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第31話 疑心、暗鬼
───僕はどうなっているのかよくわからなかった、何故基地に異常な数のHuman態がいるのかも。
僕とルフィスは二人で司令室まで向かおうとしていた。
『Human態』、ERRORの中でも新種らしく、より人に近い姿をしているらしい。
だけどその姿を実物も映像も写真でも見た事が無い。
とある基地でHuman態が出現したという記録はわずかに残っていた。
だから映像や写真があると思っていたが、その基地には何も見つからなかった。
生存者はたった数名、その生き残った数名の内ほとんどは気が狂い、まともに話せる状態じゃなかったらしい。
「ルフィス、Human態はどんな奴か見たことが無い。警戒して行こう」
「わかりました、アステル少尉。でも少し寄りたい所があるんですけど……」
「ん、どこに行くつもりなの?」
「私達私服じゃないですか、一度部屋に戻って軍服に着替え直したいんです」
「Human態が侵入している所は基地の西側一階、うん。一度装備を整える為にも戻ろうか」
ルフィスと僕の部屋は北側の3階にある、一度そこに戻って基地の状況を確認してみることにした。
僕達は階段を駆け上がる中、銃を持った兵士が次々に階段を下りていく。
「着替え終わったらすぐにアステル少尉の部屋に向かいますね」
そう言って自分の部屋に入っていったルフィス、僕も自分の部屋に戻り壁についてあるモニターを電源を入れる。
「はぁ……」
ふと溜め息を吐いてしまう、本当なら今日はルフィス達と街を歩いていたはずだったのに。
でも仕方が無いんだよね、僕は軍人だから。皆を守る為に頑張らないと。
高橋甲斐斗……あいつがいるといつも事件が起こる、全てあいつが原因じゃないのだろうか。
そんな事を考えながら僕は私服から制服に着替える、そしてモニターを触りこの基地の状況を確認した。
基地内のERRORの数は熱源探知でわかるようになっている、もちろん人間の数もだ。
『現在Human態の数、1階221体、2階105体、3階40体、4階0体、5階0体』
『現在基地内にいる兵士達はHuman態と応戦中ですが圧倒的な数により押されています、このままでは5階に侵入を許してしまいます』
思っていた以上に増えている、ほとんどの兵士が基地周辺にいるERRORと戦闘中、基地内の兵士が足りないのもわかった。
それでも、やけに基地内に多い気がする。それにどうして3階まで侵入を許してるのだろうか、兵士達は何をしてる?
でもまだ人間の大きさのERRORとなら生身の人間でも銃があれば十分に戦えるはずだ。
僕はさらにモニターを触りHuman態の詳しい位置を確認してみる。
『現在1階にいるERRORは西側の地下から出現中、多数のERRORが中央に集まっています』
「なっ……中央が突破された?」
『このままだと1階にいるERRORは北、南、東に分散して囲まれる可能性があります、直ちに排除してください』
そんなっ、このままじゃ2階より上にいる人達は閉じ込められたままじゃないか!?
どうしてこんなに追い詰められるんだ、何故基地内のERRORを排除できない!こうなったら僕の手でERRORを。
クローゼットの中に隠してある黒く重い銃を手に取った時、僕は一番大切な事を思い出した。
南側2階の医務室には姉さんがいたんだ。

───懐かしいねぇ、何日ぶりだろうか。この廊下を走るのは。
司令室に向かう為に今レンと俺は走っているんだが、この基地にいた日々を少しずつ思い出していた。
中でも心に残っているのはルフィス、そしてセレナの事だった。
ルフィス、また会って色々と喋ってみたいと思う。でも俺は彼女に嘘をついてしまった。
本当の事を知れば彼女も俺を憎むだろう、あのセレナのように……。
その時だった、俺達が走っている廊下の横の通路から現れる不気味な生き物が現れたのは。
