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第7話 『パイの分け方』
【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー


○屋外のフードコート

地球家族(父を除く5人)がランチを食べている。父はデザートを買いに行っている。
ミサ「こういうオープンなところでランチするのもいいわね」
父が袋を持って戻ってくる。
父「おーい、おいしそうなパイがあったから、買ってきた。5個あるから、ひとつずつ取りなさい。私はいいから」
タク「わー、おいしそう。パインにイチゴに・・・」
母「じゃあ、リコから、好きなのとって」
リコ「うん、じゃあ・・・」
父「ちょっと待った。いつも思うんだけど、一番小さいリコが最初に選ぶよりも、じゃんけんで勝った人から順番に選ぶほうがいいんじゃないか。我が家は何事も公平にするのがモットーだから」
ミサ「よし、じゃあ、じゃんけん」
母「私はいらないわ。最初に勝った人が、最後の1つも食べて」
ジュン「え、ほんと?」
ジュン・ミサ・タク・リコ「じゃんけんぽん」
ジュンが勝つ。
ジュン「なんか、長男の僕が勝っちゃって、なんだか申し訳ないけど、じゃんけんだから恨みっこなしということで。じゃあ、どれにしようかな。よし、イチゴ!」
ジュンの皿に2個、ミサ・タク・リコの皿には1個ずつパイが乗っている。
ジュン「いただきます」
ジュン、イチゴのパイをかじる。
ミサ「リコはイチゴのパイが食べられなくて残念ね」
ジュン「ん、そうか、イチゴはリコの好物だったっけ。ごめん。最初に言ってくれればよかったのに。僕はどれでも良かったんだよ」
母「お父さんの言うとおり、確かにじゃんけんで決めれば公平に見えるけど、ジュンのようにどれでもいいという人もいれば、リコのように、イチゴが大好物という人もいる。この場合は、まずリコが先に選んだほうが、みんなが満足になるわよね」
ミサ「なるほど」
父「いや、もっと難しい問題もあるよ。リコはイチゴが大好物で、ジュンは大好物というほどでもないと言ったけど、それが本当なのかという問題だ。人それぞれ、自分の好みを言うときの表現の大きさが違うからね」
ジュン「そんな・・・。本当に人一倍好きだということを客観的に証明するなんて、無理だよ」
父「ハハハ、そのとおりだ」

○しばらくして

みんな1個ずつ食べ、ジュンの皿に、もう1個パイが残っている。
ジュン「じゃあ、遠慮なく、2つめをいただきます」
ジュン、残りのパイを食べる。
ミサ「でも、お母さんはどうして食べないの? パイは嫌い?」
母「ううん、大好きよ。ただ、さっき歩いていて思ったんだけど、この町はパイの店がいっぱいあるでしょ。もしかすると、パイはこの国の名物なんじゃないかと思って」
ミサ「それで?」
母「食べ終わったらすぐにホストハウスに行かなきゃいけないけど、パイが出されるような気がするのよ。パイは好きだけど、一度に何個も食べられないと思って、今はやめておいたの」
ジュン「ん、そうか。それも先に言ってくれればよかったのに。僕、もう2個も食べちゃって、満腹で、これ以上出されても食べられないよ」
母「ホストハウスでパイが食べられるというのは、あくまで私の勝手な予想だから」
ミサ「でも、お兄ちゃん、甘いものいくらでも食べられるでしょ」
ジュン「いや、僕の年になると、もうそうでもないんだよ」
父「さあ、そろそろ行こうか」

○ホストハウスの玄関前

1階がパイの店になっている。
父「あ、今日泊まる家、パイ屋さんだぞ」
ミサ「本当だ」
リコ、玄関のドアを開ける。
リコ「おじゃまします」
HMが出てくる。
HM「いらっしゃい。さあ、おあがりください」

○ダイニング

地球家族6人とHMが着席。
HM「1階を見たと思いますけど、主人と二人でパイの店をやっています。主人がパイを焼いて、私が売り場の担当で。今、さっそく特製アップルパイを切りますから、ちょっと待っていてくださいね」
母「まあ、ありがとうございます」
リコ「すごい、お母さんの言うとおりだったね」
母(小声で)「ちょっと、リコったら」
HMが部屋から出て行く。
ジュン「どうしよう。もう僕、食べられないよ。後悔先に立たずだ。でもやっぱり、出されたものは食べないと気を悪くされるかな」
ミサ「たぶんね。自家製だからなおさら」
母「ジュンはお腹の調子が悪いって、私から言ってあげようか?」
HMがアップルパイを乗せた6個の皿を乗せた盆を持って戻ってくる。
HM「お待ちどうさま」
HM、皿を配り始める。
HM「はいどうぞ」
なんと、ジュンの皿だけ、アップルパイがほんの一口しか乗っていない。他の皿は、アップルパイが一切れずつ乗っている。全員の視線がジュンの皿に向けられる。
HMは何事もないような優しい表情。
HM「遠慮なく食べてください」
地球家族6人、呆然としている。
母「あの・・・」
HM「はい?」
母「ジュンが今あまり食べられないって、どうしてわかったんですか?」
HM「あ、そうか、地球の方には見えないんですね。ちゃんと顔にかいてありますよ」
父「顔に?」
HM「この国では、誰が何をどれだけほしいか、顔を見れば全部わかるんですよ。だから、ほしい人にほしい分だけ配る。これが公平な配り方です」
タク「へえ」
ジュン「地球では、それはわからないので、みんなに同じものを配るのが普通なんですよ」
HM「それじゃ、いろいろと不都合なんじゃないですか? それで困った体験談があったら、教えてもらえませんかしら。なんだか面白そうだから」
母「そうねえ。そう言われても、それが当たり前だから、思いつかないわ。逆に、ほしいものが顔にかいてあることで、いいこと悪いことって、何があるんですか?」
HM「私たちにとって、それが当たり前だから、やっぱり思いつかないわ」
そのとき、HFが部屋に入って来る。コック帽をかぶっている。
HF「みなさん、ようこそ」
HM「あ、ご紹介します。主人です。パイ焼きの名人なんですよ」
HF「いえ、名人ではないんですけど、いろいろ新製品作りにこっています。ぜひ、店を見に来てください」

