第33話 全ては変神覚醒の為に
「行こう! みんな!!」
準備は整った!
「お兄さんの記憶を取り戻しましょう!!」
気合い十分!
「空、曇ってるわね」
悪天候!
なんだかんだで四人はあの森へと足を運んだ。
「さて、僕達はティンコ(小声)の木の前で、ラドロンを待ち構えましょう!」
「うん!」
実は今回の作戦、ハナアブラの人達にも協力してもらっているのだ。彼等もラドロンから被害を受けているので、快く引き受けてくれた。
「着きましたね」
妹達はティンコの前にたどり着いた。
「町の人達が森の全方角から、ラドロンの弱点である殺虫松明(ピレスラムの粉末が燃料の松明)を持ってこの木に集まってくる。すると、いとも簡単にラドロンをここへ追い込むことができる。分かりやすくていい作戦ね」
(リ…リリムさん、自画自賛ですか……)
提案したのはリリム本人らしい。
「みんな……ありがとう。俺のためにここまでしてくれて……」
兄が申し訳なさそうに口を開いた。
「だけど俺……正直恐いんだ……。記憶が戻ったら、今の自分はどうなってしまうんだろう……。記憶を失う前の自分はどんな人間だったんだろう……。そんなことばかりが頭を過ぎるんだ……」
『記憶を失う前のあなたは変態でした』、なんてことは誰も言えなかった。
「だ、大丈夫だよお兄ちゃん! そんな悩みも記憶が戻るまでだから!」
いいこと言ったぞ、妹よ。
「おぉぉぉぉい!! 悪魔が!! 悪魔がそっちへ行ったぞ!!!」
町の人の声。妹達はすぐさま臨戦体制に入った。
「ゲホッ! ゴホッ! くそぉ!! お前達の仕業かこれは!!」
煙でむせ返りながら、黄色い悪魔、ラドロンがその姿を現した。
「ラドロン! お兄ちゃんの、それとハナアブラの人達の記憶を返して!!」
「くっ! やなこったい!! せっかく手に入れたコレクションを手放してたまるかよ!!」
「じゃあ、力付くで返してもらうから!!」
妹はゴキブリングを使い、雷撃を放った。
「そいつにはもう当たらない!!」
ラドロンは雷撃をかわし、ティンコの枝に飛び移った。
「やっぱ素早いわね…。あたしの邪眼も効かないみたいだし、こりゃ一筋縄ではいかないわよ」
ラドロンにはそもそも性別がないようである。
「もっと! 町の人達にもっと近づいてもらえば、ラドロンの逃げられる範囲を絞れるよ!」
「いえ、その必要はありません」
カインが歩み出た。
「すみません皆さん、ほんの少しだけ我慢してください」
そう言うとカインは、両手を掲げ、何やら呪文を唱え始めた。
「チュウセイシボウ……チュウセイシボウ……タメスギキケン……タメスギキケン……チュウセイシボウ……チュウセイシボウ……タメスギキケン……タメスギ…キケン!!!」
「キャア!!」
妹とリリム、兄の体が、地面に押し付けられる。枝の上のラドロンも滑り落ち、地べたに叩きつけられた。
「この呪文は僕の周り、半径十メートルの重力を変化させることができるんです」
「せ、説明はいいから……早くラドロンを………捕まえなさいよ………!」
リリムがもっともなことを言った。
「そ、そうですね。ではこのロープで……」
カインはロープを使ってラドロンをティンコに縛り付けた。
(せっかく活躍したのに……みんな地面を見ている……。誰も僕を見ちゃいない……)
それはしかたないぞカイン。お前がそんな魔法使うからいけないんだ。
「解除…!」
カインは魔法を解いた。妹達がよろめきながら立ち上がる。
「さあ、ラドロン。ダーリンの記憶を返しなさい」
「い…嫌だ!」
「ふぅん……」
リリムはラドロンの耳元に口を寄せた。
「ボソボソ…………」
「ヒイイイイ!!」
リリムが小声で何かを言った途端、ラドロンが騒ぎ始めた。
「それだけは!! それだけはぁぁ!!」
「じゃあ返しなさい!」
「うう……ちくしょう………この記憶は………今までで一番面白かったのに……。分かったよ、返すからこの縄ほどいてくれ……」
どうせラドロンに逃げる術はない。リリムはロープをほどいてやった。
「ほらよ……」
ラドロンの頭の中から光輝く玉が浮かびあがってきた。
「それがそいつの記憶だよ……。すっげえいい記憶だったから、ずっと頭に入れてたんだ……」
妹は玉をそっと両手で包み込んだ。
「これをお兄ちゃんの頭に入れればいいんだね?」
「……そうだ」
妹は玉を持ったまま兄の方を向いた。
「さ、お兄ちゃん。これで記憶が戻るよ」
妹は嬉しさのせいか、少し震えている。しかしそんな妹に、兄は意外なことを言い出した。
「待ってくれ……それ………俺の記憶じゃないよ………!」
「えっ!?」
その時、ラドロンがけたたましい笑い声をあげた。
「よく気付いたな! そいつはケント・デリカットとかいう旅人から奪った記憶だ! 他の記憶は全部ティンコの中にしまってあるんだよ!!」
そう言うと、ラドロンは飛び上がった。ティンコの中、つまり彼の住家へと逃げ込む気だろう。
「ああっ! 逃げちゃう!!」
ラドロンの体が半分以上ティンコの中へ沈んでいったその時、一本の腕が素早くラドロンの足を掴んだ。兄の腕だ。
「お兄ちゃん!!」
兄の体が持ち上がり ラドロンと共にティンコの中へと引き込まれていく。
「ダーリン!!」
「お兄さん!!」
二人の姿は完全にティンコへと消えていった。
ティンコの中は円形の薄暗い空間だった。意外と広い。壁際には光る玉が何個も転がっている。
「な…何でついてきてんだよお前!!」
ラドロンの問い掛けを無視し、兄は無数に転がる玉を眺め回した。
「……あった……これだ………!」
そう言って、兄は一つの玉を手に取った。
「それは……!!」
兄はおもむろにその玉を額に近づける。
(懐かしい……この感じ……。間違いない、これは俺の記憶……)
「返せ! 返せぇぇぇ!!」
ラドロンが飛び掛かるのと同時に、兄は自分の頭に光輝く玉を押し込んだ。
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