第59話 ポヨポヨ族
「なあ、俺達はぐれた仲間を探してるんだけどさ…」
何を思ったか、兄が敵である目玉の悪魔達に声をかけだした。
「男三人と女一人なんだけど、見なかったか?」
「…ああ、あいつらか。見たぜ」
三匹の内の一匹が、兄の問い掛けに素直に答えた。
「本当か!? 教えてくれ!! みんなはどっちへ行ったんだ!?」
「ふん…おかしな奴だな。俺達は敵だぞ? 教えてほしけりゃ、力付くで聞き出してみるんだな」
そう言うと悪魔達は、三人の周りをぐるぐると回り始めた。
「俺達の動き、見切れるかなぁ!?」
悪魔達の動きがどんどん早くなる。
「兄貴、こいつら案外やるぞ! かなりのスピードだ!!」
たじろぐチョルト。しかし兄の顔には余裕が伺える。
「落ち着くんだチョルト。いくら速くても、この攻撃は絶対にかわせない」
「え!? お兄ちゃん、何をするつもりなの!?」
自信に満ちた顔の兄に対し、不安に満ちた顔の妹。恐らく『この人また変な行動を起こすのではないか』というような疑心が、妹の心に芽生えたのだろう。
「まあ見てなさい、お兄様の華麗なる一撃を。そして惚れ直しなさい。これは命令です」
「いいから早くやってよ……」
溜息混じりの妹の言葉を尻目に、兄はその場につとしゃがみ込むと、両手いっぱいに砂を掬った。
「ひっさぁぁぁつ!! サァァァンド・ストリィィィィィム!!!」
兄は立ち上がる勢いを利用し、手の平の砂を思い切り頭上へと放った。
辺り一帯に砂の雨が降り注ぐ。
「ギャアアアアアア!!!」
降り注ぐ砂が効いたのだろうか、悪魔達が突然叫び声をあげ始めた。
「どういう事…? どうして砂なんかで……」
苦しむ悪魔達を見て唖然とする妹。
「砂がぁぁ!! 目にぃぃ!! 砂がぁぁぁ!!!」
どうやら悪魔達が苦しんでいるのは目に砂が入ったからのようである。
「あっ、そうか! 目に砂が入ったら痛いもんね!」
「そう! 奴らの場合は『存在そのものが目』だから、砂に対しては全身がウィークポイントとなるのだ!」
砂さえあれば、小さなお子様から女性の方までどなたでもやっつけることが出来る、そんな悪魔である。
「お…俺達が負けるなんて……」
「命だけは……命だけは御勘弁を……」
命乞いをする悪魔達。
「殺さないからさ、仲間がどこへ向かったのか教えてくれないか?」
「お前達の仲間は……連れていかれた……」
「連れてかれた!? 誰に!?」
「『ポヨポヨ族』にだ…」
「ポヨポヨ族!?」
名前が可愛すぎる。
「フフフ……ポヨポヨ族は『カニバリズム』だからな……今頃お前達の仲間は……」
「カニバ……はっ? 何だそれ?」
眉を歪める兄。しかし横にいる妹は言葉の意味を理解しているようである。
妹が青ざめた顔をしながら口を開く。
「た、たた、大変だよお兄ちゃん!! カニバリズムって人肉嗜食の事だよ!! 人間を食べちゃうってこと!!」
「に、人間を食べる!!? ポヨポヨ族は人間を食べるのか!!!?」
兄の顔も青ざめてゆく。
「兄貴、あそこ見てくれ! 真新しい足跡が転々と続いている! あれを追っていけばポヨポヨ族の所まで行けるんじゃないか!?」
チョルトの言う通り、砂浜から森の中へと続いていく足跡がある。
「よし! 急ぐぞ二人共!! みんなを助けるんだ!!」
足跡を追って走り出す三人。
しかし彼らの背後にはあの三匹の影が高速で近づいていた。
「ヒヒヒ! 隙だらけだぜ…!!」
不意を打つ気だろう。目玉の悪魔達は兄妹達の背中に向かい、一直線に飛んでゆく。
(そんな事だろうと思った!)
チョルトだけが悪魔達の不穏な動きに気付いていた。一番後方を走っている彼は直ぐさま振り向くと、突っ込んでくる三匹の悪魔をまとめて海神の爪で切り裂いた。
「ギャアアアアア!!」
ボンッと、音を立て、目玉の悪魔達が煙となって消える。それを確認したチョルトは、開いてしまった兄妹との距離を取り戻すため、羽を使い、跳びはねるようにして木を伝った移動をし始めた。
「あんた達ぃぃ!! ぶっ殺してやるからこの縄を解きなさい!!!」
丸太に縛られたリリムが、泣きながら怒りの声をあげる。
「リリムさん……気持ちは分かりますけど、彼らを下手に刺激しないほうがいいですよ……」
丸太に縛られたカインが、怒り狂うリリムを宥める。
「くう……体力さえ残っていれば、魔法なり何なりでこんな状況は打破出来るのだが……」
丸太に縛られた鼻血男が、顔を伏せながらぼやく。
「俺達、このまま食べられてしまうんでしょうか……」
丸太に縛られたフェレスが、懸念に満ちた表情でみんなの顔を見やる。
今彼らはポヨポヨ族の手により、一列に立てられた丸太に縛りつけられているのだ。
「うう……海に落ちて……目が覚めたらいきなり丸太に縛られてて……しかも髪まで切られてて………もう最っっっっっっ悪!!!」
リリムの腰近くまであった髪は、肩の辺りまで切られていた。
「女性の髪は調理する時や食べる時に邪魔になりますからね…。でも丸坊主にされなかっただけよかったじゃないですか…」
「当たり前よ……。ヒロインが丸坊主なんかにされてたまるもんですか……」
「ヒロイン…?」
リリムも随分偉くなったものである。
「皆さん……調理の準備が出来たみたいですよ……」
フェレスが震えた声で口を開く。
縛られている彼らの眼前で、褐色の肌をした半裸の者達が大釜の湯を沸騰させている。彼等がポヨポヨ族のようだ。
「ちょっ……このままじゃ本当にヤバイわよ!? ねえ、みんな魔法使えないの!?」
リリムはやっと、髪の事なんかで凹んでいる場合ではないと気付いたらしい。
「無理ですよ…。溺れて死にかけたうえ、こんな苦しい体制を続けさせられてるんですよ? 魔法に必要な体力と集中力が残ってません……。ああ……僕達はこんなところで終わってしまうんでしょうか……」
瞳に涙を浮かべるカイン。
(多分……『あたし』はここでは死なないと思う……。だけどカイン達は分らない……。お願い、ダーリン………助けに来て……。あたしが生きてるんだから、貴方も無事なんでしょ……?)
その頃兄は、妹とチョルトに腹痛を訴えていた。
「我慢だ兄貴!」
「そうだよお兄ちゃん!! みんなが危ないんだよ!!」
「うう……そうだな……。この際漏らそうが何だろうが関係ないよな……。急いでみんなを助けに行かなきゃ………」
仲間を助けるため、再び走り出す三人。果たして間に合うのだろうか?
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