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第29話 『全力疾走のランナー』
【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HS(ホストハウスの息子) 13歳

○ホストハウスへの道

地球家族6人が歩いている。
タク「疲れたよー。まだ着かないのかな」
ジュン「ふー。ミサは元気だな」
みんなへとへとになっている中、ミサは元気に歩いている。
ミサ「私、持久力が結構あるのかも」
タク「そうか、ミサ、地域のマラソン大会で優勝したんだもんね」
ミサ「マラソンじゃないわ。中距離よ。1500メートル走」
父がキョロキョロしている。
父「おかしいな。この辺だと思うんだけど・・・」
そのとき、ランニングシャツと短パンの少年(HS)が走りながら地球家族を追い抜き、振り向く。
HS「あ、もしかして、地球のみなさんですね。こんにちは。うちはすぐそこですよ」
HS、一軒の家を指さす。
ミサ、HSに見とれている。
ミサ「(心の中で)か、かっこいい・・・」

○ホストハウスのダイニング

地球家族6人とHF、HM、HSが座っている。
HM「道がわかりにくかったでしょう?」
父「ええ、でもちょうどHS君に家の前で会えたので助かりました」
HS、ニコリと笑う。
ジュン「ジョギングの途中だったの?」
HS「いえ、近所で走る練習をしていて、ちょうど家に帰るところだったんです。明日運動会だから」
タク「運動会? 学校の?」
HS「いいえ、この地域の大会です。」
HM「代表選手に選ばれた若者たちだけで行うんです。息子はマラソン選手として選ばれまして・・・」
HS「マラソンじゃないってば。1500メートル走だよ」
ジュン「ハハハ、ミサと同じだ・・・」
HM「ミサさんも、足が速いのね?」
ミサ「いいえ、短距離は全然だめなんですけど、1500メートル走ではいつも代表選手に選ばれて、負けたことがないんです・・・」
ジュン「そうそう、ミサはつい最近、地域の大会で優勝したばかりですよ」
HM「まあ! HS、聞いた?」
HS「もういいよ、お母さん」
HS、照れ笑いする。
HF「HS、明日は頑張れよ。お父さん、写真撮りに行くからな。(地球家族に向かって)あ、私は実はカメラマンなんです。明日は、『若者新聞』に載せる運動会の写真を撮る予定なんです」
タク「『若者新聞』?」
HF「この国の少年少女の大部分が読んでいる新聞ですよ」
HM「あなた、今度こそ頑張って、いい写真撮ってね。いつもライバルのカメラマンに負けちゃって、まだ一度も新聞に採用されたことないんですよ」
HF「明日こそ、きっとな」
ジュン「僕たちも、運動会、見に行きたいな。HS君はいつごろ出るの?」
HS「1500メートル走は最後だから、午後2時ごろです」

○夜、客間

ミサがボーっとした顔で座っている。ジュンとタクがそばに来る。
ジュン「HS君は、まさにミサの好みのタイプだろ」
ミサ「うん、会った瞬間、すぐにビビッときたよ・・・」
タク「確かに、彼はかっこいいよな」
ミサ「それもあるけど、私を引きつけたのは彼の目が輝いていたことね。とてもきれいな目だわ」
ジュン「・・・」
ミサ「そのあと気がついたんだけど、彼の両親も目が輝いているわ。親譲りのきれいな目。今日まさに私に会うために生まれてきてくれた、っていう感じ・・・」
ジュンとタク、あきれたように顔を見合わせる。
ミサ、心の中でHSに話しかけられる場面を想像する。
ミサの空想の中のHS「(ミサに)よかったら、今から二人で公園にでも行かないか?」
ミサ「(心の中で)・・・なんてこと、あり得ないかな・・・」
そのとき、ドアが少しだけ開き、HSが顔をのぞかせる。
HS「(小声で)ミサさん、ミサさん、ちょっと」
ミサ「どうしたの?」
ミサ、部屋の外に出る。

