私の名は御手洗静香。三十歳のオフィスレデーな独身メガネっ子よ。
会社では冷静沈着で真面目な性格だと思われがちな私だけど、それは違うの、私は可愛い獣よ!羊の皮を被ったチワワよ!課長も部長も、家族でさえ分からないチワワ、品種改良されたチワワ、動物愛護団体に保護されてるチワワ、それが私。
そんな私に突然悲劇が華麗に舞いおりたの……そう、それはある朝の事だった。
いつも通りの時間、いつも通りに自転車通勤、いつも通りの街路樹達に通行人、そんな感じに私はいつも通りの出勤。
私は一寸の狂いもなく、仕事場に向かったの。だってそうでしょ?会社に私がいなかったら多大な損失よ?私以外社員全員無能で出来損ないだもの、仕方ないわ。きっと私が三十代になっても結婚出来ない理由はこの会社にあるのよ!そうよ!そうに決まってる!
この時の私は自転車を怒り任せに加速した。 加速に加速を重ね、そして衝突。
「……あ」
自転車と自転車の衝突。私は二メートル程宙を浮き、地面に叩きつかれた。全身強打した私は意識朦朧とした。
痛……相手は?ぶつかった相手はどうなった?あれ、あれれ???私…体にイワカン感じる。胸……胸……あっ、乳首!乳首が無い!いや!違う!乳首が…………陥没してる。
乳首。
陥没。
現実。
「だ、大丈夫ですか!?お怪我は?」
「…………」
「本当にすいません!自転車弁償するんで!」
「…………」
「あの!救急車呼びましょうか?」
「…………陥没」
「え、かんぼつ?」
「乳首…………陥没」
「ちくび?かんぼつ?」
「そう…………乳首陥没」
「え?」
「だ…………だから乳首が陥没してるって言ってるでしょ!?ほら!見なさい!ここ!これ!…………貴方とぶつかったお陰で乳首が陥没してるじゃない!埋まってるじゃない!どうしてくれるのよ!?」
「えっと、その」
「私、赤ちゃん産んでも母乳あげれないじゃない!ママのおっぱいキモいって子供に絶対いわれるわ!どう責任とってくれるのよ!?返答しだいで告訴するわよ!」
「告訴って……」
「貴方がした事は重罪よ!神聖なる女性の乳房付近を汚したのよ!もうセクシャルハラスメントの領域じゃないわ!」
「あの……申し訳ないです。僕まだ学生なんで慰謝料とか、その……」
「貴方!まだ自分の罪の重さを知らないの!?KANBOTUよ!?貴方が起こした事故よ!?過失は男性で在る貴方にあるの!お分かり?」
「あの、今は……男女平等社会なんじゃ……?」
「言い訳するのね?男らしくないわよ!私はね、もう三十なの!婚期を逃したくないの!ここで乳首陥没になってる暇なんてないの!貴方に……貴方には一生掛っても分からないでしょうね!」
「…………すいません」
「乳首が埋まるイコール死よ!もう、私、結婚……一生結婚出来ない」
「あの……未婚なんですか?」
「ええ!そうよ!そして乳首が陥没してるわ!」
「よかったら……」
「な、何よ!?今さら同情?」
「よかったら、け、結婚して下さい!」
「え?…………」
「貴方の奇形乳首も、顔も、全てが好きです!大好きです!結婚して下さい!」
「本当に……?本当なの?私のグロクリトリスも乳首も……全てを愛してくれるのお?」
「どんなにグロテスクでも、毒で毒を制します!だから……だから!」
「ありがとう!ありがとう!」
私は涙の雫を流した。自分はチワワではない、私は単なる陥没した乳首なる存在だと悟した。
私はこの青年と数年後結婚した。勿論、会社は寿退社したわ!おめでとう!私。
この物語はフィクションであり、実際の人物・団体名とは関係ございません。
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