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奏〜Kanade〜
作:にっくん♪



第78話 目標を見つけた


「えーっ!? 会場ってここ!?」
 夏樹と綾音は会場に着いてから声を上げた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
 陽乃は首を傾げる。
「聞いてないよ! 姉ちゃんっていつも肝心なこと抜けてるんだから」
 夏樹はウンザリした様子でため息をついた。綾音は不機嫌そうに翔に詰め寄る。
「ちょっとー、こんなところで演奏聴けっての? 無茶だよ、翔」
「まぁまぁ、そう言わずに。めーっちゃいい演奏聴かせたるねんから」
 翔は3人を手招きして用意されていた椅子に座った。
「いっつもそんなんばっか。まぁ、いいや」
 綾音はかなり楽観的な性格のようで、あっさり納得して翔の隣に座った。
「ほら、夏樹も行こうよ」
 陽乃に促されて夏樹も渋々座る。
「なになに……。ウインドオーケストラ『奏』クリスマスコンサート……か」
 夏樹は満遍なくプログラムを見た。
 曲目は『粉雪』、『ラスト・クリスマス』、『クリスマス・イヴ』、『はじめから今まで』、『ディズニーファンティリュージョン!』の5曲。だいたいにおいて知っている曲だった。
「ん?」
 夏樹は写真を見て気づいた。

「これってさ、翔の言ってたサックス吹きの人?」
 同時に綾音が翔に聞いた。
「あ、そうそう。オレがサックス奏者としては一番尊敬してる人。七海高校のOBやねんぞ」
「へぇ〜! スッゴいんじゃん! 翔、知り合いなの?」
 綾音はかなり興奮した様子だ。
「まぁ〜、話せば長くなるけどオレ、三田嶋さんと一緒に演奏したことあるねん」
「なにそれ!? いつ!?」
「今年の夏よ。いいやろ〜?」
「でも、見事にソロは失敗してたけどな」
 後ろからまた関西弁。
 振り向くと、修平がニヤニヤしながら立っていた。
「なんやねん、また嫌がらせに来たんか?」
 翔はプゥッと頬を膨らませた。修平は空いていた綾音の右側の席に座る。
「綾音ちゃん久しぶり〜! 俺のこと、覚えてる?」
「覚えてますよ〜! 岩切さんちゃいます?」
「……。」
「……えーと」
 翔も修平も黙り込んでしまう。それに気づいた綾音が「あれ!? なんかあたしもしかして空気読めてない!?」とアタフタし始めた。
「綾音ちゃん、そっちの男の子は佐野 修平くん。か……佐野のライバルみたいな人だよ」
 まださすがに人前で「翔」と呼ぶには抵抗があるようだ。
「ライバル? ひょっとして仲悪いとか?」
「いやいや、全然そんなことないで。演奏会、翔に呼ばれて来たんやもん」
 修平はカバンから温かそうなコロッケを取り出して食べ始めた。
「食う?」
 修平はなんと4個もコロッケを取り出した。
「すっごーい! なんでそんなに持ってはんの?」
 綾音は嬉しそうにコロッケを受け取ると、どんどん隣へと回していった。
「おいおい、お前恥ずかしいやんけ! もうちょっと遠慮するとかせぇよ」
 翔は慌てて綾音を止めようとするが「ほらほら、ボーっとしてないで陽乃さんや朝倉に渡してよ」とグイグイコロッケを押し付けた。
 コロッケを夏樹と陽乃に手渡してから翔が綾音に耳打ちした。
「おまえ、いつから朝倉のこと下の名前で呼出してん」
「さっきからに決まってるやん。アンタがさっさとフツーに『陽乃』って呼べるようにハッパかけてんの」
 ニィーっと綾音は意地悪そうに笑った。
(コイツ……)
 翔は平静を装いながらコロッケを口に運んだ。

 いよいよコンサートが始まる。樹がスタンドプレイヤーとして前に立った。照明が暗くなり、マイクの前で樹が喋りだす。
「皆様、こんばんは」
 「こんばんは〜!」と一人だけ元気よく声を出したのは陽乃だけだった。
「えっ!? 私めっちゃくちゃ恥ずかしい!?」
 その声にクスクスと周りから笑い声が聞こえる。夏樹は他人のふりをしているようだった。
「はい、どうも元気な挨拶ありがとう。今晩は雪も積もってまさにホワイト・クリスマスですね。そんな夜にふさわしい曲を何曲か用意してまいりましたので、短い時間ですがお楽しみください」
 拍手が起こってから照明がさらに落ちて、ピンスポットで樹に当たる。
 ピアノの音が鳴り始め、やがてクラリネット、フルート、チューバと伴奏が入っていく。翔たちが小学生の頃にドラマとともにブームになった『粉雪』だ。
 樹の優しい音色がメロディーを奏でる。それを聴いた瞬間、夏樹の記憶が走馬灯のように映像が流れ出した。