「あ、あれがHuman態!」
レンはすぐさま銃を構えるが、その姿に俺は唖然としていた。その姿は一言で言うと『気持ち悪い』
全身が赤白く、黒い模様が点々と見えるその皮膚は生き物の皮膚に俺には見えなかった。
それに体全体が大きく、太く長い2本の腕を肩から伸ばし、黒い眼が俺をみつめている。
俺はすぐさま渡されていた銃を構え、ためらう事無く引き金を引いた。もちろん銃弾は化け物の頭部に命中。
……たしかに銃弾は頭部に命中した。だがHuman態は少しよろめいたかと思うと。
その光のともっていない虚ろな眼はまだしっかりと俺を見つめていた。
「さっさと死ねよ!」
銃を握る手に力が入る、ERRORの頭部、そして体中に銃口を向けて何度も引き金を引いた。
銃弾はHuman態の体を貫通しなかった、Human態はその厚い皮膚に守られており銃弾を生身で受けようとも軽傷しか負わせる事が出来ない。
レンも俺達に向かってくるHuman態に引き金を引いた、廊下内に無数の発砲音が鳴り響く。
「何だよ、全然銃効かないじゃねえか」
気づけば俺はマガジンに入っている全ての弾を撃ちつくしていた。
レンも同じのようだ、腰に付いてある代えのマガジンを手に取ると俺に渡してくる。
「司令室は5階です、さすがにそこまではERRORが来てないと思いますので早く上がりましょう」
「ああ。そうだな、早く上がろうぜ」
俺は早く進もうと一歩足を踏み出して通路の角を曲がろうとした時、天井から一斉に防護壁が降りる。
等間隔で次々に降りてくる防護壁、俺とレンは互いに違う場所に閉じ込められてしまった。
って何で閉じ込めらんだよ。
防護壁には丁度顔の位置に一枚のガラスが張られてあるから中の様子がわかる。
レンは壁を触りながら何かを探している様子だ。
「おいおい、これは一体どう言う事だ?」
「た、多分ERRORの侵入をこれ以上させないようにしたんだと思われます」
「何でERRORでもない俺達が閉じ込められるんだ、開ける事は出来ないのか?」
「残念ですが私の力では何も出来ません、でもこれでERRORから襲われる事も無いので安心してください!」
閉じ込められて安心してくださいだぁ?安心できる訳無えだろが。
と、この子に言っても仕方が無いので黙っておく。だからと言って俺はこんな所で立ち止まるのは御免だ。
それにさっきから何か嫌な気を感じる。ここにいると生きている心地がしない。
何だこの気持ち、何を焦っているんだ俺は……。

───「アステル少尉、着替え終わりました」
部屋のドアが開くとそこには軍服に身を包んだルフィスが立っていた。
「……アステル少尉?」
だが部屋の中にアステルの姿は何処にもない、不思議に思いゆっくりと部屋の中に入っていく。
綺麗にハンガーに掛けられている私服、そして開きっ放しのクローゼット。
人の気配は無い部屋……、ルフィスは部屋の奥に入っていくと、壁についてあるモニターに電源が着いている事に気づいた。
画面にはこの基地内の地図、そしてその地図の真ん中にはある一室が映っていた。
「2階医務室……まさかアステル少尉!?」
その頃アステルは重い銃を両手に全力で走っていた。
医務室に近づいていく内に仲間やHuman態が流したと見られる血が壁や床一面に着いているのが見える。
でもそこに兵士の死体は無く、Human態の死体も無い。ただ夥しい血が広がっているだけだ。
遠くの方で銃声が聞こえる、各兵士がHuman態と戦っているんだろう。本当なら僕も参戦しなければならない。
「でも僕には、やる事があるんだ……!」
角を曲がり、後は医務室に行くだけ。
そう思っていた時、アステルの視界に入ってきたのは医務室に入ろうとする数体のHuman態の姿だった。
「その部屋から離れろッ!この化け物!!」
重い銃を両手で構え、医務室に入ろうとするHuman態に引き金を引いた。