○パイを作る調理場

HFが地球家族6人を案内している。
ミサ「すごーい。いい匂い」
HF「一番の自慢は、このミニサイズのパイです」
棚には、いろいろな種類の小さなパイが並んでいる。
ジュン「全部果物を使って動物などの絵が描いてあるのか」
HM「主人の悪趣味なんですよ。パイは味だけで勝負すればいいと私は思ってるんですけどね」
HF「悪趣味とはひどいな」
父「そうですよ、これはすばらしい。他に種類はもうないんですか?」
HF「何でも作れますよ。リクエストしてみてください」
ジュン「リコ、何がいい?」
リコ「じゃあ、メガネガメ」
HF「メガネガメ?」
母「亀です。地球で大人気のキャラクターなんです。この、リコのポーチに描かれている、これです。リコが大好きで」
母、リコのポーチに描かれた絵を指す。
HF「非常に気に入りました。メガネガメか。よし、じゃあ、メガネガメのパイを作ってみせましょう」

○客間

地球家族6人がくつろいでいる。
ミサ「ここのアップルパイ、本当においしかったわね」
母「ジュンの前でアップルパイの話は禁止よ」
ジュン、パイが食べられなかったのでしょんぼりしている。
タク「リコも満足?」
ミサ「リコはイチゴのパイが食べたかったのよね」
リコ「そうだ!」
リコ、何か思いついたような表情で部屋を飛び出す。

○パイを作る調理場

リコが入ると、HFがちょうどパイを焼いている。
HF「あ、今ちょうど、メガネガメのパイを作っているところだよ。完成まで秘密だから、見ちゃだめだよ」
リコ「お願いがあります。目はイチゴを使って作ってください」
HF「イチゴ? イチゴは赤いじゃない。メガネガメのめがねは確かに赤いけど、目は白かクリーム色のようだけど・・・」
リコ「イチゴを半分に切って使うんです。そして、切り口のほうを表にするんです。イチゴの切り口は白っぽいでしょ」
HF「なるほど、そうだな。了解」
リコ、ほほえむ。

○翌朝・パイを作る調理場

地球家族6人が入ると、HFがパイを焼く準備をしている。
父「おはようございます」
HF「おはようございます。ちょうど焼きあがりました。メガネガメのパイ。見てください」
HF、みんなにパイを見せる。メガネガメのパイが10個以上並んでいる。
リコ「わー、すごい。こんなにたくさん」
HF「試しに1つ作ってみたら、見栄えも味も、我ながら大満足だったんで、大量に作ってみたんです。さっそく、今日、大手スーパーを呼んで試食会をすることにしました」
タク「試食会?」
HF「新製品を審査してもらうときに、いつもやるんですよ。審査に合格すれば、スーパーで売ってもらえます」
ミサ「楽しそう。私も試食したいな」
HF「そうだ、ぜひみなさんも出てください。このパイが出来たのも、リコちゃんのおかげですから」

○会議室

スーパーの社員3人と地球家族6人が着席している。HFが立っている。
ミサ(小声で)「結構、重々しい雰囲気ね」
HF(部屋の外に向かって)「おーい。焼きたてを会議室に運んでよ」
HM「はーい」
しばらくして、お盆を持ったHMが入って来る。
HM「お待たせしました。どうぞ」
HM、皿を配り始める。皿に1個ずつメガネガメのパイが乗っているが、なんと、イチゴが全部えぐりとられている。
そして、えぐりとられたイチゴは、すべてリコの皿に乗っている。唖然とする地球家族6人とHF。HMは何事もないような優しい表情。
ミサ「え?」
タク「あ」
ジュン「イチゴが全部、リコの皿に・・・」
リコ「・・・」

○客間

地球家族6人がくつろいでいる。
リコがしょんぼりしている。
タク「リコ、今日はイチゴがたくさん食べられて、満足?」
ジュン「そんなのなぐさめにならないよ」
父「でも、リコがどれだけイチゴが好きかってことが、客観的に証明されたわけだね」
リコ「自分がうらめしい・・・」


【原作】砺波元
【脚本】砺波元



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