第9話 兄妹の反撃
「ギャアアアアアアアアアアア……」
兄の断末魔の叫びが途切れた。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃーーーー……ん?」
妹の悲痛な叫びも途切れた。炎の背後から笑顔の兄が、デューク更家のウォーキングスタイルで飛び出してきたのだ。
「あれぇ!? お兄ちゃん無事なの!? じゃあそこで燃えてるのは……」
炎の中には確かに人影が見える。
「こいつはグールさ。炎をくらう寸前、近くにいたから悪いけど身代わりになっていただいたのだ。声優(叫び声)は俺が担当させていただいたがな」
呆れたのか安心したのか、妹の体から力が抜け、その場にへたりこんでしまった。
「まさかグールを盾にするとはな……」
これまで一度も冷静さを欠かなかったフェレス。しかし、兄の珍プレイを目の当たりにし、彼にも少しだけ焦りの色が見え始めた(「全裸集団を見た時も相当焦っていたじゃないかー!」というツッコミはご勘弁…)。
(そういえばあの男……さっき救世主と呼ばれていたな……。俄かには信じられないが、確かにあの【変わり身】はなかなかのものだった。いや……何をうろたえている……。奴が何者であろうと関係ない。このフェレスが人間に劣るなど有り得ないことなのだ……!)
フェレスは再び炎を作り出した。
「きゃ! またあの炎よ!!」
フェレスの両手には、先程の倍はあろう巨大な炎がうねっている。その炎が一つとなり、再び竜となった。今度は特大である。
「ちょっと待て!! また俺狙いかよぉぉぉ!!!」
炎の竜はまたもや兄を目掛け、一直線に宙を突き進む。
「やけくそじゃーーー!!」
兄は握っていた剣を竜に向かって投げ付け、すぐにその場から飛びのいた。剣はプロペラのように回転し、竜の大きく開かれた口の中へと飲み込まれてゆく。
「せいぜい逃げ回るがいい。この竜はお前を食らうまで追い続けるぞ。しかも今度はこの大きさだ。グールを盾にしたところで、勢いになんの影響も及ばぬわ」
フェレスの言うとおり、炎の竜は兄の飛びのいた方向へと進路を変えた。
「うおお! 死ぬぅぅぅぅ!!」
体勢を崩した兄に襲い掛かる真っ赤な大口。覚悟を決めたのか、兄は両目を硬く閉じた。
「…………………………………………………………………………あれ?」
ゆっくりと目を開く兄。
「あれあれ?」
熱気だけを残して、竜が消えている。そのかわり、遠くで腕を押さえているフェレスの姿が見える。
「くそ……まさか剣を投げつけてくるとは……」
フェレスの右腕からは血が滴り落ちている。兄が放った剣が、炎を突き抜け、見事彼に命中したのだ。
「す、凄い! さすが救世主様! 敵の放つ攻撃を死角として利用し、剣を投げつけるという大胆な攻撃で、見事フェレスにダメージを与え、尚且つ敵の集中力を奪い炎の竜を消し去るとは!! まさに神業!!」
オッサンはそう言うが、実際はがむしゃらに行動した結果である。
「くそっ! ふざけやがって人間が!!」
フェレスは左腕を掲げた。
「させるか!」
兄は駆け出した。フェレスとの距離はさほど遠くない。しかし…
「駄目だ……間に合わない!」
フェレスの掌には、既に魔力の塊が作り出されていた。
「えい!!」
かわいらしい掛け声とは対照的な、ラグビー選手さながらの強烈なタックル。その一撃を繰り出したのは、なんと妹であった。
「ゴフゥ!!」
妹の突撃により、フェレスの腹が急激に圧迫される。集中が途切れ、溜めていた魔力も散ってしまった。
「でかしたぞ、マイシスター!!」
妹を称賛しつつ、兄もフェレスに向かってタックルを試みる。
「なめるな!!」
フェレスは翼を広げた。それによって発生した強風に吹き飛ばされ、兄はタックルを成し遂げられぬまま、後に転がってしまった。
「ハア……ハア……下等な人間どもが………」
フェレスは宙に飛び上がった。
「……次に会った時は、皆殺しだ……」
そう言い残し、飛び去ってゆくフェレス。
「や〜〜い! バーカ! バーカ! 二度と俺達の前に現れんな(恐いから)!」
兄の悪口に追いやられるようにして、フェレスの姿は中空へと消えていった。
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