第4話 兵士、使命
───薄暗い牢屋、その中にこの俺甲斐斗と俺が助けた少女が閉じ込められていた。
少女は毛布で体を覆い、部屋の片隅で座りながら恐怖の余り小刻みに震えている。
「おい、体調が悪いのか?」
俺が手を指し伸ばすが少女は俺の腕から逃げるように離れ、もう一方の部屋の片隅に移動していく。
「お、おいって。別に何もしねーよ」
何だこの少女は、出会った時から思っていたが不思議な少女だ。
荒れた市街地の中、たった一人で何をしていたんだ?
ここに連れてこられる時も相当怯えている様子だったし。
「んじゃさ、名前教えてくれないかな」
少女は何も答えようとしない、仕方が無いのでまずは俺が名前を言う事にしてみた。
「俺は甲斐斗、最強の魔法使いだった男だ」
俺が名前を言った途端、大きく反応を見せた少女。俺の姿をまじまじと見ている。
驚きを隠せない様子である。俺の名前がどうかしたのだろうか。
名前の後の『魔法使い』って単語に反応したのかな?
「まぁ、気軽に甲斐斗って呼んでくれ。それで君の名前は?」
「なま、え?」
その言葉に首をかしげる少女。
「もしかして自分の名前がわからないのか?」
俺が近づこうとすると少女はまたうつむき、体を丸くして部屋の片隅で震える。
この子は一体何者なんだ、俺があの時。力を少しだけ取り戻したのもこの子が関係しているというのに。
名前か、名前が無いと、自分の存在を……。
「アステル少尉、出てください」
一人の兵士が牢屋の鍵を開けてくる、俺だけ釈放されるのだろうか。
俺が牢屋から出るとまた鍵を閉められる、ふと牢屋を見ると少女は寂しそうな眼差しを俺に送っていた。
「ん?大丈夫、すぐ戻るから」
俺は少女にそう言葉をかけて、牢獄を後にした。
少し歩いていくと見知らぬ部屋に連れていかれた。
その部屋には上級階級の人達が集まっていた、軍服を見ればわかる。
U形の机、その机に軍人達が座っている、その中に赤城少佐や伊達中尉の姿もあった。
「なんですか一体、どうして俺が軍に戻ると同時に牢屋に入れられなくちゃ……」
「言葉を慎め、アステル少尉」
どうやら俺の意見など聞くつもりは無さそうだ。
「貴様、本当に記憶を無くしているのか?」
俺はその一言にいち早く反応してしまった。やっぱり、暴れすぎたか?
だがアレだけの事でバレたとは考えにくい、ここは記憶喪失で押し通すしかないな。
「何も覚えていません」
「何も憶えてない?では何故Dシリーズの操作を行なえるのだ」
一つも質問に答えればまた新しい質問をされる。
俺からも色々と質問したいものだ、この世界の事、そしてあの化け物の事。
「操作方法を教えてもらい、多少の訓練をしたから動かせました」
とは答えたものの、俺への質問攻めは続く。
「では、B4エリアで起こった事について。詳しく聞かせてもらおうか」
「憶えていません」
「なにぃ?」
部屋には軍人達は戸惑いの様子を見せる。
当たり前だ、その場にいた人間がその場の事を憶えていないなど理由にならない。
「いや、だから憶えていません」
一人の軍人が俺を鋭く睨んでくる。
「そんな言葉が、我等に通用するとでも思っているのかね。君は」
「大佐、彼は記憶を失った人間ですよ、脳に軽い障害を持ってもおかしくないと思われますが」
俺のフォローをしようとしてくれる伊達中尉、でも脳に障害って……。
だがここにいるおっさん達に伊達中尉の言葉は通じなかった。
「伊達中尉!貴様は黙ってろ!」
うざい、うるさい、だから俺は軍が嫌いなんだよ。
お偉いさんは力も無いくせに偉そうにグダグダと、腹が立ってきた。
今すぐにでも殺したいが、とりあえずおっさんを睨みながら反抗してみた。
「それじゃあ、憶えていない事を話せと言われて、お前は話せるか?」
「なっ!?上官に向かって何だその口の聞き方は!」
次々に怒り出す上官達、赤城少佐と伊達中尉は顔色変えず俺の様子を見ている。
「たかが少尉の分際で偉そうに……」
「憶えている事は何もありません、部屋に戻らせてもらえませんか?」
そう言って部屋を出ようとした、だが一人の女性が呼び止める。
「待て」
赤城少佐だった、俺は何故か歩き出した足を止めてしまう。
