第25話 ステキなぞなぞ
「太郎君は、夏休みを利用して、ある場所へ行きました。ヒントは、『さりすせそ、あいうえり、はりふへほ』さて、太郎君はどこへ行ったのでしょう?」
チョルトは今までに出した、どのなぞなぞよりもレベルの高いなぞなぞを繰り出した。
「ス…スペースコロニー?」
「ハズレだ! 答えは『し』と『お』と『ひ』が『り』になってるから、『潮干狩り』!! 血を貰うぞ!!」
兄はまた鼻血を奪われた。それにより、チョルトの腕も随分再生が進んだ。
(やっぱり若い奴の血のほうが美味いぜ。再生も早い。相手を替えて正解だったな)
「いてて……チョルト、次は俺が問題を出してもいいのか……?」
「いや、一度勝負が着いたら、そこで仕切直しだ。また俺がなぞなぞを出す」
横暴である。
「さあ、どんどんいくぞ!」
「お兄ちゃん!! このままじゃお兄ちゃんが死んじゃうよ!!」
あれから一時間が経過した。血を失い過ぎた兄は 、立っていることが出来なくなっていた。もう、妹の声も届いていないだろう。
「うう……ヤバイ……かなり貧血だ……」
「ありがとよ! お前のおかげで腕もこのとおり再生した! そしてお前の命も、もうもたないだろ! ついにオイラも、他の悪魔のように人間を殺すことが出来るんだ!」
他の悪魔ならもっと簡単に人間を殺せると思うのだが、本人が満足しているのなら何も言いますまい。
「くそ……負けて………たまるか………。(とは言っても、俺には奴のなぞなぞが解けない……。くそ……くそくそくそ!!)」
「ヒャヒャヒャ! こいつでとどめだ!!」
チョルトがとどめの一撃を繰り出した。
「『ごちそうはごちそうでも、人間は絶対に食べたりしない、悪魔ベルゼブブの大好物ってな〜んだ!』」
実に不可解ななぞなぞである。そもそもなぞなぞなのかも判別しがたい。
「ず、ずるいわよ、チョルト……! ベルゼブブなんて人間が知ってるわけ……!」
リリムは納得のいかない様子である。
「くそ……駄目だ………分からねぇ……『くそぉぉぉぉ』!!!」
悔しさのあまり叫ぶ兄。しかし、
「……正解だ」
「……は?」
意外にも、チョルトの口から正解の二文字が放たれた。
「人間は食べないが、蝿の王、ベルゼブブが好んで食べているもの、それは『うんこ』。なぜだ……人間になぜこのなぞなぞが解ける……」
下品極まりない最低のなぞなぞである。
「よく分からんが………正解したらしいな………」
なぞなぞ勝負初、兄のターンが回ってきた。
兄はふと、チョルトの向こう側に見える妹へと視線を向けた。
(お兄ちゃん……!)
妹は黙って頷いた。
「い…妹さん、一体……」
カインが不思議そうに妹の顔を覗き込む。
「始まるよ……お兄ちゃんの十八番、『ステキなぞなぞ』が……!」
「ステキなぞなぞ!!?」
ステキなぞなぞ…。それは、かつて妹を幾度も苦しめてきた兄のワンマンなぞなぞである。
「いくぞ……チョルト………これで、最後だ………!」
「くっ! どうせ馬鹿の出すなぞなぞだ! オイラでも解けるはず!!」
「解ける…ものなら……解いてみやがれ……! 俺の…自慢の……ステキなぞなぞを………!!」
『汗を流し、涙を流し、必死に追い続けても、簡単には掴み取れないかもしれない。その大きなリスクと、容赦の無い現実に、絶望することもあるかもしれない。それでも人は、描かずにはいられない。人は、『それ』を見ることで、『それ』に浸ることで幸福を得られるのだから。『それ』は、決して失われることはない。なぜなら『それ』は、時とともに形を変えてゆくか……』
「もういい!! わからねえよ!! さっぱり解らねえよ!! 『それ』って何なんだよ!!」
『解らない』。チョルトの口は敗北を意味するその言葉を漏らした。
「お前……強い悪魔に憧れてんだろ……? じゃあ…お前も『それ』を……持ってるはずだぜ……?」
「オイラも……持ってる………!?」
「……『夢』だよ……!」
「ゆ…夢……」
全然関係ないが、兄の夢は妹と結婚することである。
「ダーリン……ステキ……! なんてステキななぞなぞなの!! ステキ過ぎて一気に妊娠六ヶ月よ!」
リリムが興奮のあまり、意味不明なことを言い出した。それはそうと、兄のステキなぞなぞを、実際に『ステキ』と言って褒めたのは彼女が初めてである。
「くそぉ……よく考えれば、解るはずのなぞなぞだったのに……。でも負けは負けだ…。もういい。好きにしてくれ………」
「分かった……じゃあな………」
「何!?」
兄はリリムに肩を借り、妹達の元へと歩いてゆく。
「待て! どこ行くんだよ!?」
「…は? 愛しの…マイシスターの所だよ……」
「そうじゃなくて、オイラを殺すんじゃ……」
「何をゴチャゴチャ………好きにしろって言ったのはお前だろ? 俺は……お前を生かしたまま……愛する人の元へ帰る……。ただ、それだけだ……」
シスコンじゃなきゃ、カッコイイ台詞なのだが。
しばらくし、兄妹達はチョルトの視界から完全に消えた。
「あいつは何故、オイラに何もしなかった……? オイラが憎くなかったのか……?」
チョルトは太陽の落ち始めた空を見上げた。
「『強い』って……何なんだ……?」
その答えは自分自身で見つけ出すのだ、チョルトよ。
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