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第28話 導き、前兆
───夜の森と朝の森ってどうしてこんなにも違うのだろうか。
川のせせらぎ、鳥の歌、虫の音色、木々の残骸。
俺は一人昨日通ってきた道を見ていた、木々は一直線に切られている。
昨日俺が来た時に木を切りながらここに来てしまったからだ、今見ると少しやりすぎた気がする。
「おはよーかいと」
すっかり元気になったミシェル、笑顔で俺の元に駆けつけてくる。
「ああ、おはよう」
すっかり元気になって良かった、一時はどうなるかと思ってたけどまたこの笑顔が見れて内心ほっとしている。
「ミシェル、これから俺は色々な所に行って勉強しようと思うんだ、元の世界に帰る方法を探しに。
 っま、ただ探すだけだとつまらないからね。いろんな所を旅していこう」
そうだ、焦る事は無い。少しずつ手がかりを探していけばいいじゃないか。
昨日何で俺はあんなに焦っていたのだろうか、腹が減っていたからだろうか。
「どこいくの?」
「んーと、一度NFの基地に戻ってみようと思うんだ。
 少し時間がかかるかもしれないけど、まずはこの世界について良く調べないとね」
そう、俺はこの世界の事についてなど全く調べる事が出来なかった。
俺は病院にいた後牢屋にいて、その後牢屋にいて、んでその後も牢屋に閉じ込められていたからだ。
だが今の俺は自由、そうだフリーダム!もう誰にも縛られる事のない生活が出来るんだぜ。
「よーっし!そうと決まればさっさと行くぜミシェル!俺達の旅はまだ始まったばかりだぜ!」
「うん!」
俺はミシェルを抱きかかえるとすぐさま機体の元に走った。
ハッチに取り付けてあるワイヤーを掴むと自動的にワイヤーが俺達を引き上げてくれる。
そしてコクピットに入るとミシェルをそっと下ろし、俺は操縦席に座った。
「1に安全!2に安全!安全運転でかっ飛ばしていくぞ!」
ハッチを閉じて機体の電源を入れ為スイッチを押す。
・・…スイッチを押す。スイッチを押す!
「あ、あれ。動かない、まさかエネルギー切れ?」
何度押しても電源がつかない、せっかく格好良く決めたっていうのにこりゃ無いぜ。
どうする、動かない機体などただの鉄クズに過ぎないだろ……。
そもそも機体は何の力で動いているんだ、ガソリン?な訳無いよな。
操縦席で一人考えている俺を見ているミシェルは一つのスイッチに指を指した。
「かいと、こーこ」
「ん、これがどうかしたのか?」
試しにそのスイッチを押してみる。
すると、そのスイッチを押した途端機体は爆発、操縦席に乗っていた俺達は跡形も無く吹き飛ばされた、どうやらあのスイッチ、自爆スイッチだったらしい。
……っという展開にはさすがにならないと思った俺はそのスイッチを押してみた。
すると、突然モニターや装置、機器の電源がついていく。
「ぉおおお!ミシェルすげえっ!何か電源ついたぞ!」
いやこれは驚いた、まさか電源が入るとはな。
どうやらこのスイッチを押すとサブエネルギーに切り替わるらしい、長くは持たないが町に向かうのなら十分だ。
「よーっし、んじゃ気を取り直して出発!」

───「そして到着!」
懐かしき東部の市街地、そして遠くに見える東部軍事基地。
さて、このボロボロの服を買い換えなければ、それに美味しい物も食べてみたい。
最近まともな食事をとっていないからだ、さてどうする。
「強盗したらお金稼ぐの簡単だよな・・・」
その言葉に反応したミシェルは驚きの様子で俺を見つめる。
「冗談だって、取りあえず図書館行ってみるかな」
冷暖房完備、熟睡可能、参考資料完備、これなら行っても損は無い。
取りあえずこの世界の科学、文明レベルを見てみなければ・・・。
って、図書館って何処にあるの。
そうだ、俺はこの世界の人間でもなければこの街の人間ですらない。
適当に歩いて探してみるか?いや、それは時間の無駄だし疲れる。