引き金を引いた瞬間に何十発もの弾丸が撃ち出された。
弾丸はHuman態の体を貫通して肉を吹き飛ばしていく。
M240E6の徹甲弾の前にはさすがのHuman態の皮膚も歯が立たなかったようだ。
Human態の死体を無視してすぐさま医務室に入る。
「姉さん!姉さん!!」
医務室全体に聞こえるぐらいの大声でアステルは名前を叫んだ。
だが返事が帰ってこない、医務室にある寝室のカーテンを勢い良く払いのけた。
ベットには一人の女性兵士の死体が寝ていた。右腕が無く、目蓋を開けたまま死んでいる。
一瞬驚いた様子を見せたアステルだが、無表情でカーテンを閉じる、そして安心したかのように小さな笑みを見せた。
「良かった、姉さんじゃない」、
そう言って次に向かったのは医務室の奥にある部屋、薬品室だった。
室内に入り、セレナがいないか探し始める。すると、一番奥の棚に体を小さくして震えているセレナの姿があった。
蹲りながら座り、下を向いてずっと顔を隠しているセレナ、アステルは手に持っている銃を落とすとすぐさまセレナの元に駆け寄る。

───「姉さん、もう大丈夫だよ。僕が助けに来たから。どこか怪我してない?大丈夫?」
座っている姉さんの前にしゃがみこむと、僕は姉さんの左肩に手を掛けた。
「ねぇ、カイト……」
細々した声が聞こえてくる、姉さんは俯いたまま決して顔を上げない。
本当ならすぐさまこの場から二人で逃げたかった。
でも姉さんは逃げる気配がまったく無い。
「姉さんどうしたの?」
そうだ、きっと怯えているんだ。そう思って僕はは右手でセレナの頭をそっと撫でる。
「私、ずっとカイトのお姉さんだよね……」
「えっ、突然どうしたの?姉さんはずっと僕の姉さんだよ。
 僕が姉さんの側にずっといてあげる、僕が姉さんをずーっと守るからね」
「本当、に?」
「うん、だから早く逃げよう。姉さん」
ここにいるのは危険だ、またHuman態が来るかもしれない。
だから早く、早く姉さんをこの場から逃がさないと……。
一向に逃げようとしない姉さんを見て僕は強引に腕を掴み、立ち上がらせようとした。

───「うわぁあああああっ!?」
僕は掴んでいた姉の腕を放し、その場から数歩後ろに下がった。
目の前には顔が融けて、むき出した目で僕を見つめる人がいる。。
口の辺りも融けており、血のようなドロリとした液体が滴り落ちていた。
「助けて、顔が、熱いの……変な生き物がね、とつぜん、わたしの中に……」
ふらついた足つきで僕に近づいてくる。
見ると、腕のいたる所から小さな触手が何本も、何本も出ていた。
左目は僕を見ている、でも右目は眼球をむき出しにしてゴロゴロと動き、周りを見ている。
「いたいの、あついの、たすけて…カイト……」
「えっ…お、お前は誰?何……?」
その一言だけが僕の頭を駆け巡っていた。
誰なの、この生き物は誰なの?この化け物は誰なの?
「カイト?おねえちゃんだ、よ?」
汚らしい触手が出ている腕を伸ばし、僕に近づいてくる。
「ち、違うよ。僕の姉さんはこんな化け物じゃないよ……」
そうだ、僕の知っている姉さんはこんなのじゃない。
美しくて、明るくて、優しくて───。
「わたしはカイトのおねえちゃんだよ…?カイトお願い、助けて」
違うよ、全然違うよ。僕の目の前にいるのは化け物だ、そうだERRORだ。
僕の姉さんは化け物じゃない僕の姉さんは化け物じゃない僕の姉さんは化け物じゃない。
「そうかわかった!お前は、お前は姉さんの偽者だッ!」
「そん、なっ……」
その言葉に化け物は動揺したように見えた、むき出しの目から汚い液を流れ出す。
それは涙とも言えたかもしれないが、僕にはそうは見えなかった。
「そうやって僕を騙そうとしてるのか?お前みたいな気持ち悪い生き物が姉さんなはずがない!」
僕の偽者がいて姉さんを騙していたのなら、姉さんの偽者がいて僕を騙しにくるんだ。
コイツは僕を騙そうとした化け物だ、気持ち悪い化け物だッ!
