第47話 悪魔来襲の秘密
航海二日目。
兄妹達は朝っぱらから船のデッキで雑談を交わしていた。
「どういう事ですか!? サブタイトルは『教えて☆リリム先生!』だって前回言ったじゃないですか!!」
「ど、どうしたのカイン君…?」
突然意味不明な事を言い出したカインに、仲間達のいぶかしそうな視線が集まる。
「あっ、すみません、こちらの話です…。そ、それより皆さん! リリムさんの部屋に集まってください!」
「リ、リリムの部屋に…? あいつまだ寝てるのかと思ってたけど……何かあるのか?」
「リリムさんが、魔界や悪魔について講義をしてくれるそうです!」
「あいつが!? 何でまた突然…」
「いいから来てください!」
カインに促され、兄妹、フェレスにチョルトそして鼻血男がリリムの部屋へと移動し始めた。
「連れてきましたよ〜、リリム先生!」
「リリム先生!?」
船室の扉を開け、カインがみんなを室内へと通す。
「リ、リリムさん…!?」
部屋に足を踏み入れた途端、妹が思わず声をあげた。
「皆様、いらっしゃいでございます」
おかしな言葉遣いで兄妹達を迎えたのは、眼鏡をかけ、教鞭を持ったリリムだった。
「リ、リリム……何だその格好&喋り方は…?」
(うふふ、ダーリン驚いてる! この賢そうに見える眼鏡と、上品な言葉遣いの先制が効いたみたいね!)
眼鏡はともかく、言葉遣いの方は人を馬鹿にしているとしか思えない。
(リリムさん、完璧です!)
リリムにウインクをするカイン。一体どこが完璧なのやら。
とりあえずリリム以外の四人(チョルトは兄の肩に乗っている)は、リリムに言われるがまま予め用意されていた椅子へと腰掛けた。
「さあ、授業を始めますわよ」
ついに、リリム先生のつたない授業が始まった。
「で、皆さんは何が知りたいんですか?」
おいおい!
「えっと……そうだなぁ……じゃあさ、とりあえず何で悪魔達がこの世界に攻めてきたのか、それを教えてくれないか……?」
いつもと違うリリムに戸惑っているのだろう。兄が控え目な口調で質問をした。
「私達がこの世界に来た理由ですね? 分りました! じゃあ、リリム先生が分かりやすく丁寧に教えて、あ・げ・る!」
キモいぞコイツ。
「悪魔が何故このカマドーマへやってきたのか。それにお答えするにはまず、『この話』から始めなければなりませぬわね…」
そう言うと突然リリム先生は口を開け、上品さのかけらもない大あくびを、生徒全員の前で披露した。
(リリムさぁぁん!!)
カインの表情が険しくなる。それに気付いたのか、リリムの顔にも気まずそうな色が浮かんだ。
「リリムさん……どうしたんですか?」
妹が心配そうに尋ねる。
「え? あっ、な、何でもないぞなもし!」
「ぞなもし!!?」
もはや知的さも上品さも皆無である。
「はい、失礼しました……話を続けますね…。えっと、私達悪魔はですね、気が遠くなるほどの昔から天界と戦争をしてきたんです。天使と悪魔、この相反する二つの存在が争うのに特別な理由なんてものはありません。だからこそずっとずっと戦争を繰り返してきたんですの。今からちょうど…半年ほど前にも大きな戦いがありました。魔界の王までもが動きだすほどのビッグな戦争です。私は戦いなどには全く興味がないので、戦争には参加しないようにしていたんですが、その時ばかりは規模が規模だけに、強制的に戦いの地へと駆り出されてしまったんですの。仮に私が下級悪魔だったら、そんなこともなかったのだと思うのですが、皮肉にも私、強力な邪眼を持つ上級悪魔として魔界でも名が知れていたので、すぐに目をつけられてしまったんですの」
最後の方は自慢話だった。
「なるほど、天界や魔界ではそんな事が起きていたのか…。それで、その戦いはどうなったんだい?」
偉そうに腕組みをしながら、鼻血男がリリム先生に話の続きを求める。
「……恐らくまだ戦いは続いていると思いますです」
「まだ続いている? じゃあこの世界にやってきた悪魔達は…?」
「今この世界にいるのは『第四階層部隊』という最前線で戦っていた悪魔達ですの」
「第四階層…部隊?」
「はい。魔界は七つの階層に分かれていますの。天界との戦争ではその階層ごとに部隊を組んで、それぞれ役割を分担して戦闘を行っていたんです」
何だか話がややこしくなってきた。
ずっと黙って話を聞いていた兄が頭を抱えながら口を開く。
「…え〜っと、つまり天使と悪魔の大戦争が始まって、リリムも無理矢理その戦いに参加させられてたんだよな? でもリリムの所属していた部隊だけが戦いの最中にこのカマドーマへとやってきた……ってことでいいのか?」
「はい、その通りです。これで明日のテストは百点ですわね」
そう言うとリリム先生は兄の元へ歩み寄り、耳元に顔を寄せて何かを囁き始めた。
「もしまだ分からない事があるのなら、このあと一対一で授業してあげてもいいわよ……。なんなら大人の授業でも……」
リリム先生はいつの間にかエロ教師に成り下がっていた。真剣に相談に乗ってくれたカインの気持ちを踏みにじるかのような下品っぷりである。
「……リリムさん、そろそろ核心に迫る質問をしてもいいかな?」
リリムのエロ教師っぷりに呆れながらも鼻血男が口を開いた。
「君の所属していた部隊、第四階層部隊がそんな大きな戦いを放棄してまでこの世界に来た理由とはなんなんだ?」
天界との大戦争。そんな戦いを抜けてまで悪魔達がこのカマドーマへ来た理由とは…!?
