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Silver Girl 作者:秋保千代子
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季節が巡る。
全てが白の下に隠れ、それに洗われた大地に草が芽吹き花が咲き、太陽に照らされた後、実りの季節を向かえ、全てが眠る季節に向かう。
そして、再び、景色が鮮やかな花の色に染まった。



萌木、藤、躑躅。
「春も美しいな」
丘の上から、花で飾られた里を眺め、主上はつぶやいた。
「そうですね」
政木が頷く。
「先触れは出しているのか?」
「先刻。もう、里に知らせは届いていると思います」
国の王が再び狭井河の里を訪れるという知らせが。
豊国に赴いたのは、もう一つ前の春。全てを意のままに終らせ、再び戻るのに一年かかった。
すべて片付いたら、またこの里に来よう。そう決めていた。だから来た。
彼女は、変わらずにいるのだろうか。
それを思うと、自然と口元が緩んだ。



主上の一行は、村人達に熱烈に迎えられた。
そして、日が落ちると、また宴が開かれた。
急な訪問であったのにも拘らず、出された料理は手の込んだもの。里の人々がどれだけ王を敬愛しているか示すもの。
一年半前に訪れた時よりもさらに髪の薄くなった翁が、現れ、王の前で膝をついた。
「急で悪かったな」
そう言って王は笑った。
「この刀が、私を危機から何度となく救ってくれた」
腰に佩いた刀を叩く。
「その礼を言いたくて、な」
「お役に立ち、恐悦至極に存じます」
表向きの理由を告げると、翁は慇懃に頭を下げた。そして、彼は横にいた男に高埜を呼ぶよう命じた。
程なく、高埜が走ってきた。
「急にで済まないな、高埜」
「いいえ、主上がお気になさるようなことでは」
そう言って微笑む高埜の顔には、皺が幾筋も刻まれている。
「暮らし向きはどうだ?」
何らかの苦労を背負っているのだろうか、そう思い問うと。高埜は複雑な笑みを浮かべた。
「子供達と、恙無く…」
語尾が掠れる。
その彼の後ろには誰もいない。あの秋の日にいた、妙に畏まった子供達も、着飾るのが似合わない少女も。
王は、眉を寄せた。
「高埜」
少しばかり、強く名を呼ぶ。
「今日は、子供達を連れて来てはおらぬのか?」
高埜の瞳孔が開くのを、見逃さなかった。
「今日は… 家におります」
「ほう?」
何を隠しているのだろう、と頭の片隅で思いつつ、王は高埜に言った。
「お主の娘――セナと言ったな。彼女にも、是非会いたいのだが?」
高埜はさらに目を見開いた。
「お主に刀を頼んだことで、あれにもいろいろ迷惑をかけたからな。息災にしているか?」
口元に油断なく笑いを置きながら、目は高埜のすべての動きを追っていた。
彼が口をパクパクと開閉する様は、前にセナがして見せた表情によく似ている。
が、それも長くは続かず。高埜はその場で凍りついたように動かなくなった。
――何を隠しているのやら。
問いただそうと、視線を上げると。
その先で村の長老も固まっていた。



政木だけを連れて、高埜の家を訪ねた。
宴の場から家までの道、高埜と翁は黙りこくったまま。
やがて、一つだけ灯りのついた家が見えてくる。
そこからは子供達の笑いさざめく声。
「楽しそうだな」
そうつぶやくと、ようやく高埜が反応らしい反応を見せた。微笑んで、頷いた。
「あれ以来、また刀を打っています。今は二人の息子に教えてもいるんです」
「ほう」
微笑を崩さないよう努力しながら――王にはそう見えた――高埜は家の中に声をかけた。
「戻ったよ」
すると、どたどたと足音が戸口に寄ってきた。
がらっと勢い良く、戸が開かれる。
「お帰りなさい、お父さん!」
中から飛び出してきた、幼い女の子が高埜の腰に飛びつく。
「ハナ。皆は?」
「おにいちゃんもおねえちゃん赤ちゃんも皆、中のお部屋…」
屈託のない笑みは、高埜の背後に立つ人々を目にするや否や、ぎこちないものに変わる。
そして、主上は首をひねった。
「赤ちゃん?」
この家の母親、つまり高埜の妻は亡くなったと聞いたはずだが、と首を傾げつぶやく。それを聞きとがめ、幼い子は王を見た。ひどく怯えた目で。そのまま視線は、主上の横の翁に移る。
「こんばんは、長老様」
硬い声でそれだけ言って、父親の影に隠れてしまった。
その横を通って、長老は家の中に入ろうとしたところで。
「お父さん? 入って来ないの?」
二人、男の子が中から出てきた。
「トオル。カケル」
戸口から顔を見せた二人も、今まさに家に踏み込まんとしていた長老の姿を認めると、険しい顔つきになった。
「長老様」
「何しに来たの?」
二人は戸口に並んで立った。その間を縫って家の中に入ろうとする翁を押し返す。
「二人とも止めなさい」
父親の声に、二人は尚もいきり立った。
「ヤダヨ! 普段は俺たちの顔なんか見たくないってカオするくせに、何しにきたんだよ」
「父さんも、連れてきちゃ駄目だよ、こんな奴ら」
そう言って、長老の肩を強く押す。
長老はあっけなくひっくり返った。
「何をするんじゃ、このガキども!」
「こっちの台詞だい、クソジジイ!」
主上は思わず吹き出した。
「元気のいい子だな」
そう言って、戸口に近寄る。
睨みつけてくる少年達に笑いかけ、頭を撫でる。
「中に入れてくれ」
と強い声で告げる。
二人は膨れた顔を見合わせ、首を傾げる。
「トオル。カケル。道を開けなさい」
長老を助け起こしながら、高埜は言った。
声が掠れている。
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