「い…や、カイト……わたしは……」
化け物が僕に近づいてくる、腕から赤色の触手を垂らしながら醜い生き物が僕に近づいてくる。
僕はさっき自分が落とした銃を拾うとその化け物の頭部目掛け銃口を向けた。
だけど、照準がブレる。腕や足の震えが止まらない。
違う、これは姉さんじゃない、違う。違う違う違う。姉さんは違う、化け物の姉さん違う。
その時、化け物は立ち止まると。剥き出した目で僕を見つめ、融けた顔でニッコリと笑ってきた。
「カイト、わたしはずっと、カイトのおねえちゃ───」
だけど僕には、その顔は恐怖と絶望しか与えてはくれなかった。
「あああああああああああッ!!」
けたたましい爆音と共に何十発もの徹甲弾がセレナの肉体を貫いていく。
触手の生えた両腕を吹き飛ばすと、辺りに血が散乱し、肉が飛び散る。
僕の顔や体、握っている銃にも次々に血が付着していく。そしてそれは一瞬の出来事で終わった。
……何度も引き金を引くが、それ以上弾は出ない。
目の前に散乱している血と肉の塊を見ながら僕は肩で息をしていた。
撃つ尽くしたマガジンを捨て。新しいマガジンを銃に取り付けると薬品室から出る事にした。
「姉さん、今助けに行くからね。待っててね……」

───「アステル少尉!」
医務室を出て廊下を歩いていくと、すぐさま呼び止められた。
声のする方向に顔を向けると、両手に銃を持ったルフィスの姿がそこにあった。
「ルフィス、無事で良かった」
アステルは急いでルフィスの元に駆け寄り、身の安全を確かめる。
「あ、あの。その血、大丈夫ですか……?」
アステルの浴びている血を見て少し不安な顔を見せるルフィス。
だがアステルは逆に少し笑って見せた。
「僕は大丈夫、それよりよくここがわかったね」
「す、すみません。少尉の部屋に勝手に入ってしまって。そしたらモニターにこの場所が映ってて……」
「それで、セレナさんは大丈夫だったんですか?」
「姉さん?大丈夫だよ、今助けに行く所だから」
「えっ、医務室にはいたんじゃ?」
「いなかったよ、いなかった、でも。姉さんの偽者はいたけどね」
ルフィスはいつまでも笑みを続けているアステルに少し不気味さを感じていた。
「偽者?」
「うん、偽者」
アステルの様子が何かおかしい、ルフィスは疑問を抱きながらその医務室の中に入ることにした。
医務室に一歩足を入れただけで血の臭いが肺の奥まで入ってくるのがわかる。
息苦しさと胸苦しさを感じながら少しずつ医務室の中に入っていく、ベットには一人の女性の死体があった。
医務室を見渡してみると死体は一体しかない、アステルの言っている偽者とはこの女性の事なのだろうかと思った。
ルフィスが医務室から出ようとした時、あの薬品室の入り口が視界に入った。
薬品室の中に入っていくルフィス、別に変わった様子は無いと思ったとき、一番の奥の棚に夥しいほどの血が付いているのが見えた。
慎重に一番奥の棚に向かい、そして左に顔を向けた。
「えっ……」
血肉が散乱している光景をどう表現していいのかルフィスには分からなかった。
ただその血みどろの光景が目蓋に焼き付いていくのだけがわかる。
顔を向けたまま動きが止まってしまったルフィス、目の前の光景を理解しようと時間を費やしていたのかもしれない。
一人の人間だろうか、腕や足がバラバラに散らばり、その人間の頭らしき塊が一番部屋の奥に転がっている。
そしてふと足元を見ると、その人間の手が落ちていた。
何か煌く物がある、千切れとんだ手の指に何かはめているのがわった。
その指からそっと物を外すと、この無残に散っている人間が誰なのかがすぐにわかった。
「ゆび、わ」
わかったけど、理解する事が出来ない。理解したくなかった。
段々と足が震え、体全体が震えてくるのが自分でもわかる。
絶望と恐怖はルフィスの頭の中を真っ白にさせ、震える足でその部屋から出ようとした。
「ルフィス、大丈夫?」
振り返ると、そこには血塗れのアステルがニッコリと笑みを見せながら立っていた。
「ア、アス…アステル少、尉……」
思うように声が出ない、体はまるで氷のように冷たく、固まり、思うように動く事も出来ない。
「ん、どうしたの?」
だが、その指輪を握っている腕だけは動かす事が出来た。
ルフィスはゆっくりと手を伸ばすと、アステルの目の前で握ってる指を開いた。
