第40話 船旅の準備
「皆さん、ここにいたんですか…」
大荷物を抱えたフェレスが随分遅れて部屋に入ってきた。
「ああ、お帰りフェレス! 荷物、そこの隅っこに置いといてよ」
「あ、はい」
フェレスは兄妹達の仲間というよりも、リリムの下男のような状態になっていた。
「ま、まま、待ってくれよ! 何でフェレスがここに!!? 何でフェレスが荷物運ばされてるんだ!!?」
チョルトが驚くのも無理はない。
「チョルト、フェレスを知ってるのか?」
兄が、丸虫となって自分の肩に乗っているチョルトへと尋ねた。
「ああ! フェレスはオイラの友達なんだ!」
「何だって!?」
「兄貴、どういうことなんだ!? なんかフェレスの様子もおかしいし……」
(まいったな…。チョルトとフェレスが友達だったとは……。だとすると、ありのままを話すってわけにはいかないな。理由はどうあれ、今、俺達は記憶の無いフェレスをこき使いまくってるわけだし……。ここはリリムに何とかしてもらおう)
兄はリリムに目で合図を送った。
(え!? 今日、『安全日』かって!?)
リリムは合図を勘違いした。
「ど、どうして誰も答えてくれないんだ…?」
困惑するチョルト。
兄はもう一度、リリムに合図を送った。
(あっ! そういうことね! な〜んだ……)
今度は通じたようだ。
「えっと……何でフェレスが私達と一緒にいるのかっていうと……そうそう! さっきフェレスが突然現れて、私達に戦いを挑んできたの! でもフェレスったら、戦闘中いきなりずっこけちゃって、足元に落ちてた漬物石で後頭部を強打! なんと、そのせいで記憶を無くしちゃったのよ!」
「何だって!!?」
「でね、でね、敵とはいえ、記憶を失って不安に陥っている人を放っておくわけにはいかないでしょ? だ・か・ら、優しい私達は、フェレスの記憶が戻るまで世話をしてあげることにしたの!」
「そ、そうだったのか!」
チョルトはまんまと騙された。
リリムの話を聞いていたフェレスが、呆然とした表情で口を開く。
「そうだったんですか……。元は俺が悪いのに……それなのに皆さん、俺のために……。俺、ただ、いいように使われているとばかり……。本当に、本当にありがとうございます……」
「ど、どういたしまして……」
兄妹達はきっと複雑な気持ちだろう。
結局、旅立ちの準備らしい準備は出来ないまま、今日という日は終わりを迎えた。
次の日。
事件は早朝に起きた。
「大変です! お兄さんが荒い息を吐きながら、妹さんの部屋に入っていきました!!」
「ダーリン……まさか!! そんな、駄目よ!!」
「つ、ついにお兄さんの抑制が限界を…!! ああああ!! このままじゃ(僕の)妹さんがぁぁ!!」
「ドアは開かないの!!?」
「駄目です!! 鍵がかけられています!!」
「あ〜〜もう! こうなったら、魔法で!!」
兄、ついに近親相姦か!!?
その頃、妹の部屋では…。
「嫌ぁぁ!! 駄目ぇ!! どうして!? どうしてこんなことするの!?」
「ハア……ハア……もう……もう我慢できねんだよぉぉ!!」
「ひっ!! そんな所触らないでぇ!! めくらないでよぉぉ!!!」
「ふははは……なぁに言ってやがる! いつもは自分でやってんだろぉ!? なあ、おい?」
「や、やらないよぉ……! い、痛い!! やだ、血が!! 血が出てきた!!! 無理、無理だよぉぉぉぉ!!!」
「ふはははは!!」
ドン!!!
激しい音と共に部屋の扉が砕け散った。
「そこまでよダーリン!!」
「ちっ…! 邪魔が入ったか……」
兄はベッドから下り、何も言わずに部屋から出ていった。
「ダーリン……」
「大丈夫ですか妹さん!!」
カインが妹の元へと駆け寄る。
「カイン君……私、お兄ちゃんに……無理矢理……」
「何も……言わないでください……。妹さんの心の傷、痛み、僕が一生をかけてでも癒してみせますから……」
「心よりも、今は膝が痛いよ……」
「え!?」
「お兄ちゃんに剥がされちゃった……『カサブタ』」
くだらぬ! 実にくだらぬ!
船旅の日まであと二日。兄妹達は準備のために町へと出た。
「ごめん、我が妹よ……。俺、カサブタを見ると我を失っちゃって……」
「絶対許さないもん!」
「そんなぁぁぁ……! 俺の分のお金で服買ってあげるから〜!」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと!」
「じゃあ、かわいい服買ってね!」
「任せときい!!」
この二人は本当に、なかよし兄妹である。
「リリムさん……僕にはあの兄妹が分かりません……」
「うん、あたしもよ…。はっきり言って、ダーリンの記憶が戻った今、あの二人の間に割り込むのは至難の技ね…。だけど……あたしは絶対に諦めたりはしない! こちとら、中途半端な覚悟でダーリンを狙ってんじゃないのよ!! これからも玉砕覚悟でアタックしまくりよ!!」
リリムが兄の方へ向かって走りだす。
「リリムさん……あなたを見ていると、僕も勇気が沸いてきます。でもまあ、どうせ無理ですよ……」
改めて兄妹の仲むつまじい姿を見てしまったカインは、どうやらネガティブ思考に陥ってしまったようである。
「ダーリン!」
ガバッと、リリムが兄の背中に抱き着いた。
「わっ!!」
兄が飛び退く。
「な、何だリリム?」
「あたしにも服買ってよ!」
「……そうだな、お前にも助けられたし! 買ってやるよ!」
「え!? 何で!!?」
「な、何でって…」
「あ、ううん、何でもない! 嬉しいわ、ダーリン!」
奇跡。リリムのおねだりが正解した。
「そんな……リリムさん……嘘でしょ? ぼ、僕を一人にしないでください……」
一人、落ち込んでいるカインの肩を、誰かが後ろから叩いた。
「それも青春です」
カインに慰め(?)の言葉をかけたのは荷物持ちのフェレスだった。彼は今日も大量の荷物を抱えている。
「フェレスさん……僕はあなたを見ていても悲しくなります……」
気持ちは分るが、そういうことを言うな、カインよ。
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