第8話 無実、現実
───あれから一日、何とか逃げきった後森についた俺はそこで一夜を過ごした。
光が俺を照らし出し、眩い光が大量に俺の瞳に差し込んでくる。
俺は寝ていた体を起こして目蓋を擦る、あぁ、だるい。
鳥達は羽ばたき、森林の呼吸、光り輝く太陽、まさに朝だな!
こんな天気が良い朝に起きたのだ、ラジオ体操でもしたいもんだ。
俺はまず左目の部分を覆う包帯を湖の水で洗いに行く。
「ふぉあっ!?」
湖の水は冷たく、包帯を巻いたとたんについその冷たさに驚いて変な声が出てしまったが、気にしない。
俺は大きななあくびを数回した後、まだ寝ているミシェルを起こさずに木の実探しに向かった。
あんな気持ちよさそうな寝顔してたら起こせるわけないしな。
昨日は俺だけ探し出せなかったからなぁ、今日ぐらいは俺が探しだしてやるぜ!
さて、一人でテンションを上げた事だし美味い物探すぞ。
とりあえず昨日探した所とは別の場所の森に入っていく。
それにしても空気が美味しい。本当に自然というもの素晴らしい。
しかし、人間の『科学』が発展していくと同時に『自然』が失われていく。
人間が快適な生活を送る為には自然は犠牲にならないといけないからな、しかし自然が無くなると言う事は
人間が死ぬと言う事をわかっていない、地球に張り付く寄生虫、それはまさに人間じゃないか。
ん〜ますます腹が減ってきた。頭を使うのは止めよう。
いつものように一人で何かを考えながら森の奥に進んでいくと赤く小さな実が沢山なっている小さな木を発見した。
発見したのは良いとして、果たしてこの実は食べれるのだろうか、昨日は適当に食べて毒らしき実は無かったが……。
とりあえず見た目は綺麗な実、多分食べれそうだ。
とは言うものの、やはり毒だったら怖い。
俺は恐る恐る木の実は取り、一個口の中に入れてみた。
口に入れた途端、甘い果実の汁が出てきって、うおおおおお!!?
「苦っげぇえええええ!」
っは!良く見るとこの果実が生っている木の下には動物が白骨化した形跡が。
てか辺りに骨が散らばってやがる。
あ、危ねぇ。気を失う程の苦さだったな、これは。
昨日はよくこんな物を見つけなかった、あの子が探し出した木の実はどれも美味しかったし。
あの子、そういえば名前を決めようと思って俺が言ってみたけど寝てたっけ。
ミシェルって名前、変かな。他の名前にでもしてみようかな。
そんな事を小さな木の前で考え込んでいた時、何者かが俺に近づいて来るのを感じた。
足音が段々と近づいてくる、俺はその場から少し離れた茂みに隠れて身を潜め、誰なのか様子を見てみる。
するとあの苦い木の実があった小さな木の前に少年が現れる。
歳は13、14程だろうか。腰には剣を指しており、頭にはローブを被っている。
いつの時代の人間だおい。
明らかにこの世界の人間じゃなさそうなんだが、俺の前にいるその少年はあの俺が食べた赤い木の実を次々に取っていく。
おいおい、まさかそれを食べる気か?しかもあんなに持っていって……死ぬ気かッ!?
