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奏〜Kanade〜
作:にっくん♪



第29話 初めての本番前


 6月3日月曜日。
「おはよう、朝ちゃん! いよいよだね!」
 陽乃が津上橋の上を歩いていると、後ろから雪子がやってきた。
「雪子〜! いよいよだね、緊張するね!」
「ホントホント! 私たちの演奏で、教頭とかビックリさせちゃおうよ!」
「もちろん! ギャフンて言わせてやる!」
「それは死語じゃね?」
 後ろから川崎 慎也がやってきた。右手にはハーモニカが握られている。隣には水谷 春樹。10センチ近く背が違う二人だが、最近は仲がいいようだ。春樹の右手にはユーフォニウムが握られていた。
「いいでしょ別に。ねぇ〜雪子」
「そうそう。だいたい、女の子の会話に無断で入ってこないでください」
 雪子が少しツンとした表情で言い放つと、慎也も複雑そうな顔をした。
「すんませんでしたね。行こうぜ、春」
 慎也が大股で歩き出したので、春樹はユーフォニウム片手に慌ててついていった。
「何なんだろうね、あれ」
 雪子が不思議そうに首を傾げた。陽乃もわざわざあれだけの会話のために入ってきた二人の意味がわからない。
「さぁ。今日が本番で情緒不安定なのかもよ?」
 陽乃が真剣に言うので、雪子は思わず笑ってしまった。
「アハハ! 意外と繊細じゃん、背がデカいわりに」
「雪子、毒舌だからソレ何気に」
「あ、ゴメンゴメン」
 陽乃はそれ以上、今日の本番に関してのことは口にするつもりはなかったが、雪子の方から聞いてきた。
「そういえば、練習したんでしょ?」
「え?」
「ほら、昨日と一昨日。佐野くんと!」
「あぁ、その話?」
 陽乃はそんな話をする気はなかったので意外な展開に少し戸惑った。
「で、どんな感じだったの?」
「それが聞いてよ〜。CDデッキ使うために私が電池買いに行ってる間に佐野ったら知らない人に吹き方のコツなんて教えてもらっちゃって、バッチリソロが吹けるようになってるの。かわいくないでしょ〜?」
「アハハハ、何それ超怪しい〜!」
 雪子の笑い声に周りが注目しているが、二人は気にせず話を続けた。
「しかも! 日曜の練習はバテるからナシとか言い出すのよ。きっと自分が疲れたからそんなこと言い出したのよ〜」
「え? そうなの?」
 雪子が素っ頓狂な声を出したので陽乃はクスッと笑ってしまった。
「うん。ホント。前日に吹き過ぎると疲れるからって……」
「あれ……でも昨日、私は昼過ぎに学校にサックスとなんかわかんない綺麗な袋持って学校に行く佐野くんを見たけど……?」
「え?」
「あ、でも見間違いかもしんな……わぁお!?」
 次の瞬間、陽乃は雪子の肩をガッシリ握っていた。
「なんで!? ホントに佐野なの!?」
「あ、でもハッキリ確かめたわけじゃないし……わかんないよ?」
「そう……」
 それからすっかり意気消沈した陽乃はトボトボと校門の方へ歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ朝ちゃん!」
 雪子が慌てて後を追った。

「どないしたんやろ、アイツ?」
 翔はその50メートルほど後ろを本堂 拓真と一緒に歩いていた。
「さぁ……ずいぶん落ち込んでるけど」
「なんか知らんけど、叫んだり喜んだり忙しいやっちゃなぁ」
 クスッと翔は陽乃を見て笑った。
「それで、お兄さん」
 拓真がグッと首に腕を回してきた。
「わ、ちょ! なんやねん?」
「いいプレゼントは買えましたかな?」
「それに関しては黙秘」
「なんだよそれ〜? それで、あっちはいつ言うの?」
 翔は頬を赤くして小さい声で呟いた。
「今日のソロが上手くいったら」
 拓真がその言葉にニヤ〜っと笑って小さく返した。
「上手くいくといいねぇ〜」
「……うるさいなぁ、からかうな!」
 赤い顔をしながら翔が走り出した。それを必死になって拓真も追いかける。
「翔ちゃ〜ん、詳しく聞かせて〜!」
「うるさい! 寄ってくんな! つーかお前教室ちゃうやろ!?」
「そんな冷たいこと言うなよ〜!」
「キモいねん、マジで! 来るな〜!」
 二人は走りながら校門をくぐって行った。

