挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

持ち回り企画短編

ほっとけない

作者:笑うヤカン
 さて、まずは我らが主人公の紹介をいたしましょう。

「……なんだ?」

 彼の名前は(じん) 正俊(まさとし)。愛称はカミサマ。
 名字がほんのちょっぴり変わっている以外は、ごくごく普通の高校生男子です。

「誰だ?」

 知っての通り、今回のテーマは『神』。
 と言うことで、今回は彼に登場いただくことに相成りました。

「なんなんだよ! 誰……どこにいるんだ?」

 どこ、とはなかなか難しい話をしますね。
 少なくとも、神君がきょろきょろして見つかる範囲にいないことは確かです。

「なんなんだよ……どこから聞こえてきてるんだよ、この声!」

 気にしたところでどうにもなりませんよ。
 それより、そろそろ出かけないと学校に遅刻してしまうのではないですか?

「……!」

 神君は素早く部屋を出て、一階の食堂へと向かいました。

「いちいちナレーションするなよ!」

「おはよう。どうしたの、正俊」

 叫ぶ神君に、お母さんは目を真ん丸に見開いて怪訝そうに問います。

「どうしたもこうしたも、さっきから変な……」

 言い掛けて、神君は口をつぐみました。

「……もしかしてこの声、俺にしか聞こえてないのか?」

 はい、ご明察です。だから気を付けてくださいねー。
 私と話していると、変な人みたいに見られますよ。

 神君は急いで部屋に取って返すと、鞄を引っ掴んで外に飛び出しました。

「あ、ちょっと、正俊、ご飯は?」

「要らない!」

 駄目ですよ。朝食は一日の大事なエネルギー源です。
 夕食や昼食と違って、朝食を抜く事で健康に五つの悪影響が

「うるさい、お前は何なんだよ!」

 神君はいらだった声で言いました。

「だから実況するなって言ってるだろ!」

 そう言うわけにもいかないのです。
 むしろそちらが、私の本業なのですから。

「……何なんだ、お前」

 何と言われると答えに窮してしまいますが……
 そうですね。一般的には私は『地の文』と呼ばれます。

「ジノブン?」

 はい。まあ、私のことはあまり気にしないでください。
 別にあなたに危害を加えようだとか、そんなつもりはないのです。

「本当かよ……」

 呟きつつ、曲がり角を曲がる神君。

 そこに、突然のトラックが突っ込んできました!

 しかし神君はそれを華麗に神回避――

「ぎゃあっ!」

 あっ。

 ……

 えーと。

 大丈夫ですかー?

「大丈夫なわけあるか! 掠っただけとはいえ、トラックに轢かれたんだぞ!?」

 いやあ、危うく神様土下座転生しちゃうところでしたね。良かった良かった。

「何の話だよ! はあ、はあ……死ぬかと思った……」

 しかし、困りますよ。

「あ?」

 してくれないと。神回避。

「……神回避?」

 はい。
 神業のごとくギリギリでの回避ですよ。
 今回のテーマは『神がつく言葉』なんですから。

「意味がわかんねーよなんなんだよ!」

 もはや泣きそうな声で、神君は叫びました。

 そんなこんなで彼は学校へと辿り着きます。
 折角私が忠告してあげたのに、私を撒こうと無駄な努力を続けたおかげで彼はすっかり遅くなり、遅刻ギリギリで教室に飛び込みました。

「おはよーカミサマ」

「ああ、おはよう」

 神君は私を無視して、クラスメートと挨拶を交わしました。
 しかし残念ながら挨拶には神という文字が付きません。

「……あれ、今日は松島休みなの?」

 ふと、神君はぽっかり空いた席を見て、そう呟きました。

「ああ、なんか風邪だとか聞いたけど」

 ちなみに松島 桜ちゃんというのは、神君が片思いを抱いている女の子です。

「なんで知ってんだよおおおお!」

「ええ!? いや、女子がそう言ってたから……」

 突然叫びだす不審な神君に、友人がたじろぎます。
 そんな彼らを、周りのクラスメートたち皆がじろじろと見つめました。

 ちなみに、心の中で思っただけでも大丈夫ですよ。

(早く言えよそういう事は!!)

 聞かれませんでしたからね。

(ったく……まてよ。って事は、考えてる事が)

 はい。
 神君が女子生徒のスカートの方をチラチラ見て抱いていたアレやソレもしっかり。

(ちくしょおおおおおおおお!)

 神君、やーらーしーいー。

(なんなんだよ、なんなんだよお前!)

