第12話 復活、侵食
段々と明るさに目が慣れてくる。
本当はこのまま目蓋と閉じていたかった。
俺が少しずつ目蓋を開けていくと、そこに奴等はいた。
何匹ものPerson態が我雲に張り付き、俺を見ている。
もはや何もいえなかった。俺はただ死を、殺されるのを待つだけだ。
そしてPerson態は大きな口を開けて、俺を頭から一気に丸呑みしようした。
終わった・・・俺は思い切り目蓋を閉じた。
だけどその時、一人の男の声が俺の耳に聞こえてきた。
「目を背けるな」
「えっ・・・」
「見ろ、そして機会を伺え。生き残る為にな」
この言葉・・・紳さん・・・?
俺が目を開けた瞬間、俺を丸呑みしようとしていたPerson態の頭が真っ二つに斬り落とされた。
そしてそこには紳さんではなく、全身黒い服に身を包み、頭に包帯を巻いた青年が立っていた。
「あ、貴方は・・・」
「恩を返しに来た、それだけだ」
その時、俺の胸倉を強引に掴むと一気に上空へと放り投げた。
「ええっ?!」
片手で数mも投げ飛ばされる。
放り投げられた俺は自分が何をされたのかわからなかった。
『もらったーーーっ!!』
エリルの声が聞こえる、この時を待っていたかのように無花果がビルを飛び越えて俺の体を掴む。
「うぉわっ?!」
『エリル、ナイスキャッチだ』
『危機一髪とはまさにこの事ね』
無花果と羅威の乗る我雲が合流し、中央へと向かう。
『愁、あんた大丈夫?どっか怪我してない?』
「あ、ああ。大丈夫・・・・ありがとう、助かったよ」
愁は少し放心状態になっている、無理も無い。
あの男、そしてエリルがいなければ殺されていただろう。
『羅威、あの我雲の上にいた男って一体・・・』
『多分医務室にいた奴だと思うが・・・』
『医務室?もしかして愁が隠していた事ってあの男の事?』
『・・・』
『・・・まぁいいわ、詳しい話は後で聞かせてもらうから』
『今は中央の防衛ラインを死守しに行くぞ』
『ちょっとまって、私達が中央に向かったらここの防衛ラインは誰が守るのよ』
『中央が落とされば全てが終わる、中央だけは絶対に守りきらなければならない』
愁の乗っていた我雲が段々と侵食され、肉のような物が次々に我雲の中に入っていく。
「気味の悪い化け物だ、この機体を取り込む気か?」
包帯の巻いている男はまだ我雲の上に立っていた。
だが、すぐさま愁の座っていた操縦席に座り始める。
もはや原型を止めない程に侵食されていく我雲。
そのまま肉は移動していき、コクピットをも取り込んでいく。
そんな状況の中、男軽く笑って見せた。
「好都合だ」
横一列に並ぶ戦車、押し寄せるPerson態を次々に吹き飛ばしていく。
「撃て!弾など腐るほどある!撃ち続けろっ!!」
だが、Person態にまぎれて、数匹のWorm態が姿を表した。
動きは遅い、だが芋虫のように少しずつ近づいて来る姿を見ると恐怖が段々と増してくる。
戦車隊の集中砲火をもろともせずに、確実に近づいてきている。
そして、口の辺りだろうか。数本の巨大な触手がズルズルと出てきた。
数本の触手からはまた何十本もの赤く細い触手が現れる。
巨大な触手が垂れ落ちる強力な酸。その触手は一斉に伸ばす。
並んでいた戦車は次々に解かされていく。
戦車から降りて逃げようとする兵士達、だが触手から出ている赤色の細い触手は逃がさない。
逃げようとする人間の体に細い触手が何十本も突き刺さっていく。
細い触手についているわずかな酸で人間の体を溶かし。
その解けた肉や臓器、血などを吸い上げていくのだ。
この残酷なら殺し方は既に皆は知っている。
だからもし赤い触手が自分を刺そうとした時、今手に持っている銃で自分の頭を撃ちぬく。
そのほうがが楽なのだ、これほど楽な死に方は無い。
『俺が虫を殺る、お前は好きにしろ』
「はっ、若様の護衛をさせていただきます」
『・・・』
中央の基地の格納庫から3機の機体が姿を見せる。
『白儀』、そして見慣れぬ2体の機体がその白儀の両サイドに立っている。
両肩に足元まで延びているシールドが特徴的であり、白儀の右側にいる機体は大きな薙刀を持っている。
「ダン様は好きに行動してくれて構いません、私は若様をお守りします」
『俺の仕事は紳を守る事だ、俺も協力するぜ』
「でしたら、機体の中で煙草を吸うのは止したほうが・・・」
『こうした方が俺は落ち着くのさ、一本いるか?』
「いりません」
まだ聞いている途中だが、通信を強引に切られるダン。