 今からたった2年前。
 小学校6年生の冬。あの冬は今年にも劣らないほど寒く、毎日のように関東地方では雪が降り続いた。クリスマスも大雪で、七海市でも積雪20センチを記録した。
 夏樹が生まれて初めてできた好きな人。
 彼女の誕生日は12月25日だった。
 緊張しつつ誕生日プレゼントを渡し、告白した。

 そのときの声がリアルに蘇る。

「……ありがとう」
 彼女は小さく呟いた。
「ううん」
「でも、ごめんなさい」
「え?」
 夏樹はフラれたと思った。しかし、その次に出た言葉は違った。
「私、病気で来年から秋田県に引越しするの」
「え……」
「ごめんさない。だから……嬉しいけど、付き合えない」
 不意に粉雪が強く降り始めた。

「……夏樹?」
 陽乃が心配そうに覗き込む。
「え……」
 我に返った夏樹の目からとめどなく涙が溢れ出していた。
「ど、どないしたん?」
 翔も心配そうにしている。綾音がハンカチを取り出した。
「と、とりあえずコレで涙吹きぃや」
「あ、ありがと……」
 それから落ち着いた様子を見せた夏樹に安心した様子で皆はまた演奏に耳を傾けた。
 粉雪の演奏が終わる。樹のアドリブソロで見事に曲は締めくくられた。
「ブラボー!」
 突然、夏樹が立ち上がって叫んだので全員が一斉にその方向を見た。樹も一瞬驚いた様子を見せたが「ありがとうございます!」と嬉しそうに返す。
 満足そうに座った夏樹は陽乃にひとこと言った。
「俺、あの人みたいにサックス上手くなりたい」
「……頑張るの?」
 夏樹は小さく、しかし真剣にうなずいた。
「お互いに頑張ろうね、こうなったら」
 陽乃も嬉しそうに頬を赤くしながら返した。

「それじゃ、今日はホントにありがとね」
 陽乃が家の前まで送ってくれた翔に礼を言う。綾音は修平に送ってもらっていた。
「姉ちゃん。俺、先に家入ってるね」
「あ、了解」
「それじゃ、佐野さん。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ〜!」
「今日はありがとうございました!」
 ペコッとお辞儀をしてすぐに玄関へ入っていった。
「……寒いね。遅くなったし、そろそろ佐野も帰ったほうがいいよ」
「ほら、また」
「あ……」
 ついつい苗字で呼んでしまう。慣れていないと難しい。
「ごめん」
「別に謝ることちゃうやん。オレも慣れてへんしな」
 雪がまた降り始める。寒い中話していて風邪をひいてもいけないので、そろそろお開きにしようという雰囲気だ。
「それじゃ、また来年だね」
「うん……またな」
 陽乃は静かに雪を踏みしめながら玄関へと向かう。まだ、翔がその背中を見守ってくれているのを感じながら。
 玄関のドアノブを握ったときだった。

「陽乃!」

 翔の声がしたので振り向くと同時に、唇にやわらかいモノが触れた。

 目を開けると、翔の唇が自分の唇にそっと重ねられていた。

 30秒くらいしか経っていないが、陽乃には5分近くに感じられた。

「……ゴメン。急に」
 翔はそっと唇を離して言った。
「ううん……」
 妙な沈黙が落ちるが、嫌な沈黙ではない。
「ほな、また来年」
「うん。また、ね」
 翔が小さく手を降りながら門を出た。門の外に出て、陽乃はもう一度大きい声で言った。

「またねー!」

 翔の顔は暗くてよく見えないが、嬉しそうに手を振ってくれている。

 陽乃にとって一生忘れられない年となった2013年は、こうして過ぎていった。


夏樹の新たな目標が見つかり、陽乃と翔もますます仲良くなった2013年がいま、終わろうとしています。まだまだ続く七海高校での生活。来年からも、是非彼らの活躍を見守ってやってください。











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