英雄兄妹(33/84)縦書き表示RDF


兄、復活か!?
英雄兄妹
作:HEERO



第33話 全ては変神覚醒の為に


 「行こう! みんな!!」
 準備は整った!
 「お兄さんの記憶を取り戻しましょう!!」
 気合い十分!
 「空、曇ってるわね」
 悪天候!

 なんだかんだで四人はあの森へと足を運んだ。
 「さて、僕達はティンコ(小声)の木の前で、ラドロンを待ち構えましょう!」
 「うん!」
 実は今回の作戦、ハナアブラの人達にも協力してもらっているのだ。彼等もラドロンから被害を受けているので、快く引き受けてくれた。
 「着きましたね」
 妹達はティンコの前にたどり着いた。
 「町の人達が森の全方角から、ラドロンの弱点である殺虫松明(ピレスラムの粉末が燃料の松明)を持ってこの木に集まってくる。すると、いとも簡単にラドロンをここへ追い込むことができる。分かりやすくていい作戦ね」
 (リ…リリムさん、自画自賛ですか……)
 提案したのはリリム本人らしい。
 「みんな……ありがとう。俺のためにここまでしてくれて……」
 兄が申し訳なさそうに口を開いた。
 「だけど俺……正直恐いんだ……。記憶が戻ったら、今の自分はどうなってしまうんだろう……。記憶を失う前の自分はどんな人間だったんだろう……。そんなことばかりが頭を過ぎるんだ……」
 『記憶を失う前のあなたは変態でした』、なんてことは誰も言えなかった。
 「だ、大丈夫だよお兄ちゃん! そんな悩みも記憶が戻るまでだから!」
 いいこと言ったぞ、妹よ。


 「おぉぉぉぉい!! 悪魔が!! 悪魔がそっちへ行ったぞ!!!」
 町の人の声。妹達はすぐさま臨戦体制に入った。
 「ゲホッ! ゴホッ! くそぉ!! お前達の仕業かこれは!!」
 煙でむせ返りながら、黄色い悪魔、ラドロンがその姿を現した。
 「ラドロン! お兄ちゃんの、それとハナアブラの人達の記憶を返して!!」
 「くっ! やなこったい!! せっかく手に入れたコレクションを手放してたまるかよ!!」
 「じゃあ、力付くで返してもらうから!!」
 妹はゴキブリングを使い、雷撃を放った。
 「そいつにはもう当たらない!!」
 ラドロンは雷撃をかわし、ティンコの枝に飛び移った。
 「やっぱ素早いわね…。あたしの邪眼も効かないみたいだし、こりゃ一筋縄ではいかないわよ」
 ラドロンにはそもそも性別がないようである。
 「もっと! 町の人達にもっと近づいてもらえば、ラドロンの逃げられる範囲を絞れるよ!」
 「いえ、その必要はありません」
 カインが歩み出た。
 「すみません皆さん、ほんの少しだけ我慢してください」
 そう言うとカインは、両手を掲げ、何やら呪文を唱え始めた。
 「チュウセイシボウ……チュウセイシボウ……タメスギキケン……タメスギキケン……チュウセイシボウ……チュウセイシボウ……タメスギキケン……タメスギ…キケン!!!」
 「キャア!!」
 妹とリリム、兄の体が、地面に押し付けられる。枝の上のラドロンも滑り落ち、地べたに叩きつけられた。
 「この呪文は僕の周り、半径十メートルの重力を変化させることができるんです」
 「せ、説明はいいから……早くラドロンを………捕まえなさいよ………!」
 リリムがもっともなことを言った。
 「そ、そうですね。ではこのロープで……」
 カインはロープを使ってラドロンをティンコに縛り付けた。
 (せっかく活躍したのに……みんな地面を見ている……。誰も僕を見ちゃいない……)
 それはしかたないぞカイン。お前がそんな魔法使うからいけないんだ。
 「解除…!」
 カインは魔法を解いた。妹達がよろめきながら立ち上がる。
 「さあ、ラドロン。ダーリンの記憶を返しなさい」
 「い…嫌だ!」
 「ふぅん……」
 リリムはラドロンの耳元に口を寄せた。
 「ボソボソ…………」
 「ヒイイイイ!!」
 リリムが小声で何かを言った途端、ラドロンが騒ぎ始めた。
 「それだけは!! それだけはぁぁ!!」
 「じゃあ返しなさい!」
 「うう……ちくしょう………この記憶は………今までで一番面白かったのに……。分かったよ、返すからこの縄ほどいてくれ……」
 どうせラドロンに逃げる術はない。リリムはロープをほどいてやった。
 「ほらよ……」
 ラドロンの頭の中から光輝く玉が浮かびあがってきた。
 「それがそいつの記憶だよ……。すっげえいい記憶だったから、ずっと頭に入れてたんだ……」
 妹は玉をそっと両手で包み込んだ。
 「これをお兄ちゃんの頭に入れればいいんだね?」
 「……そうだ」
 妹は玉を持ったまま兄の方を向いた。
 「さ、お兄ちゃん。これで記憶が戻るよ」
 妹は嬉しさのせいか、少し震えている。しかしそんな妹に、兄は意外なことを言い出した。
 「待ってくれ……それ………俺の記憶じゃないよ………!」
 「えっ!?」
 その時、ラドロンがけたたましい笑い声をあげた。
 「よく気付いたな! そいつはケント・デリカットとかいう旅人から奪った記憶だ! 他の記憶は全部ティンコの中にしまってあるんだよ!!」
 そう言うと、ラドロンは飛び上がった。ティンコの中、つまり彼の住家へと逃げ込む気だろう。
 「ああっ! 逃げちゃう!!」
 ラドロンの体が半分以上ティンコの中へ沈んでいったその時、一本の腕が素早くラドロンの足を掴んだ。兄の腕だ。
 「お兄ちゃん!!」
 兄の体が持ち上がり ラドロンと共にティンコの中へと引き込まれていく。
 「ダーリン!!」
 「お兄さん!!」
 二人の姿は完全にティンコへと消えていった。


 ティンコの中は円形の薄暗い空間だった。意外と広い。壁際には光る玉が何個も転がっている。
 「な…何でついてきてんだよお前!!」
 ラドロンの問い掛けを無視し、兄は無数に転がる玉を眺め回した。
 「……あった……これだ………!」
 そう言って、兄は一つの玉を手に取った。
 「それは……!!」
 兄はおもむろにその玉を額に近づける。
 (懐かしい……この感じ……。間違いない、これは俺の記憶……)
 「返せ! 返せぇぇぇ!!」
 ラドロンが飛び掛かるのと同時に、兄は自分の頭に光輝く玉を押し込んだ。












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