その時、俺の頭の上にある豆電球が現れて光った。何か良い事を思いついたのだ。
「ミシェル、少しベンチに座って休んでてくれないか?すぐ戻るから」
「うん、わかった」
「いいか、見知らぬ奴から話しかけられたら絶対に話したりついていったらダメだぞ!無視だ無視!」
「甲斐斗!つまり俺以外の言う事は何も答えなくていいからな!」
「う、うん……」
俺はそう言い残すと街の奥へ走っていった。
ん、俺の効率良くお金を稼ぐ方法が何かって?んなの決まってるだろ、俺流の稼ぎ方さ。

───街、表は活気だって沢山の人々が溢れている。
だが暗い路地裏にいけばガキが酒飲んでたり、ケンカとかしてたりする。
まぁそんなわけで俺は今社会のゴミ供が集まっている路地裏にいるわけで。
すると、数人の不良が俺に気づいたのか、へらへらと笑いながら歩いてきた。
そして一人の不良が俺に声を掛けてくる。
「おい兄ちゃん、こんな所に来て何してんだ?」
「いやー図書館を探してたんだけど見当たらなくてね、何処にあるか知らない?」
「図書館?お前それココとは逆の方角だろ、馬鹿じゃね?」
なるほど、逆だったか。俺って本当方向音痴だな。
「ありがとさん、んじゃ俺は図書館行くかな」
俺は体を百八十度回転させて路地裏から出て行こうとした時、不良に肩を掴まれた。
「おいおい、教えてやったんだぜ?お礼してもらわないとねぇ」
そう言うとその不良の周りにいた不良達が俺を囲む。
ふ、ここまで俺の思い通りに事が進むとはな。
後はこいつ等をコッペパンにするだけ、じゃなくてコテンパンにするだけだ。
そして不良達から俺がお金をもらうと言う何とも素晴らしい方法だ、俺に相応しい稼ぎ方だな!
なーに、こんなのよくある展開だろ。こんな奴等に負けないよ。
「って事で大丈夫、殺しはしないけど手足の骨が多少折れても悲鳴上げるなよ?」
「んだとこのガキッ!」
不良が俺に殴りかかろうとする、軽く交わした後ボコボコにして終わらせるか。
だが、俺の予定はここで崩れた。
「貴方達!何をしているんですか!?」
一人の少女の声が聞こえてきた、俺はその声の方向に振り向く。
そこには手に小さな鞄を持っている一人の少女が立っていた。
「何だてめえ、ガキは引っ込んでろ!」
不良が俺の胸倉を掴みながら少女を睨みつめる。
しかし少女は怯むことなくこちらに歩いてくる、そして鞄を開けると中から一枚のカードを取り出した。
「私は東部軍事基地所属、レン・スクルスと言います。今すぐその手を離してください」
その言葉を聞いた途端に不良達が慌しくなった。
「ちょっ、マジかよ……」
待ってくれ、逃げないでくれ。ああ、俺の金が逃げていく。
不良達は一目散に逃げる、さっきまで路地裏には何人者不良達がいたというのに今では空き缶や吸殻しか見当たらない。
さてこの子は一体何だ?東部軍事基地所属の者とか言ってたけど。
「アステル少尉、こんな所で何してるんですか!ずっと探してたんですよ!」
『アステル』その言葉を耳にした時俺はよくやく思い出した。
東部軍事基地所属?たしかアステルもその基地に所属していたはずだ。
アステルを知っている人と会ってしまうとは、一体どうすれば。
「私とルフィスさんはずっと待ち合わせの場所で待ってたんです、それなのにアステル少尉は全然来てくれないし」
「それにその服装はどうしたの?それがアステル少尉の私服?」
俺はとっさに悪知恵を働かしてしまった、とにかく今はこの場、この状況を利用するしかない。
「いや、実は洋服を買ってからそっちに寄ろうとしてたんだよ、この服ダサイでしょ?」
「ええ、私から見ればアステル少尉には会ってないと思います……」
「それで買いに行こうと思ったんだけどさ、財布を落としちゃってね、探してたらこんな所に来ちゃってて」
「さ、財布落としたんですか!?それなら早く探さないと!ルフィスさんにも連絡しないと!」
レンがとっさに鞄から携帯電話を取り出そうとした時、俺は反射的にその腕を掴んでしまった。
「い、いや。財布落としたなんてバレたらかっこ悪いから、内緒にしていてくれないかな?」
俺ナイス、上手い事言えるじゃん。
「それもそうですね……」
「それでさ、こんな事を頼むのも何だけど。少しお金を貸してもらえないかな?」
女性にお金を借りるなんて普通は駄目だけどな、男的に。
「ええっ?あ、私でよければ少しはお貸しできますよ」
「本当に?ありがとうレンさん。そのお金で洋服を買った後にルフィスの所に会いに行こうか」
「そうですね、そうしましょう!すぐ近くにお店があります、そこで洋服買いましょうね」
っしゃあああッ!と、心の中で叫んでいるが顔は普通のまま。
もちろん喋り方、声、口調はアステルに似せている、顔も似ている為に早々ばれないだろう。
そのまま俺達二人は服屋に直行。
「適当な服をささっと買って来るから、レンさんは先にルフィスさんの所に戻っていてくれないかな?」
「えっ……わかりました。このカードを使ってください。私達は中央公園にいますから早く来てくださいよ?」
「うん、すぐに行くから待っててね」
レンが俺にカードを渡すと店から出て行く。
何か悪い気もするが、今の格好だと色々とまずいからな。このお金は使わせてもらう。
俺は目に付いた黒色の服を一着、長ズボンを一着。自分の今着れる服を買っていった。
囚人の服、軍人の服、そんなもの俺には似合わない、やはり私服でないとな。
って事で買い物が無事に終わる。
新しい服、うーん中々良い、この世界は服のセンスあるな。
俺はカードを持ったまま店を出る、そしてレンが向かった方向とは逆の方向に体を向けた。
さて、このカードでルフィスに旨い物でも食べさせに……。
「アステル少尉!何処行くんですか?!」
「うおっ?!」
突然後ろから声を掛けられて不覚にも驚いてしまった。
この声はレンの声だ、どうして彼女がここにいるんだぁ、
待ち合わせ場所で待っとけって言ったのに。
俺は溜め息をつくと後ろに振り返る、そこにはやはりレンの姿、そして……。
「カイトさん?」
「ルフィス……」
もう二度と会わないと思っていたが、まさかこんな早く、簡単に会えるとは。
私服姿のルフィスは俺をじっと見つめたまま動かない、やばい、バレた!?
「その洋服とっても似合ってますね」
「えっ?あ、そうかな?」
「はい、とっても似合ってますよ」
彼女は笑っていた、そういえば・・・俺は今までこの子の笑顔を見た事があっただろうか。
前に会った時は元気も余り無く、俺の前では決して笑わなかった。
……駄目だな、やはりここに俺の居場所は無い。俺がここにいればアステルに悪いからな。
あれだ、アステルは何も悪くないじゃねえか。全部俺のせいだ、俺がいるからアステルに迷惑を掛けちまう。
そっと振り返って二人に背を向けて、このまま走り出してしまえば人ごみに隠れて逃げ切れるだろう。
「レンさん、これ。ありがとうございました」
俺はレンにカードを返すと、そっと二人に背を向けた。
そして俺が走り出そうと前を見た時、奴はそこにいた。

───僕は時間通り公園のベンチに座っていた。
今日はルフィスとレンさんの3人で街案内をする予定、それにしても二人とも遅いなぁ。
「おかしいなぁ、もう時間何だけど。二人とも何処にいるんだろ……」
集合場所はここだったよね、んー……段々と不安が募る。
その時、僕の座っていたベンチの横のベンチで何やら声が聞こえてきた。
「お嬢ちゃん、一人こんな所で何してるの?」
「道に迷ってるの?んじゃ俺達が交番まで送ってあげようか?」
服が派手な不良が数人に見える、だけど体格、服装に似合わない行動をしていた。
やっぱりあんな格好をしていても良い人はいるものなのかな。
だけど少女は下を向いたまま話そうとしない、きっと誰かを待っているんだろう。
少女は小さく首を横に振るが、不良達は少女から離れようとしない、そして一人の不良が少女の腕を掴んだ。
「いいから来いって、一緒に遊んであげるからさ」
嫌がる少女の腕を強引に引き、ベンチに座っている少女を引っ張っていこうとする。
