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どうも、新年明けましておめでとうございます。
このたび、『お年玉』ということで短編を書いてみました。
・・・ただ、何だかありがちっぽい話になってしまいました。申し訳ありません。
ですが、これを読んで少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今年も何卒よろしくお願いします。



怪しいあいつ
作:セツナ


「あのね! 私ね! 将来お父さんのお嫁さんになるの!」

「ははは。お父さんにはお母さんがいるじゃないか」

「うん! だからね! 私お母さんにもなって、お父さんのお嫁さんにもなるの!」

「? まぁ、夢がたくさんあるのはいいことだ。叶えるために頑張るんだぞ」

「うん!」



+++++



ことの始まりといえば、まぁその・・・ベタなものだった。目が覚めて、目覚まし時計を見たら時間がぎりぎりで、朝食を食べてる時間ももったいないから食パンを銜えながら学校に向かって走っていたときのこと。

「のぉお!!!」

「きゃ・・・」

曲がり角で・・・女の子とぶつかってしまった。その女の子がどれだけ華奢で、軽かったのかは、ぶつかってみてよくわかった。2人一緒に激突したはずなのに、突き飛ばされたのは女の子のほうだったから。

「いたた・・・」

パッと見、ここら辺で見かける顔ではなかった。・・・だって、こんな可愛い娘、見たことなかったから。この辺にいたら、絶対覚えているはずだから。
肩まで伸ばした長く、さらさらとした髪の毛。整った綺麗な顔。風に吹かれて、女の子の匂いが俺の鼻をくすぐった。

「ご、ごめん。大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫・・・あ!!」

「な、何だ?」

「やっと見つけた!」

・・・・は? 見つけたって・・・え?

「え、と。ごめん、何のことだかさっぱりわからないんだけど・・・」

「あ、そうだよね。ごめんごめん」

えへへ、と笑って、その女の子は立ち上がった。おしりでスカートを2,3回はたいてほこりを落とすと、俺のほうに手を差し出してきた。迷わずその手を借りて立ち上がる。

「・・・あんた、俺のこと知ってたみたいだけど・・・」

「うん、そうだよ。知ってるよ」

笑顔で言ってくるその女の子は、今まで見たどんな女の子よりも可愛らしく見えた。思わず、顔が赤くなってきてしまう。こんなのも初めてだ。女の子を見て、顔を赤くするなんて。

「お、俺はあんたのこと知らないんだけど、何であんたは知ってるんだ?」

・・・ちょっとどもってしまった。でも、女の子は気にせず言ってきた。

「えへへ、秘密。いいじゃない、そんなこと。ほら、学校行こ! 遅刻しちゃうよ!」

言われて時計を見てみる。・・・・・げ!! やべぇ!! もうすぐチャイム鳴るじゃんか!! そういえば、今日は寝坊したんだった!! 呑気に道端で話してる場合じゃなかったよ!!
ぶつかったときに落ちた鞄を引ったくり、間髪入れず全力疾走した。間に合うか? いや、間に合わせてみせる!!

「ん?」

と、何だか後ろのほうからパタパタという足音が聞こえてくる。一瞬だけ振り返って見る。・・・さっきの女の子だった。

「なぁ!!」

「なぁに!!」

走っているので、お互い少し大きめな声でないとわからない。だから、自然と声が大きくなってしまった。

「何であんたまでついて来るんだ?!」

「だって!! アタシも行くとこ同じだから!!」

「学校か?!」

「うん!!」

・・・学校が行き先? でも、俺の学校にはいないはずだよな。だって、いたら覚えてるし、校内でも噂になってるはずだ。つまり、この女の子は俺の学校の生徒ではない。それなのに、学校に用がある。ん〜・・・わからない。何の用があるんだろうか?
まぁいい。それより、今は走らないといけない。もうじきチャイムが鳴ってしまう。そうなったら、俺の欠席0の輝かしい記録に傷がついてしまう。それだけは避けねば・・・。

「ぬぅおおおおおおおお!!!」

「わ、速くなった!」

女の子が驚いている中、俺はただひたすら走り続けたのだった。



++++++



「よぉ。今日はぎりぎりだったじゃんよ」

「まぁな・・・。おかげでくたくただよ・・・」

走りに走って走りまくった結果、俺は遅刻せず学校に着くことができた。
あとをついてきた女の子は、気がついたらいなくなっていた。それが気がかりだが・・・・・まぁいい。どうせ、俺に関係ないし。
そのとき、ガラッと教室の戸が開いたかと思うと、先生が1人の女の子を連れて入ってきた。・・・ん? あの女の子・・・・・朝の女の子じゃないか。何でこんなところに?

