英雄兄妹(44/84)縦書き表示RDF


早くも襲われる船。新たなる愛の萌芽。
前途多難な航海になりそうです;
英雄兄妹
作:HEERO



第44話 海賊


 東の大陸ボナンザを目指し、船に乗り込んだ兄妹達。
 「よし、テメーら! 大人しく金目のもんを出しやがれ!!」
 彼らの船はさっそくトラブルに巻き込まれていた。
 「ひぃぃ! 船旅始まって一時間足らずで『海賊』に船を乗っ取られるなんて〜〜!!」
 嘆くカイン。
 「おい、カイン。お前魔法を使えるんだろ? それで何とかしてくれよ」
 兄がカインに耳打ちした。
 「駄目ですよぉ…。この状況で下手に魔法なんて使ったら船が壊れて沈んじゃいます…。逆に弱い魔法じゃ、この人数を相手に戦えませんし……」
 「た、確かにそうだな…。しかたない、俺が何かに取り憑かれたかの如く盛大に暴れてやるか」
 「む、無理ですよ…! 敵の数が多過ぎます! それに今は船客一人一人が人質みたいな状況ですし……」
 海賊達は船客をデッキの隅に追いやり、一人ずつ縛り上げている。
 「へっへっへっ! テメーら全員売り飛ばしてやるからな!!」
 いかにも海賊達のボスといった風貌の大男が、船客を眺め回しながらそう言った。
 「御頭! こっちにすげえいい女がいますぜ!!」
 「む? おお! こいつぁ〜上玉じゃねえか!!」
 手足を硬く縛られ、体の自由を奪われてしまった女性。そんな彼女の頬を、いやらしい顔をしながら大男が撫で回す。
 「お前、名前は何だ?」
 「リリム」
 「リリムか。よし、お前は今日から俺の女だ」
 大男はリリムの頬に触れている指を、あご、首の順にスライドさせていった。指はどんどんその位置を下げ、リリムの胸へと向かっている。
 「必殺、『アニー(兄のニー)』!!!」
 「ぐふぅ!!」
 兄の強烈な膝蹴りが、大男のこめかみを捉えた。
 「きたねえ手でリリムに触んじゃねえ!!!」
 (ダ、ダーリン…!!)
 兄の周りを数十人の海賊が取り囲む。
 「よくも御頭を!!」
 「ぶっ殺してやる!!」
 兄、大ピンチ。
 「お兄ちゃん!!」
 デッキの隅で縛られている妹が、泣き出しそうな声で兄を呼ぶ。
 「ふ…ふっふっふっ……」
 突然兄が笑いだした。
 「何だぁこいつ、笑ってやがるぜぇ?」
 「恐怖でイカれちまったんじゃねえかぁ!」
 兄の体が小刻みに震えだす。そして…
 「げ…限界だ……うえぇぇぇぇ!!!」
 吐いた。
 「うわああ! こいつゲロ吐きやがったぁぁぁ!!」
 「ふ、船酔いかぁ!!?」
 海賊達はパニックに陥った。ゲロパニック(?)である。
 「落ち着けお前ら!」
 「御頭ぁ!」
 大男がよろめきながら立ち上がる。
 「そんな男は放っておけ。殺す必要はない」
 「は、はぁ…」
 「よし、じゃあお前ら! 俺達の船から宝を全て持ってこい!!」
 「分かりやした! って、ええ〜〜〜!!? 何故ですか御頭!!」
 「つべこべ言わず、持ってこい!! 俺に考えがある!!」
 海賊達は首を傾げながらも、頭である大男の指示に従った。


