第48話 海神レヴィヤタン
「カイン! 話が違うじゃない!」
ギャップ作戦を失敗という形で終えてしまったリリム。彼女は自分の様々な失態(変な言葉遣いや、途中でエロ教師になってしまったこと)を棚に上げ、カインを一方的に責め始めた。
「そ、そんなぁ! 僕のせいですか!? どう考えても九割型リリムさんに原因があると思いますよ!」
「はぁ!? あたしに出来ないような作戦をやらせたんだから、あんたが十割悪いに決まってんでしょ!」
「えーーー!!?」
小さい! 小さすぎるぞリリム!!
「はぁ…。リリムさん、そんなに焦らなくてもいいじゃないですか……。旅はまだまだ続くんですから、じっくりいけば……」
「駄目…!」
「リリムさん…?」
「それじゃ…駄目なの……」
「どうしてですか…?」
「それは……」
その時だった。二人の会話を遮るかのように部屋の扉が開かれる。
「あれ? リリムにカインじゃないか? ここ、トイレじゃなかったっけ…」
「お兄さん! (ていうか、リリムさんの部屋、トイレと間違えられたんですか!?)」
「ダーリン! (ていうか、あたしの部屋、トイレと間違えられたの!?)」
部屋に入ってきたのは兄だった。
「あっ、そうだリリム……さっきはキモいなんて言ってごめんな」
「え? あ、あ〜! 大丈夫よダーリン! そんな事全然気にしてないから! あたしには『アイアン・ハート・デビル』って二つ名があるくらいなんだから!」
それは無神経という意味だろうか?
「でも何で突然、先生キャラになんかなっちまったんだ? おまけに、今まで教えてくれなかったことをあんなに一気に……」
「…………ギャップ……」
「え?」
「ギャップよ…。いつもと違う姿を見せてダーリンの気を引こうとしたの!」
「リリム……」
兄はスッと、リリムに背を向けた。
「俺は……今のままのお前が一番好きだ……」
そう言い残し、兄はリリム達のいる部屋から出ていった。お尻を強く押さえていた事から察するに、きっとものすごくウンコがしたかったのだろう。
「ちょっと……聞いたカイン!? 『お前が一番好き』だって!!」
「い、いえ……『今のままのリリムさんが一番好きだ』ってお兄さんは言ってたんですよ?」
「だからあたしの事が一番好きなんでしょ?」
「いや、だから……」
リリムは自分に都合のいいように解釈をしだした。
(あっ、でも実際お兄さんはリリムさんの事が好きなんですよね……ということは……)
「んっ!?」
「わっ、どうしたんですか、リリムさん?」
カインの思考はリリムの『んっ!?』によって中断させられた。
リリムの様子がおかしい。額に手を当て、俯いてしまっている。
「す……すっごく邪悪な気配を感じる……」
「邪悪な気配……ですか?」
「きゃっ!」
船が突然傾いだ。それにより、小柄な妹がふらふらとよろめく。
「おっと!」
デッキに尻餅をつきそうになった妹の背中をフェレスが支えた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがとう、フェレスさん」
「波が荒くなってきましたね…。中へ戻りましょうか」
フェレスが妹の手を引く。
(あ〜あ、フェレスさんがお兄ちゃんだったらよかったのにな〜)
もし、今の妹の気持ちを兄が聞いたら、十中八九自害するだろう。もっとも、妹も本気でそう思ったわけではないのだろうが。
「大変です! 見てくださいあれ!!」
「なんと! あれは!!」
船員の男と船長と思わしき老人が海に目をやりながら、何やら騒いでいる。
「どうしたんだろう…?」
「海に何か見えるみたいですね…」
不思議そうな顔をしながら、妹とフェレスも海の方へ目を向けた。
「きゃあ!!」
思わず妹が声をあげた。
何かが大きな波の隙間からその巨体を覗かせているのだ。
「あれはまさか……悪魔、ですか……?」
「きっとそうだよ…。どうしよう……あんなのに勝てるわけないよぉ……」
目を見開き、体を震わす妹。
「お嬢ちゃん、恐いのかい?」
船長と思わしき老人が、妹の横に並んだ。
「大丈夫、あれは海の護り神、『レヴィヤタン』だよ」
「護り神…?」
「そう。ワシもこの船で五十年近く『下っ端』をしておるが、この目で見るのは初めてだよ」
船長じゃなかった。
その頃、兄はというと…
「ふぅ……いっぱい出た…。俺の下腹部に、あれほど大量の汚物が詰まっていたとはな…」
ウンコを終えたところだった。
すっきりとした面持ちでトイレから出てくる兄。そんな彼の肩に、慌ただしく飛んできたチョルトが着地する。
「兄貴、大変だ!」
「え!?」
何を思ったか、兄は慌てて自分の腰の辺りに手を当てた。
「何やってんだよ兄貴!?」
「いや…トイレットペーパーがズボンに挟まってんのかと思って……ああっ!! 本当に挟まってたよ!!」
「おっちょこちょいだな〜兄貴は……って、違ぁぁぁう!! オイラが大変だって言ってんのはそんなことじゃない!!」
「じゃあ何だよ?」
「悪魔だよ! 強力な悪魔の気配を感じるんだ!」
「悪魔だって!? まさか船に潜んでんのか!?」
「いや、気配は船の外から感じるよ!」
「外…!? 確か妹とフェレスが今デッキに………ぬおお!! あかんがな!!」
兄は叫びながらデッキに向かって走りだした。
「ダーリン!」
デッキへ向かう兄達の前からリリムとカインも走ってくる。二人の行き先も同じのようだ。
合流した四人は、直ぐさま方向転換し、デッキへと続く階段を駆け上がった。
「グハッ!!」
階段の途中でカインが派手に転んだ。
「ぼ…僕をオチに使わないでくださいよ……」
人一倍オチにうるさいくせに、何を言っているんだお前は?
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