放課後、教室には赤光が入る。すごく綺麗なのに、誰もそれを知らない。しかしボクはそれを残念に思わない。既に彼らは、カラオケ、mixi、ブログにセックスなど個々の好きなことに興じている頃だろうからだが、ボクは一人、孤独に本を読んでいる方が好きだった。幾分涼しくなってきた風を受ける。髪がボサボサ、ページがペラペラ。でもそれも良いものだ。
チャイムが鳴ったが擦れて消えた。どうしたのだろう。共に風も止んだ。
きぃーん。
野球部の誰かが、金属バットで打った。
3 2 1 がっしゃーん。ちんちらどんがら。
窓ガラスが割れ、ボールは机を一つすっ飛ばした。強打者だなぁ。
それでもボクだけが、教室で本を読んでいる。ページをめくった。
廊下を走る音。
ガラっと野球部かな?
……違った。いつもの彼女だ。
「うわっ。やっぱりここにいたの? ねぇ、そんなに本読んでて楽しいわけ無いよね? 飽きるよね?」
そんなことは、ボクが決めることである。キミも読んでみると良い。
「うわ!なんだこれなんだこれ〜?」かちゃかちゃとガラスを弄る。
「手を怪我するよ」
ちょっとだけイラりときた。空間を二度にわたって侵害されたからでもある。
でもボクは、彼女の長い髪の匂いがちょっとだけ好きである。具体的に言うと、手でクリクリしながらカフカ少年を読みたいような、よく分からないけれど、良い匂いというわけなのだ。指通りも滑らかそうでありツヤツヤ。
「ううん。そんなこと無い。キミも、読んでみれば分かるけど村上はる」あーあーききたくなぁい〜! わっからないわっからない! どうせ、読む気にならないとだしょ、ね? そういうもんでしょ? 確かに、本ないし興味とは、そういうものなのかも知れない。
ぎゅ ボクの椅子に半分座った。
「ねぇ〜ぜんぜんのぜんくらいさぁ聞いてる? 面白いことないから(どうしたの?)あなた、なにかしなさいっ」
ボクとしては、キミの言動を見ているだけで十分にお腹があふれる。
「ボクはさし当たって本を読むことくらいしかできないよ……」これは本当のことだ。難しい数式が解けるわけでもない、100メートルが早いわけでもない。ボクは、本当に本を読むことくらいしかできないのである。
さっと彼女が立つ。野球部が入ってきていた。
「うぇ〜割れてるよ〜」帽子をとるから坊主頭が露出し、ボールを回収し言う。
「どうしよっかな。これめんでーしなぁ……」片付ければいい。そして、教師にすいません割りましたとでも言うといい。言おうとした瞬間。
「正直に、先生に言って謝りなさいな」彼女はいつものお嬢様優等生に戻った。
ボクとしては、どちらの彼女も好きである。
「カエデさん……」わかりました。優等生の指示に従い、そのまま駆けていった。
ボクは黙って本を読んでいた。
「あっ」彼女はボクから本を奪った。丁度親指でページをめくるところであった。読書家の本能は手放すまいとし、紙の抵抗力が負けた。
ビリ。
「あっ!」今度は彼女。とても深刻な顔をしている。
「っご、ごめんなさい、嘘、どうしよう」
あわてふためく。ボクの方は、至って冷静である。
元々、本を読んでいるのは「フリ」みたいなもので、実は全てを暗記していた。
「いいよそれ、君にあげるから」え?
「ボクはもう、それ読み過ぎて暗記しちゃったんだ」でも…………「いいの?」言葉が重なる。ボクは予想して言ってみた。彼女はあmと空気を唇で噛んだ。
「読まないなら……」ボクは手を出す。
彼女は大事そうに抱きしめた。
「読む。絶対読むぅ!」 意地になった。それがいじらしい。
ふう。さあ続きを読もう。ボクは目を閉じる。
………………
「ちょっと、どうしたの?」
………………
彼女も黙った。
たん
ちゅっ。
そういう音がした。唇に柔らかいものが触れた。
「ば、いい今のあ〜っ」
バッタン。
目を開けると、彼女の顔が目の前にあってのけぞって後ろに倒れ、その後も覗き込まれていた。
「あっははっはっははひひばっかじゃないの〜?」罪の意識も吹っ飛んだみたいだ。ボクとしては、少し名残惜しい。ホームビデオで記録しておきたいくらいであったのに。
へぇ〜。カエデさんとカフカ(あだ名)のそんなとこ、俺初めて見た。
と言いながら野球部が入ってきた。次いで教師が入ってくる。
うん。でもまぁ、それだけじゃない。と言うのはやめておく。
ボクだけが知っている、放課後の秘密だからだ。
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