。そもそも年が明けて会うのは今日が初めて。しかし、それまでにメールや電話もして今年の話をチラッとした。
「いつの間に?」
「初耳だわ」
 どの部員たちも一緒のようだ。
 カツ、カツと白チョークで翔は大きな字を書き始めた。

『2014年目標 新入部員20人ゲット♪』

「以上! 今年の吹奏楽部の目標です!」
 翔は満足そうに書き切って振り向きざまに言った。
「20……人?」
 絵美が唖然とする。
「えーと、今の部員数が10人だから……2倍!?」
 拓真がかなり驚いた様子を見せる。隣にいた慎也も思わず立ち上がって言った。
「ちょっと待った! まだそんな人数入れても俺たちが教えられるような立場じゃねぇよ」
「心配すんなって! 何も全員が全員、初心者やってわけじゃないやろ?」
「そ、それはそうかもしれんけど……」
「それじゃあ質問」
「はい、大谷さんどうぞ?」
「具体的にその人数を確保するための活動方針とかがあったら教えて」
「OK〜。まず、入学式に部活紹介、新歓祭。これでオレらの存在はアピールできると思うねんな」
 予定を思い出す。4月10日が部活紹介。翌日が新歓祭。
「でもな、それだけやと時間は短いわけよ」
 翔は恭一のほうを見た。
「えっとな。入学式は入退場の曲、国歌、校歌だけ。合計時間にすると15分だろう。それから部活紹介は各団体10分。紹介に曲1曲できればいいところだろう。それで新歓祭はもっと短く各団体5分」
「短っ……」
 慎也がボソッと呟いた。
「そっ! 意外と短いわけよ」
 翔はニッと笑って慎也の呟きに答えた。
「それじゃあ、オレたちはどこでもっと新入生にアピールするべきか? はい、宮部さんならどうします?」
「えっ? あたし?」
「そっ。あたし」
「えぇっと……んと」
 由美子はかなり真剣に考えたようで、最終的にひとつだけ答えを出した。
「もっと別のトコで曲、演奏するとか……?」
「おぉ〜、いいねぇそういうの!」
 翔は嬉しそうにうなずいた。
「どう? オレらだけでコンサートせぇへん?」
「俺らだけで……」
 拓真が呆然と呟く。
「そっ! オレらがオレらだけで作る、新入生のためのコンサート」
「なんかの演説みたい」
 クスッと絵美が笑った。
「おもしろそう! やってみたい!」
 そう言って手を挙げたのは他でもない、陽乃だった。
「練習、大変になるぞ? それでもいいか?」
 恭一が心配そうに全員に聞いた。
「そんなの、努力次第ッスよ」
 拓真が力強く返した。
「赤点なんか取ってる場合じゃないね」
 美里が慎也の体を突いた。
「うるせーよ」
 苦笑いしながら慎也が美里の頭をクシャクシャ撫でた。それを見て陽乃も思わず心が温まる気がした。
「ほな、全員オレらのミニコンサート開いて新入部員20人ゲットの目標に賛同してくれますか!?」
「もっちろーん!!」
 ワイワイと盛り上がる部員たちを見つめて、恭一は過去の自分たちに姿を重ねていた。


自分たちの倍の人数を確保するという吹奏楽部。目標実現のために奔走する3学期がいよいよ始まろうとしています。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう