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第15話 出会い、別れ
───俺って感謝されて当然だよな。
BNの基地から数人だが兵士を助けたんだ、本当なら皆から感謝の言葉が浴びせられて今頃俺は一人優越感に浸っているはずなのに……。
「なんで牢屋に入れられなくちゃならねえ、ここから出せ!」
だが牢屋の前で椅子に座り書類に目を通していた女は俺を軽く見ただけでまた視線が書類に戻る。
牢屋の中にいる俺をまるで吠える犬のように見てやがった……。
「言っただろ、お前の身元が分からぬ以上自由の身にしておく事はできないと」
何も言わないと思いきや何とか答えてくれたが、まぁごもっとも、その通りだ。
だがいくら何でも牢屋は無いんじゃないのか?もっとこう普通の部屋でいいだろ。
多分俺がいくら吠えてもこのセーシュという女は絶対に俺を牢屋から出してくれないだろう。
「わかった、俺は別にここでもよ……くは無いが、ミシェルは何処にいるんだ」
「ああ、あの少女なら大丈夫だ。安心しろ」
「その言葉、信じてもいいのか」
「信じて構わん」
軍人の言う事など信じてられるか、やはりこの基地から抜け出した方がいいのだろうか。
「さて、私はそろそろ行くかな」
俺の牢屋の鍵が閉まっていることを確認すると、セーシュはそそくさと出て行ってしまう。
この牢屋から出る事は簡単だ、逃げるのも俺一人なら簡単だろう。
BNの奴等は多分俺を悪いようには使わないはずだと思うし、やはりここで暴れるのはまずいか。
となると……やっぱここで辛抱するしかないのか。
「おっと、すまない。そういえば言う事があった」
「あうっ?!」
突然部屋内に戻ってくるセーシュに驚いてつい変な声が出てしまった。
「何をそんなに驚いている、もしかしてお前……」
「何か変な事考えてないか?それより俺に言う事があるんじゃないの」
「そうだな、お前のその包帯。取り替えた方がいいだろう?」
俺の手足、体、そして顔にもグルグルと巻かれている包帯。
真っ白だった包帯に血が滲み、赤茶色に変色しているのが目立っていた。
「取り替えてくれるのか?」
「後1時間後にアリスが来る、と思う。彼女に換えてもらえ。以上だ」
そう言うと女はまた部屋を出て行ってしまう。
彼女も彼女で忙しいのだろう、働く女は逞しいもんだ。

───「羅威、なんでこんな所に俺を……」
「俺が奢る、だから座れ」
俺と愁が今いる場所は軍にある食堂だった、愁は渋々食堂の席に座ると羅威は愁の正面の椅子に座る。
ここに来る前、廊下で一人ボーッと突っ立っている愁を見つけたが見るからに落ち込んでいた。
本当分かりやすい奴だ、どうせ紳に言われた事に自分で自分を責めていたんだろう。
「愁、確かにお前のした事は間違っていたかもしれない、だが俺は───」
「はい、カレー二つお待ち」
俺が話そうとした矢先にカレーは二つ運ばれてくる。
「本当羅威ってカレーが好きだよね」
「あ、ああ。安い、美味い、辛いの三拍子が揃っているからな、って……今はその話じゃ」
そしてまた俺が話そうとした時に愁が先に口を開いた。
「羅威の事だから、俺の事を気遣ってくれたんだよね。心配かけてごめん」
「べ、別に心配なんてしてない……ただ、あまり自分を責めるな」
「わかってるよ、わかってるけど、ね」
自分が兵士達を殺したことに罪悪感を持っているのか?
だが愁が何をした、命を賭けて一人の兵士を助けようとした男だぞ。
「お前の責任じゃない、皆の責任だ、これからの事を考えていけばいい」
「ありがとう羅威、羅威が居てくれて本当に良かった……」
「まっ、さっさとカレーを食べて元気を出す事だな」
愁の皿にはまだカレーが半分以上残っているが、既に羅威は食べ終えていた。
そしてお店の店員を呼び止めるとさらにカレーを注文している。
「でも羅威ってすごいよね、俺は一人じゃ何も出来ないから」
「人は一人じゃ何も出来ない。当たり前だろ」
簡単に言って見せた、そしてテーブルに置かれている水を一口飲む。
愁は呆気に取られたような顔をしていたが、また軽く笑って見せた。

───その頃、穿真達はミシェル達がいる部屋に来ていた。
甲斐斗とは違い、牢屋でもなく普通に一室、窓もあるし風呂やベットまで少し豪華なくらいだった。
部屋の前には武装した兵士の見張りまでついている。
「この子はこんな部屋なのに、どうして甲斐斗は牢屋なのかしら?」
エリルがそう穿真に聞いてみるが、穿真は部屋の隅っこに座っているミシェルと色々喋っていた。
「俺の名前はせーんーま」
「せんま?」
「そうそう!穿真な!」
丁度ミシェルに自分の名前を教えている穿真、自分だけ置いてけぼりされすかさず穿真の襟を引っ張る。
「ちょっと穿真!私の話聞いてるの?」
「聞いてるって、そりゃあ、あんなミイラ男とこんな可愛い女の子なら扱いが違ってもおかしくねーって」
そう言うとまた穿真はミシェルの元に向かい喋りだす。
「それ本気で言ってるの?」
「ほーら見てろよー、ロケットパーンチッ!」
そう言って前に突き出された右手は勢い良く飛ぶと簡単に部屋の壁に穴を開けめり込んだ。
穿真は面白半分でやっているようだが、ミシェルは恐怖のあまり毛布に包まってしまう。
「あ、あれ。怖かった?」
「あんたねぇ、右手が飛んだら誰だって怖いわよ。ってか何その一発芸」
「面白いと思ったんだけどなー」
穿真は笑いながら部屋のめり込んだ右手を引き抜くと、右手首に右手を取り付ける。
穿真の義手は精密かつ頑丈に作られていた、指の動きも人間そっくりであり人工皮膚も張ってある。見た目だけは普通の手と何ら変わり無い。
「かいと、かいとぉ……」
毛布に包まりながら呼び続ける一人の名前。
「大丈夫だって、あのミイラ男は生きてるし、別に何もしねえから」
「そんな事言ったって心配よ、彼とこの子を会わせる事は出来ないのかしら」
「今はまだ無理かもしれねーが、時間が何とかしてくれるかもな」
「……そうね、今はまだ無理よね」
今日出会ったばかりで身元も不明、そんな男を信用しろと言われても無理な話。
やはり少しずつあの甲斐斗という人から話を聞いていかなければならない。
「んじゃ、そろそろ俺達も……」
すると、毛布からひょっこり頭を出して穿真とエリルと見つめだすミシェル。
まるで二人に帰ってほしくないかのようにミシェルの瞳が訴えかけていた。
「か、可愛い──!」
「ちょ、穿真!?」
「いやお前見ろよあの目を!あのうるうるっとした瞳を!」
いきなり全開で発狂しだした穿真は、ミシェルの包まっている部屋の隅にまた戻ってしまう。
「俺はもう少しこの子と遊ぶは〜、エリルは先に帰ってていいぜー」
ニコニコと笑顔で手を振っている。明らかにエリルを帰らせようとしている。
「はぁ、わかった。それじゃ私は先に戻るね……このロリコン」
「あ?今何か言っ───」
最後にそう言って部屋を出て行ったエリル。
部屋を出るとやはり両サイドに武装した兵士が立っていた。

───「これはすごい……ERRORとDシリーズの融合機体、面白いね」
ラースは一人甲斐斗の乗っていた我雲を見て興奮していた。
ERRORの肉片は上手い事に我雲のパーツと組み重なり作動している。
もはや我雲の面影は無い、それは一つの、新種のERRORとして見てもいいだろう。
だがこの機体そのものにERRORの人格は無い、いつ動き出しても不思議ではないのだが何故か動き出さない。
「何らかの力がERRORの侵食を抑えているね。あの甲斐斗という男、一体どんな力を使って止めたんだ……」
この機体をバラバラに解体しようとも思ったが、前より格段に装甲が増して丈夫になっている為に相当な時間が掛かるので断念。
一々解体しているとかなりの時間もかかり、ERRORともなるといつ動き出すかわからないのでそう簡単にいじる事も出来ない。
それにこの機体、一体誰が乗るというのだろうか。いつコクピットがERRORに取り込まれても文句は言えない。