血で汚れた指輪を見たアステルはそれでもまだ微かに笑っている。
「この指輪、誰の物か憶えてないんですか……?」
「よく憶えてるよ、姉さんの指輪だよね。どうしてルフィスがそれを持ってるの?」
ルフィスは指輪を握り締めると、散乱した血肉を指差した。
「こ、この死体の指に、填めてありましたよ……ね?」
時が止まったかのように、二人は沈黙していた。
ルフィスの額から汗が流れ、段々と呼吸が荒くなっていた。
セレナを殺したのがアステルだということにもう気づいているからだ。
アステルはルフィスを見つめたまま動かない、その顔は焦りも恐れも何も感じていない様子だった。
「アステル少尉……この指輪は、去年セレナさんの誕生日に買ってあげた物ですよね……?」
「少尉、一体ここで何があったんですか……何をしていたんですか?!」
つい声が大きくなってしまったルフィス、目には涙を浮かべていた。
どうして、何故アステルがセレナを殺したのか……それがわからなかった。
するとさっきまで沈黙していたアステルが簡単に口を開いた。
「何って、ERRORを殺しただけだよ」
「ERROR?違いますよ!この人はセレナさんですよ?アステル少尉はセレナさんを殺───」
「違うよ、全然違うよ……僕が殺したのはERRORだよ、姉さんじゃないよ、化け物だよ。
 それより姉さんを助けに行こうよ、さぁ……早く!」
壊れてる、外見の殻はまだ剥がれてないけど。
アステルの中身はもう崩壊しているだろう、その手がゆっくりとルフィスの腕を掴んだ時、彼女は反射的にその手を振り払った。
「い、嫌っ!放してください!」
震える体を何とか動かし、ルフィスはアステルから逃げるように薬品室から出て行く。
手を払われたアステルはその場で固まっていたが、すぐさま薬品室を出てルフィスの後を追う。
「待ってよ、一人で動くと危ないよ。僕の側にいないと、危ないよ。
 僕から逃げないでくれ……もうここは危険何だ、誰も失いたくないんだ!ルフィス!!」
アステルも急いで部屋から出る、そして血塗れの格好のまま逃げ出したルフィスを追った。
ルフィスには信じられなかった、どうしてあんなに仲の良かった二人が……。
だからルフィスにはわかる、アステルがセレナを殺したのなら、今のアステルの状態がどんなのかを。

───後ろから聞こえてくるカイトさんの声、段々と近づいてくるのがわかる。
必死に名前を叫んでいる、必死に私を捕まえようと追ってくる。
優しかったカイトさんが実の姉を殺した、気が狂っている、もしかしたら今度は私が殺されるのでは……。
そんな事を考えてしまう私は果たして正しいのか、間違っているのだろうか。わからない。
カイトさんとは1年前から一緒に働いていた、暖かくて、優しくて、時々弱音も吐いていて、それでもカイトさんは強かった。
私がまだ軍に入って間もない頃だった為、わからない事も多く。皆に迷惑を掛けていた時、いつもカイトさんが私に教えてくれた。
不安な表情を浮かべていた私に、優しく教えてくれたカイトさんの笑顔は今でも忘れない。
でも……でも、今のカイトさんは違う。怖い、私の信じていたカイトさんはあんなに怖くない。
私はカイトさんを信じることが出来ず、後ろから追ってくる声から逃げるようにただ走り続けた。

───僕は何をしていたんだ……いや、何をしているんだ。
まるで何かに取り憑かれていたかのような感覚だ、頭の中がボーっとして、自分が何をしていたのかよく思い出せない。
違う、今は考える事は止めるんだ。失う前に、今度こそ自分の力で助けるんだ、守るんだ。
銃を握る両手に力が入る、今はルフィスの事で頭がいっぱいだった、ルフィス、待ってくれ。止まってくれ。
僕は誰も失いたくないんだ、もう誰も死なせたくないんだよ、お願いだよ、ねえ、待ってよ、待ってよ!
ルフィスが僕の視界から消える、曲がり角を曲がったんだ、僕は急いでルフィスの後を追って角を曲がった時。
悲鳴が廊下内に響いた、尻餅をついて動けないルフィス、そしてその前方にいるのは血塗れのHuman態の姿があった。
何体ものHuman態がルフィスを見つめ、ゆっくりと近づいていく。
ルフィスが立ち上がろうとするが足に力が入らないのか、立ち上がろうとするものの立ち上がれない様子だった。
大丈夫、ルフィスは……僕が守る!

「化け物!それ以上ルフィスに近づくなッ!」
銃の引き金を引く指に力が自然と入る、少し引き金を引くだけで簡単に銃弾は発射された。
だがその銃弾がHuman態に当たる事は無かった。
突然目の前に降りてきた扉に次々に弾が命中する、いくら徹甲弾とはいえ、防衛用シャッターの前には歯が立たなかった。
「なっ、今更扉を下ろして何になるって言うんだ!司令室にいる人達は何をしている!?」
壁についてある小さな窓からはルフィスが立っているのが見える、そして幸いルフィスとHuman態の間に扉は下りていた。
「でもこれで時間は稼げる、ルフィス待ってて。今僕側の扉を開けるから」
「は、はい。ありがとうございます。アステル少尉」
Human態は太い腕で何度も扉を殴る、まるで鈍器で殴っているかのような音が次々に聞こえてくる。
その音にルフィスも不安な表情を浮かべていた、僕は急いで壁に着いてある制御装置に手を掛けた。
「大丈夫、すぐに終わるから。そしたら二人で逃げよう」
暗証番号を二つ入れると簡単にアクセス出来た、一枚や二枚の扉を開ける事等簡単な事。
僕はすぐさま2階のを開けた、もちろん僕とルフィスの間にある扉をだ。
「よし、出来た!すぐに扉が開くから待っててね」
僕とルフィスの間にある扉が動き始めた、ゆっくりと開いていく。
だが余りにも遅い、そして数cm程扉が開いた時、突然動きが止まった。
わずか数cm程しか開いていない扉を見て、緊張と焦りが二人を襲う。
「アステル少尉、これは一体……」
その時だった、ゆっくりと扉の開いていく音が聞こえてきた。
でも二人の目の前にある扉は止まったままで動いていない。
扉の開く音がゆっくりとルフィスの後ろから聞こえてくる。
ルフィスが急いで振り返ると、Human態と自分の間にある扉が段々と開いていくのが見えた。
「アステル少尉!?壁が!防護壁が開いてます!止めてください!!」
扉についてある小さな窓から顔を覗かせる、その顔は恐怖と焦りでいっぱいだった。
目には涙を浮かべ、必死にアステルに助けを求めている。
その表情が返ってアステルを焦らした、いくら装置をいじっても扉を止める事が出来ない。
それ所かルフィスとアステルの間にある扉を開ける事さえ出来なかった。
「早く!早く開けてください!カイトさん!」
細い腕を振り上げ、扉を必死に叩くルフィス。
わずか数cm程しか開いていない扉の間を通る事は無理。アステルの持っている銃すら渡せなかった。
「おかしい……全然動かない!どんなにやっても閉める事も出来ない!開ける事も出来ないんだよっ!!」
いくら装置をいじっても、それを装置は受け付けてはくれない。もうアステルにはどうする事も出来なかった。
その時、さっきまで焦っていたルフィスは突然冷静になり、そっと呟いた。
「ごめんなさい」
突然ルフィスは涙を流しながらアステルに謝ってきた。
「ルフィス……?」
アステルは不思議そうにルフィスの顔を見ている、何故。どうして謝るのかわからなかった。
「私、カイトさんを疑ってしまったんです、私を殺すんじゃないかって……」
「僕はそんな事しない!何を言ってるんだ!?僕はルフィスを守りたいだけだっ!」
「はい、わかっています。カイトさんの想い。私はこれからもカイトさんを想い続けます、セレナさんと一緒に」
その時、完全に防護壁の開いた音がルフィスとアステルに耳に届いた。
「そ、そんな!ああ……!ルフィス!ルフィスッ!!」
アステルは最後まで必死に装置の前で苦しんでいた。
何十体ものHuman態がゆっくりとルフィスに近づいてくる。
「カイトさん、私やセレナさんの分まで……頑張って生きてくださいね」
数適の涙がルフィスの瞳が零れ落ちる、でもその顔は微かに笑っていた。
そして懐から取り出す一丁の拳銃、そして銃口をそっと自分の頭に突きつけた。
「や、止めろ。止めてくれ!お願いだ!死なないでくれ!もう僕には君しかいないんだ!ルフィス!!」
自然にアステルの目からも涙が零れ落ちていた、腕で涙を拭って、ずっとルフィスを見つめていた。
ルフィスが涙を零しながら見えた笑み。それはアステルの目にもしっかり映っていた。
「私もカイトさんしかいません。今までありがとうございました。えへ……最後に一言言わせてください」
「カイトさんの事、大好きです」
それがカイトの見たルフィスの最後の笑み、最後の一言だった。
正式名MFE-フェリアル (New Face製)
全長-17m 機体色-青白 動力-光学電子磁鉱石
唯一『フェアリー』を遠隔操作可能、同時に6個の『フェアリー』を操作する事が出来る。
ただし『SRC機能』を使わなければ起動不可。
ちなみにこの機体はレン・スクルス専用機であり、レン以外の人間は動かす事が出来ない。


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