○廊下

HS「今、忙しい?」
ミサ「いえ、別に。どうしたの?」
HS「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど・・・」
ミサ「え?」
HS「といっても、近くの公園なんだけど、いい?」
ミサ「(照れながら)は、は、はい!」
HSとミサ、玄関に向かう。
客間のドアが開き、ジュンとタクがミサの様子をうかがう。
ジュン「ミサ、やるじゃないか」

○夜の公園

HSとミサが立っている。HSは短パン姿。
ミサ「(心の中で)公園って、運動公園か。広くて、誰もいないわ・・・」
HS「あの、ミサさん。折り入ってお願いがあるんだけど・・・」
ミサ「な、何かしら?」
HS「さっきの話、ほんと? 1500メートル走で、いつも一等だって」
ミサ「あ、あー、まあね・・・」
HS「僕、どうしても一等になれないんだ。いつもいつも二等で」
ミサ「それで?」
HS「明日の運動会、なんとかして一等とれないかな、と思って。何かアドバイスしてもらいたいんだ」
ミサ「え、私にできるかしら」
HS「とりあえず、ここで走ってみるから、見ててよ」
HS、走り始める。

○公園のトラック

HSが走っている。ミサが見ている。
ミサ「(心の中で)速い。速いわ。というか、速すぎる」
HS、しだいに疲れてくる。走りがみるみるうちに遅くなり、息切れして倒れるようにして座りこむ。
HS「(息を切らしながら)ミサさん、どうだった、僕の走り?」
ミサ「もっとペース配分を考えたほうが、タイムを短くできるんじゃないかしら」
HS「ペース配分?」
ミサ「そう。前半は体力を温存して、最後にスパートをかけるの。短距離と違って、かけひきも必要だと思うから」
HS「温存? スパート? かけひき? どういう意味?」
ミサ「え、スパートとか、かけひきとかいう言葉を聞いたことないの?」
HS「ないよ。この国には無い言葉だと思う」
ミサ「本当?」
HS「ごめん、ちょっと水飲んでくるから、待ってて」
HS、フラフラと立ち去る。
ミサ「(心の中で)スパートという言葉が、この国には無い・・・」
そのとき、後ろの草むらの陰からジュンとタクが出てくる。
ジュン「ミサ、どうした?」
ミサ「ジュン、タク! ついて来てたの?」
ジュン「ミサの恋の行方が気になってね」
ミサ「そんなんじゃないの。それより、わかったわ。HS君が一等になれる方法!」
タク「え?」
ミサ「この国には、ラストスパートとかペース配分という考え方が存在しない。ということは、きっと全員が最初から全力疾走するんだわ。そこへHS君がペース配分を考えて走って、最後にスパートをかければ、きっと一等になれるはずよ!」
ジュン「?」
ミサ「HS君!」
ミサ、HSのもとにかけていく。

○しばらくして、公園のトラック

HSとミサが並んでスタート位置に立っている。
ミサ「今度は、私と一緒に走ってみましょう」
HS「うん」

○しばらくして、公園のトラック

HSが前を走り、すぐ後ろをミサが走る。
やがてHSが疲れた表情を見せ、スピードが落ちる。
ミサがHSを追い抜き、ゴールイン。
HS「(息を切らしながら)なんで? 途中までずっと僕のほうが速かったのに・・・」
ミサ「HS君のほうがきっと基礎体力はあるのよ。それでも私が勝てたのはなぜだかわかったかしら? 地球では普通なんだけど、これが少しでもタイムを良くする方法なの。前半飛ばしすぎずに体力を残しておいて、全力疾走するのは最後だけ・・・」
HS「・・・」
ミサ「それと、もう一つ、作戦なんだけど、今の私みたいに、途中までは先頭に出ずに、誰かの後ろをつけるように走るほうが楽に走れるわ。ペースがつかみやすいし、前の人が風よけになるというメリットもあるわ」
HS「・・・」
ミサ「・・・というのが私のアドバイスなんだけど、どうかしら?」
HS「そうか、わかった!」
ミサ「わかった?」
HS「ようやく理解できたよ。なるほど」
ミサ「いつも二等なのであれば、明日この方法を使えば、一等も夢じゃないと思うんだけど・・・」
HS「明日のことは、ちょっと考えてみるよ。どうもありがとう」
ミサ「・・・」

