第58話 ボナンザ到着
『ソノコンチュウミタイナンガ、ワイニキセイシトッタンヤ。ソンデソッチノチッコイアクマガ、ワイヲソノキセイカラトキハナッテクレタンヤ』
「そうだったのか! おてがらだぜチョルト!」
「えへへ! オイラ頑張ったぞ!」
確かに今回のチョルトはよく頑張った。下級悪魔とは思えない活躍ぶりである。兄妹達との旅が、彼に何か大きな影響を与えたのかもしれない。
「あっ、そうだ! カイン君達が海に落ちちゃったんだよ! 早く助けなきゃ!!」
「おお! そういやそうだった!! おい、レヴィヤタン!! みんなを助けてくれよ!! 出来るだろお前なら!!?」
『ア、ソウイエバ、ウミニオチタヤツラハ、ムコウニミエルカイガンニナガレツイタミタイヤデ』
「マジ!?」
カイン達は海流に乗って一足先にボナンザ大陸にたどり(流れ)着いていた。
『ヨシ! ホンナラ、アンタラヲソノカイガンマデトバシタルワ!』
「おっ! 頼む!」
『ソウソウ、トバスマエニ、アンサンニハコレヲクレタル! タスケテクレタオレイヤ!』
チョルトの右腕が光りだした。
「これは!?」
『カイジンノツメヤ!』
光がやんだ。チョルトの腕には『海神の爪』が装備されていた。
波を模した美しい装飾に鋭い閃きを放つ強靭な刃。たった一つの装飾がチョルトを一気に強力(っぽい)な悪魔へと変貌させた。
「いいな〜チョルト! おい、レヴィヤタン! 俺と妹にも同じのくれよ!」
がめついぞ、兄よ。
「我々にもください!」
自重しろ、船員達よ。
『ソンナヨーサンアゲタラ、アリガタミノーナッテシマウヤン!』
「ま、まあな…」
『ホンジャ、トバシタルサカイ、シタカマンヨウキーツケヤ!』
兄と妹とチョルトの体が宙に浮いた。
「きゃっ! 高い!」
足をばたつかせる妹。
「お〜〜!! すげえ!!」
手をばたつかせる兄。
『アンタラ、ジットデキヘンノカ!!? マアエエワ、トバスデ!』
兄妹達がボナンザへと飛んでゆき、船の上にはバラッサと船員達だけが残された。
「あの、海神様…。この異形の生物はどうしたら……」
船員の一人が自分の触手に絡まって身動きのとれないバラッサを指差し、困り顔で口を開く。
『ソヤナ〜、シャーナイ、ワイガショブンシトクワ』
「その必要はありません」
頭上から突然女性の声がした。船員達はその声に反応し、空を仰ぐ。
「あれは、天使……いや、悪魔か!?」
中空から、『白い翼』と『黒い翼』を片方ずつ持つ女性が一人、舞い降りてきた。
彼女は船員達のいるデッキから五メートル程高い位置で制止し、明らかに人を侮蔑した半開きの目で、自分を見上げる者達をそっと見下ろした。
人間でないとはいえ、彼女は不思議な出で立ちをしている。魔道師が着るような紺色のローブを身に纏いながら、腰には彼女の身の丈程もある長い刀が下げられているのだ。髪型も少し変わっている。髪自体は艶のある綺麗な黒髪なのだが、なぜかその髪が彼女の顔、右半分を覆い隠しているのだ。少々気味が悪い。
女性は船員達から目を離し、今度はバラッサの方へ視線を移した。
「貴方が海の神を乗っ取ったと聞いたから、わざわざ様子を見に来たというのに。情けない様ですね? バラッサ」
「す、すみません〜! とんだ邪魔が入りまして〜!」
「まあいいでしょう…。どうせ海を支配した所で、集められる『負の感情』は限られています。人間の多くは陸にいるのですから。どのみち貴方は役立たずだったというわけです」
女性はバラッサに手の平を向けた。
「ヒ〜〜!! 今一度!! 今一度チャンスを…」
「駄目です」
女性の手から青黒い球が放たれ、バラッサを包み込む。
「ギャ…ガアァァァァ………」
そしてバラッサもろとも、青黒い球は収縮してゆき、終いには完全に消滅してしまった。
「さて、貴方方に聞きたい事があるのですが」
女性は何事も無かったかのように、再び船員達の方へ視線を向けた。それに伴い船員達の顔が恐怖に引き攣る。
「バラッサを倒したのは誰なんです? 貴方方じゃないのでしょう?」
「え……えっと……我々にもよく分からないんですが……とりあえず操られていた海神様と戦っていたのは、若い男と小さな女の子……それから悪魔が一匹………。あっ、一応我々もジャガイモを投げました……」