「逃げてきたんです」
「に、逃げてきた…!?」
意外な動機に兄妹達が声をあげる。
「魔界を分ける七つの階層には、それぞれ支配者が存在し、戦争ではその支配者が部隊を指揮しますの。無論、戦争の勝利はおろか、部隊の存命は彼らの肩にかかっていると言っても過言ではありません」
「ふむふむ…」
誰かが『ふむふむ』などという、今時漫画でも言わないような言葉を漏らした。
「ところが、戦いが始まって間もなく、私達第四階層部隊の支配者にあたる大悪魔が、天使達の恐ろしく『卑怯』で『卑劣』で『陰険』な手段により致命傷を負ってしまったんです」
(え…!? 天使ってそういう事するの…!? イメージがた落ちだよ……)
天使達は妹に失望された。
「そして、それが原因で士気は下がり、私達の部隊は助けも間に合わないくらいあっさりと、壊滅寸前にまで追いやられてしまいました…」
「あの時、オイラも危うく殺されるところだったんだよな…」
恐い事を思い出したのか、チョルトが震え出した。
「チョルト君、今は先生が話しているんですのよ。どうしても言いたいことがあるのなら、挙手をしてくださいな」
チョルトは注意を受けた。リリム先生は意外と厳しいようだ。
「リリム先生!」
突然、兄が挙手をしだした。何か発言する気なのだろうか?
「はい、何ですか?」
「じっと聞いてるのも疲れたんで、ここからは俺が説明するぜ!」
なんと、無謀にも兄がリリムの話の続きをすると言い出した。
「第四階層部隊の大ピンチ! しかしその時だった。致命傷を負った支配者の右腕にあたる悪魔がこんな提案をしだしたのだ。『私の大転移魔法で生き残った第四階層の悪魔を全て別次元へと脱出させましょう』、と。しかし支配者はその提案を否定する。『異世界へ逃げるということか? それは無理だ。一つの世界には、必ずその世界を護る神が存在する。その神が異世界間に結界を張っている限り、我らのような魔に属する者が異世界へ赴くことは出来ないのだ』。すると右腕の悪魔はこう返した。『いえ、その点は問題ありません。先程、神の加護を受けていない世界を感知しました。カマドーマという世界です』。『ほう……どうやら我らにもまだ希望が残されているようだな。よし、すぐに生き残った第四階層の悪魔達をそのカマドーマとやらへ送るのだ』。こうして、リリムやフェレス、チョルトが所属していた第四階層の悪魔達は、天使の攻撃から逃れてこの世界へとやってきたのだ!」
「もう! またお兄ちゃん、いい加減なこと言って!」
適当な事ばかり言う兄に、妹がキレる。
「いえ、全てダーリンの言う通りですわよ……」
「うそぉ!?」
兄が再び意味のない奇跡を起こした。次こそは是非、この世界のために奇跡を起こしてもらいたいものである。
「悪魔を通さない結界……それがなかったせいで…神様がいなかったせいで、この世界に悪魔が……」
カインが拳をにぎりしめた。
「な〜んかムカつくよなぁ…。負け犬のくせして人様の世界でやりたい放題しやがって…。あっ、もちろんリリムやチョルトは別だぜ?」
「あ、ありがとうございますです…」
「サンキュー、アニキ…」
兄は忘れているようだが、リリムもチョルトも結構やりたい放題していた。
「それにしても意外だったな…。私は何か『大きな野望』があって、悪魔がこの世界にやってきたのだと思い込んでいたんだが……」
「そうそう、世界征服とかな!」
「そう思うのが普通ですわよね…」
呟く鼻血男に兄とリリムが同意する。
「あれ? でもリリム、この世界に転移してきてすぐ、ボス(第四階層の支配者)が何か野望みたいなことベラベラ語ってなかったか…?」
「え?」
チョルトの言葉にリリムが首を傾げる。
「ほら確か、『この世界の人間に苦痛と恐怖を与える』とか、『第二の魔界を作る』だとか、何だか意味深な事言ってたぞ。オイラ頭悪いから、ほとんど覚えてないけど…」
「え!? そんな事聞いてないわよ!? あっ、そういうばあたし、この世界に着いてすぐに男漁りに出発しちゃったから…」
驚きの余り、素に戻るリリム。
「ちょ、ちょっと待てよ二人とも! ある意味そこが一番重要なんじゃないか!?」
兄が正論を言った。
「ご、ごめんダーリン…。そうだよね…。これからのあたし達の旅において最も重要なのは、『悪魔がこの世界に来た理由』じゃなくて、『悪魔がこの世界で何をしようとしているか』よね……。ハア……先生の恰好なんかして偉そうに色々話してたけど、結局役に立つことは何も伝えられなかった……。死ぬほど苦労して、めんどくさい説明を上品な言葉でこなしてきたのに……馬鹿みたい……」
へこむリリム。
「あ、い、いや、全然意味が無かったってわけじゃないぞ! お前やチョルト達の過去も少し知る事ができたし……」
「ほんと…? 役に立てた…?」
「もちろんさ!」
「よかった……。じゃあもう一つ聞いていい?」
「何だ?」
「今日の私(リリム先生)どうだった?」
元はと言えば、知的で上品な姿を兄に見せ、そのギャップで彼を落としてしまおうというのが、今回の作戦だったのだ。話の内容が役に立つかどうかは二の次である。
さあ、兄はなんと答えるのであろうか?
「今日のリリム、なんかキモかったぞ」
作戦大失敗!! |