第18話 変態女
「ひ…酷いじゃないですか、窓から投げ飛ばすなんて……」
鼻血を流したカインが、外から戻ってきた。
「おい……カイン。この女見てみろ……」
不満を漏らすカインに構うことなく兄がきりだす。
「え!? だって……その人……裸……」
「いいから見てみろよ。こいつの顔、どう見ても……」
カインは赤面しながら寝ている少女の顔を覗き込んだ。
「あっ!! リリム!!?」
耳は尖んがっておらず、角、羽、尻尾も生えてはいないが、それ以外はどう見ても昨日戦った女悪魔、リリムだった。
「あわわわ……。どうしましょう、お兄さん……」
実際に『あわわわ』なんて言う者を、恐らく兄は初めて見たのではないだろうか。
「『あわわわ』ってお前……俺の旧友の小山寺君みたいだな」
なんと、初めてではなかった。
「そうだなぁ……とりあえず起こすか。まだ本当にこいつがリリムと決まったわけでもないし。何でこんな所にいるのか聞き出さないとな」
兄は少女を乱暴に揺らして起こし始めた。やはり、妹に嫌われたおおもとであるこの少女に憤りを感じているのかもしれない。
その頃、妹は村を散歩しながら思考を巡らせていた。
「そうだよ……やっぱりお兄ちゃんが同年代や年上の女の人に興味を示すなんてこと、あるわけないよね……」
冷静になった妹は、自分が勘違いをしていたのではと、考えを改め始めていた。しかしそれは、自分の兄がシスコンであると考え直すということでもある。
「う〜〜ん……」
少女の目がうっすらと開いた。
「やっと起きたか、こんちくしょうめが!」
「こ…こんちくしょうって……」
やけに手厳しい兄に、カインの方がうろたえる。
「あっ、おはよう、マイダーリン……」
目覚めた少女は、突然兄のことを『ダーリン』などという死語(そうでもないか?)で呼びだした。
「な、何だお前、馴れ馴れしいな……。つーか、誰なんだよ?」
「誰って、分かってるんでしょ? リリムよリリム」
「や、やっぱりそうなのか! でもその姿は…」
「これからダーリンとずっと一緒にいるとなると、悪魔の姿じゃ何かと都合が悪いじゃない」
「何でお前とずっと一緒にいなきゃなんないんだよ!? ていうか、ダーリンとか言うな! 吐き気がする! 次言ったら殴るぞ!」
「ダーリ…」
パンッ! 兄は咄嗟にビンタを繰り出した。
「どうだ、痛かろう! これに懲りたら…」
「ハア……もっと、もっと痛めつけて!」
リリムが心地良さそうな表情で兄にせがむ。
「うわぁ! 何だこいつ!!? へ、変態さんだ!!!」
兄が言うのだから相当な変態なのだろう。
「あたしを狂わせたのは貴方なのよ? お願い、責任とって……」
リリムが兄を倒してのしかかった。
「や、やめろ! 俺は妹の平らな胸にしか興味はないんだ! どけ! どいてくれ!!」
「今から興味を持たせてあげるわ…」
リリムはまったく退こうとしない。
「くっ! 出てけよ!! 人の恋路(妹との)の邪魔すんな!!!」
その時、意外な人物が口を開いた。
「うん、分かった。出てくよ。ごめんね、邪魔しちゃって……」
扉の前に、悲しげな顔をした妹が立っていた。
「ひぃぃぃぃ! マイ・プリティ・シスター!! 違うんだ!! 今のはお前に言ったんじゃない!! この変態女に言ったんだよぉぉぉぉいおいおい……」
言ってる途中で兄は泣き出してしまった。
「お……お前なら俺がどういう人間なのか分かってるはずだ!! 俺はお前にしか興味はない!! お前だけが欲しい!! お前だけが愛しい!! お前が望むのなら、俺は神にも悪魔にもなってやるよ!!!」
「お兄ちゃん……」
「分かってくれたかぁぁぁ!!」
「うん、よく分かった。お兄ちゃんの私に対する気持ちが」
「おお……さすが我が妹……!」
「でもお兄ちゃん……」
「な、何だ?」
「ごめんね…。それはそれでなんか嫌だよ……」
「ええ!?」
「だって、今のお兄ちゃんの発言は、自分がシスターコンプレックスだって言ってるのとかわらないよ? 素直に喜んじゃったら、私まで変態の仲間入りだよ」
「あっ、それもそうだな! ハハハ!」
「フフフ!」
部屋がみんなの笑い声で満たされる。
「あれ!? 何で、こんなさわやかに終わってるんですか!?」
最後の最後に、カインがもっともな指摘をした。
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