「ほら、座れ座れ。チャイム鳴ってんだぞ」

先生の一声で、立っていた生徒は全員自分の席に着いた。でも、話し声は止まない。先生の連れてきた女の子のことが気になるのだろう、話し声はどんどん大きくなっていった。
先生は諦めたのか、はぁ、とため息をついて話しを始めた。

「まぁ、たぶんお前らの想像通りだ。この子は今日からここで勉強することになった。それじゃ、自己紹介頼む」

先生に促されると、女の子は一歩前に出て、俺と出会ったときのようににっこりと笑って自己紹介をした。

「これから一緒に勉強させてもらう、『藤森 巴』です。よろしくお願いしますね」

自己紹介と同時に起こる、歓声。




「「「「うぉぉおおおおおおお!!!!」」」」




・・・・・確かに可愛いけど、そこまで騒ぐほどのものか? クラスの女子だって、そんな男子を見て引いてるじゃないか。まぁ、別ににぎやかでいいか。こんなこと、滅多にないし。

「あ〜、うるせぇうるせぇ。他の教室に迷惑だろ。んと、それじゃ藤森の席はと・・・」

ふっふっふっふっふ。ベタな漫画家や小説なんかでは、ここで俺の隣に来るっていう展開になるが、そうはいかないぜ。生憎だが、俺の隣にはもう空きがないんだよ。いや、隣どころか後ろも前も開いていない。これで俺の隣に来ることは不可能!! ふふふ、さぁどうする先生?

「ん〜、空いてねぇな。仕方ない。いい機会だし、席替えでもするか」


せ、せんせぇえええええええええええええええ!!!!!


俺の心の叫びとは裏腹に、クラスの男子は歓喜の声が・・・。そりゃそうだよな。うまくいけば、とびっきり可愛い女の子の隣だ。嬉しくないわけがない。
席替えはもうずいぶん前にやったから、ちょうどよかったのだろう。クラスの女子達も文句を言うやつはいなかった。・・・・・結局、文句があるの俺だけかよ。
クラス替えという意見が通ったすぐあと、先生とクラス委員がクジ作りを始めた。余ったプリントをハサミで小さく切り、文字の書いていない裏側に番号を書く。
人数分出来たら、先生が黒板に机の位置を写し、番号を書く。クジをひいて、書いてあった番号と黒板を照らし合わせて決定する、という形だ。

「よぉし、始めるぞ。最初誰がやる?」

「じゃ、俺やります!!!」

さっきはしゃいでいた男子の中の1人が勢い良く手を挙げ、教卓に向かう。先生とクラス委員の作ったクジを引き、黒板と番号を照らし合わせる。
そんな感じで、どんどん席が決まっていった。前と後ろ、両隣が埋められ、落ち込む男子。空いている隣に全てを賭ける男子。頼む、頼むから、と両手を合わせる男子。・・・って、何で俺男子の中継やってんだ?
手を上げた男子全てがクジを引き終わって、ようやく俺の番がきた。手早く済ませようと、そっけなくクジを取る。折りたたまれたクジを開いて番号を確認する。

「・・・・お」

俺の席は・・・窓際一番後ろのベストポジション。先生の目も届きにくく、授業中ゆっくり寝ていられてるという最高の座席だ。
・・・ただ、気になるのは右の空席だ。これから女子達がクジをひくわけなのだが、もしかしたら転校生が隣にくる可能性も否定できない。
でもまぁ、そんな確立はほとんどない。うちのクラスは25人いるから、あいつが隣に来る確立は25分の1となる。確立は低い、たぶんこない。
女子達がクジを引き始める。1人、また1人とクジを引いていく。だが、10人引いたのに、俺の隣のクジがひかれない。そしてまた引いていき・・・・・20人目も引かない。何だ、・・・・・とっても嫌な予感がする。
問題である転校生を見てみる。転校生は一番後ろで自分の番を、まだかまだかと待っていた。あ、こっち振り向いた。・・・・・にっこり笑って手ぇ振ってきやがった。
そして、1人、また1人クジを引いていっても、俺の隣のクジは引かれない。そのまま最後の転校生まで順番が回り・・・・・。

