第26話 黄色い悪魔
チョルトとの死闘(?)から三日が経った。一行は、未だにあの時の一本道を歩き続けている。
「リリムさん、聞きたいことがあるんだけど……」
「はぁ? 何よ?」
リリムはどうも妹への接しかたが冷たい。
「カマドーマにいる悪魔達には親玉がいるんだよね? もし、その親玉をやっつけたら、手下の悪魔達はどうなるの? 確か頭を叩けば終わるみたいなことを前にリリムさんが言ってたような気がするけど…」
「う〜ん、分かんない! みんな好き勝手にやってるからね〜。今更頭を潰しても、他の悪魔には何の影響もないかもよ。あっ、前に言ったことは気にしないでね! あれはダーリンに抱かれるための口実だから」
何だか面倒な話になってきた。
「ちょっと待てよ! じゃあ、俺達がカマドーマを救うには、世界中にいる全ての悪魔と戦わなきゃいけないってことか!!? 無理だろ!!」
兄の顔が強張る。
「いえ、『ムカデ王国』の協力を得られれば、カマドーマに巣くう悪魔を全滅させることだってできるはずです!」
「ムカデ王国!? カイン、何だよそれ!?」
鳥肌が立つちそうな名前の王国である。
「ムカデ王国とは、このカマドーマで最も栄え、強大な力を持つ王国です」
「ふ〜ん。で、その王国、今何やってんだよ? 悪魔達とは戦ってないのか? まさか、頼まなきゃ、悪魔を倒してくれないのか?」
「そのことなんですが……。どうやら、ムカデ王国は今、身動きのとれない状態にあるようなんです」
「身動きがとれない…? 悪魔に何かされてるのか?」
「恐らくそうでしょう…。そうでなければ、あのムカデ王国が悪魔を野放しにしておくはずありません」
頭を叩いても終わらない。悪魔全てを倒さなければ、この世界は救えない。
彼らが次に向かうべき場所は自ずと決まった。ムカデ王国である。
「みんな待ってくれ!」
兄が突然立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「ウンコがしたいから、ここで待っててくれ!!」
それは声を大にして言うことではない。妹は妹という立場故、この下品な兄の発言にいたたまれない気持ちになったことだろう。
「では行ってくるぞよ!」
兄は道から外れ、茂みへと入っていった。
「あっ! お兄ちゃん紙忘れてった!」
トイレットペーパーは妹の背負っているリュックの中に入っているのだ。
「私、紙届けてくるね!」
「き、気をつけてくださいよ!」
「大丈夫! 悪魔が出たら指輪でやっつけるよ!」
「いえ、というか、お兄さんの排便行為を見ないよう気をつけてくださいという意味で……」
「あ……うん、それは本気で気をつけるよ……」
林立する大木。その間を縫い、妹が小走りで移動する。
「お兄ちゃ〜ん! どこ〜!? 紙忘れてるよ〜〜!!」
兄からの応答はない。
「もう……どこでしてるんだろ………」
その時だった。兄の代わりに人のものとは思えない金切り声が、妹の耳をつく。
「キョキョキョキョキョ!! 俺が巣くうこの森に足を踏み入れるとは、よっぽど腕が立つか、馬鹿かのどちらかだな!!」
妹が振り返ると、そこには黄色い体の小柄な悪魔が立っていた。微妙にチョルトとキャラが被っている。
「キョキョキョ! お前みたいな小娘じゃ、後者か!」
黄色い悪魔が妹を嘲笑った。
「えい!」
「ギョエ!!」
頭にきた妹は、容赦なく電撃を放った。
「ま…魔法が使えるのか!?」
「逃げるなら今のうちだよ! 今度は本気で撃つから!」
「ばーかめ…! 同じ攻撃など受けんぞ! 最初から本気で撃つんだったな!」
黄色い悪魔は俊敏な動きで妹の背後に回り込んだ。
「きゃっ!」
「いただくぞ! 新しいコレクションを!!」
黄色い悪魔は、掲げられた両腕を妹の頭めがけて振り下ろした。
「うおおお!! なんとそこで俺登場!!! かっこいいぜ俺!!!」
突然現れた兄が、妹を抱くようにして庇った。
「お兄……!!」
黄色い悪魔の両腕は、ズブリと、まるで液体に手を浸けるかのように、兄の頭の内部へと沈んでいった。
「うわああぁあぁぁあ!!」
「いやぁ!! お兄ちゃん!!!」
黄色い両腕は、兄の頭の中から何やら輝く球体を取り出した。
「貰ったぞ! お前の『記憶』を!!」
「遅いですね……二人とも……」
カインとリリムは待ちくたびれていた。
「ダーリンになら何時間、何日、何年待たされても構わないわ。でもあの小娘に待たされるのはしゃくね……」
「リリムさん……何でそんなに妹さんのことを……」
ジェラシーだカイン。それくらい察してくれ。
「カインくーーーん!!」
茂みから兄妹が戻ってきた。
「妹さん! お兄さん! よかった! 遅いから心配してたんですよ!! ……ん?」
カインは妹の様子がおかしいことに気付いた。肩を落とし、俯いてしまっている。
「妹さん……?」
「カイン君……お兄ちゃんが………お兄ちゃんが………記憶喪失になっちゃったよぉぉ!!」
「え……え〜〜〜〜!!!」
これは困ったことになった。
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