第78話 鮮血仮面舞踏会
『ダーリンどうしたの!? 今どんな状況!?』
「なんかレグロス来ちゃった…」
『ええ!!』
「どれがレグロスか分かんないけど…」
『他にもいるの!?』
「三人来た。目の前にオカマみたいな奴がいるから、今四人に囲まれた状態。どうしようリリム……」
『他のみんなは!?』
「まだ寝てる……」
『あの役立たずども〜!!』
だんだん兄の顔色が悪くなってきた。カツアゲされそうな少年のようである。
「その尻尾、オカ魔が連れてきた、あの裏切り者の尻尾ですね?」
兄の後方に立つ、猫背の悪魔が口を開いた。紫色の貴族のような服に身を包み、顔は両目を残して、あとは仮面で隠してしまっている。
「お前は……」
「私はレグロス。君がたぶらかしたであろうあの悪魔(リリム)は、今私の塔で丁重に扱わせてもらっていますよ。会いたいですか? 会いたいなら、私と一緒に来てください」
多少距離があるせいか、兄と尻尾リリムの会話は、レグロスには聞こえていなかったようだ。
「リリムに会わせてくれるのか……? 甚だ理解に苦しむな。お前らの狙いは一体何なんだ?」
「今の君にそれを教える必要はありません。とにかくまずは私の塔へ来る事に同意してもらいます。強行手段で君を傷付けたくはないですから。(出来ればルナティックアイも使いたくありませんからね)」
(俺を傷付けたくない……? という事は、俺を殺したくはない、というわけか。よし! じゃあ戦おう!!)
『殺されない』という結論に達した途端、強気になる兄。物凄く格好悪い。
(それに少なくとも、『捕まった』状態でリリムを助けられるとは思えないしな…)
残念ながら、今更どんな理由を付け足そうと、格好悪いイメージは覆せない。
兄の目つきが鋭くなった。
「レグロス様、こいつやる気満々ですぜ!」
兄の左側に立つ、ワニのような悪魔がその大きな口を開いた。二足歩行という点を除けば、殆どワニそのものである(もちろん全裸)。翼が無いという事は、他の者に抱えられてここまで来たのだろうか?
「お前の手下にゃ、ワニもいるのかよ!」
「何ですかワニとは? 彼の名はダンマ。破壊力に関しては私達の中で随一です」
「確かに攻撃力は高そうだ……。ついでにもう一人も紹介してくれよ」
『もう一人』というのは、兄の右側にいる猫を擬人化したような悪魔である。草色の小さな帽子と、これまた小さな翼が悪魔らしからぬかわいらしさを醸し出している。ダンマ同様、服は着ていない。
「彼の名前はキャフです。フフフ、相手の実力を測る材料が得られると踏んだんでしょうが、名前以上の事は教えませんよ」
「ちっ!」
「どうやら大人しく私達についてきてはくれないようですね。しかたありません、多少痛い思いはしてもらいますよ」
レグロスがゆっくりと兄に歩み寄ってくる。
「おっ! レグロス様、いきなり大技を使う気だぜ! 一発で終わらせちまうのかよ!」
ダンマが不満の篭った声をあげた。それを聞いたキャフが口を開く。
「一発で終わらせた方が、無駄な傷を増やさずにすむニャオンヌ。不器用な俺達はあくまでも援護。ここは加減の上手いレグロス様に任せるニャオンヌ。それに、いざとなればレグロス様にはあの『眼』もあるニャオンヌ」
ニャ…『ニャオンヌ』!? とんでもない語尾である。
「では参りますよ…」
レグロスが軽く両腕を広げた。
(一対一!? よ、よし…! それなら勝機はあるぞ!)
兄はオカ魔に背を向け、レグロスと向かい合った。
「紅き狂乱の宴……『鮮血仮面舞踏会』!!」
「な、何!?」
レグロスの体が二つに分かれ、二つに分かれた体が四つに分かれる。そんな分裂を何度も続けているうち、いつの間にかレグロスの体は数え切れない程に増殖していた。
(これは……漫画とかでよくある、『本体は一つだけ』ってやつか!?)
「鮮血の飛沫に塗れ、踊り狂いなさい……」
全てのレグロスが腰に備えられた刃物を同時に取り出した。刃渡り十五センチ程度のナイフである。
「くっ!! エーテェェェル!!」
兄が叫ぶのとほぼ同時に、全てのレグロスが総攻撃を開始した。
「ハハハハハッ! 人間にあの技は見切れないぜ!」
「レグロス様ん、お顔は傷付けないであげてねん!」
激しく、それでいて華麗に立ち回る無数のレグロス達により、兄の姿は完全に埋もれてしまっている。
「まずは一人目だニャオンヌ」
キャフがそう漏らした直後、それは起こった。
レグロスの群れの中から、一つの『影』が弾き出され、一本の木に強く打ち付けられる。それに伴い、レグロスの分身が次々と消えてゆく。
「仮面舞踏会、見切ったり!!」
消滅した分身達の中から光り輝く兄が現れ、木に打ち付けられてよろめいているレグロスを力強く指差した。
「レグロス様ぁぁ!!」
「う、嘘ん……! 何なのあの子……!?」
驚愕を隠せない手下達。
「どうやら、俺の世界の漫画は、この世界じゃバイブル的な力を発揮するみたいだな。分身には『影』、『傷や汚れ』が無いというセオリーがあるのだ!! 影のはっきりした奴(本物)の服に分かりやすい傷を付けとけば、攻撃をかわすのも、カウンターをぶち込むのも思いのまま!! ざまぁみさらせってんだ!!」
凄い! 凄いぞ兄!
「わ……私の……私の技を………! オカ魔! ダンマ! キャフ! 構いません! 三人でかかりなさい!! 『痛め付けたうえ』で捕らえるのです!!!」
「了解!!」
手下達が兄を取り囲む!
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