「いぇい♪」

あ〜あ・・・・・。ベタな展開になってしまった・・・。やはり、ベタという名の運命からは逃れられないのか・・・。
一応黒板とクジを照らし合わせて確認し、転校生はぴょんぴょん跳ねるようにして俺の隣の席に着いた。周りの男子からは、いいなぁ〜、という声が上がった。

「よし、席決まったな。そんじゃ、今ちょっと書き写すからしばらくお喋りでもしてろ」

・・・さっきあんたうるさくするな、って言いませんでしたか?
まぁいいか。次の時間の準備でもしてるか。えと、次の時間は・・・っげ、物理かよ。めんどくせぇな。

「ねぇねぇ」

「あん?」

転校生が話しかけてきた。・・・他の男子達の視線が痛い。俺は何もしてないのに・・・。

「これからよろしくね」

「・・・あぁ。よろしく」

とりあえず、挨拶はしておいた。






長い授業がやっと終わり、鞄を持って帰ろうとする。だが、

「ねぇねぇ」

「あん?」

転校生が話しかけてきた。・・・いや、もうそろそろこの呼び方は止めにしよう。こいつの名前は・・・巴だ。よし、今度からこいつは巴と呼ぼう。
巴は帰りの支度を終え、自分の鞄を持っていた。・・・もう帰るところらしかった。

「一緒に帰ろうよ」

「一緒に? 何で」

「いいじゃん。別に帰るの一緒だって」

・・・断ってはいるが、別に嫌なわけじゃない。可愛いし、むしろ一緒に帰りたいくらいだ。ただ、一緒に帰る理由がない。それだけだ。
・・・・・理由がない? そうだ、俺には一緒に帰る理由がない。じゃあ、この転校生は、一緒に帰る理由があるのか? 朝出会ったばかりの俺に?
・・・・・考えるのは止めよう。まぁいいじゃないか。別に一緒に帰るくらい、減るもんじゃない。

「あぁ、いいぜ」

「うん、それじゃ行こ、聡」

そう言って、巴は教室を出て行った。俺も慌ててあとを追う。
・・・あれ? ちょっと待て。今、おかしいとこがなかったか? ・・・あった。あいつ、今なんて言った? 



『うん、それじゃ行こ、聡』



藤森 聡・・・・・俺の名前だ。俺はあいつに自己紹介どころか名前すら教えていない。それなのに、なぜあいつは俺の名前を知っているんだ? 
他のクラスメイトに聞いたというのはない。だって、今日丸一日こいつは俺の隣の席にいた。昼飯だってここで食っていたし、トイレにも立たなかった。・・・おかしいだろ。わかるわけないのに、なぜこいつは知っている?

「どうしたの? 早くしてよ」

戸からにゅっと顔を出して、巴が俺に言った。
・・・帰りに聞いてみるか。巴、本人に。

「・・・・・今行く」

巴の後を追い、聡は教室をあとにした。男子からの視線が痛いが、今はそれどころではない。巴はもう階段を降り始めている。俺は少し早足で後を追った。
玄関には、これから下校する生徒達であふれかえっていた。当然だ、部活のないものは授業の終わった学校になど用はない。さっさと帰るのが普通だ。
巴はといえば、もう靴を履いて俺を待っていた。にこにこしながら、俺が来るのを今か今かと待っている。・・・こいつ、今はにこにこしてるが、実際何を考えているかわからない。気を許しちゃいけない。
俺は用心しながら、待っている巴のところまで歩いていった。巴は俺が来ると、その笑顔をいっそうキラキラとさせて俺の手を取った。周りの男子から、「おおぉぉぉぉぉ」という声が上がった。

