第23話 禁術
チョルトは腰を降ろして、鼻血男の鼻血を啜り始めた。
「うわっ! あいつ本当に血を!!」
嫌悪感を抱かずにはいられないその光景に、兄の眉が歪む。
「ヒャヒャヒャ! ガキと妖精には負けたが、まだ頭の悪そうなお前ら二人が残ってる! 特にリリム! お前には魔界で散々馬鹿にされたからな! 人間側についたことを後悔させてやるよ!!」
チョルトは鼻血男を放置し、次の相手を催促してきた。
「あたしがやる。たしかにあたし、頭はよくないよ。でもチョルトにまで劣ってるなんてことは絶対に無いはずだわ」
なぞなぞの苦手な兄が、チョルトにすんなり勝てるとは思えない。恐らく長期戦になるはずだ。それも想定してリリムは先に名乗り出たのだろう。
「リリム〜〜!! もうお前には負けないぞ!! その鼻っ柱をへし折って、性格ブスから、オールブスに転落させてやる!!」
リリムを相当怨んでいるのだろう。チョルトはいきり立っている。
「いくぞ!! 『星は星でも酸っぱい星ってな〜んだ?』」
なぞなぞが、全く悪魔流ではなくなっている。たった二問でネタが切れてしまったらしい。
「あっ! そんなのか〜んたん! 梅干しでしょ?」
「ち……違う!!」
「え!?」
「答えは梅干しじゃない……え〜〜と……」
その時だった。チョルトの左腕が、突然耳をつんざくような音を立て、爆発した。
「ギャアアアアアア!!!」
「キャッ!! な、何…!? 何が起こったの!?」
「しまったぁ……こ…これが……ルールを破ったときの…ペナルティーかぁぁ………」
チョルトの口から意味深な言葉が漏れた。
「おいリリム……次はお前の番だ………早くなぞなぞを出せ……」
苦悶の表情でチョルトが促す。
「えっ、あ、分かったわよ…。じゃあ、『首は首でも敏感な首って何でしょう?』」
意外にも、結構まともそうななぞなぞである。
「何だよそれ……全然分からねぇ……さっぱり分からねえよ………!!」
「やった! 正解は『乳首』でした〜!」
全然まともじゃなかった。エロなぞなぞだった。
「くそ……負けた……!」
チョルトは地に膝を着いた。
「な…何だよ……? 何であいつの腕、爆発したんだ……?」
唖然とする兄。
「……チョルト………もしかしてあんた、禁術に手をつけたんじゃ……」
リリムがチョルトを見下ろしたまま口を開いた。
「禁術? リリム、禁術って何だ?」
「禁術っていうのはね……え〜〜っと、あたし説明下手だけど、我慢して聞いてくれる?」
「ああ、それは何となく分るから大丈夫」
「禁術っていうのはね、『リスクは高いけど使いこなせば強力な特殊な能力』のことを言うの。禁術を使えるようにするには、魔界にあるすっごく分厚い古文書とかを読みまくったりしなきゃいけなくて、めっちゃ大変みたいよ。勤勉な悪魔ってそんなにいないから、禁術を使える悪魔も限られてるはずなんだけど……」
「じゃあ、このチョルトもすっげぇ頑張って、禁術を習得したってことか? でも、一体チョルトが手に入れた能力って何なんだよ? 何か使ってたか?」
「これは私の予想なんだけど、たぶん、なぞなぞ勝負を相手に仕掛けて、相手がそれを受けると発動する能力だと思うの。そして、今まで私達がやってたみたいな一対一のなぞなぞ勝負をする…。そのなぞなぞ勝負に勝てば、一定時間の間、術者の戦闘能力がグンと上がる。そういう能力なんじゃないかな……」
「そうか、チョルトはその強くなった時間を利用して、鼻血男を殴り、血を奪ったんだな!」
「たぶんそうだと思うわ。あと、これも予想に過ぎないんだけど、勝負を受けた方が、勝負を放棄したり、ルールを犯したりしても、チョルトに都合のいいような結果が待っていると思うの。その場合も戦闘能力上昇だと思うけど…」
「なるほど〜。 じゃあさ、チョルトの腕が爆発したのは?」
「それなんだけど、さっきチョルトのなぞなぞにあたしが『梅干』って答えたとき、チョルトが『違う』って言ったでしょ?」
「ああ、言ったな」
「たぶん、予め頭に描いていた答えを相手に答えられてしまった時に、それを誤魔化そうとしたりするのもルール違反なのよ」
「勝負を受けた奴がルール違反を犯すと、チョルトがパワーアップ。チョルト本人がルール違反を犯した場合は腕が爆発ってことか……。恐いな禁術って……」
「あと、意図して理不尽な答えのなぞなぞを出すのも、たぶん危険だわ。ルールに引っかかるかもしれない。ダーリン、気をつけてね!」
リリムの声は、妹達にも届いていた。
「禁術……そんなものがあったなんて……。お兄さんは大丈夫でしょうか……」
「お兄ちゃんがなぞなぞを出題すれば、絶対に勝てるんだけど……」
「お兄さんのなぞなぞは、そんなに難しいんですか?」
「うん。わけ分かんないもん」
「え!? でも、理不尽ななぞなぞを出すとルール違反になるんじゃ……」
「大丈夫。お兄ちゃんは『真剣』に意味の分らないなぞなぞを出すから。それならルール違反にはならないはずだよ」
それはそれで悲しい。
「血だ……もっと血を飲めば腕を再生できる……! もらうぞ、お前の血を……!」
チョルトはゆらりと立ち上がった。
「やれるもんならやってみやがれ!」
なぞなぞバトル、クライマックス!
盛り上がらない……。 |