第13話 『デートの組合せ』
【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HGM=ホストグランドマザー
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HS(ホストハウスの息子) 20歳
HD(ホストハウスの娘) 14歳
HS2(ホストハウスの息子) 9歳
A(男子) 16歳
B(女子、Aの妹) 12歳
○ペンションのロビー
地球家族6人が到着すると、HMが出迎える。
HM「ようこそいらっしゃいました。昼食はもう済まされましたか?」
父「いいえ、まだですけど」
HM「ぜひ、うちのレストランのほうでお召し上がりください。さあ、こちらへどうぞ」
HM、地球家族を案内する。
○ペンションのレストラン
地球家族6人、着席する。
HM、HF、HGM、HS、HD、HS2が来る。
HM「あらためまして、うちの家族をご紹介します。主人(HF)とおばあちゃん(HGM)、それから、長男のHS、長女のHD、次男のHS2です」
父「それでは、うちと同じ6人家族ですね」
HF「ほんとだ」
ホストファミリー、隣のテーブルに着席する。HMが地球家族に近づく。
HM「みなさんには、これをお配りします。滞在する間は、便利ですのでずっと持っていてください」
HM、携帯電話の形をした機器を6人に渡す。
ジュン「携帯電話ですか?」
HM「電話としても使えるけど、もっと便利よ。たとえば、このレストランの注文は、この機械でできます。ちょっと貸してみて」
HM、リコの機械を手に取る。
HM「リコちゃん、何を食べたい?」
リコ「じゃあ、スパゲティセット」
HM「はい、このボタンを押して、スパゲティを選んで、このボタンを押します。はい、注文、完了」
HM、リコに機械を返す。
ジュン「なるほど、僕もやってみよう」
地球家族、めいめい機械を操作する。
ミサ「私は、この『数量限定・スペシャルオムライス』がいいな」
タク「あ、僕もそれにしようかな。いや、やっぱりやめようかな・・・」
ミサ、ボタンを押す。
ミサ「おいしそうよ。タクも決めちゃいなよ」
タクもボタンを押す。ピピッという音がする。
タク「あれ?」
HM「あら、ごめんなさい。赤いランプが点灯したわね。品切れだわ。ミサさんが注文したのが最後の1個だったみたい」
タク「やられた・・・」
ジュン「ミサとタクの性格がそのまま表れたな。いつもこんな感じなんですよ。ミサはいつも決断が早くて、狙ったものをパッと手に入れるんですけど、タクはちゅうちょして逃しちゃうんですよ」
全員、笑う。
ミサ「(心の中で)タク、ごめんね、いつも私が先に取っちゃって。次はきっと、譲ってあげるからね」
ジュン「この機械、他にはどんなことに使えるんですか?」
HM「もっと便利な使い方があるわよ。スケジューラー機能があるの。つまり、カレンダーに予定を入れたり、誰かを選んで、予定に誘ったりできるのよ」
タク「へえ」
HM「ちょっとやってみましょうか。今日の夕食は7時からですが、その後8時から、みなさん予定はあいていますか?」
父「あいていますよ。何か面白いイベントあるんですか?」
HM「ちょうどここの裏に、ホタルの丘という公園があって、8時からホタルを見るナイトツアーがあるんですよ」
母「それはいいわね。ぜひみんなで行きましょう」
HM「みんなで、と言いたいところなんですが、そこはデートスポットになっていて、二人乗りの自動運転の車に乗って周るんです。だから、二人ずつのペアを作らないと・・・。HS2、その機械を使って、リコちゃんを誘ってみてくれる?」
HS2「うん」
HS2、機械をゆっくり操作して見せる。地球家族、その様子を見る。
地球家族の顔写真が画面上に次々と現れ、リコの顔になったときにHS2がボタンを押す。
HM「はい、リコちゃんの機械に、HS2からの招待が出たわね」
リコ、機械の画面を見ると、HS2の顔写真が現れる。
HM「リコちゃん、招待を受けるときは青いボタンを押してちょうだい」
リコ「はい」
リコ、青いボタンを押す。
HM「はい、めでたく、二人の予定が入ったわ。予定表を見て、8時からの予定が埋まっていることを確認してみて」
リコ、スケジュール画面に移動する。8時から10時のところに色がついている。
リコ「入ってる」
HM「(父に向かって)よろしければ、私といっしょにナイトツアー、いかがですか?」
HM、自分の機械のボタンを押そうとするが、その前に、母が入り込み、すかさず自分のボタンを押す。
