おうどん転生専門サイト『おうどんになろう』
貧乳エルフと申します!
なんとか小説を書いてみました!
難しかったけど、楽しかったです!
どうぞよろしくお願いします!
初めまして! あたしは近美どん子!
友達からは、おうどんちゃんおうどんちゃんって呼ばれています!
おうどん大好きな女子高生です。
こんなわたしだったけれど、町を歩いていたところで、
突然空から降りそそいできた大量の槍に貫かれて、その短い人生を終えちゃいました。(え~ん)
死ぬまでに二時間ぐらいその場で串刺しにされて、気を失うこともできず、生きるか死ぬかの地獄をさまよったのが、とっても辛かったですよぉ。
まあそんなことはいいとして。
目が覚めたあたしの前には、ひとりのおじいちゃんがいました。
その人は、自分が神様だって名乗ったんです!
「なんでもひとつ願いを叶えてやろうと思ったが、やめた」
「やめた!?」
「そなたは、別世界に転生させてやろうー。ほーらどんぶらこーどんぶらこー」
「あーれー」
そんなスピーディーな展開で、あたしは異世界へと旅立ちました。
でも、ひとつだけ変わっていたことがあるんです。
あたしが転生させられたのは、人間じゃなくて――。
――おうどんだったんです。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『おうどんになろう!』
第一話 気になるカレは海老天!?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「わー、遅刻遅刻ぅ」
「ちょっと、稲庭。そんなにバタバタ走っていたら、つゆも間に合わないってものよ」
「えへへ、ひやむぎひやむぎ」
あたしは頬をかいて、氷見お姉ちゃんに謝る。
彼女はぷーっと麺を膨らませながら、こっちにやってきた。
「入学初日だからって、慌てる乞食は載せ棒伸ばせず、って言うでしょ?」
「だからもー、謝っているじゃないー」
まったくもう、氷見うどんお姉ちゃんってば。
富山県氷見市の郷土料理で、油を塗らないんだから、もう。
そんなのだから、すーぐに足踏みをして麺を伸ばすんだよ。
あたしは口には出さず、そろりと麺を動かす。
もしかしたら気づかれたかもしれないけど、まあいいや。
そう、あたしは稲庭うどん。
秋田県南部の手延べ製法の干しうどん。
人間だったあたしは、なぜかこの世界に来て、おうどんとして生まれ変わっちゃったんだ。
それから13年の時が流れて。
ようやくあの念願の、最強麺類決定戦学園に入学することができたんだ。
幼い頃からコツコツとコシを磨いていたからだね。
異世界転生ばーんざい、て感じ!
慌てて靴を履いて、あたしたちは駆け出す。
入学初日から遅刻なんて、釜玉うどんの卵なし、みたいなものだもんね!
「あっ、ほら、またすぐ走るー!」
「えっへっへー、ひやむぎひやむぎー」
けれど、あたしはやっちゃった。
前を見ないで走っていたから、怖い人にぶつかっちゃったんだ。
しかも運の悪いことに、彼は学園の自治組織である――蕎麦騎士団に所属する生徒であった。
「われぇ! どこ見て走ってんじゃあわれぇ!」
「ひっ」
ぷるぷるとあたしは震えていた。
このままじゃちぢれ麺になっちゃうよお。
転生前と転生後、合わせて30年分ぐらいの人生経験があるけれど、でもやっぱり怖い人は怖いんだもん。
蕎麦騎士団の人は、器をちゃぷちゃぷと揺らしながら迫ってくる。
「あぁ!? もうちょっとで椀が割れるところだったじゃろうが! ソバの実拾ってこんかいわれぇ!」
「ええっ、いくら蕎麦がソバの実を原料とするからって、そんな主な主要産国のロシア、ウクライナまで行ってきたら、学校に遅刻しちゃうよお」
「だったら国産でもええで?」
蕎麦騎士団の人はにやりと笑った。
「北海道幌加内町のものが大好きでなあ。ま、国産品は輸入品の五倍から十倍以上の価格で取引されているから、メスガキの小遣いには大変かもしれんけどなぁ? 選ぶのはわれやでぇ」
「きゃっ……」
彼の蕎麦色の指が、あたしの白い肩を撫でる。
や、やめて……。
だめ、こわくて言い出せないよ……。
誰か、助けて……。
そのとき、騒ぎを遠巻きに見ていた人の中から、歩み出してきた男の子がいた。
その彼は、海老天だった。
「やめろよ」
「ああぁ!?」
「その子を離せって言っているんだよ」
海老天さんはパリッとしてとてもジューシーそうな衣をかきあげながら、しかしクールに告げる。
蕎麦騎士団の人も、彼を見てねぎをひそめているようだった。
「んだぁ、われぇ。海老天だからってチョーシのってっと、ひたひたにすんぞぉ!」
「……はぁ、面倒くさい」
海老天さんは尻尾を振ると、彼をキッと睨んだ。
「やってみろよ、蕎麦野郎」
「われぇー!」
蕎麦騎士団の人はとびかかる。
あたしは「やめて!」と叫んだけれど、誰も聞いてはくれなかった。
助けに来た人が、痛い思いをしちゃう。
衣がはがされちゃうなんて、そんなの揚げ物にとっては一番の屈辱だ。
でも――。
「この程度か、口ほどにもないな」
「!?」
椀から汁を飛び散らしたのは、蕎麦騎士団さんのほうだった。
そんなばかな、という顔をしている。
海老天さんが軽く身を振っただけで、蕎麦さんがのけぞったのだ。
いったい今、なにをしたの……?