少女は必死に抵抗するが、その豪腕からは離れられない様子だ。
って、僕は何をしているんだ、ただ見ているだけで……助けないと。
両手が汗ばみ緊張する、歩き方もどこかおかしいかもしれないけど、僕は少女の元へ向かった。
「あ、あの。ちょっと待ってください。この子嫌がってるじゃありませんか」
僕はそう言って少女の腕を掴む男の手を掴んだ。その時不良の手は少女の腕を放す。
「はあ?俺達はただこの子交番に送ってあげようとしてるだけじゃねえか」
「ですから、この子は嫌がっているんです。無理に連れて行くのは駄目だと思うんですけど・・・」
「何だよさっきからグダグダうるせえなあ、お前俺にケンカ売ってるの?」
どうして話しても分かってくれないのだろう、人は分かってもらえない時、いつも力に頼る
「い、いえ。僕はケンカなんか……」
僕の顔に拳が飛んでくる、すかさず避けようと思った時、後ろにいた不良に体を掴まれた。
見事僕の顔に拳は命中、瞬時に歯を食い縛った。
「止めてください……僕はこう見えても軍人ですよ。貴方達を逮捕する事も出来ます」
「お前みたいな奴が軍人とか、軍人馬鹿にしてんのか?!」
そしてもう一発、今度は俺の腹部に拳が命中する、顔面より痛くはないけど、やっぱり痛い。
僕の後ろにいる不良がポケットに手を入れてサイフを抜き取る。
「おい、こいつ結構金持ってるぞ!」
僕のサイフから数枚のお札を取り出した不良、だが僕のサイフに入ってある身分証明書を見て顔色が変り始める。
「こ、こいつ本当に軍人じゃねえかよ!」
「嘘だろ?!ちょっとお前貸せ!」
慌てだす不良達、僕のサイフから取ったお金とサイフを僕の足元に投げ捨てると、一目散にその場から逃げていった。
最初からこうすれば良かったのかもしれないけど、今はもういいや。
格好悪い所をルフィス達に見られなくて良かった、でも僕の横にいる少女には見せてしまったけどね。
足元に散らばっているお金とサイフを拾うと、またポケットの中にしまう。
そしてベンチに座っている少女に声を掛けてみることにした。
「誰か来るのをここで待っているの?」
少女は無言のまま何も喋らない、僕が不審な人に思われているのかもしれない。
「驚かせてごめんね、僕はカイトって言うんだ。君の名前教えてもらえないかな」
すると、少女は僕の方を向いた。
「ミシェル」
「ミシェルちゃん、もしよかったら一緒に交番まで行かない?ここに入たらまた危ない目にあうかもしれないよ」
「いや、君みたいな子を一人で街に置いて行く訳にもいかないから。一緒についてきてくれるかな」
ここから交番はすぐ近くだし、ここにいるより交番でお世話になっているほうが涼しいし安全かな。
それにしても、この子を一人きりにするなんて一体誰なんだろう。身勝手な人もいるもんだなぁ。
僕がそっと手を指し伸ばすと、少女は僕の手を掴んでくれた。
ルフィス達には悪いけど、まずはこの子を交番に送り届けないと……。
僕はしっかりとその子の手を握り締め交番に向かう為街の中に入っていった。
見渡す限りの人、人。街に来るのは久しぶりだけど、やっぱり人が多いと思う。
その時、ふとルフィスの顔が視界に入った、レンさんもいるじゃないか、二人ともあんな所で何してるんだろう。
誰かと話している?人が多過ぎてよくわからないけど、とりあえずその場所に行ってみる事にした。
人を避けながらルフィス達の元へ向うと、奴はそこにいた。

───甲斐斗とアステル、互いは向き合い、にらみ合っているようにも見える、だが二人とも目の前の光景は信じられず、立ち止まっていた。
周りの人達は歩き、動いている。だが甲斐斗達二人はまるで時が止まっているかのように動かない、動こうとしない。
そんな中、先に口を開いたのは甲斐斗の方だった。
「久しぶりな、カイト・アステル、まだ生きてたかぁ」
「どうしてお前がこんな所にいる!ルフィス達に何をしていた!?」
アステルは懐から迷わず拳銃を取り出すと、甲斐斗に銃口を向けた。