母「いえ、私たちは夫婦で行きますから。(父のほうを向いて)ね?」
父「は、はい」
HM「あ、そうですか。じゃあ、私たちも夫婦で周りましょうか」
HM、つまらなそうにHFに向けてボタンを押す。HFもボタンを押す。
HD「私、ジュンさんを誘っちゃおう」
HD、ボタンを押す。ジュン、うれしそうな表情。
ジュン「もちろん、喜んでお受けいたします」
ジュン、ボタンを押す。
HF「これで4組成立だな。HSはミサさんを誘いたいんじゃないかな」
HM「でも、それだと、タクちゃんが一人余っちゃうわね」
HF「おばあちゃんがいるじゃないか」
HM「あら、それじゃ、タクちゃんがかわいそう」
気がつくと、その場にHSとHGMがいない。
HF「二人とも、いないな。HSは、HDと違って照れ屋だから、どこかに隠れちゃったかな」
○レストランの柱の陰
HSが一人。
HS「(心の中で)あー、面と向かって誘うなんて僕にはできないや。この機械はなんて便利なんだろう。ボタン一つでデートに誘えるんだから。ミサさん、僕といっしょにナイトツアーに行ってください。よろしくお願いします」
HS、目を閉じてボタンを押す。
○レストランの席
ミサの機械が青く光るが、ミサは気がつかない。
HF、トイレに立つ。
ミサ「この機械、ここに来ている他のお客さんを誘うことはできないんですか?」
HM「できるわよ」
ミサ「私、さっきから、あそに座っている男の子が気になっているんですけど。ほら、あのかっこいい人・・・」
ミサの指差す先の家族には、かっこいい男子(A)とかわいい女子(B)がいる。
HM「あ、あの家族はうちの常連さんよ」
ミサ「私たちと同じ地球人ですか?」
HM「いいえ、この国の人たち。大丈夫よ。誘っちゃいなさい」
ミサ「ねえ、タク、あの女の子、かわいいじゃない。タクの好みでしょ」
タク「え、うん、そうだね・・・」
ミサ「誘いなさいよ。私が話してあげるから」
タク「え、恥ずかしいよ」
ミサ「大丈夫、いっしょに行こう」
HM「恥ずかしければ、直接話さずに、その機械で誘えばいいのよ。そのための機械なんだから」
ミサ「え、でも、会ったことのない人をいきなり機械で誘うなんて、私にはできないから」
ミサ、タクの手を引っぱり、AとBのほうへ向かう。
○レストランのトイレの前
HFとHGMがはち合わせる。
HF「おばあちゃん、ここにいたんですか。タクちゃんをナイトツアーに誘ってあげてくださいよ」
HGM「えー、私が誘ったんじゃ、タクちゃんがかわいそうですよ」
HF「そんなことないですよ。おばあちゃんが誘わないと、タクちゃんの相手がいなくて、それこそかわいそうだから」
HGM「あ、そうですか・・・」
HGM、機械をポケットから取り出す。
○レストランのAとBの席
ミサ、タクと一緒に少女(B)の前に立つ。
ミサ、タクの頭を押す。
ミサ「ほら、恥ずかしがらないで誘いなさい」
タク「(Bに向かって)え、あの、今晩8時から、僕とナイトツアーに行きませんか? お願いします」
B「デートに誘うときは、みんなその機械を使うのよ」
タク「は、はい」
タク、機械を操作する。
タク「(小声で、ミサに)ねえ、今の返事は何なんだろう。OKかな、だめなのかな?」
ミサ「(小声で、タクに)さあ、この国の習慣はよくわからないから、とにかく機械を使って誘うしかないわ」
タク、ボタンを押す。Bもすぐに自分の機械のボタンを押す。タクの機械に黄色いランプが光る。
タク「あれ、何だろう?」
B「黄色は保留の印よ」
タク「保留?」
B「つまり、私は今すぐには、あなたに返事ができないの」
タク「どうして?」
B「私、さっき別の人をナイトツアーに誘ったんだけど、返事が返って来ないのよ。もしもそれがOKならば、あなたのお誘いは受けられないし、もしもだめだったら受けられるんだけど、返事が来るまでは答えられないから、もう少し待ってくれない?」
タク「うん、わかった・・・」
そのとき、タクの機械のランプが光る。画面にHGMの顔が映る。
タク「あ、おばあちゃんからナイトツアーの誘いが来た」
ミサ「あら、どうするの?」
タク「とりあえず、僕も保留にするしかないな。Bさんから断られたら受けられるけど、今はまだはっきりしないから」
タク、黄色い保留ボタンを押す。
ミサ「そうだ、私もお誘いしなきゃ」
ミサ、少年(A)のところに行く。
ミサ「お願いします」
ミサ、ボタンを押す。Aもすかさずボタンを押す。ミサの機械に黄色いランプが光る。
ミサ「え、私も保留?」
