第20話 鼻血の男
カインの道案内で進行している四人の旅。最終的な目的地は定まっていないが、今はとにかく一つでも多くの村や街を悪魔達の手から解き放つ、彼らはそう心に決めていた。
「でもそれって効率的とは言えないよね〜。頭よ! 頭を叩けばすぐ終わるの!」
「うるさいなぁリリム。その頭の居場所が分かんねえんだからしょうがねえだろ」
「だから、あたしが教えてあげるってば!」
「でも、教えてやる代わりに抱けってんだろ?」
「うん!」
「抱けないけど、殴ることならできるぞ」
「な、何で殴られたうえで情報提供しなきゃいけないのよ! 拷問じゃない!」
「あれ? お前ってマゾヒストじゃなかったっけ…?」
兄は本気だったらしい。
「ん? どうしたんですか、妹さん?」
不機嫌そうな妹にカインが気付いた。
「もしかして、お兄さんが取られちゃったから、やきもち焼いてるんですか……?」
「ち、違うよ!! そ、そそそそんなわけないじゃない!!」
明らかに動揺している。
「ん? おい! 見てみろみんな!!」
兄が何かに気付いた。彼の指差す方向で何かがうごめいている。
「人が、人が倒れてるぞ!」
道の真ん中で男が気を失っていた。
「おい、大丈夫か!?」
「完全に気を失ってるね……」
「悪魔にやられたんでしょうか…?」
「あたしのタイプじゃないわね」
男はおびただしい量の鼻血を流していた。これはもはや、出血多量の域である。
「お兄さん、その袋の中に入っている赤い薬を出してください」
「あ、ああ」
兄は袋を漁った。
やっと赤い液体の入ったビンを見つけて、袋の中から取り出した兄の手は血だらけになっていた。恐らく、袋の中に入っている武器のせいだろう。
「その赤い薬は万能薬なんです。とりあえずそれを飲ませておけば、大丈夫だと思うんですけど…」
「貸してお兄ちゃん。私が飲ませるから」
兄は妹に万能薬を手渡した。
(ていうか、誰も気にしないんだ……俺の手、血だらけなのに……)
兄の心の声を尻目に、妹は男の口にゆっくりと薬を流し込んだ。
「うう……ここは……?」
数十分後。赤い薬の効用だろうか、男の意識が回復した。
「あっ、気がつきましたか? 貴方は道で倒れてたんですよ」
「ハッ……そうだ、私は悪魔に……」
「やはり、悪魔にやられたんですか?」
「あ、ああ…。恐ろしい悪魔だった。あんな悪魔は未だかつて見たことがない……」
男は身を震わせた。
「…で、その悪魔はどこにいるんだ?」
兄が尋ねる。
「……この道をもうほんの少し進むと現れるはずだ…。奴は、旅人の血を狙っているんだ…。」
「血を…?」
「奴はなぞなぞ勝負で負けた相手の鼻を思い切り殴り、その血を啜るという恐ろしい悪魔なんだ……」
それは恐ろしい。
「ああ、『チョルト』の奴ね。あいつ、相変わらずやることが小さいわね」
リリムはその悪魔のことを知っているようだ。
「大丈夫よダーリン。あいつ、見た目はいかにも悪魔だけど、実際は全然強くないの。なぞなぞ勝負なんて無視して、さっさと殴り倒しちゃえばいいのよ」
それを聞いて、兄はゆっくりと立ち上がった。
「サンキュー、リリム。なんだかんだ言って、戦いが目前に迫れば、無条件で情報をくれるんだな。」
「だって〜、ダーリンが怪我したら嫌だもん」
リリムは赤面しながら体をくねらせた。うざい。
「でも俺、なぞなぞ勝負を受けるよ。なぞなぞ結構得意だしさ。それになんか面白そうじゃん」
「駄目だよお兄ちゃん!!」
「え? 何でだ?」
「お兄ちゃん、なぞなぞ正解したことないじゃん!」
そりゃ駄目だ。
「言ってくれるね〜! じゃあ、ためしにお前、一つなぞなぞ出してみろよ!」
「うん、分かった」
妹は少し考えたあと、いかにも小学生らしい、可愛いなぞなぞを兄に繰り出した。
「いくよ。『鳥は鳥でも、借金した人の家へお金を取り立てに行き、最悪自殺にまで追い込んでしまう人達のことをなんて言うでしょう?』」
ややダークである。
「う〜ん……『ツル』?」
「どうしてツルなの?」
「金『づる』だから…」
「え??」
意味が分らん。その場の全員が絶句した。
「お兄ちゃん……」
憐憫の眼差しで兄を見つめる妹。
「ハハハ! 『借金取り』に決まってるじゃないですか」
ここぞとばかりに、兄を見下すカイン。
「ちょっとくらい馬鹿のほうが可愛いわよダーリン」
いらん慰めをするリリム。
「駄目だ……やられる……」
兄のふがいなさに再び気を失う男。
兄は峠に向けて車を走らせた……い気分になった。
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