「よし、それじゃ行こっか」

「お、おい。引っ張るなっての」

俺は巴に手を引っ張られ、俺たちはそのまま学校を後にした。






「なぁ」

「なぁに?」

「お前、何で俺の名前・・・知ってるんだ?」

俺は立ち止まって、真剣な声で巴に聞いた。巴も立ち止まって、俺のほうを振り向く。
巴は何も答えず、ただ俺の顔をじっと見ているだけで、何も話そうとはしなかった。俺は疑問に思っていたことを次々と巴に聞いた。

「それに、お前、最初俺を見たとき、やっと見つけたって言ったよな? あれはどういうことだ? それに、この時期高校に転校してくるなんておかしいだろ。それから・・・」

「ストップ」

そこで、巴が話を区切った。それから、にっこりと笑って言った。

「あとで全部わかるよ。それより、早く帰ろ。ちょっと暗くなってきたよ」

「お、おい。待てよ」

俺の質問には答えず、巴はどんどん先へと行ってしまった。・・・ったく、あいつは。人の質問くらい答えろっての。
走って巴の隣まで追いつくと、巴は俺を見てにっこりと笑った。・・・・・不覚にも、可愛いと思ってしまった。
その後、俺は巴に詮索はせず、今日学校であったことばかりを話しながら帰路についた。詮索をしないといっても、巴の疑いが晴れたわけではない。こいつが一体何者なのか、まだわかっていないのだから。
しばらく歩き、やがて俺の住む狭いおんぼろアパートに着いた。築50年の年季の入ったアパートで、家賃は格安。学生に優しいアパートだ。
俺はここに1人で暮らしている。俺を心配する両親は最後まで反対したが、何とか説き伏せ念願の1人暮らしを手に入れた。だが、バイトと学校生活の両立ははっきり言ってしんどい。社会人になれば、もっときついのだろうか? と思うと、気が重くなる日もないわけではない。

「へぇ〜、ぼろいね」

「・・・はっきり言うなよ。悲しくなるだろ」

気にしていることを、ずばりと巴に言われてしまった。・・・まぁ、安い分ぼろいからな。仕方ないと割り切るしかない。

「それじゃ、俺ここだから。じゃぁな」

そう言って、自分の部屋に行こうとしたそのときだった。

「ねぇねぇ」


「なんだよ」

「アタシ、今日からここに住ませてもらっていい?」

・・・だめに決まってんだろだめに。
何考えてるんだこいつは・・・。自分の性別と俺の性別わかってんのか? 俺が男で、お前が女。オーケー? 自分の貞操が危ないかもしれないってことわかってないのかコイツは・・・。
いや、貞操がどうのこうのって問題じゃない。なんというか・・・・・もう色々駄目だ。問題が多すぎる。駄目だ駄目。

「あ、その顔。だめだって顔じゃん」

「当たり前だろ。ってか、お前自分の家に帰れよ。親が心配してるぞ」

「・・・家は、ないよ。両親も、今はずっとずっと遠いところにいるの」

先ほどまでの元気はどこへ行ったのか、巴は寂しく笑いながら言った。・・・なんだ? 冗談なのか? いや、違う。これは冗談を言っている顔じゃない。こんな悲しそうな顔をして、冗談なんて言えるわけがない。
何か、家庭の事情があるのだろうか? 両親から虐待されたとか、夜逃げしたときにはぐれてしまったとか、そんな事情で親と家を失ってしまったのかもしれない。
・・・だが、ここで俺が家に住ませても、根本的には何も解決しない。家族が帰ってくるわけでもなければ、自分の家が戻ってくるわけでもない。一時の居場所を作るだけだ。
だが・・・一時でも、帰ってこれる家を作ってやってもいいのではないか? それぐらい別に・・・いいんじゃないか?

