第49話 奇怪な護り神
「グオオオオ!!!」
耳をつんざくほどの雄叫びをあげながら、海神レヴィヤタンが海面を突き破り、ついにその巨体を露にした。
龍のように長くしなやかな体に、魚のような鰭。金色に輝く双眸の上には一本の太い角が力強く天を仰いでいた。
「ほ、本当にあれが海の神様なの…? その割には海荒れてきちゃったけど…」
「こ、こちらを見てますよ…」
レヴィヤタンはそびえ立つ塔の如く、荒れ狂う海に対して垂直に体を伸ばし、船を見下ろす形で静止している。
「レヴィヤタンは別名リヴァイアサンと言って、何万年も昔からカマドーマの海を……」
この不穏な空気の中、尚且つ、誰も聞いていないというのに、下っ端の老人はレヴィヤタンについて語り続けていた。
「大丈夫か妹よ!! って、でけえぇぇ!! 何だありゃ!!?」
兄、チョルト、そしてカインにリリムがデッキに上がってきた。
「お兄ちゃん!」
「皆さん!」
全員集合である。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、私もいるぞ!」
鼻血男もワンテンポ遅れてやってきた。この男はまさか、『自分も兄妹達の仲間』だとか思っているのではないだろうか?
「思ってるとも!」
調子に乗るな、鼻血!
「おお、君達もよく見ておきなさい! 海の護り神、レヴィヤタンのお姿を!」
下っ端の老人のその言葉に、駆け付けて来た者達は首を傾げる。
「海の護り神ぃ…!?」
「あたし達は悪魔の気配を感じて、ここに来たのよ…?」
悪魔の気配を発している生物が、何故か神と崇められている。この不可思議な状況に兄妹達は混乱し始めた。
「ちょっと待ってくれ!! 私にはあれがレヴィヤタンだとは絶対に思えない!!」
突然そう叫んだのは、一人、後方でレヴィヤタンの体を眺め回していた鼻血男である。
「あれは城の蔵書に書かれていたものとはまるで違う! 何だあの黒ずんだ体は!? レヴィヤタンは透き通るように繊細で鮮やかな青色の鱗をその身に敷き詰めているはずだぞ!?」
鼻血男の話が本当だとしたら、今兄妹達の前にいる生物は一体何なのだろうか?
「みんな、ちょっと聞いてくれ!」
レヴィヤタンから目を離し、仲間達の方を向いて兄が口を開く。
「鼻血男の言う通り、あんなものは護り神でも何でもない! 黒いし! 太いし! 長いし! 奴はただのチン…」
兄が何か良からぬワードを口にしかけたが、妹が思い切り股間を蹴り上げることにより、それは阻止された。
「ぬぐおおお……死ぬぅぅぅ……」
悶え苦しむ兄。
「妹よ……こんなことして……将来『困る』ことになるのはお前なんだぞ……」
兄が何やら意味深な言葉を漏らした。
それを聞いたリリムが、妹の元へと歩み寄る。
「ちょっといい? ダーリンの股間が使い物にならなくなって将来困るのは、あんたじゃなくて、あ・た・し! 勘違いしないでよ!」
そんな事で張り合うな、リリムよ。
(え!? 何!? 何なの!? 困るって何が!? お兄ちゃんもリリムさんも何を言ってるの!?)
賢い妹も、さすがにその意味は理解出来なかったようだ(というか、九歳でそんな知識があったら引く)。
「二人とも、今は下ネタを連発してる場合じゃないですよ…」
なんと、カインは、兄とリリムの言っている事の意味を分かっていた(カインと妹は、さほど年齢差は無い)。どうやら彼のエロガキレベルは相当のものらしい。
「お、おい! あいつの口、光ってるぞ!」
小さな羽をバタつかせ、チョルト(丸虫状態)が叫んだ。彼の言うとおりレヴィヤタンの開かれた口からは、青白い光が漏れている。
「まずい……まずいわよ! あいつ、やっぱりあたし達に攻撃してくるつもりよ!!」
「そんな馬鹿な…! 海神レヴィヤタンが人間を襲うことなど…」
「あんた、この状況でまだそんな事言ってんのぉ!? いいから年寄りは早く中へ避難してなさいよ!!」
レヴィヤタンを恐れたのか、それともリリムを恐れたのかは定かではないが、下っ端の老人はいそいそと船の中へと消えていった。
「はい、じゃあみんな! 今からあたしの指示に従って行動して!」
リリムがリリムらしからぬ真剣な表情で、仲間達に指示を与え始めた。今の彼女からは『苛烈な魔界を生き抜いてきた者』という、力強くて頼りがいのある雰囲気がひしひしと伝わってくる。
(リリム……カッコイイじゃん…。こいつ、こんな一面もあったんだ……)
兄は憧れの女上司を見るような目でリリムに見入っていた。ちなみに、さっき肩に乗っているチョルトが羽をバタつかせたせいで、兄の頬からはとめどなく血が流れていた。
そしてレヴィヤタンとの戦いが始まる……!
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