だがその前にあの少年は何者だ、何故こんな街外れのこんな森にいるんだ、しかもあの格好は……。
少年が木の実を抱えて立ち去っていく、俺はその少年にばれないように後をついていく事にした。
少年の後を付いていくと、大きな洞窟の中に少年が入っていく。
俺もその大きな洞窟の中に入り、少年の後を追う。
俺は隠れそうな岩場に身を潜める、少年が立ち止まり、何か話しているのからだ。
誰に話しかけているのか気になる所だが、俺の角度からはその話し相手が見えない。
「大丈夫、じっとして。痛くても我慢してね」
少年は持ってきた赤い木の実を布に入れ、すり潰していく。
なるほど、あの赤い木の実は食べ物じゃなくて消毒効果を持つものだったのか。
お、俺はそんな物を朝っぱらから食ったのかよ、腹大丈夫かな……。
自分の腹に手を当てて心配そうな顔をしていたその時、けたたましい声が洞窟の内に響きわたる。
何かが咆哮した、狼?違う、虎?違う、人間?絶対に違う。
とり合えず関わるのは止めよう。もう何かに巻き込まれるのはごめんだ。
俺はそう想い一歩後ずさりしたが、この一歩がまずかった。
パキッ───。
運悪く後ろに置いてあった、木の枝を折ってしまった、俺ほど運が悪い男はそういないだろう。
その木の枝が折れた音は洞窟内に響き渡った。
「誰かそこにいるのか!?」
誰が答えるかばーか!俺は全速力でいちもくさんに洞窟から出て行く。
俺は長距離走は苦手だが短距離走なら誰にも負けん。追いついてこられるなら追いついて来いっての。
とか心の中で思ってたら本当に追いかけてきやがった、明らかに俺の後ろを誰かが走ってくる。
走り続けると森を抜けてしまう、そこには大きな湖が広がっていた。元の場所に戻ってきたのだ。
やばい、逃げれないし隠れられない。
「こうなれば!」
俺は走っていた足を急に止め、後ろに振り向いた。
「待て!俺は怪しい者じゃない!」
尾行、脱走をしている時点で怪しいけど、だが俺は怪しい人じゃない。
少年も足を止め、俺の顔を見つめる。
「NFの兵士、まさかここまで来ていたなんて」
「NFの兵士?何処にいるんだ?」
「お前だよ!」
あ、そうだった。俺は牢屋の中にNFの軍服を着ていたまま過ごしていたんだ。
パイロットスーツも着ずにギフツに乗り込んで逃げたんだった。
「見られたのなら仕方が無い、死んでもらう!」
この少年、俺と戦う気か?その腰に付けてある小さな剣でこの俺と?
笑わせるな、貴様のようなガキが俺を倒せると思うなよ。
いくら魔法は無くともお前のようなガキに負ける俺様ではない。
すると少年は上着に隠していた拳銃を構えて俺に銃口を向けてきた。
……おい待て、その腰についてある剣はフェイクか?ただの飾り物か?
「ちょ、ちょいと待て!俺はNFの兵士……というかNFでもない!」
「その軍服を着ておいてNFの兵士じゃないなんて、僕を騙せると思ってるのか!」
ごもっとも、その通り。だが俺は本当にNFの兵士じゃない。
一応説得をしてみるしかないな。
「待てって、じゃあ仮に俺がNFの兵士だとしよう。
NFの兵士がこんな森の中、一人で、武器も持たず、機体にも乗らず、しかも負傷している。
明らかにおかしいとおもうだろ?」
よし、これは効いたな。後は俺がNFの兵士でない事を熱く語れば……。
「僕とマルスを追っている途中に機体を破壊されて、この森に来たんだろ!」
このガキぃ、意外と頭良いじゃねえか。
マルスというのは多分この少年の友達か何かだろう、それにしても何故この少年達はNFに追われているんだ?
それに機体を破壊されって、一体。いや待て、もしかすると。
「待て、俺はBNの兵士だ。NFの基地に潜入していたんだが。逃げる途中に機体を破壊されてこの森にたどり着いたんだよ!」
NFと敵対しているというのであれば、BNの兵士であれば、もしかすれば!
「兵士……やはり兵士かっ!NFもBNも関係無い!」
あれ、あれれ?何かもっと悪くなったような。だが俺はここで撃たれて死ぬ気はない。
少年が俺に銃口を向け、引き金を引こうとした時、一喝入れてみた。
「剣士たるもの銃など使わず剣で来い!」
その言葉に引き金を引こうとした指の動きが止まった。
って、止まるって事はこいつは剣士なのか?何故こんな時代の世界に剣士がいるんだ。
まぁこれで隙が出来たな……。
その瞬間、俺は右手に黒剣を呼び出し少年の持つ銃を切り落とした。
そして後ろに倒れる少年の首に刃先を突きつける。
「卑怯だぞ!それに何処からそんな剣を!」
「黙って俺の話を聞け、お前この世界の人間じゃないな」
「ど、どうしてそれを!?」
ビンゴのようだ、ようやく数少ない仲間に出会えた。
「俺もこの世界の人間じゃないからだ」
「ほ、本当に?!」
やはりこの少年は他の世界の者か。
俺がこの世界に存在する以上他の世界の者がここにいても不思議ではない。
俺はさらに詳しい話を聞こうとした時、さっきまで日光が俺たちに降り注いでいたというのに突然日陰に……。
「マルス!?」
少年が空目掛けてその名前を言った、俺も少年が見ている方向を見上げ、そしてその光景に俺は唖然とした。
「っな、嘘だろ?」
俺達を覆い隠す程の巨大な体、鷹のような眼で俺を睨み、空を飛んでいる。
上空から俺を見下ろす、その生き物は……。
「龍……?」
ああ、それは一言で言える。
だが今この状況、そしてこの現状を俺は一言では言えない。
龍なんて架空の生き物は見た事が無かった、俺は幻想を見ているのか?