───愁との食事を終えた後、俺は一人ある部屋へと来ていた。
その部屋の扉をゆっくりと開けて中に入っていく、白く透き通ったカーテンは風に靡き、純白のベットが置かれていた。
そしてそのベットには小さく寝息を立てる彩野の姿があった。
だが、俺がドアを開けた音で起こしてしまったのか、体を起こし、閉じていた目蓋をゆっくりと開いてこちらに顔を向ける。
「羅威先輩……」
いつもの笑顔はどうした、いつもの元気はどうした……。
買ってきた果物を机の上に置き、ベットの横に置いてある丸椅子に座る。
「彩野、気分はどうだ」
何故か彩野は俯いたまま俺の顔を見ようとしない。
「彩野?」
顔を覗き込んでみようと彩野に顔を近づけた時、俺の左頬は叩かれた。
咄嗟の出来事に何故叩かれたのかわからなかった、すると徐に顔を上げる彩野の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「先輩のばか!」
「お、おい。いきなり馬鹿は無いだろ」
叩かれた頬を抑えている俺を彩野はじっと見つめてくる。
たしかに俺は馬鹿だ。彩野一人助ける事が出来なかった。
あれだけ大口を叩いておいて、この結果じゃあ俺はただの大馬鹿者だ。
「私を助けてくれなかった罪は大きいです」
「うっ……すまなかった。俺が未熟なせいでお前を危険に……」
落ち込む俺の肩を指で突っつく彩野、目に涙を浮かべながらも何故か俺との視線をそらす。
「わ、私のわがままを一つ聞いてくれたら……その、許してあげてもいいんですよ?」
「本当か?よし聞こう、何でも言ってくれ」
すると、急にそわそわしだす彩野。何か照れているような顔をしている。
「その、えと……」
「遠慮するな、なんでも聞いてやる」
「そ、それじゃあ!わ、私を……っ!」

───その時、医務室の扉の開く音と共にエリルが部屋の中に入ってきた。
「あ、羅威。やっぱりここにいたのね」
「どうしたんだ?」
「私達にお呼びがかかってるのよ、今すぐ5番ブリーフィングルームに来いってね。ほら、早く行こう」
そう言って部屋を出て行くエリル、羅威もすぐにその後を追おうとした。
彩野は寂しそうな顔をして羅威を背中を見ていたが、急に羅威が足を止める。
ゆっくりとベットの方に歩いてくる羅威、そしてベットで起き上がっている彩野を抱きしめた。
突然の出来事で声も出ず、彩野はただただ抱きしめられている。
「お前のわがままは後で聞いてやる、だから今は安静にしておけ」
抱きしめた後、羅威はそっと彩野に顔を近づけた。
彩野の頬には柔らかく暖かいものが微かに当たる。
無言で去っていく羅威、彩野は呆然とした表情で羅威の背中を見送った。
医務室のドアが閉まると音で意識がはっきりと戻った。
唇が触れた感触がまだ残っている頬にそっと指を当てる彩野、そして小さく微笑んだ。
「先輩、大好きっ……」

───急いで廊下を小走りしていると、呼ばれた部屋へと向かうエリルに間に合う事が出来た。
俺はエリルの横に並ぶと走るのを止めて一緒に歩いてブリーフィングルームへと向かう。
「ごめんね羅威、彩と二人っきりの所邪魔しちゃって」
「邪魔?別にそんな事は無い」
「いい雰囲気だったよね〜、何話してたのー?」
横からどんどん話かけてくるエリル、構っているとこっちの身が持たない気がしてきた。
とりあえず軽く流すような返事しか返さなかった。
「ちょっと羅威、聞いてるの?!」
「ん、お前が喋っている間に着いたな、入るぞ」
正直エリルの話を全く聞いてなかった。
部屋の扉が開き、俺とエリルが中に入る。
部屋の中にはおなじみのメンツが既に揃っている状態だった。
「いよぅお二人さん。少し遅かったな」
部屋に入るやいなや早速穿真が話しかけてくる。
こいつは喋ってないと落ち着かないのかもしれないな、エリルと同じだ。
いやまて、穿真が落ち着いている時ってあったか?
自問自答を心の中でしているその時、俺の背中に激痛が走る。
「人の話ちゃんと聞けよなぁお前は!」
「せ、穿真……お前は俺の背中を砕こうとしてるのか?」
「痛かった?少しは手加減したんだけどな〜!」
「わかった、わかったからもう席に着こう、な」

