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奏〜Kanade〜
作:にっくん♪



第56話 合同練習


 10月26日(土)。
 七海高等学校から自転車で北へ20分ほど行ったところにある私立風見台高校の音楽室で、七海高等学校吹奏楽サークルの面々は各パートのところへ混じって自己紹介から始めていた。
「七海高等学校吹奏楽サークルの、朝倉 陽乃と申します。まだ楽器吹き始めて半年くらいしか経ってないですのでとんでもなく下手っぴですけど、皆さんにご迷惑おかけしないように頑張りたいです! よろしくお願いします」
 パチパチと大きな拍手が起こる。
 恥ずかしくなって俯きながら座ってしまった。やっぱり、自己紹介って苦手だなと思う。
「えっと、私は朝倉さんと唯一このパートで同い年の濱口 優衣と申します。私も朝倉さんと同じ期間しか楽器吹いていないので、よろしくお願いします」
 ニッコリ笑う優衣を見ていると、本当にカワイイ子だと思う。喋らなくても、カワイイオーラ24時間発信中という感じだ。
「それじゃ、まずはロングトーンから始めましょう」
 3年生のパートリーダーの指示のもと、トランペットパートのパート練習が始まった。
 同じ頃、すぐ下の部屋のサックスパートでもパート紹介が行われていた。その部屋に、修平の姿はなかった。
 翔はわかってはいたものの、気になって聞いてみた。
「あの〜……このパートにオレと苗字一緒のヤツっていませんでした?」
「あぁ、修ちゃんのことかな?」
 2年生のテナーサックスの島田(しまだ) 美穂(みほ)が反応した。
「あの子ね、ちょっと今年の間だけパーカッションに変わってもらったのよ」
 やっぱり異動は避けられなかったようだ。
「そう……ですか」
 翔はこの演奏会で一緒に演奏できるのを密かに楽しみにしていた。しかし、その願いはかなわなかった。
「そういえば、君も修ちゃんも関西弁だよね?」
「あ、はい。中学時代、同じ吹奏楽部で活動してたんで」
 それを聞いて、バリトンサックスの3年生の男子生徒、谷沢(たにざわ) 涼二(りょうじ)が近づいてくる。
「もしかして、ずっと修平が言ってたカケルくんじゃないの?」
「え?」
 翔は自分の名前が出てきたことに驚いた。
「やっぱり! 君、佐野 翔くんでしょ?」
「あぁ、はい。そうですけどなんでオレの名前を……」
「いやさぁ、修平がずっとここに入ってから翔と一緒に吹けたらな〜とか吹きたい〜とか口癖みたいに言ってたもんだから。一度会ってみたかったんだ」
「そ、そんなことアイツ言うてたんですか?」
「うん。本当に仲が良かったんだね、二人とも」
 知らなかった。
 会えばいつも文句ばっかり言っていた修平がそんなことを口にしていたなんて。
「佐野くん?」
「あ、いえ! ちょっと懐かしくなって……」
「寂しい?」
「正直。オレも楽しみにしてたんで」
「そっかぁ……ま、でも打楽器のトコ行けばアイツに会えるし。ちょっと落ち込んでるみたいだから声かけてやって」
「はい! そうします」
「うん。それじゃ、練習始めようか」
 練習が終わったら、修平に会おう。翔はリードを調節しながらそう思っていた。

 パーカッションは音楽室で練習をだいたいどこの学校でもしているということに美里は気づいた。ふつう、ベードラやチャイム、スネアなど大型楽器が多いのでこういう広いスペースがないとできないものなのだ。
「田中さん。みんなで担当のパート振り分けるから、来てくれるかな?」
 パートでさっそくできた友達――遊佐(ゆさ)みゆきに呼ばれて美里はみんなが集まっているところに駆け寄った。
「えーっと……田中さんって普段はどのパート担当してる?」
 パート長らしい背の高い男の人が聞いてきた。
「すいません。ウチ、まだまだ小さいんでドラムセットしかやったことなくって……」
「手先は器用なほう?」
 不器用ではない。細かい作業も得意だ。
「えぇ、いちおうそう思います」
「なるほど……」
 パート長の瀬野(せの) 流矢(りゅうや)はしばらく考えて思いついたように言った。
「それじゃ、田中さんはタンバリンやってもらおうかな!」
「えぇっ!?」
 これには美里も驚いた。音源を聞く限りでは、タンバリンはリズムも細かくかなり目立っている。
「ダメ?」
「あたし、まだそんな上手くないのにあんな目立つ楽器やったら緊張して失敗しそうで……とても」
「そうかぁ……」
 流矢はしばらくまた考えにふけってしまった。
「あの……」
 美里はマズいことでも言ったのかと思い、流矢に声をかけた。
「心配しないで。いつもこうだから」
 みゆきが苦笑いしながら言った。
「音楽やってる人ってたまに変わった人、いるのよ」
「そ、そうなの?」
 コクンとうなずいた後「私も変わってるけどね」と言ってクスクス笑った。美里もこれにはつられて笑ってしまう。
「よし! 決めた!」
 流矢がスッキリしたとでも言わんばかりの表情で叫んだ。
「やっぱり、田中さんはタンバリンをよろしく!」
「えぇぇぇ〜!」
 美里に今まで出一番のプレッシャーが押しかかってきた瞬間だった。