上空を飛んでいる龍は大きな口を開き、その口から火炎が吹かれる。
俺はどうする事も出来なかった、俺に力など無い。訳のわからないまま炎に包まれた。
大体何々だよ、いきなり龍とか、そんなのあり…かよ……。
炎に包まれた俺は、全身を炙られる程の激痛が走り、息苦しさを感じる。
体は無意識に水を求め、意識が朦朧とする中、俺は迷わず湖に身を投げた。
目の前に広がる光景など何も無い、薄暗い視界しか広がらない。
───「マルス!何て事をするんだ!!」
甲斐斗を追っていた少年は湖の中を覗き込む、だが甲斐斗の姿は見当たらない。
少年の隣にはマルスと言う名の龍が一緒に湖に目を向けている。
大きな口に長い首、ヒゲも生えており何処からどう見てもドラゴンだった。
「彼は僕と同じ他の世界の者だったんだよ!それなのに!」
その時である、先ほどの炎が森に燃え移り、次々に木が燃えて行く。
火の移りは早く、次々に周りの草花を灰にしていくが。
少年はそれに構う事なく、龍の背中に乗ると何処かへ飛び去っていった。
龍が飛び去ると同時に、何か不気味な生き物が次から次へと湖に周辺に集まってきた。
そう、それはERRORだった、奇怪な動きをしながら火災の起こっている場所にERRORが集う。
そのERRORの姿はPerson態、甲斐斗達を襲ったあの化け物だ。
Person態は長く酸の垂れる舌を使い、燃えている草花を溶かし。
燃え盛る木々を強靭な頤で噛み砕きながら食べていく。
それはあっという間の出来事だった、さっきまで燃えていた木はもうなく、草むらの火も消えていた。
火が消えると湖周辺に集まったPerson態が次々に森の奥へと消えていく。
しかし、一匹のPerson態があるものを見つけた。湖の側にある花畑、そしてその横で寝ている少女の姿を。
少女は何も知らずに、暖かい日差しを受けながら心地よく眠っている。
そして奴等は少女を起こさないように物音を立てず、少しずつ近づいていく。
Person態はその手で少女の体を掴もうとした。
───「化け物が、汚い手で触んじゃねえよ」
黒い斬光がPerson態の手首に走った時、その手は吹き飛ばされた。
吹き飛んだ手は湖の中に落ち、沈んでいく。
「ったく、寝ている少女にイタズラすんなっての……」
次に黒い斬光が見えた時、既にPerson態の首は宙を舞っていた。
俺は生きている、高橋甲斐斗はまだ生きている。
ERRORの仲間が近寄ってくる前に、この子を抱いて何処か安全な場所に移動しなければならない。
それにしてもこの子は、こんな危険な時だというのにすやすや寝ている。
俺は焼き焦げた両腕で少女を抱き、森深くに身を潜めた。
───「んっ……」
少女は目を覚ました、何か不思議そうに辺りを見回している。
自分が寝ていた所とは別の所で寝ていた為である。
寝ていた場所のすぐ近くに川が流れており、その川をじっと見つめている甲斐斗の姿があった。
少女は起き上がり、小さな足で少しずつ甲斐斗の背後から近づいていく。
甲斐斗は相変わらず川を見つめながら岩場に座っている。
「かいと!」
少し驚かそうと思い、後ろから名前を読んで背中を軽く押した。
甲斐斗の体は押された反動で前かがみになり、顔面から川へ倒れる。
体全身が川の中に沈み、何一つ動きを見せない。
「かいと……?」
甲斐斗は何も答えない、甲斐斗の耳に少女の声は届いていない。
川のせせらぎは震える少女の声を掻き消した。
正式名Person態(第一種ERROR)
全長─3〜4m 重量-約180kg
4本の手、2本の足を使い地べたを這い蹲りながら移動する。
人間のように頭、胴体、手、足。などのパーツは人間と同じだが、人間とはかけ離れた姿をしている。
強靭なアゴと歯を持ち、戦車の装甲だろうと噛み砕く事ができる。
また、Person態の舌からは高濃度な酸が滴り落ちている為に溶かす場合もある。
目が無くとも敵の位置を正確に判断でき、その能力は未だ謎である。
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