───その光景を見た街の人達は急いでその場から逃げていく、何せ一人の男が銃を出しているのだ、誰だって逃げる。
てか、こんな街中で普通銃を出すか?軍人なら軍人らしく少しぐらい考えて行動しろよ。
そして俺の後ろに立っていたルフィスとレンも異変に気づいた。
懐から銃を取り出し、俺に銃を向けている青年にすかさず銃口を向けた。
だが二人は驚いた表情で銃を構えている、無理もない。さて、ここからが修羅場だな。
「カイトさん?」
「アステル少尉が……二人?」
まるで狐に化かされたかのように、二人は固まっていた。
無理もない、同じ顔の人間が目の前に二人いるのだから。
「ルフィス!レンさん!その男から離れて!そいつは僕じゃない!!」
このままだと奴に蜂の巣にされるか、また牢獄送りになっちまう。
俺はとっさにルフィスの腕を掴むとポケットからナイフを取り出し、そのナイフを首もとに突きつけた。
「おっと動かないでもらおうか、さもなくばこの子の命がどうなるかな?」
明らかに俺は悪役の台詞を吐いている、だが今はそんな事気にしてられない。
面倒な奴等が来る前にミシェルを連れて帰らなければ……。
「かいと!」
「君は危ないから下がってて!」
その時、アステルの後ろにいた少女が俺の前に現れた。
青い髪、大きな帽子、間違いなくミシェルだ。あれ程動くなと言ってたのにどうして……。
だがこれで探しに行く手間が省けたってもんだ。
「ミシェル、俺の所に来るんだ」
すると、俺の元に近づこうとしていたミシェルの腕をアステルが掴む。
そしてアステルは自分の元へ引き寄せるとミシェルの頭に銃を突きつけた。
「おまっ、正気か!?」
「僕は至って正気です、貴方こそ今すぐそのナイフを下ろし、ルフィスを離してください」
こいつ、まだ幼い子供に銃を突きつけやがって。
銃を突きつけられているミシェルは怯えているかと思いきや、あまり抵抗もせずにただ俺達を見ているだけだった。
「僕もこんな事はしたくない、貴方が僕の指示通りにしてくれれば手荒なマネはしないつもりだよ」
「俺もこんな悪役じみた事はしたくないんでな、ミシェルを返せばルフィスも返す」
「それなら先に僕に渡してください、そうすればこの子は貴方に返します」
「返した後どうする?俺達を捕まえるんだろ?俺の言う事を聞かないとコイツ殺すぞ?」
俺は不敵な笑みを見せた後、ナイフの刃をルフィスの顔の前でちらつかせる。
「わ、わかった!この子は返す、だからルフィスに危害を加えるな!」
その時、口を開かなかったルフィスがここで口を開いた。
「アステル少尉!一体この人は誰なんですか?!どうして彼は私達の名前を!アステル少尉の姿を……」
「そ、それはっ……」
アステルが口を閉ざしたが、何故だ?というかルフィスは俺の事を知らないのか?
俺とアステルは全くの別人、アステルはそれを伝えていないと言う事か?
「アステル、俺の事を隠すつもりだったんだろうが残念だったなぁ。
 まぁ俺には関係の無い話、早くミシェルをこっちに渡せ」
ナイフの刃先をルフィスの首元に突きつけるけど、もちろん殺したりはしない。
「っ……わかった、この子は返す」
アステルはそう言うと掴んでいたミシェルの腕を放す、自由になったミシェルはすぐさま俺の所に来てくれた。
「さぁ返したよ、早くルフィスを放せ!」
それ程ルフィスが大事か、いいだろう。俺もルフィスには色々と世話になったからな。
俺がルフィスを放すと、ルフィスはすぐさまアステルの元に向かう。
「ルフィス、怪我はないかい?」
「は、はい。大丈夫です」
多少戸惑っている様子だ、彼女は今何を考えているのだろうか。
いや、それより今は逃げる事に専念するか。
「それじゃあ俺はここら辺で逃がしてもら───」
おうとおもったが、やっぱり俺の思い通りに事が進む事は無いのだろうか。
街の騒ぎに駆けつけた警察に、銃を俺に向けるアステル。
……いや、まて。どうして俺が逃げる必要があるんだ?
