第67話 踊るフェレスの小型拳銃
動かなくなってしまったリリムを、兄妹達はただ呆然と見下ろしていた。
「わたすの勝ち。では魂はいただくぞ」
倒れ伏しているリリムの体から、微妙に汚らしい色の輝きを放つ玉が浮かび上がった。恐らくそれがリリムの魂なのだろう。色が汚いのは、リリムの性格が汚れているからなのだろうか? それともそれが悪魔の持つ魂特有の色なのだろうか? 断定は出来ないが、まあ多分前者だろう。
「魂の色はな、その持ち主の性格で決まるんだ」
ほれ前者だった。
リリムの体から抜けた魂が、面白い顔の悪魔の手の中に収まる。
「さて、この魂を返すて欲すくば、もう一人わたすと戦え」
「え!? お、おい!! お前に勝てば、魂返してくれるのか!? リリムは生き返るのか!!?」
「ああ。わたすに勝つ事ができたら魂は返す。それで女子は生き返る。だけども、負けたらまた魂はいただく」
「ああ…よかった……リリム生き返るんだな……」
兄の瞳には、安堵からか涙が浮かんでいた。
「みんな、次は俺がやる…!! 俺がリリムの魂を取り返してやる!!」
「お兄ちゃん……」
妹が兄の腕を強く掴む。
「大丈夫、俺に任せろ。救世主はこんな所で負けたりしない。そうだろ?」
兄は優しく微笑むと、妹の頭にぽんと手を置いた。
「さて、いっちょやりますか!!」
決然と立ち上がる兄。
「次の相手は、あんたか。魂、いただくぞ」
「へっ! やれるもんならやってみやがれ!!!」
「さて、ここに二つの魂がある。わたすににらめっこで勝つ事が出来たら、両方返すてやる。ただす、負けたらまた魂は貰うぞ」
面白い顔の悪魔の両手に一個ずつ魂が浮かんでいる。
「くっ……救世主様までもがやられてしまうなんて……」
地べたにはリリムと兄の亡きがらが転がっていた。あれだけ意気込んでいたのに、兄は即行で負けてしまったのだ。相当格好悪い。
妹は生命活動の停止してしまった二人を目の前にし、涙を浮かべて戦いていた。
「妹さん、大丈夫です次は僕がいきます」
「カイン君…!?」
「僕が本気を出せば、顔だけで熊を笑い殺す事も可能です!」
それは凄過ぎるぞ、カイン。
「妹様、ここはカイン君を信じましょう」
「鼻血男さん……」
「そんな顔しないでください。カイン君に万が一の事があったとしても、まだ私がおります」
鼻血男は自分の胸を拳で叩いてみせた。実に心強い……叩いた後で噎せたりしなければ。
「そしてもし鼻血男がやられちゃっても、まだオイラがいるから安心しろよな! 兄貴の魂、オイラが絶対に取り返してやる!」
鼻血男に続き、チョルトも妹に励ましの言葉をかける。
妹は複雑そうな面持ちだ。
「みんな……(私、こんなんじゃ……今のままじゃ駄目だ……。みんなみたいに、もっと強い心を持たなくちゃ。自分を、そして仲間信じる強い心を……)」
「さて、ここに五つの魂がある。わたすににらめっこで勝つ事が出来たら、全部返すてやる。ただす、負けたらまた魂は貰うぞ」
リリム、兄に続き、カイン、鼻血男、チョルトまでもが敗北を喫し、魂を奪われてしまった。妹に大口を叩き、やたら期待を持たせておきながら、三人ともニ秒足らずでやられてしまったのだ。どう考えても妹を馬鹿にしているとしか思えない。
「残ったのは、俺達だけですね……。次は俺がやりますよ」
フェレスは冷静な口調でそう言うと、妹を残して悠然と面白い顔の悪魔に向かって歩きだした。
「ま、まってフェレスさん!! 次は…次は私がいくよ!!」
フェレスを追って駆け出す妹。が、不意に、彼女の小さな体が「あっ!」という叫び声と共に前のめりに傾く。慌てていたため足元に意識が回っていなかったのだろう、彼女は地面から飛び出していた小さな石に躓いてしまったのだ。
そして悲劇は起きた。
体勢を崩した妹は、目の前のフェレスのズボンを咄嗟に掴むと、倒れゆく体の道連れの如く、それをそのまま一気にずり下げてしまった。
「え…!? わっ! ちょっ!! わあああああ!!!」
ズボンが下がった事によって、フェレスの下半身が露出する。
「ズ、ズボンが…!!」
フェレスは慌ててズボンを上げようとするが、何故か妹が強く掴んでいるせいでなかなかそれが叶わない。
そして必死にズボンを履き直そうとする彼の股間では、人を殺すには少々心許ない『小型拳銃』が激しくローリングしていた。フェレスの股間で狂ったように踊るその小さな銃器を、面白い顔の悪魔は凝視している。
「ク……ククク」
面白い顔の悪魔から発せられる微かな笑い声。嘲笑ともとれるその笑い声に気付いたフェレスは、目を見開き、ズボンを上げようとする手を止め、その場にへたりこんでしまった。よっぽどショックだったのか、その頬は涙で濡れている。どうやらコンプレックスだったようだ。
「フェレスさん、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
妹はフェレスに土下座で謝った。
「もういいですから……頭を上げてください。俺もズボンを上げますから」
フェレスのズボンはまだ下がっていた。
「次は俺がやります。いいですね?」
「う、うん…」
ズボンを下げてしまった負い目があるせいか、妹は素直に了承した。
「あの……俺がにらめっこをしている間、後ろを向いていてくれませんか?」
「え?」
「お願いします……」
「うん、分かった。フェレスさん、負けないでね」
「はい。あっ、すみません、もう一ついいですか?」
「何?」
「俺がもし負けたりしたら、その時は貴女だけでも……」
「私、逃げないよ。みんなを見捨てたり出来ないもん」
「そ、そうですよね…。すみません……」
フェレスは再び、面白い顔の悪魔に向かって歩きだした。
妹はフェレスに言われた通り後ろを向き、両手を合わせて祈り始めた。
(頑張って、フェレスさん……!)
心の中でフェレスにエールを送る妹。彼女の肩は小刻みに震えている。
(ああ……私、フェレスさんのズボン思いっ切り下げちゃったけど大丈夫かなぁ……。お尻見ちゃったし……。フェレスさんの記憶が戻っちゃったら、私殺されるかも……)
妹よ、今はそんな事を心配している場合ではないぞ。やはりあの兄の妹だけあって、少し思考がずれているのかもしれない。
「あの人と一緒にしないで!!!」
す、すみません!!
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