───痛む背中を自分で触りながら席に着く羅威。隣には既に愁が座っていた。
「一体何の話なのかな」
「さあ、だが俺達に関係する話と言えば一体……」
「皆集まってくれたみたいだな、これよりブリーフィングを始める」
皆が席につくとタイミングよくセーシュが部屋に入ってきた。
その右手にはアタッシュケースが握られていた、机の上に乗せると話始める。
「ここに集まっている6人は本部からの命令で新しい部隊となる」
場にいる皆が驚きの表情をしているが、セーシュは構わず事を進めた。
アタッシュケースを開けるとその中には6枚のバッチ・IDカード・身分証明書が入っていた。
「お前達は本部直属の特殊部隊員となる、だが本部所属ではない。
 戦艦リシュードに乗艦し、各地を転々と回ってもらう」
「これまた急な話じゃねえか、でも本部直属の部隊なんてうれしいな!」
「そうだろう、お前にとってはうれしい話だろうな、さて一人ずつ取りにきてもらおうか」
そう言うと穿真が一目散にセーシュの元に向かい、バッチやIDカードをもらう。
次々に皆が席を立ち、セーシュから渡される物を取りに向かう。
羅威も物を受け取り、もらったバッチをぼーっと眺めていた。
そして最後に愁が席を立ち、セーシュの下に向かう。
だが彼女は愁に物を渡そうとはせず、ある封筒を手渡す。
不思議そうにその封筒を開ける愁、中には数枚の書類が入っていた。
「魅剣 愁、今までよく頑張ってくれた、お前にはこの軍を辞めてもらう」
それは余りにも突然で、唐突な話だった。
室内にいた全員がその言葉に反応を見せ、皆の視線がセーシュに集まった。
羅威が急いで室内を見渡す、7人、セーシュを除いて部屋にいる人の数は7人・・・。
「さて、皆に必要な物は配り終えた、また詳しい報告は後日行なう、今日は解散だ」
アタッシュケースを閉じると、セーシュはそのまま部屋を出て行こうとした。
愁は書類を持ったまま、動かなかった。いや、動けなかったのかもしれない。
書類を持つ手がかすかに震え、目の前の現実が頭の中に入ってこなかった。
皆が席に座っている中、一人の男が席を立った。
そしてその男の後ろを通りかかったセーシュの胸倉を掴むとそのまま一気に壁に押し付けた。
「ちょっと羅威!何してるの!?」
すぐさまエリルが止めに掛かろうとしたが穿真が咄嗟にエリルの前に腕を出すと、エリルの足を止めさせた。
羅威はセーシュを睨むようにして胸倉を掴んでいた、だがセーシュは顔色一つ変えずに羅威を見つめている。
「俺達に、納得できるように話してくれないか……愁を解雇する訳を」
「私は知らん、上からの命令だ」
「上からの命令だと?……紳なのか、紳の命令なのかっ!?」
「私は知らんと言っているだろ、その手を離せ守玖珠羅威。上官に向かってそんな事をしていいのか?」
「お前っ!」
理性を抑えきれず、右手を振り上げる羅威、そのままセーシュの顔向けて右手を振り下ろそうとした時、愁が叫んだ。
「羅威!もういいんだ!」
セーシュの顔の横に突き出された拳、羅威が後ろに振り向き愁を見つめる。
「もう、いいんだっ……皆、今までありがとう……」
そう言い残し、愁は手に持っている書類を握り締めながら走って部屋を出て行った。
セーシュは羅威の手を振り解くと、逆に羅威を睨み返した。
「理由が聞きたければ直接若様に聞く事だな、お前の事だ。若様を説得する気だろうがそれは無駄な事だ」
「無駄な事、だと……」
その言葉に羅威の目が変わる、さっきまで睨んでいた目ではなく、驚きの様子だった。
そのままセーシュは部屋を出て行ってしまい、部屋には一つの部隊メンバーだけが残された。
野入のい 穿真せんま
お調子ものの性格、周りを明るくさせるムードメーカー的存在でもある。
赤城に右手を斬りおとされ今は義手をはめているが。
その性能は桁違いであり、我雲の装甲より硬い金属で作られているらしい。
そして重量もかなりある為に軽く当たるだけで相当痛い。




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