 海賊の船から次々と宝が運び込まれる。
 「御頭、これで全部ですぜ!」
 「よし! 俺達の船に戻るぞ!」
 「ええ!!?」
 「いいから戻るぞ!!」
 海賊が皆、自分達の船へと戻ってゆく。
 「一体何だったんだ…?」
 「あいつら、引き上げていくぞ!」
 ざわめく船客達。
 「えへへ! これで海賊の宝はあたし達のものね!」
 リリムが唖然としている兄の腕に抱き着く。
 「そ、そうか! リリム、お前邪眼を使って海賊のボスを…」
 「ええそうよ! あいつがあたしにセクハラしてる時に一発かましてやったの! それより嬉しかったな〜! ダーリンがあたしのことをあんなに…」
 「あっ! みんなは無事か!?」
 兄はリリムの言葉を遮るかのように、仲間の心配をし始めた。


 「お兄ちゃん恐かったよ〜!」
 「ぬお〜〜!! 心配したぞマイ・女神ゴッデスよ!!」
 妹は無事だった。
 「いや〜! 一時はどうなるかと! リリムさんに助けられましたね!」
 カインも無事だ。
 「兄貴のゲロがオイラにかかった……」
 チョルト、瀕死。
 「皆さんの荷物は死守しましたよ!」
 フェレスも無事のようだ。
 「ねえ、ダーリン。みんなの無事も確認したことだし、さっきの話の続きを…」
 「悪いなリリム、俺ちょっとカインと話があるから…」
 そう言うと兄は、カインの手を引き、船の反対側へと去っていった。


 「悪いなカイン。この話を一番しやすいのはお前だからさ…」
 「僕でよければ、いくらでも相談に乗りますよ。遠慮せずに何でも話してください」
 二人は船の欄干を背もたれにして、デッキに腰掛けた。
 「カイン……俺、シスコンなんだ………」
 「し、知ってますよ…」
 「妹のことが好きで好きでたまらないんだ…。妹以外の女を好きになることなんて有り得ない」
 「はい、それは今までのお兄さんを見ていれば分かります…」
 「でもさぁ、最近ちょっと変なんだよな……」
 「変…?」
 「もしかしたら俺……妹以外の女を好きになりかけてるかも……」
 「ええ!!?」
 「ははっ……変だよなぁ……」
 「な、何言ってるんですか! 全然変じゃないですよ! やったじゃないですか! お兄さんは真っ当な人間になりかけているんですよ! で、誰を好きになったんです!?」
 「誰をって……『あいつ』しかいないだろ?」
 「あいつって……まさか、リリム…さん?」
 兄は赤面しながら頷いた。
 「なんかさ、記憶が戻った日くらいからそういう気持ちになっててさ……」
 もしかしたら『記憶を失っていた時』の記憶が今の兄に影響を及ぼしているのかもしれない。
 「そんなことあるわけないって、自分の気持ちをごまかしてきたんだけど、さっきの海賊の一件のせいで抑え切れなくなってきて……。わ、笑いたきゃ笑えよ! 俺だって訳分かんねえんだ!」
 カインは頭を振った。
 「笑うわけないじゃないですか。お似合いのカップルですよ」
 「でも、俺……」
 「……妹さん、ですか?」
 「ああ…。妹は俺にとって一番の存在。それは今でも変わらない」
 そう言うと兄は自分の腕の中に顔を埋めてしまった。
 「俺、恐いんだ…。このままリリムの存在が大きくなっていくと、俺の妹に対する気持ちが薄れてしまうんじゃないかって……」
 しばらく二人の沈黙が続いた。
 「あの、お兄さん……僕にいい考えがあるんですけど……」
 「いい考え? 聞かせてくれ」
 「妹さんを僕に譲るんです。そうすれば迷うことなくリリムさんと…」
 「や、やだよ!!」
 珍しく兄がカインにつっこんだ。


 そして結局、何の結論も出せぬまま二人の会話は終了した…。


カイン
「リリムさんって、悪魔の姿にならなくても邪眼を使えるんですか?」

リリム
「うん、効果は弱まるけどね」



カイン
「お兄さんって、妹さんを想像するだけでも興奮できるんですか?」


「ああ、勢いは弱まるけどな」

勢い……?











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