「・・・・・っは!!」

巴の悲しい顔を見ているうちに、何だかそういう方向に考えが進んでいってしまった。いかんいかん、だめだめ、危ないとこだった。これでうっかり、いいぞ、なんて言った日にはとんでもないことになる。
とりあえず、何か理由をつけて帰ってもらわないと・・・。どんな理由がいいだろうか? ん〜・・・まぁ、適当に思いついたことでも言えばいいか。

「お前、可愛いんだから自分の貞操とか、そういうこと自覚しろ」

言ってからしまったと思った。俺が『可愛い』という単語を口にした途端、巴がにたり、と笑った。・・・これは、絶対変な方向に行く。間違いなく。

「じゃあいいじゃん。その可愛い女の子と一緒に暮らせるんだよ?」

くそ、ここはもう意地だ。意地で貫き通してやる。

「あぁ、そうだ。お前は可愛い。だから襲っちまいそうだ。それでもいいのか?」

「うん、いいよ」

・・・・・こいつ絶対馬鹿だろ。本当に何考えてるんだ? わかってんのか? わかってないだろ。わかってたら、いいよ、何て言えるわけない。
あぁ〜もう。どうすりゃいい? どうすりゃコイツが帰ってくれる? 誰か俺に教えてくれ。
俺が心底嫌な顔をしたときだった、巴がいきなり目に涙を溜めて・・・・・泣き始めた?!

「・・・・・だめなの?」

う!! これは、これは反則だろ?! こんな可愛い女の子が涙目で訴えてくるんだぜ?! これじゃ・・・・・断れないじゃないかよ!!
いや、でも、ここは引いちゃいけないところだ。だめだめ、女の子涙になんか俺は騙されないぞ。

「いや、でもな? この部屋―――」

「だめ・・・なんだ・・・ひっく・・・」

うぅぁあああああああああああ!!! だめだ!! 本当に泣き出しやがった!! やべぇって、どうするよ?! どうすればいいんだよ?!
いっそ放っておくか?! いや、だめだ! たぶん、こいつなら永遠と泣き続けるぞ! それは非常に困る!! 俺の世間体と良心が!!!
いや、でも、ここでうっかり了承してしまうと後で困るのは俺だぞ? こんな狭い部屋に2人で、しかも男女で生活しなくちゃならないんだぞ? 生活費も食費も色々かかるじゃないか!
いや、でも・・・う〜・・・・・。

「ひっく・・・うぅぅ・・・(ちら)」

「・・・・う」

あぁ、そんな涙目でこっち見るなよ・・・。俺の良心に傷がぁ・・・・・。
あ〜あ〜もう!! わかったわかったわかりましたよ!!!

「・・・わかったよ。上がれよ」

「やったね☆」

「あ! てめぇ! 嘘泣きかよ!」

「さ、入れてくれるんだよね? 行こ行こ」

・・・はぁ〜・・・騙された。すんげぇ騙されたよ、俺。まさかあれが嘘泣きだったとはなぁ・・・全然わからなかった。
まぁ・・・騙された俺も俺だ。一度言ってしまったものを引っ込めるのは気が引ける。

「はぁ・・・なんでこんなことに・・・」

ため息をつきながら、俺は自分の部屋のドアの鍵穴に鍵を差し込んでドアを開けた。

「おじゃましま〜す」

「こらこら、俺より先に入るんじゃねぇよ」

「うわ・・・確かにこれはちょっと狭いね」

・・・だから嫌なんだっての。狭い部屋がただでさえ狭くなるんだぞ? 窮屈だろ。

「でもま、気に入っちゃった。今日からよろしくね。あぁ、そうそう。アタシもバイト始めるから、2人で頑張っていこうね」

俺も、覚悟を決めるか。いつまでぐちぐち言ってても始まらないし。

「あぁ、よろしくな」

こうして、俺は奇妙で怪しい転校生と同居生活を始めたのだった。



+++++



それから、俺たちはずっと同じ部屋で暮らしていった。狭い部屋だったので、時々巴の着替えているところに運悪く出くわしてしまうというハプニングもあった。そのときは、巴がなぜか嬉しそうに「きゃ〜♪」と言いながら体を服で隠す。(後に、この行為がわざとだと知る)

一緒に暮らしていると不思議なことに、俺たちの仲はどんどん仲良くなっていった。俺の気持ちも、怪しい同居人から可愛い女の子、大切な人と、変わっていった。
ある日、俺は思い切って巴に告白をしてみた。生まれて初めての告白だったから、気の効いたことも言えず、「俺、お前のことが好きだ」の一言しか言えなかった。
告白をしたあと、巴は俺の胸に飛び込んできて、「嬉しい、ありがと」と一言だけ言った。俺は胸にいる巴をぎゅっと抱きしめてやった。