「本当に何も憶えていないのか?本当に全て忘れてしまったのか?」
この答えを言わなくてもよかったと思うが、俺はもうアステルで生きていこうと思っている。
「貴方達の知っているカイト・アステルは、もうこの世にいません」
そう言葉を残した後、俺は一人部屋から出て行った。
───「っとか言っちゃってさ、俺当分ここから出られないわ」
そして現在に至り、へらへらと牢屋の中で笑いながら少女に話しかける。
少女は相変わらず怯えているが、俺の話しは聞いてくれているようだ。
「ああ、そうだ。嘘だと思うけど面白い話をしてやろう」
「はなし?」
少し興味を見せる少女、俺の話しに耳を傾けた。
「俺は最強の男なんだぜ?」
「えっ……?」
きょとんとした表情で俺を見つめてくる、まぁどこで言っても大抵そういうリアクションされるよ。
「これがまた作り話じゃないんだよ」
それから俺の世界の話しを彼女に聞かせてあげた。
と言っても、彼女は真剣に聞かない。というか聞いていないかったもしれないが。
俺は誰かに、本当の事を聞いてほしかったのだろう。
俺が元々いた世界は魔法の世界だった。
科学と魔法が同じ文明を築いてきた世界。
でも俺は『転移魔法』というもう一つの別の世界に行ける魔法を使い、別の世界に飛んだ。
その世界に魔法は無く、科学だけが発展していた世界だった。
とは言っても、それ程高度な科学力は無かった世界だったけどね。
俺はその世界で平和に暮らせると思っていたんだが。
まぁ色々と戦いに巻き込まれたあげく、この世界に何故か飛ばされてしまった。
「剣と魔法の壮絶なバトル!弾けるアクション!」
こんな話を突然されてもリアクション取れるはずがないよな。
もしかして俺ってまたおかしな人間とか思われてるんじゃないのか……?
その時だった、小さな笑いが牢屋の中に聞こえた。
小さな微笑を見せた少女、笑っている、今まで寂しそうにしていた少女が笑っている。
「お、面白かった?」
こくりと小さく頷く少女。
果たしてこの子は俺の話を本当の話しとして聞いていたのか。
それとも作り話として聞いていたのだろうか。
「はなし、もっと」
「えっ?」
予想外だ、まさかこの話に少女から興味を示すとは。
少女の正体を知るには仲良くならないといけないからな。
この少女は絶対に、何か重要な事を知っているはずだから。
あの時の声、あの時の力、あの時の事、俺は忘れはしない。
俺はその後も魔法とか色々な話しをしてあげた、少女が眠りにつくまで。
───大きくため息をつき、コーヒーカップを手に取る赤城。
自室で長椅子に腰かけ、くつろいでいる。
由梨音はその様子を見て心配そうな顔をしていた。
「何かあったんですか?」
「ちょっと、な」
元気が無い、誰が見てもそれがわかる。
さっき由梨音が入れたコーヒーも既に飲み干していた。
「由梨音、コーヒー」
「ええっ、もう4杯目だよ?」
由梨音が止めようとするが、空のコーヒーカップを由梨音の前に突き出す。
「コーヒー」
「だ、だめだってば!」
由梨音も負けじと抵抗する。
赤城はコーヒーカップを持ったまま、由梨音を見つめて……いや、睨んでいる。
「由梨音軍曹を減給にする」
「ほぇええっ!?」
『減給』と言うの言葉に驚きを見せる。
すると赤城はゆっくりと席を立ち、コーヒーメーカーを使って自分のカップにコーヒーを注ごうとする
「冗談だ、自分で入れる」
「えっ、ああ!ま、待ってください!」
両手で顔を隠す由梨音、その場から逃げ出したい状況に今立たされているんだろう。
赤城がコーヒーメーカーの電源をONにしても動かない。
「ん?」
もう一度押してみるが、やはり動かない。
何度も押してみるがまったく動こうとしない。
それ所かコーヒーメーカーが勝手に振動、そして内部から爆破音が聞こえてくると、小さな煙を上がり始めた。
「由梨音、まさかお前……」
赤城が後ろを振り向いてみると由梨音が何度も頭を下げていた。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
確信犯、謝るという事は由梨音が壊したに違いないだろう。
丁度その時、武蔵が赤城の部屋に入ってくる。
「赤城少佐、例のレポートが出来ました」
「伊達中尉〜、助けてくださぃ〜」
すぐさま武蔵の後ろに隠れる由梨音、涙目で必死に武蔵に助けを求める。
だがそれとは裏腹に赤城は相当怒っている様子だ。
「由梨音、一体何台壊せば気が済むんだ?」
怒りを表に出していないが、雰囲気が明らかに違う。
赤城の背後からは黒い殺気が溢れ出ているかのように由梨音には見えた。
「って事は、由梨音さん。また壊しちゃったのか」
武蔵がそう言って後ろに隠れている由梨音を見ると、由梨音は大きく頭を下げて頷きながら武蔵の背中から離れない。
武蔵はこれまで由梨音が壊してきたコーヒーメーカーの数を頭の中で数えてみる。
「たしかこれで、八台目だっけ」
怒られて当たり前だと思ってしまう武蔵だったが、一体どうやったら八台ものコーヒーメーカーを壊せるのか、そっちのほうも気になってしまう。
「全部私の給料で購入した物だぞ!それなのに!」
「まぁ抑えて抑えて。由梨音さん俺が赤城と話をつけておくから。今のうちに自販機でコーヒーでも買ってきてくれないかな」
「は、はい!」
急いで赤城の部屋を出て行く由梨音。
「あ、こら待て!由梨───」
赤城が一歩前出た時、武蔵が赤城の右腕を掴むと同時に引っ張り、彼女の体に抱き寄せた。
そのまま赤城は武蔵に倒れこむように抱きついてしまう、武蔵は赤城の体をしっかりと抱きかかえている
「少し落ち着いたら?」
武蔵の言葉と息が赤城の耳元にかすかにかかる。
「あっ、ああっ!!」
さっきまで普通だった赤城の顔は、自分の赤髪のように真っ赤になり。
抱きしめている武蔵を両手で突き放し、何処からともなく大きな刀を手にする。
「上官に向かって何をしてるんだ貴様ぁあッ!!」
「いや!だから落ち着いてって言ってるんだって!」
部屋の中で刀をぶんぶんと勢い良く振り回し、武蔵はその刀を必死に避けていく。
その時、運悪く由梨音が部屋に入ってきてしまう。
「赤城少佐!コーヒーを買って来ました!」
「由梨音さん、タイミング悪すぎます!」
赤城の振り下ろした刀が由梨音の目の前で止まった。
「買ってきまし───」
缶コーヒーを握っている由梨音の手が小刻みに震えている。
「はわわ……」
突然の出来事で、硬直してしまう由梨音。
そのまま後ろに倒れようとするが、武蔵がすぐに後ろに回りこみ受け止めた。
「あ、ありがとうございます。武蔵中尉」
「すまなかった由梨音、ケガは無いか?」
赤城は握っていた剣を壁に掛けると由梨音の側に近づいてくる。
「赤城少佐、コココ、コーヒーをどうぞ」
「……これで許したと思うなよ」
由梨音はすぐに買ってきた缶コーヒーを赤城に手渡すと、赤城は早速缶を開けて自分の席に戻ろうとする。
何とか騒動は静まり、武蔵は由梨音が壊したコーヒーメーカーをその場で解体して修理を試みる。
その様子を武蔵の横で心配そうに見ている由梨音。
赤城はまた長椅子に座り、美味しそうに由梨音の買ってきたコーヒーを飲んでいた。
武蔵の姿を見ながら、昔の事を思い出していた。あの事件の事も。
「わぁ!直りましたよ!赤城少佐!」
壊れていたはずのコーヒーメーカーが動き、空のコップにコーヒーを注ぐ。
「いやー今回はそんなに破損が酷くなかったから、何とか直せたよ」
「ありがとうございます!伊達中尉!」
何度も頭を下げてお礼の気持ちを示す由梨音。
「うん、今度は壊さないように気をつけて。それじゃ」
笑顔を見せた後、少佐の部屋を後にする武蔵。
由梨音は直ったばっかりのコーヒーメーカーを嬉しそうに眺めていた。
その頃、甲斐斗の寝ている牢屋には一人の少女が来ていた。
「アステル少尉」
寝ているのにも関わらず、誰かが甲斐斗の名前を呼んでいる。
その声で目が覚めた甲斐斗は、半開きの目蓋を手で擦りながら牢屋の外にいる人が誰か確認する。
「ルフィス?」
「ERRORについて書かれている書類を持ってきました」
ルフィスはそう言うと書類を牢屋の中に入れ、すぐに立ち去ろうとする。
「ちょっと待て」
甲斐斗がそれを止めようと声をかけると、立ち去ろうとしていたルフィスは足を止め、後ろに振り向いてくれた。
「ルフィス、お前は俺の事。いや、アステル少尉の事。どう思ってるんだ?それとも、どう思っていたんだ?」
聞きたかった、回りの人達と色々と話しをしてみたかったが時間が無かった。
彼女にとってカイト・アステルは特別な存在な気がする事ぐらい甲斐斗でもわかる。
牢屋の中に入っている今だからこそルフィスと話す事が出来る、聞くのなら今しかないと思ったのだろう。
ルフィスは甲斐斗を見つめながら、そっと口を開いた。
「大好きです」
……思っていた通り、この子とアステルの関係は簡単なもんではなかった。
甲斐斗の予想はルフィスとアステルは友達以上恋人未満の関係、それとも恋人なのかもしれないと思っていた。
「そうか、記憶を無くす前は。二人とも仲が良かったんだな」
これではっきりとわかった、彼女は苦しんでいる、甲斐斗にはそうとしか見えない。
好きだった人は記憶を無くして自分の事を忘れている。
でも自分はよく憶えている、その人の思い出を。
だけどこの気持ちを伝えることは出来ない、伝えてもその人は全くの別人。
それなら、今の甲斐斗はどうしてあげるべきなのだろうか。
甲斐斗は頭の中で思考を巡らし、何か気の利いた言葉を言えないかと悩んでいた。
記憶を無くしている以前に甲斐斗は全くの別人。
どうすればいい、今目の前で苦しんでいる彼女をどうしてあげればいい。
どうせならアステルは死んでいた方が良かったのかもしれない。
記憶を無くしているなど余りにも残酷すぎる、ましてや甲斐斗は別人だ。
「ごめん」
この空気が耐え切れなかったのだろう、甲斐斗は小さく謝ってしまった。
「変な事を聞いてごめん、それと、残酷な事を言うようで辛いけど。もう、君の知っているアステルはこの世にいない」
甲斐斗は小さく下げた頭を上げると、彼女の目には涙が溜まって、いや。既に涙がこぼれ落ちていた。
そんな彼女を甲斐斗は見る事は出来なかった、再び頭を下げて視線を足元に置き、足元が見える範囲しか顔を上げれない。
一粒一粒、彼女の足元に落ちる涙しか見えない。
今、彼女は甲斐斗をどう見ているのだろう。
甲斐斗は酷い事を言ったのか、しかしこれを言わなければ彼女はずっと苦しむと甲斐斗は思ったのだ。
アステルを重ねて暮らし続ける日々など、所詮それは作り物、本物ではない。
すると、足は視界から消えてドアの閉まる音が聞こえた、ルフィスが出て行ったのだろう。
どんなにアステルに似ていようと甲斐斗とアステルは全くの別人、それは揺るがない真実だ。
甲斐斗はルフィスに渡された書類を手に取りページを捲る。
ERROR、NF歴100年に入ってから突然現れた正体不明の化け物。
性別不明、目的不明、何もかも不明な化け物。
地中から突然現れた奴らは人々を次々に襲う。
その数は半端なく、更に様々な種類のERRORが確認されている。
現在確認出来ているのは3種類。
昔作られた地下都市に巣を作っている事が現在確認されている。
って、場所わかってんならさっさと潰しに行けよ、と心の中で突っ込みを入れる甲斐斗。
なんでこんなややこしい世界に飛んでしまったんだろうか、ああ、帰りたい、今すぐ元の世界に帰りたい……。
甲斐斗は冷たい牢屋の中、眠りにつくまでこの世界の事について考えていた。
───おぼろげな記憶、荒れ果てた市街地に二人の少年と少女、そして母親らしき人物がいた。
街は銃弾が飛び交い、爆薬が次々に投下されている。
周りには死体が転がっており、敵兵の姿も見える。
そんな中、一人の女性が二人の子供の手を引きながら走っていた。
男の子と女の子、二人は母親の手をしっかりと握り締めている。
「神よ、私達をどうかお助けください、お願いします……」
母親が呟きながらも、戦場の中を走る。
上空では戦闘機が飛び交い、爆弾や撃墜された戦闘機が街に降り注ぐ。
足が血だらけになっても走るのを止めない、その足に靴は履かれていなくても。
だが願いは虚しく消える、逃げ切る事は出来なかった。
母親の足を一発の弾丸が撃ち抜く。
瓦礫の上に倒れこむ女性、子供達は必死に母親を起こそうとする。
撃ち抜かれた足から血が噴出し、母親の足に激痛が走った。もはや立つ力も残ってはいない。
子供達の後ろからは数人の敵兵が歩いて来る。
「お願いします、この子達だけは助けてください……」
血が流れ出る足を曲げ、敵兵の足元で土下座をする母。
必死に、何度も頭を下げていた。子供達はその母親の姿をただ見つめる事しかできない。
「隊長、この者達は女と子供です。殺す必要は無いのでは」
一人の兵士が、隊長らしき人物と話をしている。
隊長は煙草を吸いながら兵士の顔を睨みつけた。
「お前、本部の命令を忘れたのか?この街にいる『BN』を全員排除する、それが本部の命令だ」
「しかし、この人達がまだ『BN』と決まった訳ではありません、それに……」
「新米が何を偉そうに、命令に逆らう気か?」
腰に付けてある小銃を取り出し、兵士の顔面に小銃を突きつけた。
小銃を突きつけられた兵士の視線は動かさず、隊長と睨み合いをしている。
「子供達だけは助けてください、お願いします、お願いします……」
直も頭を下げ続ける母親。
その時、小銃の引き金は引かれた。
火薬が小さく爆発する音と共に、頭を下げていた母親の頭部を撃ちぬく。
「うるさいんだよ、BNが」
引き金を引いたのは隊長だった、ためらいも無く子供の前で母親を殺したのだ。
子供達は動けない、本当は母親に抱き縋りたい。
でも、恐怖と悲しみ、そして母親が殺された事で体が動かなかった。
女の子の方は無言のまま涙を流し、死んだ母親の右手を握る。
「ママ?マ、マ……?」
「隊長?!貴方と言う方は!」
「これは命令だ、貴様。軍人の癖に軍の命令を聞けないのか?」
「それはっ!」
「これは戦争だ、奇麗事を言う暇があれば国の為に結果を出せ」
「お前等……」
一人立ちはだかる少年、怒りの眼差しで兵士達を睨んでいる。
両手を強く握り締め、自分の爪が手の平に食い込み、血が滲み出る程だった。
「よくも、よくも母さんを、母さんを!」
「っち、ガキの癖に。何々だその目は」
容赦なく小銃を構え、少年に銃口を向ける。
だが少年は怯えない、憎しみの目で睨み続ける。
「危ない!」
その時だった、少年達と兵士の頭上から一機の戦闘機が炎を纏い落ちてきたのだ。
戦闘機は墜落し、その場にいた兵士達と少年少女を吹き飛ばした。
東部軍事基地を肉眼で確認できる程の距離、岩場に機体を隠し、機体の足元で作っていた簡易テントの中で青年は目を覚ます。
「またあの夢か……」
『羅威先輩!羅威先輩!』
無線機から羅威の名前を呼ぶ声が聞こえてくる、寝ていた体を起こし、急いで無線機に状況を報告する。
「こちら守玖珠羅威、予定通りのポイントで待機中」
『もぉーっ!こんな時によく眠れますね!』
無線機からは怒ったような口調で女性が喋りかけてくる。
「俺は数時間前からずっとこの場所にいるんだ、退屈でな」
『だからって何暢気に寝てるんですか!」
「そう怒るなって、それより予定時刻が迫ってきているが準備の方は大丈夫か?」
腕時計を確認してみる羅威、時計の針は9を指している。
『準備は全て整いました、あとはあの方の指示を待つだけです』
「紳の指示を待つだけか、了解」
『えっ、えええ!風霧総司令官を呼び捨てですか?!』
「あの人がそう言っていいって言ってくれたんだよ」
『なんで羅威先輩みたいな人に……』
「紳は俺の全てを理解して分かってくれた一人の理解者だからな」
『何カッコつけようとしてるんですか?!通信を切ります!』
何故か勝手に通信を切られた、羅威は無線機を耳に見つけたまま呆然としている。
小さなため息をつくと、テントから出てみる。夜空に星は無く、暗闇だけが辺りに漂っていた。
首に掛けてあるペンダントを優しく握り、大空を見上げた。
「この作戦で和解すればそれで良し、だが決裂すれば……」
青年は握っていたペンダントを強く握り締める、憎しみと怒りの眼差しを東部軍事基地に向けた。
「俺がNFを潰す」
-Back Numbers-(BN)
100年程前にこの世界を滅ぼしたといわれる『神』と戦う為の組織。
少しずつ軍事力が増し、強大な組織へと変わった。
世界を滅ぼしたといわれる『神』という名の兵器がいつこの世界に現れても戦えるようにしている。
だが、未だに『神』という名の兵器が現れず、兵器が無い平和な世界を求めるNFと武力衝突をしている。
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