○翌朝、ダイニング

ミサが座っている。
ミサ「(心の中で)HS君、私のやり方、お気に召さなかったのかな・・・」
ジュンが来る。
ジュン「おはよう。ミサ、早いな」
ミサ「HS君が気になって、眠れなくて」
ジュン「恋の病だな」
ミサ「もう、違うんだってば。私、HS君に間違ったことを教えたかもしれない」
ジュン「何のこと」
ミサ「1500メートル走のかけひきのことよ。私はいつもこの作戦を使って勝ってきたけど、実は自分でこの走り方があまり好きじゃないの」
ジュン「・・・」
ミサ「私の好きなプロの女子ランナー、知ってるでしょ。彼女は、最初から全力で走るからいつも途中で力つきてしまって、勝てた試しがない。でも、全力疾走している姿がとても魅力的で・・・。HS君の走りも、それと同じだった」
ジュン「でも、彼の願いが一等になることならば、ミサのアドバイスは適切だったんじゃないか?」
ミサ「そうなんだけど・・・」
そこへ、HSが入ってくる。
HS「ミサさん、おはよう。昨日はありがとう。僕、ミサさんに言われたとおりやってみるよ。僕、一度でいいから、ゴールテープを自分の胸で切ってみたいんだ」
ミサ「HS君・・・」

○夕方、運動会の会場

ジュン、ミサ、タクが急いで見物席に入る。
HMが手を振る。
HM「遅かったわね。ここよ。今から、最後の1500メートル走が始まるわ。HSの出番はもうすぐよ」
トラックでは、HSが赤い帽子をかぶって、待機している。
スコアボードには6チームの点数が大きく書かれている。
現在のトップは赤組で445点、次は青組の400点である。
HM「HSがいる赤組は、45点差でトップよ」
ミサ「45点差って、どうなのかしら」
HM「一等候補と言われているのは、あそこにいる青組の少年。もし彼が一等で青組に60点が入ったとしても、HSがビリにさえならなければ、逆転されないわ」
ミサ「(心の中で)ビリでなければ・・・。HS君はいつも二等だと言ってたから、まあ心配ないわね」
ジュン「お、始まるぞ!」
HSを含む6人の少年がスタート位置に立つ。
ピストルの合図でいっせいに走り出す。
HS以外の5人が、全力疾走で走る。HSは昨晩よりもゆっくり走っており、一番後ろである。
HM「あら、HS、遅いわね」
ミサ「(心の中で)私の教えた方法で走ってくれているわ。でも、大丈夫かしら」
HS、相変わらず6人のうち最後尾を走っている。先頭は青組の少年。
ミサ「(心の中で)まずい、このままビリでゴールインしたら、赤組は逆転されちゃうわ。HS君、お願い、そろそろラストスパートをかけて・・・」
6人が走っている。ゴール目前。HS以外の5人は疲れてペースを落としているが、相変わらずHSが最後尾。
しかし、次の瞬間、HSがスピードを上げ、5人をごぼう抜きにする。
HSがゴールテープを切る。満面の笑顔でゴールイン。
ミサ「やった! 一等!」
ジュン「ひやひやしたな、ミサ」