冬が過ぎて春になり、俺たちは高校を卒業した。俺は成績があまりよくなかったから、当然進学なんてできない。大人しく、地元で働くことにした。
働くことにした、と言っても、職に就くまでが大変だった。学校に届けられる求人届けを隅から隅まで目を通し、自分が満たしている条件の書いてある1枚の求人届けをやっと見つけ出した。
面接だって緊張した。俺は面接の経験なんて、高校受験の1回きりだったからとても緊張した。その苦労あってか、俺は無事に入社することができた。
巴は頭がよかったが進学はしないらしく、アパートの近くでパートでもやる、ということで話はまとまった。

それから俺たちは働いた。最初は慣れず、かなりの負担になっていたが、それも徐々に慣れていき、今ではずいぶん楽になった。月一でもらえる給料は決して多くなかったが、それでも金がもらえることは嬉しかった。

二十歳を迎えたと同時に、巴が妊娠した。言うまでもなく俺の子供だった。それを知ったときは、とりあえず驚いた。自分が親になるなんて自覚なかったから、驚かずにはいられなかった。

巴も妊娠したことがわかるとパートを止めて、家で大人しくするようになった。正直、意外だった。巴が家でじっとしているなんて、考えられないからだ。あんな活発なやつが家で大人しくできるとは思えなかった。
案の定、巴は部屋の中をうろうろと歩き回っていた。巴曰く、大人しくしていられないの、とのことだった。

巴の腹は、どんどん大きくなっていった。大きくなるにつれ、俺の仕事に熱心になっていった。これから生まれてくる子供のために頑張らないと。その思いが、仕事の疲労を忘れさせてくれた。

妊娠してから10ヶ月ちょっと経った頃のことだった。仕事場に、電話がかかってきた。電話の相手は、巴だった。


「すぐ帰ってきて、生まれる・・・」


それを聞いた瞬間、俺は仕事着のまま会社を飛び出していた。それからなりふり構わず家に向かって走った。
会社と自宅の距離はそう遠くない。だから、全力で走れば20分くらいで家に着く。俺が家に着いたのも、会社を出て20分くらい経った頃だった。
家の戸を開けて、もつれるようにして入った部屋で見たのは、布団の上で生まれたての赤ん坊を抱いている巴だった。赤ん坊はもう産湯につけたのか、タオルでくるまれている。

「あ、おかえり」

「はぁ、はぁ、お前、もう・・・?」

「うん。近所に人に助けてもらっちゃった。もう大丈夫だよ」

「はぁ、はぁ、はぁぁぁ〜〜〜・・・」

ため息と共に、全身の力が抜けていくのを感じた。巴は、そんな俺をみて笑っている。・・・・まぁ、いいか。赤ん坊が無事に生まれたから。

「そういえば、性別は?」

「女の子だよ。だって、ないもん」

「・・・・・女の子か。名前はどうする?」

「名前はね、『巴』にしたいと思うの」

「巴? それはお前の名前じゃないか」

巴は笑いながら俺に言った。

「だって・・・・・この名前じゃないと、お話が繋がらなくなっちゃうもの」

「え? お話?」

「うん、そうなの。『お父さん』」

「『お父さん』? あぁ、そういえば俺はもう父親なんだな。それじゃ巴は、お母さんか。はは、何だか一気に年を取った気分だな」

子供が産まれたことが嬉しくてはしゃぐ俺を見て笑う巴。その光景は、ごくありふれた、でもとても幸せな光景だった。これから予想される、大変なことや厳しいこと。それから嬉しいことや楽しいこと。家族一緒で過ごせる無限の未来を、俺と巴は今から楽しみにしていた。


・・・・・これは余談だが、巴の強い希望で、産まれた子供の名前は母親と同じ『巴』となった。
その巴が18歳のとき、奇跡的にタイムマシンを発明し、そのタイムマシンに乗って時空を飛び越え、父親が18歳の時代に行き、そこで巴が聡と結ばれるということを、

「ははは、父親かぁ〜。ははは」

呑気に笑うこの男はまだ知らない。














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