第45話 星空兄妹
「お兄ちゃん、お待たせ」
星空と満月によって照らされた船のデッキ。兄と妹はそこで待ち合わせをしていた。
「わあ! 綺麗!」
目を輝かせながら空を仰ぐ妹。
「ほんとだな」
妹の顔を見て微笑むと、兄も空を見上げた。
「なんか昼間の海賊騒動が嘘みたいだな…」
「そうだね…」
しばらく二人で星空を眺めていると、妹がおもむろに兄の方を向き、控え目な口調で疑問を口にしだした。
「星空が綺麗だからって誘ってくれたのに、こんなこと聞いちゃってごめんね…。あの、お兄ちゃん、海賊達がいなくなった後、カイン君と何か話してたよね…? あれは…どんなこと話してたの…?」
それに対し、兄が少し躊躇ったように口を開く。
「…いや、たいしたことじゃないよ。ちょっとした恋愛話さ」
「恋愛話…?」
「思春期(?)の男子二人がこっそり話してりゃ、恋愛話か、もしくはエロい話しかないだろ?」
『兄とカインの恋愛話』。となると妹は、当然自分のことが話の中心に持ち出されていたのだと思うだろう。しかし実際の会話は『妹しか愛せなかったはずの兄が、リリムに惚れてしまった』という、かなりサプライズな内容だった。
(言えない! 浮気(?)しそうだなんて妹には絶対に言えない!)
兄の挙動が明らかにおかしくなる。
「だ、大丈夫…?」
心配そうに兄を見上げる妹。
「お、おう! 大丈夫だとも!」
「ならいいけど…」
兄は基本的にいつも変なので、少しばかり妙な仕草をしたところで、それほど怪しまれることはないのだ。ちょっと悲しい…。
「ねえ、お兄ちゃん…」
「何だ?」
「私達がこの世界に来てから何日も経ってるけど……お母さん心配してないかな……」
女性の習性だろうか、妹は急に話題を変えた。
「あ〜〜、だよなあ…。一応、今回も『しばらく旅に出ます』って手紙を残してきたから大丈夫だとは思うが…」
兄はこれまでにも何度か妹を連れ出し、軽い旅のようなことをしてきてた。なので今更今回のようなことがあったからといって、彼らの母親が大慌てすることはないだろう。もっとも、旅が長引き、帰りが遅くなれば話は別だが…。
「あっ、そういえばさぁ、カインと出会った前の日の夜だったかな…」
兄が何かを思い出したようだ。
「ホームステイの話?」
賢い妹は兄の言いたいことを察した。
「おっ、そうそう! よく分かったな!」
カインと出会う前日、兄妹の家では留学生を迎えようという会議が行われていたのだ(外人との交流は兄妹にとっても勉強になるし、母と兄妹だけの暮らしが続いていたので、もう一人くらい同居人がいてもいいんじゃないかということで話が上がった)。
「外人さん、もう家に来てんのかなぁ……。だとしたらまずいぞ。『ホームステイの子を呼んだのは、あの二人(兄妹)のためでもあるのに、何でこんな時に出ていくんだー!!』とか言って母さん怒ってるかも……」
「そ、それあるかも…。うわぁ……家に帰るのがちょっと恐くなっちゃった……」
「いや、お前は怒られないと思うけど……」
「二人とも、時間の心配をしてるんですか?」
「ぬお!? カイン、いつの間に!?」
いつの間にか、兄妹の背後にカインが立っていた。どうせ兄が妹に卑猥な行為を働くのではないかと心配し、様子を見に来たのだろう。
「時間のことなら大丈夫です。二人が元の世界に戻っても、時間は全く経過していないはずです」
「え!? じゃあ、便器にダイブしたあの日に戻れるってことか!?」
「はい。理屈はさっぱりですが、そういうものらしいですよ」
「そうか〜! じゃあ、時間を気にすることなくこの世界にいられるってわけだ!」
随分都合のいい話である。
「これでお母さんに怒られずにすむね!」
「そうだな!」
喜ぶ兄妹。カインはそんな二人を切なそうに見つめていた。
「ちょっと、ダーリ〜ン!」
カインが船室へ戻ると(ウンコしたくなったらしい)、今度はリリムが兄妹の元にやってきた。どういうわけか少し怒っているようである。
「昼間、あたしと話さずにカインと行っちゃったの覚えてる?」
「あ、ああ……覚えてるとも……」
「だったら次は私を誘うのが普通しょ〜!? 何でその子なの?」
リリムは昼間の事で怒っているというよりも、この綺麗な夜空というロマンチックなシチュエーションに誘ってもらえなかった事と、妹に対する嫉妬が重なって気が立っているのではないだろうか。
膨れるリリムを兄は、ただ黙って見つめていた。
(リリム、妬いてるのか……。ああ……何だこれ……何だこの気持ち………変だな……何かリリムが………すげえ可愛いよ!!!)
兄の頭の中が大変なことになりだした。
(くぅ……リリムから目を背け、妹だけを見続けようと決心したのに……。駄目だ、本人を目の前にすると……苦しい……苦しすぎる……)
「ダ…ダーリン、どうしたの?」
(でも……よく考えてみたら、俺と妹の関係は、ずっと俺の片思いだけど、俺とリリムは両思いなんだよな……。いや、でもだからって……)
「ね…ねえ、そんなに見つめられると……」
考え事をしている最中、兄はずっとリリムを凝視し続けていた。リリムの顔は真っ赤である。
「悪い、二人とも…。俺、部屋に戻るよ…」
突然そう言うと、兄は妹とリリムに背を向けた。
「え!? 待って! あたしと話してくれないの…?」
「ごめん、ちょっと気分がな…」
「気分悪いの…?」
「最近なんかこう…肩から腰にかけて下痢気味なんだよ……。悪いな、話はまた明日にしよう」
苦しい言い訳(ていうか言い訳として成立すらしていない)を残し、兄は船室へと戻っていった。
(……ダーリン……やっぱりあたしの事……………嫌いなの……?)
兄の心中に全く気付いていないリリム。彼女はどうやらあらぬ勘違いをしてしまったようである……。
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