第12話 マリモ村
アホみたいに延々と続く一本道を、アホみたいにひたすら歩く兄妹とカイン。三人の疲れはピークに達していた。
「そろそろ着きますよ、『マリモ村』に」
カインは兄妹を元気付けようと思ってそう言った。実際、村は近い。しかし……
「カイ〜ン。もし、そのマリモとかいう村が悪魔に乗っ取られてたりしてたらさぁ、俺達この疲れきった体を休める間もなく、戦わなきゃいけなくなるぜ? あと、さっきから我が愛しの妹がウンコしたいって言ってるんだけど……」
「言ってない!!」
妹は兄のスネに蹴りをかました。
「そうですね……。では、遠くから村の様子を見て、危険がなさそうなら村へ入りましょう。もし悪魔がいるようなら、今日は村の外で野宿。これでいいですか?」
兄妹は二人同時に、頭を縦に振った。
三人は、百メートルほど離れた草村からマリモ村の様子をうかがった。
「ねえねえ、何だか平和そうな村だよ」
妹が目を凝らしながら言った。
マリモ村はフェレスに占領された『あの村』のような悲惨な状態ではないようだ。グールではなく、ちゃんと村人がいる。安心した三人は、軽い足取りで村へと歩き出した(兄はスキップ)。
「到着〜〜! マリモ村〜〜!! ヒャッホホ〜〜イ!! 宿に泊まれるぞ〜! 今晩妹に夜ばいかけるぞ〜!」
「お、お兄さん! 大きな声で何てこと言ってるんですか…! そ、そんなこと、僕が許しませんよ!」
「フハハハ! 何やら必死よのぅ、カイン君? さぁて、君に私が止められるかな〜?」
兄とカインのやり取りを尻目に、妹は村中を見渡し、一人首を傾げていた。
「あんた達、どこから来たんだい?」
不意に、ふくよかな体型の女性が三人に話しかけてきた。年の頃は三十半ばくらいだろうか。中年太りオバハンである。
「僕達はこの世界を悪魔から救うために旅をしているんです。あっ、一応、すでに一体悪魔を撃退したんですよ」
冗談だと思われたら嫌なのか、カインは最後に補足を加えた。ちなみに、フェレスとの戦いに、カインは全く参加していない。
「ほ、本当なのかい!? あんた達なら、この村を救えるかもしれないね…」
「え? この村も悪魔の被害にあってんすか?」
兄がキョロキョロと辺りを見回す。
「もしかして……この村に『男の人』がいないことと何か関係が……」
妹の言葉に、中年太りオバハンは黙って頷いた。
「よく気付いたね、お嬢ちゃん。そう、今この村に大人の男はいない。みんな連れていかれたのさ。悪魔、『リリム』に……」
その名を聞いて、兄が過剰に反応した。
「リリムだって!!?」
「知ってるの、お兄ちゃん!?」
「俺がお前に付けようと思ってた名前の一つだ…!」
「ええ!? よかった! そんな名前にならなくて!!」
中年太りオバハンは、数キロ先にそびえ立つ山へと顔を向けた。
「男達はあの山へ連れていかれたんだよ。リリムに操られてね」
「操られた? 人間を操るのがリリムという悪魔の能力なんですか?」
「たぶんね…。リリムの目を見た男達は、途端に魂を抜かれたようになっちゃって、そのままぞろぞろリリムに着いていっちゃったんだよ…」
「もしかして……『魅惑の邪眼(チャーム・アイ)』!? あの、そのリリムという悪魔は女でしたか!?」
「あ、ああ……確かに女だったよ。間近で見たわけじゃないけど、あれはかなりの美人だったね……」
カインは何かを知っている。兄妹はカインにリリムのことを尋ねた。
「僕も詳しくは知らないんですが、悪魔の中には、人間を自分の思い通りに操ることができる者も結構いるらしいんです。そしてその能力の中で最も強力なものが、チャーム・アイ。異性を虜にしてしまう、魅惑の邪眼です。正直、今回の相手は最悪ですよ! 僕は子供だから、たぶん邪眼効果の範疇には当てはまらないでしょうけど、お兄さんは十九……でしたよね? もう立派な大人です! チャーム・アイがクリーンヒットしてしまいますよ!」
フェレスを倒せたのは、兄の活躍が大きい。そんな兄が今回戦えないとなると、これは相当厳しい状況と言える。
少し考えこんだ後、妹が口を開いた。
「みんなで戦えばいいんだよ! みんなで力を合わせれば、絶対そのリリムっていう悪魔にも勝てるよ!」
「そ、そうですね! 武器なら僕達がたくさん持ってますし、村の人達と力を合わせれば、きっと勝てますよ!」
カインは妹に同意した。しかし中年太りオバハンは気乗りしない様子である。
「あたし達は……戦えない……」
「え!? どうしてですか!?」
「リリムは、さらっていった男達を……旦那達を手駒にしてるんだ…。武器があって戦力的にこっちが有利でも……戦えないよ……」
「そ…そんな!」
マリモ村の男達は、なんとリリムの手下になってしまっていた。はたして、三人に打つ手はあるのだろうか?
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