英雄兄妹(29/84)縦書き表示RDF


いつにも増してセリフが多いです^^;
英雄兄妹
作:HEERO



第29話 フェレスとチョルト


 兄妹達がなぞなぞ対決をした、滅多に人が通ることのないあの一本道。そこで偶然、二人の悪魔が出会った。二人は階級を越えた友人関係にある。
 「久方ぶりだな、チョルト」
 「フェレス! お前、チクワ村に居座ってたんじゃ…」
 チクワ村とはカインの暮らしていた村である。なんて名前だ。
 「……言いにくいんだが、どうもやりづらい相手と出くわしてしまってな……。村から撤退する羽目になった」
 「へえ……フェレスを追い払うなんて……。相手は人間……だよな?」
 「……ああ。ただ…」
 「ただ?」
 「あれは普通の人間ではなかった……。そう、あれは『変態』だ」
 「変態!?」
 「とにかく行動が不可解なんだ。突然服を脱ぎだし、裸で走り回る……。こちらの冷静さを削ぐという意図があるのかもしれんが、普通はあそこまで出来ないはずだ…」
 兄妹に負けてから、フェレスは人間という種族に一目置くようになった。
 「とんでもない人間がいたもんなだな……」
 チョルトは目を丸くした。
 「チョルト、お前はどうなんだ? 最近禁術に手をつけたそうじゃないか。そいつで人間の一人や二人、葬ってやったのか?」
 「禁術か……捨ちまった」
 「何だって!? なぜだ! 確かに使えばリスクを伴うが、持っていて損なものでもないだろう!?」
 「ある人間に禁術を使ったんだ。オイラは禁術の力でその人間から何度も血を奪ってやったよ。でも最後にはそいつに負けちまって、禁術が解除されちまったんだ」
 「それはまずいな。一度禁術を使った相手に、もう一度禁術を使うのは難しい(たいてい発動条件がばれているので)。それでお前どうしたんだ? 肉弾戦か?」
 チョルトは頭を振った。
 「オイラに肉弾戦なんて出来るわけないじゃないか」
 「だが人間の方はお前を殺そうとしたんだろ? お前から散々血を奪われたんだしな」
 「それがさ、その人間、オイラに何もしなかったんだよ。好きにしろって言ったんだけど、そいつはオイラを笑って許したんだ」
 「ほう、なかなか寛大な人間もいたものだな。俺もそういう人間と出会ってみたかったよ。変態ではなくてな」
 言うまでもなく、二人は同じ人物、『兄』のことを話しているのだ。
 二人の話をまとめると、兄は『いくら鼻血を啜っても笑顔で許してくれる心の広い全裸で疾走する変態』ということになる。友達になれそうで絶対なれないタイプだ。
 「その人間の立ち去る姿がさ、なんか山のように大きく見えたんだよな…。そいつには別に特別な能力があるわけでもないんだぜ? オイラに直接手を出したわけでもない。でもオイラはとてつもない敗北感を味わったんだ。そいつの持っていた未知なる力に負けちまったんだよ…。それでさ、禁術がありゃ強くなれるって、そんなことばかり考えてた自分を恥ずかしく感じて…」
 「自ら禁術を捨てたと…?」
 「ああ、そうだ。オイラも欲しいんだ。あの人間の持っていた力が。この世のどんな力にも勝るあの武器が。また一からのスタートだけど、今度こそなれそうな気がする。ずっと憧れてた強い悪魔にさ」
 チョルトはどうも悪魔っぽくない。下級悪魔ということで度重なる劣等感を味わっているためか、悪魔としての意識、自我が薄れ、中性化し、人間に近い存在になりつつあるのかもしれない。
 「なるほど、お前も変わった奴だな…。それで、これからどうするんだ? 俺はあの変態を今度こそたたきのめしてやろうと思うんだが、お前も来るか?」
 「オイラは……あの人間にもう一度会ってみようと思う。会って、話して、もっと色々……」
 「チョルト……! お前、人間に対して妙な感情を抱いているんじゃ……?」
 「妙っていうか……オイラ元から別に人間を恨んでるわけでもないし……。人間を襲ったりしたのも、他の悪魔を見返してやりたい一心で……」
 「恨んでいるかどうかではない。人間は俺達より劣った存在なんだぞ?」
 「でも……ごめんよ! オイラ行く!」
 「わ、分かった! だから待ってくれ!」
 飛び立とうとするチョルトを引き止めるフェレス。
 「お前、ハナアブラへ行くんだろ?」
 「ああ、たぶんあの人間はハナアブラにいるはず」
 「俺の狙っている変態も、ハナアブラいるらしい。そこで頼みがあるんだが、町に着いたらこの玉を空へ向けて投げてほしい」
 フェレスは懐から唇マークの入った玉を取り出した。
 「『コトダマ君』か…!」
 魔界アイテム『コトダマ君』。声を録音することが出来る玉で、再生するときは空中へ放り投げてやればいい。高い所まで飛ばすとその分大きな音で再生される。
 「分かった。任せとけ」
 「チョルト……俺はお前を止めはしない……。お前は人間を利用しに行くんだよな? 強い悪魔になるため、しかたなく人間に会いに……」
 「オイラは……」
 「分かってる! だから行ってこい…。玉、頼んだぞ」
 「フェレス……」
 チョルトはフェレスに背を向け、港町ハナアブラへと飛んでゆく。
 「人間……か。まったくもって不可解な生き物だ……」
 そう呟くと、フェレスは翼を広げ、チョルトとはやや方向のずれた空へと飛び去っていった。


 「今回出番ありませんでしたね……」
 最後の最後にでしゃばるなカイン!!












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