第11話 愛と勇気
フェレスが撤退したことにより、洞窟で暮らしていた人々は、みんな村へと戻ることができた。兄妹は数々の感謝の言葉と御礼の品を貰い、本格的に異世界カマドーマを救う旅へと出発した。
「色々貰っちゃったね、お兄ちゃん」
「ああ、使い方の想像つかない武器やら、俺達の舌が受け入れてくれなさそうな食料やら、価値の分からんお金やら、何て書いてあるのか読めない本やら…。つうか、あの長老がくれた指輪にしてもそうだが、こういうアイテム的な品はフェレスと戦う前にくれりゃよかったんだよな〜。そうすりゃ、もう少し楽に戦えたかもしれんのに」
貰ったものが全部入っている大きな袋をあさりながら兄がぼやく。
「あの、二人とも……怒らないで聞いてくださいね」
そう切り出したのは、二人の前を飛んでいた妖精、カインである。兄妹を救世主としてこの世界に連れてきた彼は、その立場上、この先の道案内やサポートをすることになったのである。
「何だよカイン、内容次第じゃ怒るぞ」
「ええ!? じゃあ、やめときます……」
「言わなくても怒る」
「ひぃぃ! じゃあ言います!」
カインは控めな口調で、兄妹には伝えていなかった裏事情を話し始めた。
「全ては長老の計らいなんです…。長老は僕が異世界から救世主と思われる人物を連れてきたら、まずはその人の力だけでフェレスと戦わせ、本当にこの世界を救う実力を持っているか否かを確かめる必要があると考えていたんです」
つまりその長老の計らいとは、兄妹に本当に高価なアイテム、資金を投資だけの価値があるのかどうか、それを見極めるためのものと言えよう。それを知った兄妹は当然、憤りを露にする。
「な……何だってぇぇぇぇ!!! 納得いかんぞ!!!」
「うん、確かにそれはちょっと酷いよ……」
一気に場の雰囲気が悪くなった。
「すみません……。でも、僕は信じていましたよ。二人のこと」
真剣な顔でカインにそう言われると、兄妹もさすがにそれ以上怒る気にはなれなかった。
「あの、カイン君…。この世界の人達は、自分の力で悪魔に抵抗したりはしてないの?」
妹がカインに問い掛ける。
「抵抗……ですか? もちろん、最初は腕に覚えのある戦士や魔道士達が悪魔を倒そうと奮闘しましたよ…。でも、そのほとんどがやられてしまって……だから今ではみんな、悪魔に抵抗する気力を失ってしまっているんです。」
「抵抗したのは強い人達だけなの?」
「はい…。だって、勝てるわけないじゃないですか。残されたのは、特別な力の無い普通の人達だけなんですよ?」
「カイン君、私とお兄ちゃんも普通の人間だよ(お兄ちゃんは変態だけど)。二人とも魔法はもちろん、剣を振ったこともないし(お兄ちゃんはブン投げた)、腕立て伏せは二十回くらいしかできないし(お兄ちゃんもたぶんそれくらい)、ろくに喧嘩すらしたことのない、ふっつ〜〜〜〜の人間なんだよ」
「え……!?」
思わず声をあげるカイン。
「まあ、確かに特別強いわけじゃないよな、俺達」
兄が妹に同意する。
「そんな、でも二人はフェレスを……!」
「カイン、俺達がフェレスに勝てたのは、戦う上で最も必要な武器を持っていたからだ」
「最も必要な武器……?」
「どんな剣や魔法よりも大切な、『愛』と『勇気』という名の最強の武器をな!」
妹はともかく、この兄の場合、正しくは『変態』と『無鉄砲』である。
「……二人は、やっぱり救世主ですよ。そうでした。僕は……僕らは…一番大切なことを忘れていました」
「そう! お前達は一番大切なことをおもいっきり忘れていた! そして俺達の旅は悪魔と戦ってブッ倒すことだけが目的ではない! 抗うこともせず、ただただ怯えているだけのカマドーマの人間に、再び勇気の炎を燈してやるのじゃぁぁぁ!!」
思慮が深いとまでは言えないが、この兄もそれなりの考えを持っている。カインは感嘆の声をあげた。
「お兄ちゃん……」
少しかっこいいことを言い終えて満足している兄の方を、妹が眉を歪めて凝視している。
「ねえ、お兄ちゃん…。あのさぁ……気付いてる?」
「ああ、ずっと前から気付いてるよ……。だからもう何も言うな……」
なんと、兄の靴の裏には、べっとりと犬のフンが付着していた。
「うわぁ……。下品だし、無理矢理だし、最低のオチですね……」
読者に代わり、カインが駄目だしをした。
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