 昼休みの時間になると、七海高校のメンバーはすっかり疲れきった様子をしていた。特に金管楽器は疲れがヒドい様子。
 春樹が箸で玉子焼きをつまみながら「あんなロングトーン初めて……」とゲッソリした様子で呟いた。
「俺も……」
 隣で拓真がクリームパンを頬張りながらため息ひとつ。ユーフォニウムとチューバが一緒になったバスパートでは、午前中みっちりロングトーンだったという。16拍吹いて8拍休むというロングトーンをまだ音階もよくわかっていない二人は譜面にかじりつきながら必死に全部の音階を吹ききったという。それだけでなく、音程も何度も注意されているという。
「午前中でサヨーナラーって感じだよ」
「それを言うならあたしもサヨウナラ〜よ」
 指先を痛そうにさする美里。ずっとタンバリンの基礎練習を流矢の指導のもと、やっていたらしい。おかげで午前中だけで指先は真っ赤だ。
「私も……なんだか唇痛くて」
 陽乃が何度も水で唇をすすいでいる。
「でもさ!」
 ハンカチで唇を拭いて陽乃はお弁当箱片手に嬉しそうにみんなに言った。
「やっぱり上手い人たちの周りで吹いてると自分も頑張らなきゃ!ってなるよね!」
 陽乃のポジティヴな発言にみんながうなずく。
「午後からも頑張るかぁ!」
 拓真がグーッと伸びをして言った。
「七海高校吹奏楽、ファイトー!」
 珍しく春樹が大声を上げたので、みんなが一斉に笑い出した。

「やっぱあの子がおるとおらんとで雰囲気、ちゃうな」
 修平が騒いでいる七海高校の部員を見て笑った。
「ゴメンな、うるさくって」
「いやいや。俺らの部活にはないテンションだからああいう雰囲気を作ってくれたら結構嬉しい」
「そういってもらえると、なんか安心」
 翔はウインナーを口に頬張りながら言った。
「それとさ、あのパーカスの田中って子にもビックリさせられた」
「ミサッチのこと?」
 ミサッチという言葉を聴いて少し修平が驚いた様子を見せる。
「あだ名で呼び合ってるん?」
「うん。オレらの部活ではふつう」
「後輩とか入ってきてもそうするん?」
「あぁ〜どうやろ。でも部則とか決まってるわけでもないし、別に改まって○○先輩!とか言われるよりは親しみのある雰囲気で活動できるほうがえぇしなオレとしては」
「……そっか」
「そんで? ミサッチがどうしたん?」
 翔はおにぎりを今度は口にして聞いた。
「あぁ、うん。あの子、努力ものっすごいすんねん」
「そやなぁ。普段からマジメすぎるくらいマジメやし。オレもビックリすることあるわ」
 美里の努力っぷりは本当にすごい。翔も負けると思うほどだ。
「風見台高校にはおらへん子やと思う」
 修平はフーッと息をついた。
「お前らの高校、絶対スゴいと思う」
「……ホンマに?」
「うん。俺は絶対、七海高校のスイソーは盛り上がると思うで」
「サンキュ。お前らも、オレらなんかに負けんなよ?」
 ヘヘッ、と修平が笑った。
「ほな、午後からの合奏お互いファイトな!」
「おう!」
 翔と修平は手を合わせた。


合同練習が刺激となり、ますます気力を充実させる部員たち。曲のレベルは高いようですが、練習しだいでまだまだなんとでもなるだけの期間があるのでがんばれ、吹奏楽サークル!











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