嫉妬兄妹
妹がまた男友達を家に連れてきた。
「おじゃまします!」
「い……いい……いらっしゃい……。」
兄は震える声で出迎えた。
「あの……君は妹とはどういう関係なのかな? この野郎……。」
「こ…この野郎って……。」
兄の心に殺意が芽生えた。
「ちょっと何なの、お兄ちゃん! どっか行ってよ! じゃまだよ!」
「ぬおぉぉぉ!! 酷いじゃないか我が妹よ!!」
兄はその場に崩れ落ちた。
次の日。今度は兄が客を連れてきた。
「おじゃましまーす!」
妹は驚愕した。兄が連れてきたのは女性だった。
「きゃ〜! 可愛い! 妹さん?」
「ん? ああ、そうだよ。」
兄はその女性と共に部屋へと入っていった。
「お兄ちゃん……さっきの人って……。」
女性が帰ると、妹はさっそく兄に尋ねた。
「彼女だよ。実は俺、学校じゃモテモテのモテキング……いや、モテエンペラーなんだよね。」
「なんだ……お兄ちゃんいつも、私のことを恋人だとかなんとか言ってたけど、やっぱり冗談だったんだね…?」
「何言ってんだよ、当たり前だろ?」
「ハハ……よかった。安心したよ……。ところで明日は土曜日だよね? またお兄ちゃんとドライブしたいな。」
「ごめん。明日彼女とデート。しかも朝帰りの予定。」
「えっ……あ……そうなんだ……。うん、分かった……じゃあしょうがないよね………。」
妹は寂しそうに部屋へ戻っていった。
「フッフッフッ! 妹よ、まんまと騙されたな! あの女は俺が金を払って雇った、『ダミーガールフレンド』、略して『ダールフレンド』なのだ!! ヌッシシシシ! あいつの嫉妬深そうな顔! あれが見たかったんだ俺は!! さ〜て、明日はあいつをひそかに観察するかな! きっとあいつ、俺がいない寂しさにうちひしがれて泣きながら一日を過ごすに違いあるまい!!」
この男は本当に馬鹿である。
次の日、妹はまた男友達を家に連れてきた。自宅を遠くのビルから双眼鏡で覗いている兄は悲鳴をあげた。
「あの、今日お兄さんは……?」
「今日はいないよ。おかげで家が静かだよ。」
部屋の扉を開けながら妹が答えた。
「あ…あいつ……強がりを言いやがって……!」
兄は盗聴もしているらしい。最悪な野郎である。
一時間が経った。妹は友達と談笑を続けていた。兄はビルの上で日射病になっていた。
「うう……やばい……死ぬぅぅぅ……。でも……日射病で死ぬのって結構かっこいいかもしれないな……。偉大なる『太陽』に殺されるってことだもんな……。ああ……でも死にたくねぇ……。」
薄れゆく意識の中、盗聴の機械から、兄は確かにその言葉を聞いた。
「…………なんか………私、お兄ちゃ……好き…な…の………」
兄の意識のせいなのか、機械の調子のせいなのかはよく分からないが、妹の言葉はとぎれとぎれだった。しかし、兄の体には確実に力が戻ってきた。
「う……ううう………妹よぉぇぉぁぁぁぁ!!! なんだかんだ言って、やっぱり俺のことを……俺のことをぉぉぉぉ!!!」
「じゃあね〜!」
妹は外で友達を見送り、家に戻ろうと体を反転させた。
「キャ!!」
家の前に、何故か血だらけの兄が立っていた。
「ど、どうしたのお兄ちゃん!? 何でそんな……!!?」
「テンションが上がった勢いでビルから飛び下りちまった…。うう……死ぬ……。」
兄は前のめりに倒れた。
「ああ!! お兄ちゃん!! 何がお兄ちゃんをビルから飛び下りるようなテンションにしたのか分からないけど、このままじゃお兄ちゃんが死んじゃうから、私救急車呼んでくるね!」
そう言って、妹は家へ向かって走り出そうとした。
「待て……。」
兄が妹の服の裾を掴む。
「俺はもう駄目だ……。」
「何言ってるのお兄ちゃん!! 諦めちゃ駄目だよ!!」
「分かるんだ……さっきから冥府の住人が手招きをしてるからな……。」
「え!? お兄ちゃん地獄の方なの!!?」
「……お前と別れるのは辛い………でも最後にお前の本音が聞けてよかった……。」
「本音って……何のこと……?」
「さっき友達に話してただろう……お兄ちゃんのことが好きだって……。」
「何で友達がきてたこととかをお兄ちゃんが知ってるのかは分かんないけど、私、お兄ちゃんが好きだなんて、今日一度も言ってないよ…。」
「……何だって………?」
それは三十分前、妹が友達と話している時だった。
「ねえ、君、もしかしてお兄さんのこと嫌ってる…?」
「嫌いじゃないけど……お兄ちゃんって、『なんか』ちょっと変態ぽくって……『私、お兄ちゃん』のそういうところ『好き』になれ『な』い『の』……。」
非常に無理があるが、別に好きとは言ってなかった。
「う……う………無念……。」
兄の瞼がゆっくりと下り、その瞳を隠す。
「ああ! 駄目だよお兄ちゃん!! お兄ちゃーーーん!!!」
十五分後、兄は救急車で運ばれていった…。
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