月夜の下で会いましょう(6/8)縦書き表示RDF


遅くなりました。
月夜の下で会いましょう
作:通り上げ



第三部「無視」


私には記憶がなかった。
私が生まれたところは、人がたくさんいる街中で生まれた。
最初に目が覚めたところがそこだから、私はそこを産まれたところと呼んでいる。
右も左もわからないところに生まれた私は、ただただ人の流れに沿って歩いていた。
歩いているという感覚はなかった。建物に触れているのに触れている感触がなかった。
ただ足を動かしてる、ただ手を空中に静止させているだけのようだった。
人の言葉は聞けたし理解もできた。だけど、私の声は私の中に流れるだけで、相手には伝わらない。
    私は・・・誰なの?
つぶやくけど、それは自分の中にしか流れてこない。
ふと、私は足を動かすのをやめて、空を見上げた。
    何故?私はいるの?
ずっと生まれて考えていたことだ。
何にもできない私が、何をすればいいのかわからなかった。
目の前には大きな鏡に映された私がいた。
でも、人々は私を無視する。
私はここに。
ちゃんといるのに。
何で?無視をするの?
私は通り過ぎる人たちに声をかけた。
    あの・・・・すみません。
しかし、誰一人
    お尋ねしたいんですけど。
止まってはくれなかった。
    止まってくれませんか?
本当に見ず知らずの人から無視をされ続けた。

    いい加減にしろ!!
怒鳴り声をあげ、私は一人の青年の肩をつかもうとする。
私の手は、青年の肩を通り抜け地面に落ちた。

    ・・・えっ・・・・・?













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