通信に切れたモニターの前で一服している。
『さて、お仕事しますかねぇ』
「も、もう無理だ!」
次々に殺されていくBNの兵士達。
手に持っている銃を奴等に撃とうが、奴等は怯まずに兵士達に近づいてくる。
兵士達は次々に自分の頭部に弾丸を撃ち込んでいく。
だが、中には死を迷い。ためらう兵士もいた。
兵士達はひたすら走り、奴等から逃げようとする。
道には無残に破壊された我雲が何体も倒れている。
だがコクピットは既にPerson態に食い破られていた・・・。
奴等がこちらに振り向く、その顔は笑っていた。
何体ものPrson態が俺達を笑っている、何がおかしい。何故笑う。
そして、俺と供に逃げていた仲間達の気が狂い始めた。
一人はマシンガンを持ってPrson態の集団中に一人撃ちながら走っていく。
だがその兵士を誰も止める事はない。
奇声を発しながら、ニタニタと笑ってくるPrson態に銃を撃ちつくす。
例え弾が無くなろうとも、何度も何度も引き金を引いている。
そして強力な酸の舌が、一瞬で兵士の頭を溶かした。
ふと周りを見てみると、血と肉が散乱している。
山済みになっているPrson態、Beast態の死骸。
奴等は死んでも、俺達を笑っていた・・・。
その時だった、俺達の目の前を何かが通り抜ける。
それはまるで風のように、何が起こったのか理解できなかった。
「セーシュ隊長!?」
「お前達、よくここまで生き残った、後は我等に任せろ」
兵士達の前に全身白色の機体、『ハルバード守護式』の姿があった。
「化け物供め、兵士達の晴らせぬ恨み、この『守護式』で晴らしてくれようぞ」
次々に走り寄って来るPrson態、守護式は巨大な薙刀を振り下ろし、周りのPerson態を一撃で一掃する。
そして肩のレールガンで兵士達に近づいていくBeast態とPerson態を次々に吹き飛ばしていく。
だが、一匹のBeast態が守護式の後ろに回りこんでいた。
その時、一発の弾丸がBeast態の頭部を吹き飛ばす、返り血を浴びる守護式、純白の機体が血で汚れる。
『セーシュさんよ、これが一服した俺の力よ』
もう一体の『守護式』、両手にリボルバーを握っている。
離れた距離から一撃でBeast態を仕留めた男、さすが『守護式』に乗る程の力を持っている。
「感謝いたす、我は若様の害になるものを引き続き排除しに向かう」
『おいおい、少し興奮しすぎじゃねえか?喋り方おかしくなってるぞ』
「はっ、すみません。つい癖で・・・」
Worm態が中央に向かっている途中、前方に一つの機体の姿が見える。
その機体、白銀の鎧を身に纏い、純白なマントを靡かせ立ちはだかる『白義』。
何匹ものWorm態が一斉に触手を伸ばし『白義』に襲いかかる。。
紳はギリギリの所で触手を交わし、二本のLRSで触手を断ち斬っていく。
何本もの触手が飛び交う中、全ての触手を回避していき、そして確実にWorm態に接近していく。
「チェック」
右手に持っているLRSをWorm態の頭部に突き刺す。
そのままWorm態の頭上を越え、体にそってWorm態を切り捨てる。
一瞬で真っ二つにされるWorm態。そして白義はその死骸を踏み台にして上空に舞い上がる。
高らかに舞い上がる白義、そして両手に持っているLRSを同時に投げ込んだ。
LRSはそのまま一直線に飛び、両サイドにいたWorm態の頭部に深く突き刺さる。
LRSを投げ捨てたと同時に両腰に付いてあるハンドグレネードを投げ落とす。
Worm態の周りにいたPerson態が次々に爆発に巻き込まれていく。
その時、LRSが頭部に刺さった一体のWorm態は直も生きており、中央に近づいていくのがわかる。
白義は落下すると同時にWorm態の目の前で着地、触手が出る前にLRSで突き抜けられた頭部にグレネードを強引に突っ込む。
「チェックメイト」
予めピンを外しており、頭部に入れて離れた瞬間に爆発を起こし、肉片が辺りに飛び散る。
中央に向かおうとしていたWorm態、Person態が白義一機で全滅してした。
「数が・・・少ない・・・」
『あいつ等どうするの?!まだ追って来るよ!!』
中央へと向かおうとする無花果と我雲。
だが後ろかたは夥しい数のERRORが追って来ている。
「俺が時間を稼ぐ、お前は愁を連れて中央に向かえ」
『時間を稼ぐって、あんたもう弾が無いでしょ!』
「LRSと盾があれば十分だ、それに俺は時間を稼ぐだけ、すぐに俺も中央に向かう」
