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Silver Girl 作者:秋保千代子
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3/9

セナは全力で走って里に帰った。
「もう、主上はいらっしゃった?」
通りを行く村人に問いかけると、彼は怪訝そうな顔で答えてくれた。
「…いや? まだ先触れも来てないけど?」
礼もそこそこにまた走り出す。
汚名返上のために。
――私も、都の方のハートをゲットしたいのかもしれない。
家に駆け込むや否や、風呂に飛び込み隅から隅まで体を洗う。きちんと皺を伸ばしてあった衣装に腕を通す。
紅葉色のそれは、母の形見。
幼い頃、その服を着た母を見た。その姿は本当にきれいだと思って。父と並んで立つその仲睦まじい姿に、心の底から憧れて。
いつかこうなりたいと願った。
そう言うと、母は、笑いながらこの服を譲る約束をしてくれた。
――いつかあなたが、素敵な人の心をつかむ時のための服よ。
若い頃、母はこの服を着て父に会いに行ったのだそうだ。
鏡を向いて、髪をすきながら思う。
自分も素敵な人と共に人生を歩むようになれたら、と。
そんな人に会いに行きたい、と。
先程の笑顔を思い出しながら想う。



日が傾きかけた頃。
村中に、知らせが行き渡った。
それに応え、思い思いに着飾った人達が里の入り口に集まる。
茜色の光に照らされて、整然と一行が近付いてくるのを認めて。
彼らは、一斉にひざまずき、頭を垂れた。
その中を、悠然と馬が歩む。
セナは、先程の笑顔を求めて、こっそりと顔を上げた。
それに気付いた、隣にいるシノが肘で小突いてきた。
「やっぱり、都の人達は違うよね」
「何が?」
小声で返すと、小声がまた返ってくる。
「何よ、セナも見とれてるくせに」
そう言って、シノがニヤリとする。
「この里の男達より、何十倍も格好良いわよね」
セナは口元だけで苦笑した。
ゆっくりと進んだ行列――30人ほどだろうか。彼らはやがて、歩みを止めた。
「ようこそ、我が里にお出でくださいました」
長老が一歩進み出る。
そして、長々と口上を述べ始めた。
その最中も、セナの目は忙しなく動いた。
隣でシノが、方々で若い娘達が同じ行動を取っていたが、セナだけは目的が違う。
――あの人はどこ?
そして。
ようやく見つけた、菊色の衣装は。件の一行の中心に居た。
――ウソ。
長老も、その、馬にまたがって胸を張る人に向かって、話を続けている。
つまり。
彼女が丘の上であった“王子さま”は、本物の王様だったらしい。
その「らしい」が、断定に変わるのに、全く時間はかからなかった。



その夕行われた宴にセナは行かなかった。
村中の人間に準備を手伝わせておきながら、長老は全員来なくてもいい、むしろ余り来るなと言っていた。
人が多すぎるのも、騒々しすぎて駄目なんだそうだ。
それを聞いた時は、なんて冷たいんだろうと思ったが、今となってはありがたい。
と言うのも、宴に行かなくても、責められないから。
そんなわけで、セナとその弟に妹、昨夜呑み過ぎて寝込んでいる父――家族全員が、静かに家で過ごしていた。
――シノは怒るでしょうけどね。
折角の機会に何故来ないのか、と。
そう口を尖らせる友を想像して吹き出す。
――確かに、結婚はしたいのかもしれないけど。
だが、今は自分の未来より、家族の今のほうが大事だと思っている。それに、その相手は焦って探すようなものではないだろう。
ぎゅっと目を閉じて、そう言い聞かせる。
父はずっと布団の中。昼間にこってりしぼられた弟達は、しょげていて大人しい。妹達も早々に寝てしまった。
周りの家の者たちもほとんどが留守らしく、今夜は殊更、静かな晩だ。
――私も寝よう。
寝てしまえば、あれこれと考えなくて済む。



疲れていたのだ、床に入るとすぐに眠れた。
だが、家の扉を叩く音に、飛び起きる。
「ああ… もう。こんな夜更けに」
目をこすりながら、表に出ると。
長老が立っていた。
「お主達、何故宴に来なかった?」
セナは眉をひそめた。翁の声音に、自分達が責められているのを感じて。
――余り来るなって言ったのは長老でしょ!?
眉間に皺を寄せたままセナが、如何に返事したものかと黙りこくっていると。
「高埜はどうしている?」
また、長老が口を開いた。
「寝てます」
「まったく、あやつは…」
セナの答えに、翁はため息をついた。
「今すぐ起こせ」
「今すぐ!?」
セナの声が裏返る。
「なんでですか!?」
「うるさい、つべこべ言うな。早くしろ」
翁が声を張り上げる。
「無茶苦茶言わないでくださいよ!」
セナの声も、負けじと高くなる。
「いいから、早うせい!」
祖父と孫のような二人の間に。
「無理にとはいわぬが、起こしてもらえると助かるのだが」
急に、違う声が混じる。
「いや… 是非起こせ。起こしてくれ」
そこで初めて、セナは長老の後ろにまだ、人がいるのに気が付いた。
そして。
「また、そんな言い方をして。こんな夜更けに来て、あんまりな要求だとお思いにならないのですか」
「だが、お前も止めなかったな? 同罪だ」
闇に慣れた眼が、その二人の姿を捉え。落ち着いた頭が、彼らが誰だが理解するのには、かなり時間がかかってしまった。
「主上… ですか?」
その人は、泰然と頷いた。 寝巻きのままの自分が悲しくなった。
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