まさか、魔法……!?
すごい海老天さん。
高タンパク質で低脂肪、それに糖質がゼロってだけはある。
独特のうまみがあるのは、グリシンやベタインなどのアミノ酸が多いからだ!
「ちっくしょう! 覚えてろよ!」
蕎麦騎士団の人は、椀をがちゃがちゃ言わせながら逃げ帰っていった。
へへん、いい気味だ!
蕎麦なんて、おうどんよりも高カロリーで、栄養価が多いんだからね!
その上、食物繊維が多くて、消化に悪いんだから。おうどんをバカにしないでよね。
おうどんは糖質が大量に含まれており、それに抜群の消化を誇るんだよ。
風邪を引いたときなどの、緊急時のエネルギー補給にはぴったり!
運動や集中の前、すぐに活動することができるようになるんだから。
みんなもおうどん食べようね!
あっ、いっけない、話がそれちゃった。
「あ、あの、海老天さん、ありがとうございます……」
「ふん」
縮こまりながらあたしがお礼を言うと、海老天さんは興味なさそうに目を逸らした。
そして言ったの。
「なんだ、うどんか。助けて損したぜ。俺は昔からうどんは大っ嫌いだったんだ。塩分が多いからな」
「――」
その一言に、あたしは頭来ちゃった。
ぷんぷんと膨れながら、あたしは朝礼に並んでいた。
「どう思う!? ひどくない!? だって塩分なんて茹でたら9割は飛んじゃうし、そのほとんどは出汁次第なんだよ!?」
「そうだねー……あはは……」
隣には、この学校に入ってから仲良くなった女の子、伊勢ちゃんがいた。
伊勢ちゃんはもちろん、伊勢うどんだ。
三重県伊勢市を中心で食べられているおうどんであり、太い麺に濃厚なタレをかけて食べるのが特徴だ。
その柔らかくて白い麺といい、太くてこってりとしたスタイルといい、同じ女子から見ても羨ましい、美人さんだ。
ああもう、いいなあ。
「稲庭ちゃんも、綺麗だと思うけど……」
「えっ、そ、そう?」
「うん。平べったい麺なんて、珍しいし……」
「はぁ……。そっか……」
まあね、自分がそこらへんのうどんとはちょっと違うっていうのはわかっているんだけどね。
いいや、伊勢ちゃんは悪気があるわけじゃないだろうし。
「うん、でもちょっと気が紛れた。ありがと」
「よかった」
伊勢ちゃんはにっこりと笑ってくれた。
あ、そろそろ学園の生徒会の挨拶が始まるみたい。
「あー、初めまして。この最強麺類決定戦学園に入学おめでとう。卒業するのは大変かもしれないけれど、みんなにはぜひ頑張ってほしいと思うな」
壇上で挨拶をしているのは、ラーメンの人だった。
それもただのラーメンじゃない。
「僕はバーコー。一応この学園の副生徒会長をさせてもらっているんだ」
バーコー麺。揚げた豚ロースをトッピングした、ラーメンだ。
すごい、まさかあんな人までいるなんて……。
「紹介するよ。彼は富士宮。顔は怖いし、色も黒い。スパイスは効いているけど、そう危ないやつじゃないよ。生徒会で書記をやってくれている」
「うす」
富士宮さんが小さく頭を下げる。こわもてだけど、でもなんだか優しそうな先輩だ。
「彼女は讃岐。会計だ。この学園の出資者の孫だから、逆らったら怖い目にあわされるかもね、はは」
「もう、よしてくださいな、バーコーさん。あなたが脅してどうするの」
白い肌が美しい、讃岐さん。
全世界のうどん女子の憧れだ。
はあ、綺麗だなあ、讃岐さん。
「それにもうひとり、役員のスパゲッティだ。まだ日本麺語がそんなに上手じゃないから、ゆっくりと喋ってやってくれよ」
「よろしくおねがいシマース」
頭を下げるひょろながい彼に、わたしは思わずぷっと噴き出してしまった。
かわいい。小麦粉さん仲間だね。
「で、肝心の生徒会長は今、遅刻してさ……」
「いるぞ」
バーコーさんが申し訳なさそうに言ったそのとき、そでから出てきた彼。
指さして、あたしは思わず大声をあげてしまった。
「あー! 朝の、うどん嫌いの人ー!」
ちっ、と舌打ちされた気がした。
伊勢ちゃんが控えめに、あたしの麺を引っ張る。
「あ、あの……稲庭ちゃん、周りの人、見ているよ……?」
「えっ、あっ……」
周りの目があたしに突き刺さっていた。
ううう……。
でも、だって、彼が……。
生徒会長さん。
それは、朝に助けてくれた海老天さんだった。
彼はマイクを衣で掴むと、ハッキリとした声で断言する。
「海老天だ。生徒会長と具をやらせてもらっている。諸君、この学園に入学おめでとう。だが、言っておくぞ。俺はうどんが、――特に、稲庭うどんが大嫌いだ」
それはあたしに対する宣戦布告のようだった。
――ヤなやつ!
ああもう、これからあたしの学園生活は、どうなっちゃうんだろう。
心配しかないよお!
今年度もよろしくね!
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