その時、コクピットについてあるモニターにセーシュの姿が映し出される。
『その必要は無い、中央の防衛ラインは若様と私達が食い止めた、お前達は残りのERRORを排除してくれ』
「ちょ、セーシュ!『お前達』って、このエリアにはもう私と羅威しかいないのよ?!」
『それなら援軍が来るまでしばし持ちこたえろ、何処のエリアも今交戦中だ』
「了解、Errorを掃討する。だがエリルは愁を連れて一度中央に戻ってくれ」
そう言い終えると、羅威は通信を切り、LRSを片手に装備する。
愁は考えていた、俺が皆に迷惑をかけてしまった、本当なら俺も羅威と戦いたい。
この場に羅威一人を置いて行ってしまって、本当にそれでいいのだろうか・・・。
「・・・エリルさん、俺は一人で中央に戻る。ここで下ろしてくれ!」
『はぁ?何馬鹿な事言ってるの、もしERRORに襲われたらどうするのよ!』
当然反対されると思っていた。
でも、ここを羅威だけに任せる訳にはいかない。
「大丈夫、エリルさんと羅威がここを防衛してくれればERRORは俺の所には来ない。
それに羅威を一人にする方がよっぽど危険すぎる!エリルさん、お願いします・・・!」
『愁、何を言っている。俺の事は気にせずにさっさと行け・・・奴等がもう来ているぞ』
既にERROR達がざわざわと蠢きながら我雲に近づいてきていた。
足元に群がってくるPerson態を踏み潰し、LRSを片っ端から斬っていく。
だが数が多い、Person態の群れが機体に取り付けば確実に食い殺される。
「エリルさん!お願いします・・・!ここに残って羅威と戦ってください!」
『・・・ダメよ。一度中央に戻るわ』
「エリルさん!」
羅威の乗る我雲に背を向けて、発進する無花果。
俺は無花果に軽く握られ、抜け出す事さえ出来なかった。
「行ったか」
迫り来るError達の前で、一歩も引かない羅威。
「鬼ごっこの始まりだ」
波のように押し寄せてくるERROR、腰に付いてある手榴弾を2つ手に取り、その波の中に放り投げる。
その手榴弾に気づいたBeast態はその場から離れる、だがPerson態はそれには気づかず押し寄せてくる。
「言っておくが、俺が鬼だ」
手榴弾が爆破、辺りにPerson態の肉片が散乱する。
我雲は一気にブーストを展開、手榴弾で穴の開いたERRORの中に特攻していく。
今だけはBeast態が回りにいない、Person態の数を少しでも減らすなら今しかない。
飛びついてくるPerson態をシールドで弾き、LRSで次々に斬っていく。
しかし敵は一匹でも一種でもない。
手榴弾を交わしたBeast態が一斉に羅威の乗る我雲へと走ってくる。
斬っても斬ってもPerson態の数が一向に減らない。
それ所か奴等が増えていかのように思えてくる。
「我雲の出力を舐めるな」
次々に飛び掛ってくるBeast態を、華麗に避けていく羅威。
すれ違いざまに一匹のBeast態の頭部を斬り落とす。
「よし、後は・・・」
『─Error─』
羅威の目の前のモニターにErrorの表示が出てくる。
一匹のPerson態が我雲の背後に取り付いていたのだ。
「いつのまに?!くそっ!」
機体を左右に揺さぶり、必死に背後に取り付いたERRORを振り落とそうとするが、一行に落ちない。
それ所か、背後から機体の装甲を食い破っている。
「直接俺を殺す気か、それとも・・・」
『─ERROR─』
『─ERROR─』
『─ERROR─』
コクピットの席に付いてある非常用の赤いランプが点滅し始めた。
機体の動きが少しずつ鈍くなり、機能が停止していく。
羅威はとっさに機体を後ろに倒し、背後に取り付いているERRORを機体で押しつぶすが、
その隙に回りにいたPerson態が次々に取り付いて来る。
必死に操縦桿を動かすがERRORに身動きを奪われて手足を動かす事さえ出来ない状況だ。
「機動回路が破壊されたか・・・」
もう機体を動かす事は出来なくなった。
通信からはノイズ音とPerson態が装甲を剥いでいる音しか聞こえない。
・・・今更命乞い等はしない、愁やエリルは無事に基地に戻れたと思うしな。
我雲の装甲が食い破られていく音が大きく聞こえてくる。
次々に胸部に着いている装甲を食いちぎり、そしてハッチをこじ開けた。
俺の目の前には大きな口をしたPerson態がずっとこっちを見ている。
奴には目は無い、だが何故か視線を感じる。
「例え俺が死んでも俺達BNは、お前等化け物には負けん、絶対にな」