「おいおい、俺は何もしてないんだぞ?どうして銃を向ける、何故捕まえようとするんだ?」
俺は回りにいる警察と周りにいる人達にも聞こえるぐらいの声が喋った。
「それは貴方が!」
「俺が何かしたのか?」
アステルが答えようとした時、俺の横にいるレンが答えた。
「私を騙してお金を使いましたよね!?それは立派な罪です!」
「騙した?俺は別に騙してなんかないね、それに数週間前まで俺は『カイト・アステル』だったんだからな」
「ど、どういう事ですか!?」
「詳しい話はそこのアステルに聞きな、んじゃあばよ」
俺は手に持っていたナイフをアステル目掛けて投げた、アステルは何とかそのナイフをかわす。
そして俺はその隙にミシェルを抱きかかえ、入り組んだ路地の中に走っていった。

アステル達はその場で立ったまま甲斐斗の後を追う事はなかった。
「カイトさん、一体どう言う事なんですか。説明してください……」
ルフィスは疑いの目でアステルを見つめる、納得のいく答えを聞きたがっていた。
アステルは構えていた銃を懐に戻し、黙ったまま下を向く。
「答えてください!あの人は一体誰なんですか!?」
「奴は、その……」
レンも戸惑いながらもアステルの元に向かい、口を開いた。
「アステル少尉、訳を話してくれませんか?私達部隊の皆に」

───その頃、アステル達以外の部隊員は東部軍事基地の格納庫で何かを待っていた。
「伊達中尉、アステル達は休暇なのにどうして俺達は仕事何すか」
ノイドがダルそうに壁にもたれ掛かり、伊達と話していた。
「ノイド曹長はまだ片付けてない仕事とか沢山あったよね、あれ終わらさないと赤城は帰してくれないと思うよ」
「ちくしょう、今頃アステルは両手に花だっていうのに……羨ましい」
すると、格納庫の扉は開き、次々に機体が入っていく。
『EDP』の開始は明後日、東部及び南部には次々に機体と武器、弾薬が運び込まれていた。
「んで、どうして俺達は格納庫にいるんすか」
「何でだろうね、赤城に聞いてみようか」
辺りを見回し、赤城を探そうとしたが、すぐ近くに赤城がいる事がわかった。
というかすぐ側で伊達の話をしっかり聞いていた。
「私達がここに呼ばれたのは新型機の事だろう、この部隊の一人が新型に乗るらしい」
赤城は相変わらず厚い軍服を身に纏い、腕組をしながら次々に運び込まれてくる機体を眺めていた。
由梨音は新型と聞いて少し興奮気味に喋る。
「新型ですよ!何しろNFがこの作戦の為に創り上げ、高性能を誇る機体らしいですよ!」
「それで、その新型は今どこにあるんだ?」
ノイドが辺りを見回しても、新型らしい新型が見当たらない、見えるのはギフツとリバインぐらいだ。
「もうすぐ運び込まれてくると思うんですけどねぇ、おかしいなぁ」
「っま、新型って言うんだからどーせ乗るのは赤城少佐だと思うけどな」
その時、格納庫内に警報が鳴り響き、アナウンスが入る。
『Urgent Order エリアにERROR確認。C2エリアにERROR確認』
C2エリア、その言葉に兵士達は耳を疑った。C2エリア基地の一つ隣のエリア。
今までERRORがCラインのエリアに入った事は無かった、そもそもERRORは基地に襲撃をする事などしないのだ。
日に日に凶暴化してくるとも思えるERROR、しかも『EDP』開始二日前に現れるとは。
赤城はその場にいる兵士達全員に聞こえる声で指揮をとった。
「聞いての通りだ、全隊員戦闘配備。一匹たりともERRORをC1エリアに入れるなっ!」
伊達と赤城は急いでリバインに乗り込み、由梨音とノイドもギフツに乗り込む。
『赤城、どうしてERRORがこの期に及んでこの基地に攻めてきたと思う?』
赤城のコクピットに取り付けてあるモニターに武蔵の映像が映る。
「私達の戦力を少しでも削ぐ為かもしれんな」
『だとしたら、もしかしたらERRORは『EDP』の作戦日を知っているかもしれない。いくら何でも的確すぎる』
「ERRORが?どうやって、奴等が作戦日を知っているなどありえない」
『だといいんだけどね、なるべく被害を少なくして、弾の消費を避けないといけない』
「わかっている、だが奴等を基地内に入れる訳にもいかない」
『了解、行こう赤城』
赤城と武蔵の乗るリバインは格納庫から発進するとすぐさまC2エリアに向かう。
その後ろには由梨音とノイドの乗るギフツが後から追いかけてくる。
そして次々に他の部隊の隊員が乗るギフツ、リバインがC2エリアへと向かった。

『EDP』開始まで残り2日
高橋 由梨音
東部軍事基地第五独立機動部隊の隊員。
いつも赤城の側で役に立とうと動くが、それが逆に赤城を困らせる時が多々ある。
性格は部隊の中で一番明るく元気、実は赤城とは数年前から知り合い。
由梨音がいるおかげで余り喋らない赤城の口数も段々と増えるようになった。


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