「なんでだろ〜うなんでだろ〜う、なんでだなんでだろ〜う……」
 陽乃は本番前になってもトランペットのマウスピース右手にブツブツ呟いていた。どうやら午前中の雪子の一言が頭の中を堂々巡りしているらしい。
 その隣に、軽やかにバチで音を立てながら田中 美里がやってきた。
「どうしたの、朝ちゃん。死んでるけど? ってか、なんでだろ〜うは古すぎ」
「あぁ美里ちゃんハロー。アハハハ……」
「壊れてる……早く音出ししなきゃもうすぐ出番だよ?」
 陽乃はため息を漏らした。
「わかってる……けど、佐野の行動が読めなくて……」
 美里はバチを置いて陽乃の隣の席に座った。
「それって、永井ちゃんが言ってたこと?」
「そーなの。あれは何だったんだろう」
 美里もしばらく考えた。クスッと笑ったので陽乃が不機嫌そうに顔を上げた。
「何がおかしいのよぉ?」
「あ、ゴメン。それはそんなに気にしなくても、陽乃にプラスになって返ってくるよ!」
「はい?」
 陽乃はさっぱり意味がわからない。
「とにかく、今は練習頑張って本番クリアする! OK!?」
「……わかったわよ」
 陽乃はもう一度ため息をついて、マウスピースを手に取った。

 やがて、出番の4時半が近づいてきた。
「緊張するなぁ……」
 拓真がブルブルと震えている。翔は皆のところを回って一言ずつ何か声をかけている。
 由美子の前にやってきた。
「そんな緊張するなよ。大谷さんが抜けても、お前の音はよぉ聞こえてるから」
 由美子はコクッと小さくうなずいた。
「橋本さん。がんばろうな!」
「うん! 佐野くんもソロ、頑張ってね!」
 翔はグッと親指を力強く立てた。
「大谷さんはいつもどおり、堂々と吹いたり弾いたりしてくれたらえぇからな」
「任せて! バッチリだから」
 沙希はさすが経験者だけあって、堂々としている。
「慎也! ハーモニカよろしく!」
 慎也はサッとポケットからハーモニカを取り出した。準備万端だ。
「永井さん。対旋律ヨロシクな!」
「もちろん! 最近、対旋律ばっかり聴いててファンになっちゃった」
「ハハッ! いい傾向! がんばろ!」
「うん!」
 次に翔は緊張でガチガチになっているバスパート二人組みに声をかけた。
「……ったく、大の男二人がホンマに〜しっかりせぃ!」
 春樹の顔が真っ青になっている。極度の緊張が出ているようだ。
「だ、だ、だ、だって俺ゆーふぉお一人だし……」
 ゆーふぉおの語尾が震えている。
「緊張しすぎ。リラックス、リラックス!」
 翔は二人の肩を揉み解した。
 美里に声をかけようとしたが、何やらバチを片手に精神統一をしているようで、声はかけなかった。
 最後に、翔は陽乃に近づいた。
「朝倉」
「佐野……」
 翔はニコッと笑い、右手を差し出した。
「頑張ろうな」
「……。」
 無言で右手を差し出した。少し元気がない様子にすぐに翔も気づいたらしく、続けた。
「どないしてん? なんかあったんか?」
 聞こうかどうしようか迷ったが、陽乃は意を決して聞いた。
「日曜日、なんで一人で練習に行ったの? 休むって言ったじゃん」
「あ、えと……それは……」
 陽乃がジッと翔を凝視する。
「じ、実は……」
 翔が言い始めたところで、監査会の人が「吹奏楽サークル、入ってください」と呼んできたので中途半端になってしまった。
「ま、また後でな!」
 翔は曖昧にしたまま行ってしまった。
「……ダメだ! 気合い入れないと、失敗しちゃう!」
 陽乃は頬を軽く叩き、気合を入れなおした。
「ヨシッ! 頑張るぞ!」
 吹奏楽サークル部員10名が体育館の中へと入っていった。


さぁ! 吹奏楽サークルの初めての本番がやってきました。演奏はうまくいくのでしょうか!?











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