俺が死を覚悟した時。
さっきまでノイズ音が走っていたスピーカーから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『NFをぶっ潰すまでは生きるんじゃなかったのかぁッ!?羅威!』
『俺達が力を合わせて築いて行くんだろがっ!この世界を!』
その時だった、俺の目の前にいたPerson態の体に次々に風穴が開いていく。
一体だけじゃない、俺の機体に張り付いているPerson態が全て銃殺されている。
『オラオラオラッ!羅威は殺らしゃしねえよ!』
凄まじい発砲音がコクピット内に響き渡る。
一機の我雲が羅威のモニターに映し出されると、そこには両手にマシンガンを装備し、
俺の機体の近くにいるPerson態を次々に撃ち抜いていく。
波のように押し寄せるERRORに怯む事無くマシンガンをひたすら撃ちまくる。
あの声、そしてあのマシンガンをぶっ放す姿。
「穿真か!?どうしてお前が我雲に乗っている!」
『サイボーグ穿真の登場だぜ?』
「・・・右手の義手は完成したという事か」
『さすが羅威、話が早い。それならさっさとその我雲を起こしにかかれッ!』
「・・・それは無理だ、回路が破壊されているからな・・・」
『だったら「AMOS」に切り替えろ!あれなら関係なく動かせんだろ!』
「なっ、あんな手間の掛かる作業をするのか、今ここで」
『時間は俺が稼ぐ!死にたくなけりゃあさっさと取り掛かれやぁッ!』
相変わらず一言一言がうるさい奴だ。
両手に持っていたマシンガンを全て撃ち尽くした穿真。
手に持っていたマシンガンを左右に投げ捨て、今度は両腰に着いているサブマシンガンを手に取る。
『武器なら腐る程あんだよ!』
穿真が時間を稼いでいる、やるなら今しかない。
『おいまだかっ!?』
羅威のコクピットについてあるモニターに穿真の姿が映し出される。
それと同時に羅威の乗っている我雲がその場に立ち上がる。
装甲が剥ぎ取られ、左腕からは火花が出ている。
「穿真、立つ事と右腕を動かす事しか出来ないが、これで十分だろ」
『って事は、ここでERRORを食い止める気か。やってやろうじゃねぇか!』
左手に持っているサブマシンガンを羅威の乗る我雲に投げ渡す穿真。
羅威はそのサブマシンガンを受け取るとERRORの群れに容赦無く銃をぶっ放す。
だが撃った弾丸はERRORではなく横のビルを打ち抜いていく。
『何処狙ってんだ馬鹿!弾がもったいねえぞ!』
「っち、反動のブレと誤差修正、銃の重量データを入れなければ・・・」
『ならさっさと入れろっての!』
そして、ついに穿真の持っていたサブマシンガンの弾がついに切れる。
ほとんどのPerson態は駆除できたが、まだその後ろにBeast態の姿が見える。
「弾切れか・・・?」
『・・・』
両手に持っていたサブマシンガンも投げ捨てる穿真。
そして背中から2丁グレネードランチャーを取り出してくる。
『俺の攻撃はまだ終わらねえぜ!』
ニヤリと笑ってみせた穿真、引き金を引くと勢い良くグレネード弾が放たれていく。
素早い動きで避けようとするBeast態、だが穿真はグレネード弾をピンポイントでBeast態に当てていく。
その爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていくPerson態。
『ヒュ〜、俺も射撃の腕が上がったんじゃねえか?』
「ったく」
穿真が振り返ると機体の後ろに血塗れのBeast態が横たわっている。
『へ?』
そしてデータを入力し終えた我雲がサブマシンガンの銃口をそのBeast態に向けていた。
「馬鹿野浪、敵が前から来るとは限らんだろ、後ろにも気を配れ」
『あ、ああ。そうだな』
俺も前方ばかり気にしていたから回路を破壊されたんだ。
奴等は群れを成して殺しにかかる、それを憶えておかないとな・・・。
「穿真のおかげで大分数が減ったな」
『後は残りのERRORを片付けに行くかぁ!』
「俺は行けんがな」
羅威の乗っている我雲の両足が折れ、胴体がその場に崩れ落ちる。
『っと、まずは羅威を中央まで送るか』
「すまん・・・」
ハッチの無いコクピット席から羅威が降りてくる。
穿真は我雲の手の平を差し伸べ、その上に羅威が移動する。
その場に座り込んでしまう羅威、全身の力が抜けたような疲労感が一気に押し寄せてきた。
だが、戦いはまだ終わっていない。 |