「ば、馬鹿…! ジャガイモの事は黙っとけ!」
船員達はカインやリリムのことは知らないようである。
(人間に手を貸す悪魔がいる…。放ってはおけませんね)
女性は体を反転させ、空を見上げた。
「ありがとうございました。それでは…」
女性の姿が青空へと消えてゆく。船員達はホッと胸を撫で下ろした。
しかし…
『ア、アイツ、ナニカスルキヤデ!!』
遥か上空であの女性が片手を掲げている。その手先にあるのは強い輝きを放つ、巨大な光の球。まるで太陽がもう一つ増えたかのようである。
「ひいい!! 俺達を殺す気なんだ!!」
「見逃してくれたんじゃなかったのか!!」
「お前がジャガイモの事を言ったからだ!!」
「ごめんよぉぉぉ!!!」
『オチツカンカイ! ワイガオルヤンケ!!』
女性が掲げた片手を振り落とすと、光の球もワンテンポ遅れて落下を始めた。
『ナンテデカサヤ…!!』
「大丈夫なんですか海神様〜!!?」
『ショウジキ、ワカラン!!』
「そんなぁぁぁ!!」
激しい閃光。そして波紋のように広がる衝撃波。爆発は半径五十メートル程にも及んだ。
「………あれ? 俺達……生きてるぞ……」
身を伏せていた船員達が不思議そうな顔をしながら起き上がった。
「こ…これは!?」
船が巨大なバリアで覆われている。
『フウ……ナントカフセゲタワ。アノオンナ、ムチャクチャシヨル…』
空にあの女性の姿はもう見えない。
『アンナキョウリョクナアクマガオッタトワナ……。コノセカイ、ドウナッテマウンヤロ……』
「海神様……自分の身を犠牲にしてまで我々を守ってくれたんですね……」
船員の一人が泣きそうな顔をしながら口を開く。
『ハ? ナニイッテ……アア!! ジブンニバリアハルノワスレテタァァ!!』
レヴィヤンの体には程よい焦げ目がつき、美味しそうな臭いを漂わせていた。もはやただの焼き魚である。
『トホホ……ナンデワイバッカコンナメニ……』
レヴィヤタンは情けない声をあげながら、ぶくぶくと海に沈んでいった。
その頃、ボナンザに吹っ飛んでいった三人は、頭から砂浜に突き刺さっていた。レヴィヤタンは随分いい加減に飛ばしてくれたらしい。
「ぶはぁ!! 死ぬかと思ったぁ!!」
「海の神様酷いよ〜! う〜、砂が口に入っちゃった……」
兄妹は自分達の頭を砂から引き抜いた。しかしチョルトの頭は未だ突き刺さったままだ。
「チョルト大丈夫か?」
兄はチョルトの両足を引っ張り、彼の頭部を砂浜から引っこ抜いた。
「チョルト!? し……死んでる!!」
「え!? そんな!!」
兄の言葉に驚愕する妹。
「し…死んでないって!!」
砂を吐き出しながらチョルトが声をあげた。どうやら生きていたようだ。
「よかった…」
胸を撫で下ろす妹。どうやら兄の言った事を本気にしていたらしい。
「さて、みんなはどこだ?」
彼らのいる砂浜の先には森が広がっている。ここにいないということは、カイン達は恐らくその森へ入って行ったのだろう。
「海だな! あいつら海で泳いどる!」
それはないだろ、兄よ。
「うん、私もそう思う……って、そんなわけないでしょ!」
妹初、のりつっこみ。
「ん? 兄貴、これ見てくれよ!」
チョルトが兄を呼ぶ。何か見つけたらしい。
「何だ? おっ!? これはリリムのつけてたネックレスじゃないか!」
リリムが占い師の老婆から貰ったネックレス。それが半分砂に埋もれた状態で落ちていた。
兄はおもむろにネックレスを手に取る。
「これがここに落ちてるってことは……」
その時だった。
森の中から奇声が聞こえてきたかと思うと、鳥のような三つの影が兄妹達の元へと近づいてきた。
「悪魔だ!!」
ソフトボール程の大きさの目玉にコウモリのような翼が一対生えた悪魔が三体、兄妹達を取り囲む。
「ヒャーーッハッハッハッ!! 殺せ殺せ!!」
悪魔……ではなく、兄が何やら恐い事を叫びだした。
「ちょ、お兄ちゃん、それじゃどっちが悪魔か分かんないよ」
「全くだな! アハハハ!!」
「うふふふ!」
悪魔に囲まれているというのに、なぜか和やかな雰囲気になってしまった。
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