第52話 無慈悲なる踵落とし
苦労の末、兄妹達はレヴィヤタンを追い返すことに成功した。しかしその直後、エーテルによって体力を過剰消費した兄が倒れてしまう。
はたして兄は大丈夫なのだろうか…?
「とりあえず部屋へ連れていこう」
鼻血男は兄をお姫様抱っこし(なんか嫌だ)、船室へと運んだ。
ベッドに寝かされた兄を、心配そうな面持ちで見つめる仲間達(フェレスも遅れてやってきた)。
「あの、じゃあ、あたし…」
沈黙を裂き、何かを切り出そうとするリリム。しかし、
「今夜は私がお兄ちゃんについててあげる」
リリムの声は、よりはきのある妹の声によって掻き消されてしまった。
そもそも疲れきって寝ているだけの兄に、誰かがついていてやる必要があるのかどうかは疑問だが、まあ兄がそれだけ想われているということだろう。
(リリムさん、諦めちゃ駄目です! 頑張ってください!)
リリムの気持ちを察したのか、カインが心の中でエールを送る。
「……あのさぁ、ダーリンはあたしが見とくから、あんたは休んどきなさいよ。子供が夜更かしなんてするもんじゃないわよ?」
カインの思いが届いたのか、リリムも負けじと名乗りをあげる。
(おお〜〜! リリムさん言ったぁぁぁ!!)
純粋にリリムを応援しているのか、兄と妹を引き離したいのか、ただ単に色恋沙汰が好きなのかは分かりかねるが、兄を心配する表情とは裏腹に、頭の中では大興奮のカイン。
ところが妹は、リリムの(表向きの)気遣いをやんわりと断った。
「大丈夫だよ。それよりリリムさんこそちゃんと休まなきゃ。鼻血男さんの攻撃で怪我してるんでしょ?」
「こ、これくらいの怪我…」
「それだけじゃないよ…。リリムさんを一晩中この部屋にいさせたら、絶対お兄ちゃんに変なことするもん!」
「な、何言ってんの!? そんなこと…!」
珍しく一方的に圧されるリリム。
「ハハッ! リリムは男好きだもんな!」
無神経なチョルトが、妹をフォローするかのような発言をしだした。
そんなチョルトの頭に、カインがそっと手を添える。
「チョルトさん……く・う・き・よ・み・ま・しょ・う・ね?」
カインの手に力が篭る。
(いででぇぇぇ!! オイラなんかまずいこと言ったか!?)
カインに掴まれたチョルトの頭は、メリメリと音を立てていた。
「……ま、まあ、ばれちゃしょうがないわね……! あ〜あ、せっかくダーリンに好き放題出来ると思ったのに!」
そう言い残し、そそくさと部屋から出ていくリリム。
(リリムさん……)
リリムの背中を追い、カインも部屋を後にする。
「さて、私達も自分の部屋に戻るとしよう。では妹様、救世主様を頼みましたよ」
エーテルを目の当たりにしたからだろう、いつの間にか鼻血男は、兄のことを『救世主様』、妹の事を『妹様』と呼ぶようになっていた。サラリーマンの鏡である。
「リリムさん……大丈夫……ですか?」
いそいそと部屋に戻ろうとするリリムにカインが気遣いの言葉をかける。
「え〜? 大丈夫って何が?」
「いや、だって…」
「あたしな〜んも気にしてないわよ。ふぁ〜〜眠い! もう駄目だあたし、疲れた! あんたももう寝たら?」
口早にそう言い残し、リリムは自室へと入っていってしまった。
「リリムさん……」
部屋に戻ったリリムは直ぐさまベッドに飛び込むと、そのまま顔を埋めてしまった。
「あぁ…ほんと駄目……全然駄目だあたし……ズズッ……あぁぁやだ………もう嫌……ズズッ…ズビルビィィィィ!!!!」
布団で鼻をかむな!!
そして次の日の朝。
「お兄ちゃん! よかったぁ! 目が覚めたんだね!」
「ん…? あれ? えっと……」
まだ脳が完全に覚醒してないせいか、現状を把握出来ていない兄。気絶から覚めた者のセオリーである。
「覚えてない? お兄ちゃん、レヴィヤタンをやっつけた後、気絶しちゃったんだよ」
「ああ、そうか…。そういえばそうだったな……」
兄は浮かない顔をしている。
「どうしたのお兄ちゃん? やっぱりまだ結構疲れてる?」
「そうだな〜、かなり怠い。こりゃしばらく動けそうにないな…。俺にエッチなことするなら今のうちだぞ?」
「しないよ!」
「ゴフッ!!」
妹は兄の腹部に拳を落下させた。
「お前……容赦ないな……」
「お兄ちゃんが容赦なく変なことばっか言ってくるからだよ」
「あははっ、まあな。ところで、リリム…達はどうしてる? ていうか今何時なんだ?」
「もう朝だけど……まだ、みんな寝てると思うよ」
「そっか……じゃあ二度寝しよかな。お前も俺についててくれたから、そんなに寝てないんだろ?」
「うん、あまり寝てないよ…」
と、妹は答えたが、実際は昨日みんなが部屋から出ていってすぐに、彼女は椅子に座ったまま爆睡し始めたのだった。
「久しぶりに一緒に寝ようぜ、我が妹よ」
「え〜! ま、まあ…いいけど……でもベッド狭くない? お兄ちゃんがもう少しいざってくれれば、なんとか二人寝られそうだけど、今お兄ちゃん動けないんでしょ…?」
「俺の上で寝ろよ」
「え!?」
「俺のダンディーな胸板を枕にして寝るんだよ。お前ちっちゃいから重くないし」
「う……うん……(そこまでして一緒に寝る必要あるのかな……)」
躊躇いながらも、妹は兄の体の上にその身を預けた。
(あっ……お兄ちゃん……あったかい……)
妹は兄の体にそっと両手を当てた。
「おっ、お前の心臓の音が伝わってきたぞ」
「お兄ちゃんの音も聞こえるよ…。すっごいドクドク言ってるね…」
「妹よ、心臓が何で動いているか知ってるか?」
「体中に血を送るためでしょ?」
「そう、心臓は血を送り出すためのポンプの役割を担っている。そして今、『興奮状態』の俺の心臓は、血液をある一点に集中させるために、激しく活動をしている」
「ある一点って……どこ?」
「それは……俺の、相棒だ……」
兄の股間に生えている竿が急激に膨張し、上で寝ている妹の内股に当たった。
「キャアアア!」
それに驚き、妹が跳び起きる。
「悪い妹よ…。やっぱ上に乗られたらこうなっちゃうよ…」
「お…お兄ちゃんの……!」
妹は柔軟な体を生かし、脚を自分の頭よりも高く上げた。
「ちょっ! 待て! しょうがないだろこればかりは! 頼む! 許し……」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
妹の勢いよく振り下ろした踵が、兄の元気いっぱいな相棒を跡形もなく押し潰した。
そして彼は再び長い眠りにつく。大きな傷を負った相棒と共に……。
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