 だから、地の文ですって。

 大丈夫ですよ。軽蔑したりしません。神君も年頃の男の子ですもんね……
 大丈夫。わかっています。

(そのお母さんみたいな反応をやめろぉー!)

 じゃあ軽蔑しますね。このろくでなし。

(もう何がしたいんだよ……)

 神君はぐったりとしてしまいました。

 いったでしょう。
 神のつく言葉をして欲しいのです。

(神……?)

 そう。そう言うテーマなんです。

 というわけで、神風特攻してみませんか?

(いきなり難易度高いわ!)

 神君は本当に我が儘ですね。

「ほら、皆席につけー。一時間目は楽しい楽しい抜き打ちテストだぞー」

 教師が入ってきてそう言うと、教室中から一斉に非難の声が上がりました。

 良かったですね、チャンスですよ。

(なんだよ、チャンスって……)

 ここで軽く百点を取れば、神童と呼んでもらえるかもしれません。

(出来るわけないだろ)

 私が答えを教えてあげる事だってできるんですよ。

(カンニング呼ばわりされる方が可能性高いんじゃねーの)

 ……

 ……………………

 じゃあ、仕方ありませんね。

 『神経を引きずり出す』で妥協しましょう。

「出来るか馬鹿!」

 テスト中に突然立ち上がって叫ぶ神君に、教室中の目が向けられます。

「……大丈夫か?」

 心底心配した様子で、先生がそう尋ねました。

 やりましたね! 『精神が大丈夫か心配される』達成ですよ!

(うるせえええ!)



 結局その後は神に関わる言葉を達成しないまま、学校の授業は終わってしまいました。
 地の文、がっかり。

 神君は私のウィットに富んだジョークも無視して、すたすたと帰路につきます。

 ……って、あれあれ? そっちは家じゃありませんよ?

「うるさいなあ」

 神君は私を追い払うかのように手を振って、前方を指さしました。

「あれでいいんだろ」

 そこにあったのは、神社。
 素晴らしい! 協力してくれる気になったんですね!?

「協力したらお前いなくなんの?」

 そうですね……まあ、そうともいえるかも知れません。

「なんだよそれ……で、神社で何すればいいんだよ」

 そうですね。

 一つ、神でも降ろして頂ければ。

「だから出来るわけっ……」

 突然、神君は声を潜めました。

 おや……あれは今日、風邪で休んだはずの松島さんですね。
 しかしなんだか様子が変です。どこかぼんやりしているような……
 まるで、起きながらにして夢を見ているような感じですね。

「まさか……神隠し?」

 ふらりと神社の奥に姿を消す松島さんを、神君は急いで追いかけました。

「待ってくれ、松……」

 おや、まあ。

 神君が目にしたのは、恋人と思しき男性と濃厚なキスを交わす松島さんの姿でした。
 なるほど、道理で夢見心地の表情をしていたわけです。
 風邪というのも嘘で、この恋人との逢瀬を一日楽しんでいたんでしょうね。

 神君?

 ……ふむ。


 『心神喪失』達成ですね!


 そんな私の慰めも通じず、神君はふらふらと夢遊病患者の様に家へと帰りつきました。

 心の傷をいやすため、神奈川にでも引っ越しませんか?
 時期としては十月がお勧めです。いわゆる神無月ですね。

 駄目ですか。生きてますか。おーい。

 ……反応がありません。

 何ですか、あんな女の一人や二人。
 神君には私がついてるじゃあないですか。

「それが一番嫌だ……」

 やっと反応がありました。でも、酷いです。
 私だってたまには少しくらい傷ついたりするんですよ。

「そりゃあ、よかった」

 仕方ありませんね……捨てる神あれば拾う神ありと言います。
 傷心の少年を、女神が慰めてあげましょう。

「えっ……」

 光が神君の部屋を覆い尽くします。

 そしてその光が収まった後、彼の目の前には美しい女神の姿がありました。

「いや、自分で美しいって言うのかよ」

 照れ隠しの様に、神君はそう言いながらも笑いました。

 ふっと吹かれたその息に、女神はぱたんと倒れました。
 その厚みは極限まで薄く、なんというか、2Dでした。

「紙じゃねえかああああ!」

 もしかして本気で期待したんですか?

「うるせえー!」

 神君の絶叫が、木霊しました。





 というわけで、今回のお話はおしまいです。
 少しでも楽しんで頂けましたでしょうか?

 それでは、また別のお話でお会いできることを祈って。
 その時は私は今回ほどフリーダムには動けないでしょうが……

 さようなら、神様。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