第37話 記憶達の帰郷
「あっ! 出てきたわよ!」
ティンコの中からピュッと、兄とラドロンが飛び出してきた。
「あれ……なんで二人仲良く出てきたんでしょう……」
カインが首を傾げる。
「おお! 我が仲間達よ! おかげさまで記憶はバッチリ戻ったぞ!」
兄は思い切り手を振った。
「きゃ〜!! さすがダーリン!! 記憶を取り戻したのね!! やっぱりそっちのあなたの方が素敵よ〜!!」
うざい声をあげながら、リリムが兄の元へ向かうために足を踏み出した、が、そんなリリムの腕をカインが掴む。
「な…何よ……?」
リリムの腕を掴んでいるカインの顔は、まったく別の方を向いていた。不満げな表情でリリムも同じ方向へ顔を向ける。
「……あっ」
妹が顔を伏せながら、ゆっくりと兄の方へ近づいてゆく。
(まっ、今回はしょうがないわね……)
リリムは眉を歪ませながらも微笑を浮かべた。
妹が兄の目の前で立ち止まる。
「おお! 妹よ! 心配かけてごめ……」
妹が兄に抱き着いた。気丈に見えていたが、本当は凄く心細かったに違いない。
(こ…この展開は……!?)
妹がどれだけ心配していたのかを兄は知らなかったのだろう。突然抱き着かれた兄は戸惑いを隠せなくなっていた。
(ハグですお兄さん!! そこでハグをするんです!!)
『お兄さんも妹さんの体を両腕で強く抱いてあげるんです!』というジェスチャーを必死に繰り返すカイン。あまりにも必死なので、横にいるリリムは引いているようだ。ちなみに兄はジェスチャーに気付いていなかった。
兄はおもむろに両腕を伸ばすと、それを妹の尻へと運んだ。
「くらえ、尻キャッチ!」
兄は妹の尻をギュッと掴んだ。いつもならここで妹に過剰防衛をされるはずなのだが、今回はそれがない。
兄は、はっとして尻から手を離し、今度はちゃんと妹の背中に両腕を回して強く抱きしめた。
「ごめん……ごめんな……!」
「ううん……いいの……。元のお兄ちゃんに戻ってくれて嬉しいよ……」
「ごめんな……お尻ギュッとして……」
そっちかよ!!
十五分にも及ぶ、兄妹の抱き合いは終わった。
「長いですよ二人共!!」
「何これ!? あたし達に対する嫌がらせ!!?」
カインとリリムは不満そうである。
「まあまあ、それより見てくれよこれ!」
兄はズボンの中(股間の辺り)に手を突っ込み、光の玉を何個か取り出した。
「ちょっ! みんなの記憶をどこに入れてるんですか!!」
「しょうがないだろ? 他に収納する場所がなかったんだ」
記憶を奪われた人達にしてみれば踏んだり蹴ったりである。
「プッ! アハハハハ!!」
「ど、どうしたんだよリリム!?」
突然リリムが爆笑しだした。
「玉だけに……股間にしまったってことね……フッ……フフッ……アハハハハハ!!」
「ハハッ! 上手いな!」
笑っているのは兄とリリムだけである。
「それはそうとお兄さん。何でラドロンと一緒に出てきたんですか? もしかして説得したとか?」
「まあ、そんなところさ。別にこいつ悪い奴じゃなさそうだし……て、あれ? ラドロンがいないぞ……」
実は兄が妹と抱き合っている間にラドロンは旅立っていたのだった。
「お兄ちゃん、こんな所に置き手紙が……」
『旅をしながら、今度はちゃんと自分と向き合ってみようと思う。色々ありがとう。 byラドロン』
ラドロンは意外と律儀な悪魔である。しかし……
「あ…あの野郎……。字が下手すぎて読めねえよ……」
伝わらなかった。
「記憶を取り戻せたって本当かー!?」
ハナアブラの人々が兄の周りに集まってきた。集まってくるのが遅い気もするが、おそらく皆さん、空気を読んでいたのだろう。ご協力に感謝いたします。
「おお! 思い出した!! おいどんの名前はロベルトですたい!!」
「やったぞ! 息子の記憶が戻った!!」
「ひぃぃ! 記憶なんて戻らないほうがよかったぁぁ!!」
人々の記憶が戻ってゆく。
「みんな嬉しそうだね!」
「なんか、喜んでない人もいましたが……」
「お、おい! お前、フェレスじゃないか!」
兄はハナアブラの群衆に紛れている、悪魔フェレスを見つけた。
「あなたも私を知っているのですか?」
フェレスが不思議そうに兄の顔を見つめる。
「あ、そういえばダーリンにはまだ言ってなかったわ! 実はフェレスね、ラドロンに記憶を奪われちゃったみたいなの! 笑えるわよね〜! 偉そうなこと言ってたのに負けてやんの! まっ、相手のテリトリーの中だから不利だったのかもしれないけどね! でも、そういう条件を踏まえたうえでどう戦うかも、その人の強さに委ねられてるとあたしは思うけどね〜!」
フェレスはボロクソに言われた。
「だけどフェレス…さん、このままじゃかわいそうだよね……。お兄ちゃん、ラドロンの住家にフェレスさんの記憶は無かったの?」
「ああ、フェレスの記憶なら最後にラドロンから渡されたぞ!」
「本当!? どこにあるの!?」
兄は再びズボンに手を入れた。
「フェレスのは確か、尻に挟んでたような……」
「たわけ!」
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