A「ごめん、たった今、別の人をナイトツアーに誘っていて返事待ちなんだ。その結果が出たら、返事するよ。それより、さっきから、君の機械に青いランプがついてるよ」
ミサ「あ、ほんとだ」
ミサ、機械を操作する。HSの顔が映る。
ミサ「しまった。HSさんから誘いが来ていたんだ」
A「そういうのは、他の人を誘う前にまず返事をしておかなきゃ」
ミサ「気がつかなかったわ」
B「どうしよう。HSさんはあなたを誘っていたのね」
ミサ「え?」
B「私が誘って返事が来ない相手というのは、HSさんなのよ」
A「HSさんとデートしたいなんて、君も物好きだな」
ミサ「なんだか、複雑になってきた。整理すると、おばあちゃんがタクを誘って、タクがBさんを誘って、BさんがHSさんを誘って、HSさんが私を誘って、私がAさんを誘っている、全員が返事待ちの宙ぶらりん。そういう状態なわけね。いずれにしても、Aさんが誘った相手からの返事が来れば、順番に全部解決するわ」
A「それは無理だな。実は、僕が誘った相手というのは、おばあちゃんなんだ」
全員、驚きの声をあげる。
A「あのおばあちゃんとは仲がいいんだ。ナイトツアーにいっしょに行きたいとかねがね思っていて・・・」
B「あなたこそ、物好きじゃない」
ミサ「ということは、なんというか、グルグル状態になったんだわ。6人のうち、誰かがあきらめないと、決まらないわね」
ジュンが近づいてくる。
ジュン「どうしたの? 何か問題でも?」
ミサ「うん、私はAさんを誘ったんだけど、同時にHSさんから誘われて・・・」
ジュン「三角関係ってわけか」
タク「違うよ。六角関係だよ」
○客室
タクとミサが話している。ミサが紙に6人の六角形の図を描いている。
ミサ「誰があきらめるかによって、組合せが変わるのよ。私とAさんがデートできるとすると、おばあちゃんとタク、BさんとHSさんの組合せになるわね」
タク「僕とBさんがデートできる場合は、ミサとHSさん、Aさんとおばあちゃんという組合せか。僕たち二人とも夢がかなうのは無理なんだね。ミサはAさんとデートしたいよね。僕がキャンセルしようか?」
タク、機械を操作しようとする。
ミサ「ちょっと待って。二人ともうまく行くかもしれないわ。その場合は、HSさんとおばあちゃんが余ることになるけど。とにかく、他の誰かが先にあきらめるかもしれないから、それを待ってみようよ。まだ8時まで時間はあるんだから」
○レストランのディナータイム
ミサがAのそばに立っている。
ミサ「けっきょく、誰もあきらめないままだわ。8時まであと10分よ」
A「そりゃ、無理だよ。この国の習慣では、一度送った誘いを自分からキャンセルするなんてありえないんだよ」
ミサ「じゃあ、今回みたいな場合はどうなるの? 誰かがキャンセルしないと、全員の予定がパーになっちゃうじゃない」
A「そもそもこんなグルグル状態にはなるはずないからね。みんな、自分が受けた誘いの返事を先にするものだから」
ミサ「そうか、私がHSさんから誘われているのを気づかずにあなたを誘ってしまったのが、そもそもの原因だったのね」
A「あと5分だよ。どうする? この国の人は、絶対に自分からあきらめることはしないから、ミサさんか、それともタク君か、二人のうちどちらかがあきらめないかぎり、ナイトツアーには誰も行けなくなるよ」
ミサ「え、そんな・・・」
A「・・・」
ミサ「(心の中で)いつも私ばかりいい思いをしているから、今回はタクに譲るわ。取り消しボタンを押します・・・」
ミサ、取り消しのボタンを押そうとするが、そのとき、青いランプが光る。
Aの機械の青いランプも光る。
ミサ「あれ、まだ押してないのに。どういうことかしら?」
A「タク君が先にあきらめたんだよ。ほら、スケジュールにちゃんと入った。僕たち、いっしょに行けるね」
ミサ、地球家族のテーブルに走って向かい、タクに向かって叫ぶ。
ミサ「タク、どうしてあきらめちゃったの?」
タク「あ、今、HMさんから聞いたんだ。僕かミサか、二人のどっちかがあきらめるしかないって。ミサは、狙ったものは絶対に最後まであきらめない性格だって、僕は知ってるからね」
ミサ「タク・・・」
○ホタルの丘
二人乗りの車が次々に進んでいく。
父と母の車、リコとHS2の車、HFとHMの車、ジュンとHDの車、BとHSの車。そして、ミサとAの車。
ミサ、後ろを振り返る。
ミサ「(心の中で)タク、ごめんね。この次こそ、きっと譲ってあげるから・・・」
さらにその後ろを走るのは、タクとHGMの車。
【原作】砺波元
【脚本】砺波元
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