ところが、審判員は一等の旗を青組の少年に渡す。HSには6等の旗が手渡される。
ミサ「え、どうして!?」
ミサ、思わずトラックに入り込み、審判に話しかける。
ミサ「どうしてHS君が6等なの? 一着でゴールインしたじゃないですか。それとも、反則負け?」
審判「いえ、反則は何もありませんでしたが・・・」
ミサ「じゃあ、どうして?」
審判「失礼ですが、どちらからいらっしゃいました?」
ミサ「私、地球からですけど」
審判「なるほど。地球のルールのことはよく知りませんが、この国のルールでは、最後のほんの数秒だけ先頭を走っていただけでは、一等にはなれません。それじゃ、終盤までずっとトップを走っていた青組の少年がかわいそうじゃないですか」
ミサ「え?」
審判「あくまで、一番長い時間先頭を走っていた青組の勝ちです。逆にHS君は、終盤までずっと6番目を走っていたので、6等は当然です」
ミサ「なんか、そう言われるとそんな気がしてきたけど、なんか変な理屈・・・」
そこへ、HSが近づいてくる。
ミサ「HS君、こうなることがわかってたのね」
HS「うん、昨日の夜、ミサさんの説明を聞きながら、地球のルールと違うということはすぐわかったよ」
ミサ「じゃあ、どうして私の言うとおりにしたの? ビリになっちゃったじゃない」
HS「いいんだ。どのみち一等になれないんだったら、せめてゴールテープを自分で切ってみたいと思って」
ミサ「あ・・・。気持ちはわかるけど、赤組はどうなるの? 逆転されちゃったじゃない・・・。私の責任ね」
スコアボードに目を向けると、青組に60点が加わって460点。赤組には10点が加わって455点となっている。
HS「いや、大丈夫だよ。今わかるよ」
そのとき、場内アナウンスの声。
場内アナウンス「これで、すべての競技が終了しました。今年の優勝チームは、赤組です!」
赤組の陣地から歓声が上がる。
ミサ「赤組? どうして?」
HS「まだわからない? 赤組は朝からトップを独走してたんだよ。最後に一瞬だけ青組がトップに立ったけど、トップだった時間が一番長かったのは赤組だから、優勝したってわけ」
ミサ、ほっとした表情。
HS「さすがに僕だってチームに迷惑かけたくないからね。もう赤組の優勝は決まってたから、こんな冒険ができたんだよ」
ミサ、頭が混乱している。
HS「じゃ、僕はチームに戻るから」
HS、歓喜の赤組の輪の中にかけていく。

○しばらくして、運動会の会場

ミサのもとにジュンとタクがかけよる。
ミサ「今気がついたわ」
タク「何が?」
ミサ「今よく見ると、HS君とその両親だけじゃなくて、この国の人たちはみんな美しい目をしているの」
ジュン「どうして?」
ミサ「みんないつも全力で頑張っているからよ。だから目が輝いてるの。きっと、この国では運動会だけじゃなくて、すべてのルールがこうなっているのよ。終わりさえ良ければいいという考え方は通用しない。だから最初から全力疾走するの」
ジュン「・・・」
そこへ、カメラを持ったHFが近づいてくる。
HF「ミサさん、おかげでいい写真が撮れましたよ。ほら」
HF、ミサに写真を見せる。HSがゴールテープを切っている瞬間の写真である。
HF「確かに、HSの負けです。でも、HSのこんなにいい表情を初めて見た。何か新しいものを感じ取ったときの新鮮な表情ですよ」
そこへ、HFのライバルのカメラマンが近づいてくる。
カメラマン「何をおっしゃいますか。やっぱり、勝っている写真じゃないと意味がないでしょう」
カメラマン、ミサに写真を見せる。青組の少年が走っている写真である。
カメラマン「彼はゴールテープは切れなかったものの、勝者の写真はやはり美しい」
HF「ううん、こうなったら、ミサさんに選んでもらうというのはどうですか? 『若者新聞』に掲載する写真なのだから、若者の意見を聞くのがいいと思いますがね」
HF、ミサを一瞬見てニヤリと笑う。
カメラマン「なるほど、いいでしょう」
HFとライバルカメラマン、同時にミサに写真を見せる。
ミサ、しばらく迷った後、ライバルカメラマンの持つ青組少年の写真を指さす。
HF「え、ミサさん、どうして・・・」
ミサ「HFさん、ごめんなさい。この写真、多くの若い人たちが見るんでしょう? この国の素晴らしさを、若い人たちにずっと受け継いでもらいたい。それが今の私の願いなんです」


【著作者】トナミKK
【原作】砺波元
【脚本】砺波元





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